石原 吉郎

(いしはら・よしろう)


その1: 棒をのんだ話

その2: ひとりの銃手

その3: 花であること

その4: 居直りりんご

その5: 木のあいさつ

メモ: 作者紹介

narato's what's new

詩人インデクス


 ◇◆◇◆◇ 


            棒をのんだ話


     うえからまっすぐ
     おしこまれて
     とんとん背なかを
     たたかれたあとで
     行ってしまえと
     いうことだろうが
     それでおしまいだと
     おもうものか
     なべかまをくつがえしたような
     めったにないさびしさのなかで
     こうしておれは
     つっ立ったままだ
     おしこんだ棒が
     はみだしたうえを
     とっくりのような雲がながれ
     武者ぶるいのように
     巨きな風が通りすぎる
     棒をのんだやつと
     のませたやつ
     なっとくづくの
     あいまいさのなかで
     そこだけ なぐりとばしたように
     はっきりしている
     はっきりしているから
     こうしてつっ立って
     いるのだ
              (詩集「サンチョ・パンサの帰郷」から)
 

 ◇◆◇◆◇ 


            ひとりの銃手


     ひとりの銃手のなかへ
     ひとりの銃手は
     足をそろえて立つ
     
     ひとりの銃手の目へ
     ひとりの銃手は
     かさねて目をひらく
     
     ひとりの銃手へ満ちる
     ひとりの銃手へさらに満ちる

     たとえば海と月
     さらにひとつの海と月

     着弾を確かめ
     花を置き
     うなだれて立ち去る背へ
     沈着に照準を重ねる

     ひとりの銃手
     さらにひとりの銃手
     さらにひとりの銃手

     日は全形(ぜんぎょう)のまま
     正午へのぼる
     
     さらにひとつの日は
     正午へのぼる




 

 ◇◆◇◆◇


          花であること


       花であることでしか
     拮抗できない外部というものが
     なければならぬ

     花へおしかぶさる重みを
     花のかたちのまま
     おしかえす

     そのとき花であることは
     もはや ひとつの宣言である

     ひとつの花でしか
     ありえぬ日々をこえて
     花でしかついにありえぬために
     花の周辺は的確にめざめ
     花の輪郭は
     鋼鉄のようでなければならぬ



               (以上、「いちまいの上衣のうた」から)



 

 ◇◆◇◆◇


          居直りりんご


     ひとつだけあとへ
     とりのこされ
     りんごは ちいさく
     居直ってみた

     りんごが一個で
     居直っても
     どうなるものかと
     かんがえたが
     それほどりんごは
     気がよわくて
     それほどこころ細かったから
     やっぱり居直ることにして
     あたりをぐるっと
     見まわしてから
     たたみのへりまで
     ころげて行って
     これでもかとちいさく
     居直ってやった



 

 ◇◆◇◆◇


          木のあいさつ


     ある日 木があいさつした
     といっても
     おじぎしたのでは
     ありません

     ある日 木が立っていた
     というのが
     木のあいさつです

     そして 木がついに
     いっぽんの木であるとき
     木はあいさつそのものです

     ですから 木が
     とっくに死んで
     枯れてしまっても
     木は
     あいさつしている
     ことになるのです


                        (以上、未刊詩篇から)


 

 ◇◆◇◆◇ 


          石原 吉郎(いしはら・よしろう)

   大正4年(1915年)−昭和52年(1977年)。

   1915年、静岡県伊豆に生まれる。
   1938年、東京外語卒。
   1939年、応召。
   1945年、ソ連軍に抑留される。
   1949年、重労働25年の判決を受ける。
   1953年、特赦により帰還。帰還直後から詩作を始める。
   1955年、詩誌「ロシナンテ」を創刊。
   1964年、詩集『サンチョ・パンサの帰郷』により、第14回H氏賞を受賞。

       (思潮社:「石原吉郎詩集」 / 著者紹介 から)


 


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更新 14/09/01