”食物連鎖”と言ったり”フードウェブ”といったりしますが,生物の食ったり食われたりの関係は何重にもかさなり,複雑に,すきまなくなく繋がっています.河原などに見られる奇妙な植物,ネナシカズラ類にはケシツブゾウがいて,連鎖の一環を演じています.ミニチュア食物連鎖.ていうかミニチュア地獄です.
観察はおもに香住町加鹿野の矢田川の河原でしました(他に福知山市牧や神戸市北区八多屏風,さぬき市津田,近江八幡市日野川での観察に基づく情報も加えてあります).大乗寺橋の下流のよく重機が置いてあるところです.人がよく入るのと,水位の上下で植生がよく撹乱されるようです.轍がついていて,その脇にヤハズソウが生えています.
ヤハズソウはマメ科の植物で,低く地を這いうように生えていてマメ科らしい赤紫の小さな花をつけます.ヤハズソウとマルバヤハズソウがあるそうですが,ここのはヤハズソウのようです.
このヤハズソウの群落にラーメンをぶちまけたような感じでまとわりついているのがアメリカネナシカズラです.
アメリカネナシカズラは寄生植物で,ここではおもにヤハズソウを餌食にしています.実生から伸びた蔓が寄主の植物にとりつき,やがて根が消えてしまうから「根無し蔓」なのでしょう.
アメリカネナシカズラは名前のとおり侵入種で,1970年頃から目立つようになったそうです.侵入過程としては飼料や緑化植物の豆が輸入された際にアメリカネナシカズラの種子が混入していた,というのが想像しやすいところです.
これと似た在来種にネナシカズラやマメダオシというのがあります.三者のうちネナシカズラは花がかなり異なっていますが,アメリカネナシカズラとマメダオシは似ています.アメリカネナシカズラでは雄蘂が張り出すので見分けられるとの事です.
マメダオシの名は「豆を倒す」からでしょうが,他の種もマメが好きなようです.文献によればアメリカネナシカズラの寄主範囲は広いとの事ですが,少なくとも加鹿野では主食(?)はヤハズソウで,時にセイタカアワダチソウに登って花をつけるという,なかなか巧いことをやっています.
アメリカネナシカズラは海岸や湖岸の砂浜で地を這うように生えているハマヒルガオにとりついているのも見られます.
で,夏の終わりにはポツポツとおとなしく花を咲かせているヤハズソウを尻目に,アメリカネナシカズラは大量の花をつけまくります.ブドウの房のようにびっしりで,遠目に見るとどっちの花かわかりません.
で,その花の塊やら蔓をよく見るといろんな形のゴール(虫こぶ)が見つかります.まだ小さい細長いウインナーソーセジみたいなやつ,うまく育った感じの大きく丸いやつ,変形してるやつ,表面がゴツゴツしてるやつ.でもすべてマダラケシツブゾウのゴールのようです.入植後の艱難辛苦でいろんな形状になるのでしょう.
『日本原色虫えい図鑑』を見ると,詳しい周年経過は不明とありますが,マダラケシツブゾウが在来種マメダオシにゴールを作ることは知られていて,ゴールには「ネナシカズラコブフシ」という和名がついています.
マメダオシのゴールに関しては『採集と飼育』誌に佐藤(1963)の詳しい記録があります.虫の種が未確定で”ムシコブゾウムシの一種”としてあるのと,寄生植物がマメダオシである事以外は,ここに書いている事とほとんど同じ観察をされています.1961年8月の西宮での観察です.筆者(沢田)は最近このテーマに興味を持ちはじめたのですが,読んでみると佐藤氏が同じ事実に驚き,同じ感想をもたれていた事を知り,それにまた驚きました.記録の次の年には同誌に須賀(1964)による1963年8月に名古屋でも同じもをの見たとのレス記事が出ています.
マメダオシ自体が珍しい種であり,当時はこのゴールも稀なものだったのかもしれません.あるいは予備知識があれば発見はさほど困難ではなかったのかもしれません.いずれにせよ,このゴールがマメダオシ同様アメリカネナシカズラにも形成されるのであれば,帰化種のアメリカネナシカズラが拡がっている現在ではこのゴール,ネナシカズラコブフシを見かける機会は当時より増えたのではないかと考えられます.
単行書の『虫こぶ入門』(薄葉,1995)には,帰化植物アメリカネナシカズラの虫こぶとして取り上げられ,両者の関係について推論されています.アメリカネナシカズラの侵入はおそらく種子でだと考えられ,ゴール(ゾウムシ)を伴った侵入は考え難く,だとすると在来種のゾウムシが帰化植物へ寄主範囲を拡大したのであろう.という事です.
余談になりますが,筆者(沢田)もアメリカネナシカズラがはびこっている様子に「ラーメンをぶちまけたような」との比喩を考えついたのですが,『虫こぶ入門』で既に同じ表現がなされていました.同じ現象に同じ感想をもたれているのだなぁと,またまた驚きました.ひょっとして,あたなも「ラーメンみたいだ」と思ったのでは? > 「アメリカネナシカズラ」で検索してこの頁をご覧の皆様
やっと主役登場です.ネナシカズラコブフシの中には一匹または数匹のゾウムシの幼虫がいます(運がよければ).虫のまわりには白っぽい顆粒状の糞が見られます.ごく普通のゾウムシらしい幼虫で,頭の黒化が少し弱い感じがします.消化管の内容物はほとんど目立ちません.
余談ですが,ゴールを持ち帰ると,異変を察知した幼虫がゴールの壁を食い破って這い出して来ます.このときゴールが緑色であれば消化管が緑色になって見えます.
幼虫が育っている時期,マダラケシツブゾウの成虫もアメリカネナシカズラの蔓の辺りを徘徊しています.どこにどう産卵しているのか,世代の重なり方はどうなのかよくわかりません.とにかくゴールができている時期にも成虫が見られます.
マダラケシツブゾウ Smicronyx madaranus Kono の成虫は体長約2.2-2.4mmで,現場では白い鱗片がよく目立ち,斑模様というより白っぽいゴミクズに見えます.甲虫図鑑には本種のほかにアカスジケシツブ(S. rubricatus Kono),リンドウケシツブ(S. sp.)の同属三種が載っており,マダラケシツブの鱗片が灰色だけなのに対し,リンドウケシツブは褐色のものも混じるとあります.本頁ではアメリカネナシカズラの虫をマダラケシツブと同定していますが,これには疑問の余地があります.