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金井 直

(かない・ちょく)


その1: あじさい

その2: カンナ

その3: 散る日

narato's what's new

詩人インデクス


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          あじさい


      また季節はめぐりきて
      うすむらさきのほほえみはよみがえる
      あなたは思い出
      いつみても美しい
      いつまでもあなたのそばにいると
      あなたの色が沁みこんでくるようだ
      かけがえのない愛の色よ
      あなたの繁みの奥に
      こころのゆりかごを静かにゆり動かす手がある
      あなたの陰に
      「時」のない影がある
      だがもう
      あなたの芯から名前は生れではしても
      むかしのあなたではない
      あの日のいのちとともにうすれて
      いつしか消えてしまった
      ただひとたびの美しさよ
      いまあなたにくまどられながら
      じっとあなたをみつめていると
      眼が痛くなり
      眼を閉じると
      急にまわりが広くなる
      遠いものは近くなり
      近いものは遠くなる
      あなたの中に私が在るのか
      私の中にあなたが在るのか
      わからなくなる
      そして
      人と云うものが哀しくなってくる
      
               (角川文庫「現代詩人全集」第10巻から)

 

 ◇◆◇◆◇ 


          カンナ


      あれがまともに見られるか
      みつめていられるか
      あのかぎりない羞恥にたえた表情を
      追いつめられて
      もうそのほかにはないという色のふかさを
      みずからひきだした心臓をみずからの手でひきさいて
      ほら これだよと突出したような
      いたましさをはるかに超えた苦痛を
      ひとときは見ることができても
      ひとたびそこから眼をそらせば
      貧血をおこしたようにめまいのするものを
      そこに在るものはもはや
      嘘をつこうとしてついにつききれなかった真実のやさしさ
      四方へ幾枚もの舌を出したまま
      ひっこめることのできなくなったきびしさ
      しかし
      あのしたたるような深紅にもまして
      落日に似た悲哀がはげしくさわいでいる
      誰にも知られない胸の中で
      
               (角川文庫「現代詩人全集」第10巻から)

 

 ◇◆◇◆◇ 


          散る日


      さくらの花が散る
      惜しげもなく己を捨てるすばらしさ
      うれい顔がそれを眺める
      いま見たときから
      散り始めたようなはなやかさを

      見ているあいだに
      散り果ててしまいそうな風情
      こんなにゆたかな心がどこにあろう
      誰にも見られないうちから散っているのだ

      そしてまた
      落下に酔った者たちが去ったのちも
      さいはてにむかって
      散りつづけているのだ
      
               (角川文庫「現代詩人全集」第10巻から)

 


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更新 04/10/05