なんて馬鹿な夢を見たんだろう。
俺とジェリコが、ビリー&チャックよろしくタッグを組んでいた。
それともそういった願望があったのだろうか。
ジェリコに話すと、しばらく黙って睨まれた後に「聞かなかった事にする」と真顔で言われた。
さすがにお揃いのハチマキまで付けていたとは言えず、俺は間抜けな笑顔で言葉を濁すしかなかった。
まだタッグ戦線に名残があるのだろうか。
あんな終り方じゃ、名残が無いとは言えないだろう。
彼は何故、あんな去り方をしなければならなかったのか。
「ロン、辞めるなんて言うな。タッグも事務所も再開したばっかりじゃねぇか。」
顔を合わせれば馬鹿の一つ覚えのように、同じ台詞を繰り返した。
その度に彼は、困ったように笑っていた。
「俺が決めた事じゃないんだ、しょうがないだろ?」
「でもよぉ」
いつも同じやり取りを繰り返し、終いにロンがイライラし出した。
「何度同じ事言わせりゃ気が済むんだ、ジョン・ブラッドショー?」
彼を怒らせる程、付き合いが短いわけでも頭が悪いわけでもない。
こうなったら、もう元に戻る方法は無いのだろう。
手近な大道具に蹴りを入れると、思ったよりも大音量で破壊音が響き渡り、近くに居たフナキが
飛び上がって驚いていた。
「ジョーン、ジョンったら、落ち着けよ」
レッスルマニアの日も荒れに荒れていると、聞き慣れた声がした。
「見て、俺の衣装。格好いいだろ?これから殴られに行くんだ。みんな褒めてくれるよ。」
脳天気な笑顔の裏に、心配の色がありありと浮かんでいる事くらいわかってる。
「偶然だな、クリス。俺も殴られに行くんだ。衣装はいつもと同じで地味だがな。」
ふわふわのブロンドに手を置くと、潮が引くように怒りが治まった。
「なぁ…聞いたよ。俺も本当に悲しい。だけど、しょうがないって言うか…その…。」
珍しく言葉を濁すクリス・ジェリコを、ただひたすら撫でてやった。
珍しいと言えば復帰を目前にしたリーガルが、神妙な顔で声を掛けてきた。
「非情に残念に思います。私が戻るまで待っていてくれなかった事、恨みますよ。」
「ああ、あの頃…」
俺の返答を、リーガルは素早く遮った。
「あの頃は良かったなんて台詞、30年後までとっておきなさい。」
慌ただしくめまぐるしいレッスルマニア週間が終わり、気付けば二人が揃う最期のスマックダウンを迎えていた。
間もなく俺は最低野郎を演じる事になっている。
別にそんな事は問題じゃない。
APAを終わらせたくなかった、終わらせるにしろこんなストーリーは嫌だった。
スタンバイの声が掛かると、口を尖らせて拗ねている俺の肩をロンが叩いた。
「言いたい事はわかってる。だけどちゃんとやるんだ。」
カメラが回り始めると途端に喉がカラカラになる。
きっと焦ったような顔をしているのだろう、ロンが心配そうな顔をして俺を見る。
まるで別の場所から自分を見ているかのように客観的だった。
台本通りの台詞を言い、演技をこなしている。
しかしこれが、自分の姿とは…APAの姿とは思えなかった。
こんな終わり方をする筈じゃない、これは現実じゃない。
身じろぎ一つしない俺を見て撮影班が気まずそうに去り、ロンが目の前に立った時にようやく気付いた。
もう全てが終わったんだと。
ロンが手を差し出している。
握手をして、さよならを言えば解散になってしまう。
ひどく緩慢な動作で彼の暖かい手を握り、ぎこちなく腕を背中に回した。
「俺のようにはなるな、お前はしっかりやれ。」
いつも言葉数の少ない彼の一言一句を忘れたりなんかしない。
「見送られると色々思い出しちまうからな、ここで別れよう。」
どんなに我慢しても、目に熱い涙が溢れてくる。
「なに、またすぐ会えるさ。」
