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高見 順

(たかみ・じゅん)


その1: 荒磯

その2: 急ぐ虫

その3: 天の足音

その4: 風

その5: 帰る旅

メモ: 作者紹介

narato's what's new

詩人インデクス


 ◇◆◇◆◇ 

       荒磯


     ほの暗い暁の 
     目ざめはおれに
     おれの誕生を思わせる
     祝福されない誕生を

     喜ばれない
     迎えられない
     ひっそりとした誕生
     
     死ぬときも
     ひとしくひっそりと
     この世を去ろう
     妻ひとりに静かにみとられて

     だがしーんとしたそのとき
     海が海岸に身を打ちつけて
     くだける波で
     おれの死を悲しんでくれるだろう

     おれは荒磯(ありそ)の生まれなのだ
     おれが生まれた冬の朝
     黒い日本海ははげしく荒れていたのだ
     怒濤に雪が横なぐりに吹きつけていたのだ

     おれが死ぬときもきっと
     どどんどどんととどろく波音が
     おれの誕生のときと同じように
     おれの枕もとを訪れてくれるのだ


                 (詩集『死の淵より』から)

 

 ◇◆◇◆◇ 

       急ぐ虫


       掌に
     小虫をのせ
     あるかせる

     その急ぎ足を
     悲しむ
     人生に似ている

        (詩集『樹木派』から)

 

 ◇◆◇◆◇

           天の足音


       空を見ていると
     駱駝の足音が聞こえてくる
     砂を踏む足音かどうか
     その音は
     いそいそとして楽しげであるか
     それとも重々しくさびしいか
     耳をすますが
     それは人生の足音のように
     不可解である
     無味無色である

        (詩集『樹木派』から)

 

 ◇◆◇◆◇

        


       風がごうごうとうなっている
     ごうごうのこの音は
     風の音か 木が風に鳴る音か
     君は分からぬというが
     僕は風の苦しみの声だとよく分かる
     風は実に苦しんでいる
     有るということの苦しさは
     生きるということと同じように苦しいのだ
     君 今この寂しい夜に目覚めている灯よ
     君も今にそれを知るのだ

        (詩集『わが埋葬』から)

 

 ◇◆◇◆◇

           帰る旅


     帰れるから
     旅は楽しいのであり
     旅の寂しさを楽しめるのも
     わが家にいつかは戻れるからである
     だから駅前のしょっからいラーメンがうまかったり
     どこにでもあるコケシの店をのぞいて
     おみやげをさがしたりする

     この旅は
     自然に帰る旅である
     帰るところのある旅だから
     楽しくなくてはならないのだ
     もうじき土に戻れるのだ
     おみやげを買わなくていいか
     埴輪や明器(めいき)のような副葬品を

     大地へ帰る死を悲しんではいけない
     肉体とともに精神も
     わが家へ帰れるのである
     ともすれば悲しみがちだった精神も
     おだやかに地下で眠れるのである
     ときにセミの幼虫に眠りを破られても
     地上のそのはかない生命を思えば許せるのである
     
     古人は人生をうたかたのごとしと言った
     川を行く舟がえがくみなわを
     人生と見た昔の歌人もいた
     はかなさを彼らは悲しみながら
     口に出して言う以上同時にそれを楽しんだに違いない
     私もこういう詩を書いて
     はかない旅を楽しみたいのである

               (詩集『死の淵より』から)
 

 ◇◆◇◆◇ 


          高見 順 (たかみ・じゅん)


   明治40年(1907年)、福井県に生まる。本名は高間芳
   雄。

   東大英文科卒。一高時代、同人誌「廻転時代」に参加、
   ダダイストとして詩作を試みる。その後、左翼的傾向
   が強くなり、「文芸交錯」「左翼芸術」「大学左派」
   「日暦」「人民文庫」党の同人誌に関係、武田麟太郎
   らと知り合う。
  
   昭和8年、治安維持法により検挙さる。同10年、転
   向作「故旧忘れ得べき」を発表、第一回芥川賞候補と
   なり、これにより文筆生活に入る。
   終戦後、病床にあって再び詩作を始め、「日本未来派」
   などに発表。昭和25年、詩集「樹木派」を出す。
   ほかに、「高見順詩集」(昭和34年)がある。

   (角川文庫「現代詩人全集」第5巻・伊藤信吉/解説から)


 


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更新 06/02/01