灰色戦争


前編

【第1節】はじまり

それは、突然の出来事だった。 街を歩いていたら、急に上空にヘリコプターが現れた。 ヘリコプターから、なぜか大量のたばこの箱が落ちてきた。 人々は、最初は軽く見ていた。「あぁ、たばこが大量に落ちてきたぞ」と。 しかし、やがてそのたばこは、雪崩のように僕らのところにやってきた。 いよいよ事の重大さに気付いた人々は、一斉に逃げ出そうとする。 僕も逃げ出した。一瞬、たばこの洪水にのまれ、生き埋めになりそうになったが、 こんなところで死にたくないと思い、必死でたばこの山から脱けだした。 巨大なたばこの山。何人かは、生き埋めになり、死んだらしい。 たばこを輸送中に、何らかのミスで、大量のたばこが落ちてしまったとのことらしい。 その日から、何かが変わっていった。 どこかの国で戦争が起こっているらしい。僕は、現実感がなかった。 しかし、何だか周りのみんなの様子が変だ。

【第2節】おかしなニュース

ある日、家にひとりでいた僕。外で、遠くの方で、ドッカーンとすごい音がした。 何事だろう! テレビを見れば、今のニュースがやってるかもしれない。 そう思い、僕はすぐにテレビをつけてみた。 そこに映し出されたのは、ニュースではなかった。 なんと洋画の再放送だった。くだらないパロディもの。 嘘臭い吹き替えに、後から編集でつけられた笑い。こんなもの見たいんじゃない。 僕は、ニュースが見たいんだ。今、一体何が起きているのかを知りたいんだ!! チャンネルを変えた、また同じ洋画だ。違う、また変える。また洋画だ!!! ええいっ!どうなってんだよ、こりゃ。何と全チャンネルが、ことごとく、くだらない 洋画の再放送を流しているのだ。16チャンネルも、14チャンネルも、ローカル放送までもが 全て一緒の同じ番組を流しているのだ!! そんな奇妙な状況に、いよいよ僕は気味悪くなってきた。 これは、本当に何かヤバイことが起きているのだろう。いざという時には、国民には 何にも真実を伝えてはくれないんだ。マスコミなんて、そんなもんだ。自分勝手。 せめて、今一体何が起きているのかだけでも知りたいのに・・・! 外に出てみた。灰色の空。今にも何か悪いことが起こりそうな、灰色の空。

【第3節】奇妙なデパート

デパートに行った。人々は、やたらと明るい。わざと明るく振る舞っているのだろうか。 喜劇もののDVDやら、希望に満ちた明るい歌のCDが飛ぶように売れていた。 セールでもないのに、なぜか人々がたくさん押し寄せ、店は大盛況だった。 こんな情景を見たら、なんてことはない。普通の日常に戻ったような気がした。 一瞬、人々の明るさの影に、何とも言えない悲しみが映し出されていた。それを見て僕はゾッとした。 「ねぇ、一体僕たちこれからどうなるの??」

【第4節】喪服の人々

お寺?の講堂のような場所で、みんなが真剣に祈っている。 いよいよ。世界の終わりが近づいているかのように、悲しい表情をした人たちが。 希望か?絶望か? とにかく、この無意味な戦争はすぐにでも終わって欲しい。 僕もそう思って、祈ろうとした。 「祈ってもどうしようもないこともあるんだ。人は、神の力を越えてしまったのだろう。」 何とも悲しいことを言うのは、僕の親戚のおばさんだった。とても信仰深い人だったのに。 国営放送のラジオらしきものが流れていた。しかし、そこで流されていたのはニュースでは なかった。国民の不安を一層煽るかのような、暗く、重い、クラシックの弦楽。一体、この国は 何を考えているのだろう。こういう時こそ、希望を持てるような放送をすべきでないのか? 肝心なことを報道しないテレビ、悲壮感を煽るような重たい音楽。何か間違っている!! お寺?の外に出てみた。50〜60人くらいの人々が、うずくまって輪になっている。 外は、しとしと雨が降っていた。相変わらずの灰色の空。そして、雨。 BGMには、悲壮感漂うクラシック音楽。まるで、映画のようだ。現実でもこんなもんなんだ。 本当に「世界の終わり」って感じだった。しずかな空、不気味な空。 うずくまって輪になってる人たち、泣いてるのか、祈っているのか。少しでも、誰かと一緒に いたいのだろうか。僕も、家族や親戚たちと一緒に輪の中にはいった。 

【第4節・その2】核爆弾

その時。遠くの空で、音もなく、巨大な、茶色の「キノコ雲」が立ち上った。 この世のものとは思えない光景だった。テレビや、マンガで見るような世界だった。 もちろんみんな知っていた。現実に、その光景を見た、僕等は一瞬とまどった。 「これって、原爆??・・・だよね?」 「核戦争?」 人々は、ざわつき始めた。 信じられないながらも、段々と、今目の前に起こっている現実を認識し始めた。 僕は、背筋が凍り付いた。今、「戦争」という事実をはじめてリアルに感じた。 次の瞬間。さっきよりも近くの空で、再び、茶色いキノコ雲が立ち上った。 ビルの高さよりもある、その巨大なキノコ雲の煙と、砂埃が、僕たちの上に覆い被さってきた。 人々は、いよいよパニックになった。 「段々近づいてきている。」僕は、そう悟った。遠くの出来事じゃない。 パニックになった人々は、一斉にお寺の中に駆け込んだ。僕も、とにかく逃げた。 無駄なことはわかってる。あれだけ巨大な爆弾にのまれればひとたまりもない。 だけど、一目散に逃げた。あの時の、たばこの洪水から逃れられたように、また助かるかもしれない。 無意味な希望を抱きながらも、どこへ向かうでもなく、とにかく逃げた。生きるための本能だ!