言いたい事は色々あるのに、言葉に詰まって頷く事しか出来ない。
必死で涙を堪える俺の腕を叩いて、ロンは笑って背中を向けた。
徐々に小さくなる彼の姿に、何一つ掛ける言葉が見つからない。
その時、体に衝撃が走った。ケツにクリーンヒットが入った感触だ。
振り返ると、リーガルが両手をポケットに突っ込み、苦虫を噛み潰したような顔で立っていた。
もう一発蹴られたいのかと足を振り上げ、黙って顎でロンを指す。
俺は慌てて涙を隠すと、口に両手をあてて叫んだ。
「ロン!ロン・シモンズ!!」
振り替えりはせず、彼は歩を止める。
何を言うべきか考え、再び涙が溢れそうになる。
声を震わせまいと必死で、やっと一言だけ口から飛び出した。
「ありがとう、忘れない」
ロンは荷物を持たない方の手を振ると、再びゆっくりと歩き出した。
「なんでお前がここにいるんだよ。」
リーガルは黙って後方を指さした。
そこにはジェリコがシャツのあちこちを引っ張りながら、心配そうな表情でこちらを伺っている。
リーガルが手招きすると、彼は駆け寄って俺に抱きついた。
「ジョンが悲しむだろうと思ったから、様子見に来たんだ。」
お前は?という表情を読みとってか、リーガルが口を開く。
「あなたにクリスが付いているなら、彼にも愚痴る相手が必要だろうと思ったんですよ。」
それだけ言うと、彼は小走りでロンの後を追った。
「ジョン…辛いけどさ、悲しいけど、頑張らないとロンが悲しむよ。」
俺は涙を止め、クリスの言葉に相づちを打ちながら帰り支度をした。
荷物を全てバッグに詰め込み、抱えて帰ろうとした所でセットのドア・テーブル・椅子等が
乱雑に片隅に追いやられているのを見つけた。
「…ドア…」
「ほら、ジョン。未練がましいよ、やめなよ。」
自分の方がよっぽど悲しそうな顔をしたジェリコに力ずくで連れ出されなかったら、俺はいつまでもそこに居ただろう。
「ジョン!まさか赤いパンツ履いてなかっただろうな!」
思い出しては怒っているクリスが可笑しくて、俺は思わず口を滑らせた。
「ハチマキまで揃いだったよ。」
それを聞くと彼は、頭を掻きむしりながらそこら中を歩き回った。
「あんな馬鹿コンビ…リコ役は…むしろ俺がリコ役で…」
彼の奇行を気にもせず、俺は頬杖をついて呟く。
「なぁ移籍して…俺とタッグ組まねぇか?」
頭をクシャクシャにしたまま、クリスは首を傾げて笑う。
「俺はロンほど、ジョンの事上手く操縦出来ないから嫌だよ。ヤツの手綱捌きは見事だったからね。」
★★★
暫くの間私を涙もろくさせた、私の今年の誕生日にゆきえさんに頂いた、何よりの贈り物。
まじで涙が止まらなかったです。
嬉しいのと、ストーリーが切ないのとで。
ロンが退団したことと、そのストーリーの理不尽さを私は信じられなくて、言い表しようがなくって、
なんともいえない気持ちでいたんですけども、それをゆきえさんに代わりに表現してもらったような。
日記とかで書こうとしても、どうしてもうまく私にはうまく表現できない気持ちを、
なんでゆきえさんはちゃんと分かっててこういう話を書いてくれるんでしょうね。
それがなんか、嬉しくもあり、その感情をやっとストレートに見ることができたり。
いつもどおりのゆきえさんが作ってくれる彼らのキャラクターのままってのがまず好きです。
で、ちょっとじょんがかわいかったり。(笑)じぇりこはもっとかわいかったり。(照←?)
リーガル慰めバージョンの話も読みたかったり。(!)
ゆきえさん、まじでどうもありがとうございました。
もうたまらんです。
このficを読む度、どれくらい嬉しかったかを、毎回思い出してます。
最後にひとこと。
リ ー ガ ル は じ ょ ん よ り 年 下