【きたのくにのりんごたちのたび】 2005.9月作
ここはきたのくにのりんごやさんです。
りんごやさんのおじさんは、もうじき出荷のりんごたちを一つ一つ見て
まるで自分の子供に話しかけるようにつぶやきました。
「今年も台風や大雨に見舞われたけんど、どうにか出荷できそうだなぁ。
なあ、おまえだちも、ホントに元気によぐ頑張ったなや。」と。
明日の朝にはトラックが来て大勢のりんごたちは
それぞれのところの旅に出ます。
※ ※ ※
その夜、りんごたちがお喋りしはじめました。
「なぁ、おらだちは、どごさ行ぐのがな?」
「おらは遠い南の国に行ってみでもんだなやぁ。」
「優しい人の所さ行げるど、いいなや。」
「う〜ん。明日が早ええがら、みんなもう寝るべぇ。」
いつのまにか、りんごのこどもたちは小さな寝息をたて始めていました。
※ ※ ※
いよいよ今日はりんごたちが旅立ちの朝です。
りんごやさんのおじさんは、
「さあ、おまえだち、行って来い。おまえだちは人さ幸せをいっぱいあげられるりんごだ。元気でナ。」
そう、りんごたちに声を掛けながらりんごの箱を一つづつトラックの運転手さんに渡していきました。
りんごやさんのおじさんには、なおこちゃんという小さな子供がおりました。
なおこちゃんもこの春からずっとおじさんと一緒にりんごのお手伝いをしていました。
「みんな、元気でナ。」
でも、りんごたちとお別れするのが少し寂しそうです。
「これで全部ですね。」
そう言ってトラックの運転手さんは出発しました。
※ ※ ※
それから長い時間が過ぎました。
みんな兄弟・姉妹のりんごたちは、それぞれにお別れを言いながら旅に出ました。
※ ※ ※
「へ〜い、いらっしゃいっ!」
ここは威勢のいいおじさんのいる八百屋の店先です。
「ふじりんご・一山・580円」の値札がつけられていました。
りんごのきょうだいたちのうちの一部の子たちは東京の店先に並んでいました。
「安いよ、新鮮だよ!今日、東北から入ったばっかりのりんごだよ!」
「おじさん、おらだちのこと、いっぱいアピールしてくれてるなや。なんだかちょこっと恥ずがしいなや。」と
照れ屋のりんごが言いました。
「そのりんご、一山下さい。」
見知らぬ若いお母さんが声を掛けました。
「あいよっ!」
今までおしゃべりしていた5個のりんごたちが八百屋のおじさんの手で袋の中に入れられました。
「バイバイ、したら元気でナ〜!」
店先に残ったりんごたちがそっと声を掛けました。
「うん、へば、行って来るナ〜。」
※ ※ ※
八百屋で見知らぬお母さんに買ってもらったりんごたちはそこのおうちに行きました。
「ただいま〜。何かおやつは〜?」と小さな男の子がお家に帰って来ました。
「そうそう、りんごをね、さっき買って来たの。ひろしくん好きだったもんね。」
「わーい、りんごだ、りんご。」
ひろしくんは大喜びでお母さんと一緒にりんごを食べました。
「おいしい〜!中に蜜が入ってるんだね。すごくおいしいよ〜。お母さん、ありがとう。」
ひろしくんは、お母さんと幸せなおやつの時間を過ごしました。
りんごたちはひろしくんたちに喜んでもらえて、とってもうれしくなりました。
※ ※ ※
ここはスーパーの果物売り場です。
今の季節は「秋の収穫フェア」と書かれた洒落たプレートが掛かった果物売り場です。
「すみません。そこのりんごを包装して頂きたいのですが。」と、女の人がお店の人に声を掛けました。
「あの〜。お見舞い用に使いたいのですが・・・。」
「はい、少しお待ち下さいね。」とお店の人がりんごたちを何個か手に持ちました。
さあ、今度は君達の旅の出発だね。
※ ※ ※
女に人に大事そうに抱えられたりんごたちは病院をめざしていました。