【第4章・その3】走馬燈のようなリアリティ

空がピカッと光った。世界が「真っ白」になった。 (あぁ、これがいわゆる原爆ってやつか。はだしのゲンで読んだことある、そのままの光景だ。) 体が一瞬熱くなり、熱い、と思った瞬間、感覚はマヒした。 (人間は、耐えられない痛みを感じると、感覚がマヒするんだよね。そうそう、その通りだ。) 妙に冷静だった。これから死ぬってのに。 (そうそう、死ぬ瞬間って、脳が超高速で回転して、一瞬のうちにいろんなこと考えられるんだよね。まさに今、そんな状況じゃん。) あぁ、短い人生だったなぁ。こんなあっけなく死んじゃうのか。もっとやりたいことあったのになぁ。 やっぱ死にたくないよ!! これきりで僕の人生ゲームオーバー? もう、リセットできない。いや、「無」になっちゃうんだよ? 僕は、どこへ行っちゃうんだろう?? 無になったら何も感じられない。僕という意識そのものが消えちゃう。怖いな。でもしょうがない。 誰にも止められない運命だ。もうすぐ、僕は消えて、永遠の無に同化していくのだろう。 さようなら、地上の世界。短い間だったけど、「人間」できてよかったよ。さようなら。 超音波のような爆発音、その音を僕の耳が感じたのかはわからない。 その瞬間に、自分の肉体が粉々になったことを感じた。 全てが無になった。・・・・耳には、爆発音の余韻が残ってる。「ポーーーー」というサイン派の ような無機質な音。あれ?僕は、粉々になったハズなのに、何で音が聞こえるんだろう?? 何で、こうして「意識」があるんだろう?? 不思議だ。死ぬって、こういうもんなのか???? そっか、意識は残ったままなのか?
その瞬間、目が覚めた。まだ午前2時40分だった。妙なリアリティ。 僕は、完全にその夢の世界にはまり込んでいた。現実に戻ってホッとした。今、生きてるんだっけ? そうだよね。うん、戦争なんて、、ないんだよね。よかった。 夢が完結して目が覚める。こんなことってあるか? なんか、妙な夢だ。 ・・・再び眠りについた。

後編

【第1節】交響曲と夢

交響曲が、なり響いていた。僕は、これが夢の中であることを認識していた。 「あ、何かすごい良い曲。どこでも聴いた事のない曲。僕が作曲したんだ。」 その交響曲は、かなりの完成度だった。アレンジも完璧で、メロディーも個性的だった。 ここまで細部にまで完璧なアレンジをされた曲を夢の中で聴くのははじめてだった。 「もったいないなぁ、この曲コピーして、楽曲にすれば、僕は一躍スターになれるのに。」 しかし、ここは夢の中。録音機材もなければ、楽器も、五線紙もないのだ。 「歌って録音するのもいいかな。あーでも、このアレンジ、この感じを歌で残すのは至難の業だ。」 結局僕は、諦めた。夢の中で、その斬新な素晴らしいアレンジがなされた、自作の交響曲に 酔いしれた。あぁ、これコピーすれば売れるのになぁ・・・。

【第2節】幼なじみの3人組

夢の中で目が覚めた。また「あの夢」の続きだった。 目が覚めると、友人が2人いた。ユカとトシだった。僕等は、幼い頃からいつも3人で遊んでいた。 しかし、だんだん大人になるにつれ、お互い忙しくなって疎遠になっていた。 高層マンションの一室。高級ホテルのように、広い部屋だ。 ユカとトシが、何事もなかったように笑顔で話していた。外は、相変わらず灰色だ。 僕が、夢の話をすると、2人は笑って聞いてくれた。 戦争中だってのに。こいつらといると、心が和むんだ。大勢の仲良くないやつらといるより、 数人の仲のいいやつといた方が、全然心が落ち着く。ひとりじゃないって思える。 窓から外を眺めた。荒れ果てた世界だった。もう、世界中のほとんどの人達は死んでしまったらしい。 僕達もいつ死ぬかわからない。なのに、こうして3人でいると、そんな感じはしない。 いいな、この感じ。だけど、僕達は永遠にこのままではいられないんだ。

【第3節】決別

・・・僕は、2人にサヨナラすることにした。 「また、生まれ変わったら会おうね!」「きっとまた、友達になろう。」 「うん、絶対だよ。」「人間に生まれ変われたらね(笑)」 そうなやりとりをして、僕はベッドに入った。二度と眠りから覚めないように。このまま死のう。 誰かに殺されるなんてイヤだ。 クマのぬいぐるみを抱いて。死ぬときくらい、夢があってもいいじゃないか。 精一杯、楽しいことを思い浮かべようとする。 あぁ、僕が死んだら、IEの「お気に入り」もばれちゃうな。でも、死ぬんだから関係ないか。 あぁ、でももし何かの間違いで死ねなかったらどうしよう。これから死ぬってのに、 どうしてそうくだらないことを考えられるのか。 僕はこんな時になって、自分の愚かな考えに嫌気がさした。 ・・・やっぱり、死ねない。

【第4節】永遠の刹那主義者

また、ユカとトシのところへ戻っていった。2人はわかっていたようで、何事も なかったかのように僕を迎えてくれた。どうでもいい話をしてた。この先にある絶望なんて、 まるでないかのように。刹那的な楽しさに酔いしれていた。
・・・目が覚めた。いつもの起床時間。 しばらく現実と夢とがごっちゃになっていた。あまりにもリアリティのある夢だったので、 ちょっと怖かった。よくわからないまま、とりあえず、この夢を何かに残しておこう、と、 パソコンをたちあげて、ひたすらに記憶の残ってる限りを打ち込んだ。

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