蝶が闇を舞う
辺りは一面の・・・闇。
少年はそこにいた
まだ幼さが残る顔に浮かぶ、冷ややかな表情。
そこにある「闇」を拒むでもなく、受け入れるのでもなく
少年はそこにいた。
しばらくすると蝶は舞うのをやめ、少年の肩に止まった。
少年は蝶に問う。
「なぜ私を求める? 私がお前にしてやれることなど何もないのに」
すると蝶は少年から離れ、また闇の中を舞い始めた。
しかし舞いながらもけして少年の傍を離れようとはしない。
寄り添うように。慰むように。愛しむように。
青い羽を優しく羽ばたかせながら・・・
そしてどこからか聞こえてくる歌。
夢の終わりはいつもこうだった。
そして
夢から覚めたはずだった。
しかし彼はまだ闇の中にいた。
少年の顔がこわばる
ゆっくりと後ろを振り返った。
さっきまでいた蝶の姿はない
その代わりに…少年からさほど離れていない場所に
白光りする一すじの線があった。
しばらくして
それが窓から差し込む月の光だということに気付くと
少年はようやく安堵の表情を浮かべた。
彼にとって「闇」とは「恐怖」や「無」であった。
しかしそれと同じく、
自分が自分であることを証明してくれるものでもあった。
少年はベッドから体を起こし、
月明かりで照らされてる窓辺へと足を向けた。
ブレア王国王子"アステア"
少年の名前である。
その名目だけの地位の影でアステアはこうも呼ばれている。
〈魔女の呪いを受けし者〉
アステアにかけられた呪い。
日の光のもとでアステアは本来の"アステア"としての
姿、人格を失っている。
その時出てくる人格は男性のアステアとは全く
対称的な女性のものであった。
アステアとしての人格は月の光のもとでしか
生きることができない
けして人目につくことが無い様、アステアがこの塔に幽閉されてから10余年・・・
一度も家族に会うことは叶わなかった。
もはや家族の顔などとうに忘れてしまっている
月を、天を睨む。
己が運命を左右する存在を。
カタ、と音がした。
アステアは目を凝らして闇の向こうを見つめた。
「私です、アステア様」
声の主は明かりの灯った手持ちランプで自分の顔を照らした。
「リミエール」
彼女はアステアの侍女で、この塔でアステアに会うことの出来る
唯一の存在である。
+++ つづく +++
