29 11 2004 JBL
その日ジェリコは眼鏡を掛け、一心不乱にキーボードを打いていた。
しばらくすると眼鏡を外し、髪をかき上げ、ため息をつく。
「さっきから何カタカタやってんだよ?」
既にウィンドウの閉じられた画面をひょいと覗きながら、ジョンは不思議そうな顔でジェリコを見つめる。
「サイトのコラム書いてたんだよ、今度Fozzyのサイトも出来るんだ。
ちょっとサボってたけど、そろそろこまめに書く癖を付けておかないとな。」
大きく伸びをして、椅子にずるずるともたれかかる。
「ジョンもサイト持てばいいじゃん、どうせコラムは書いてんだからさ。
ファンの声もダイレクトに聞けてなかなか楽しめるもんだよ。」
だらしなく椅子の背もたれから顔を覗かせたジェリコに、ジョンはしかめっ面を返した。
「嫌だよ、俺はネットで批評してる奴らが大嫌いなんだ。
偉そうに、ヤツらやたらとデカい口叩いてそのくせ何も解っちゃいねぇんだ。」
「確かにムカツく批判は多いさ。でも純粋に応援してくれるファンだっていっぱいいるさ。
そういうファン全てと会って話す事は出来ないんだろ?ネットでくらい触れ合えれば彼らは喜んでくれる。
な、楽しそうだろ?」
無邪気に笑う彼を見て「俺はお前ほど人気無いからな。」と、ジョンは肩を竦める。
「何言ってんだよ、ジョンは人気あるじゃないか。王座長続きしてるくせにさ。」
それを聞いて、ジョンはニッコリ笑った。
「お前だってIC王座に君臨してるじゃないか。今度は長持ちしそうなんだろ?」
何気ないジョンの台詞に、ジェリコは困ったような顔をして見せた。
「どうだかな、そうも行かないかもしれない。」
その言葉通り、タブーチューズデイでICベルトは彼の手を離れて行った。
ジョンは何も見ていない振りを続けていたが、次にベルトを持てるのはいつだろうと
ジェリコが遠い目で想い耽る姿を見逃してはいなかった。
そんな会話から数ヶ月後。
サバイバーシリーズを終え、彼らは年末へと忙しい日々をひた走っていた。
久々に自宅へと帰ったジョンは、経済新聞を片手にパソコンへ向かっていた。
「デイトレードも面白そうなんだけどなぁ、そんな暇ありゃしねぇしな。」
何やらブツブツ呟きながら、手元も見ずにコーヒーカップへと手を伸ばす。
その途端、高速でインターホンが鳴り、ジョンの狙いは大きく逸れた。
「な、誰、熱ッ!ちょっ、まっ、待って下さいよ!」
何故か敬語で慌ててドアのロックを外すと、ジェリコが嬉しそうな顔で飛び込んできた。
「何だよお前、鍵持ってんだろ。インターホン鳴らさず入って来いよ。」
デスク周りの惨状を片付け、派手にコーヒーをかぶったデニムのパンツを脱ぎ捨て、
どうにか真新しいパンツに足を通す。
「ジョンこそ何だよ、脱いだり着たり。この猥褻野郎。」
ジャケットを脱いで椅子に掛けると、ジェリコは眉を顰めた。
ジョンが「減らず口野郎め」手を伸ばすがそれを易々と避け、機嫌良く鼻歌なんぞを披露している。
ニヤニヤ笑いが徐々に大きくなり、笑顔が全開となった。
「気付いてないんだな、まだ。ジョンの誕生日、29日。」
何を言われているのかわからずに首を傾げるジョン。
「ジョンの誕生日、俺がベルトに挑戦するんだよ。」
そこまで言われ、さすがに「あぁ」と思い出す。
サバイバーシリーズに勝ち、ちょうどジョンの誕生日である29日、
RAWはジェリコが仕切るというストーリーが組まれていたのである。
「良かったじゃないか、またすぐにベルト絡みの試合が出来て。」
そこまで言うと、ジョンは慌てて口を押さえる。
おそらくジェリコは、あの遠い目を見られていたとは知るまいと。
しかし彼は寂しそうに笑っただけだった。
「やっぱり俺、顔に出てたんだ…いやでも良いんだ、もっとデカいタイトルに挑戦する為の布石だと
思えばさ。ICは若造にくれてやったんだよ。しっかし、ジョンに隠し事は出来ないな。」
ジョンは気まずそうな表情で、聞き役に徹する事に決めたようだった。
「な、この際ベルト獲っちゃおっかな。絶対クビになるよな、そんな事したら。
ククク、俺なら絶対勝てる自信はあるんだけど。
そんでwwe.comでジョンの写真と俺の写真並んだりしてさ。」
いらずらっこのように1人で笑っているジェリコだったが、その顔が徐々に曇っていった。
「どうせ無理なんだけどな。その上さ、夜はFozzyのライブあるんだ。だからその…ジョンの誕生日…」
言葉を慎重に選びつつも口ごもったジェリコの髪を、ジョンはくしゃっと撫で上げる。
ジェリコが彼を見上げれば、いつも通り暖かい色の瞳が真っ直ぐに自分を見つめ返す。
「気にすんな、今やれる事をやっとかないとな。
お前にやりたい事を我慢させるくらいなら、俺は今すぐこの手を離さなきゃならん。
無理矢理引き止めるような見苦しい真似はしたくない。お前にはいつもやりたい事を優先して欲しいんだよ。」
ジェリコが黙ってジョンの胸に顔を埋めると、彼は子供をあやすようにジェリコを抱きしめた。
「その代わり、SDの収録終わる頃にそっち行くから。そしたら誕生日祝おう。」
「おう、ベルト巻いて現れるのを待ってるさ。」
「…クビになってこいって事かよ。」
お互いに顔を見合わせてくすくすと笑うと、どちらからともなく離れ、ジェリコは入ってきた時のように
バタバタと部屋を出て行った。
1つになった影が2つに離れ、再び1つになるまで、ほんの数日。
ちょっとだけ我慢して、仕事に専念して、移動をして。
それが終われば、ジェリコはまた髪を振り乱し、インターホンを連打する。
ジョンはまたコーヒーをこぼすかもしれないし、あるいはこぼさないかもしれない。
それが、彼らにとっては長い長い数日、待ちきれない程の幸せな時間。
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2004年11月29日にゆきえさんにいただいた2004年JJ第2段。
いや、好きっすね、これ。
なんかこう、微妙にいろーんなことで揺れ動く「チャンプ」という座がリアルで。
こういうJJ掛け合いすげー好きなんですけど、
そのなかに出てくるいつも遠い目をしてるじぇりことか、
すごい切なくなる。
いやいや、いいっすね。
せつないけど、いい。
いろんな思いを汲んでいて、分かっててゆきえさんは書いてくれるわけです、
こう言うのを。
何かじーんときました。
「待ってくださいよ」ですよね、ええ。「2,5!」ばりの名言ですよ。
お気に入りです。どうもありがとうございました!
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