
◆◇◆◇ 再会 この世にまた 君と遇ふことあらんとも 思はざりしに 忘れねばこそ面影の 早くも君を見つけぬる哉 浮世の巷に遇ひみれば 君はをさな子背に負ひて よき母親となられたり。 君と別れてはや四とせ 四とせが間 世のうきふしに遇ふ毎に 別れし君を思ひ出でける。 我は昔にかはらねど 君は母御(ははご)となりにけり。 我は都に 別れし君を思いつつ 世のうきふしに 浮世のちまたにさすらはん この世にまた 君と遇ふことあらんかも。 (詩集「独歩詩集」から)
◆◇◆◇ 菫(すみれ) 野辺の小路に咲き出でし 菫の花は今日もまた 君がかざしとなりにけり。 胸の思いを如何にせむ 歌ひてもらす術(すべ)もがな 君が奏(かな)ずる琴の音の 調べは合はす由もがな。 ただ歌人を憐れみて 暫時(しばし)は君も聞けよかし。 (詩集「独歩詩集」から)
◆◇◆◇ 高峰(たかね)の雲よ 高峰の雲よ心あらば 乗せてもゆき此(この)我を 大海原(おおうなばら)のただ中の 人無き島に送れかし 斯(か)くて此身は浮世より 消え失すとても此われは 天地(あめつち)ひろき間にて 人として生きむ。しばしだに。 (詩集「独歩詩集」から)
◆◇◆◇ 山林に自由存す 山林に自由存す われ此句を吟じて血のわくを覚ゆ 嗚呼(ああ)山林に自由存す いかなればわれ山林を見すてし。 あくがれて虚栄の途にのぼりしより 十年の月日塵のうちに過ぎぬ。 ふりさけ見れば自由の里は すでに雲山千里の外にある心地す。 眦(まなじり)を決して天外をのぞめば をちかたの高峰の雪の朝日影 嗚呼山林に自由存す われ此句を吟じて血のわくを覚ゆ。 なつかしきわが故郷は何処ぞや 彼処にわれは山林の児なりき 顧みれば千里江村 自由の郷は雲底に没せんとす。 (詩集「独歩詩集」から)