玄関の大きな門には「小児医療センター」と書かれてありました。
女のひとはある病室に入りました。
そこには、小さな体で病気と戦っている子供たちが数人、入院している病棟でした。
女の人の子供も入院しています。
「さちこちゃん、きょうはね、りんご買ってきたの。食べてみる?」
朝からずっと熱っぽいさちこちゃんにお母さんは、せめてりんごでも食べさせてあげたいと思ったのでしょう。
「りんご?うわぁ、嬉しい。りんご、食べてみたいなぁ。」
さちこちゃんは、少し元気のない声でお母さんにお話しました。
お母さんは急いでりんごを一切れ、さちこちゃんの口元に運びました。
「おかあさん、冷たくてほんわり甘くて、おいしいよ。ありがとう。」
「そうだね、りんごを食べて、また元気になって学校へ行こうね。」
お母さんはさちこちゃんに優しく声をかけました。
「さちこちゃん、重い病気なんだべが?治るどいいなや。」
りんごの兄弟たちは心からそう思いました。
※ ※ ※
そして、今度は遠くの南の国にきたりんごたちがお店に並べられていました。
南の国ではりんごやブドウはなかなか育ちにくくとっても珍しいのです。
「そのりんご、下さいな。」と女の人が声を掛けました。
「はい、まいどっ!」
お店の人が急いで袋に詰めました。
「このりんご、味は、おいしいのかしら?」
「ええ、もちろんですとも。」
そんなやりとりをして、りんごたちは女の人のおうちに連れてこられました。
そこへ、その家の子供のなつみちゃんが帰ってきました。
「ただいまぁ・・・。」
なんとなく元気がありません。
「あら、どうしたの?遅かったわね。もうじき、塾に行く時間よ。早くして。そこにりんごがあるでしょ。それ食べたら、塾に行くんですよ。」とお母さんが言いました。
「お母さん、あのね。きょうね・・・。」と、なつみちゃんが言うのをさえぎるように
お母さんは「早く、時間ないんだってば。なにしてるの!」と、まくしたてました。
なつみちゃんは、小さく「ふぅ・・・。」っとため息をつきました。
※ ※ ※
なつみちゃんは、どちらかというと、とっても大きな女の子でした。
体が大きな事でクラスの男の子達にもからかわれていました。
「女ジャイアン!」
なつみちゃんは、このあだ名が好きではありませんでした。
本当はなつみちゃんにも優しい気持ちはいっぱいあっても、
「女ジャイアン!」とからかわれると、つい、いじわるな気持ちになって
クラスのお友達にもわざといじわるをしてしまっていました。
勉強は得意なんだけど、女の子達にもあんまり好かれていません。
きょう、クラスのきょうこちゃんと遊びたくてトイレから出てきたきょうこちゃんに
ちょっと、ふざけたつもりで「ばぁ!」って首に寄りかかったら
そのきょうこちゃんは、なつみちゃんの体重を支えきれずにバランスを崩してしまって
きょうこちゃんが運悪く片方のひじを教室の出入り口の窓ガラスにぶつけてしまったのです。
「ガッチャーン!」
思いがけず窓ガラスが割れてしまったのでした。
「あっ!ご、ごめん!。」なつみちゃんはきょうこちゃんに消え入るような声で謝りました。
「あ〜!なつみときょうこのヤツ、ガラス割ってやんの。い〜けないんだ〜、いけないんだ♪」
男の子達がはやし立てました。
なつみちゃんは、とっさに、嘘をついてしまいました。
「ちがうよ、きょうこちゃんがわたしに意地悪いってきたんだ。だから、その、あの・・・。」
おとなしいきょうこちゃんは、びっくりしたようになつみちゃんを見つめていました。
なつみちゃんは、逃げるようにしてその場所から走り去りました。
※ ※ ※
本当はなつみちゃんはお母さんにきょうあった出来事を聞いて欲しかったのでした。
りんごがお皿にきれいに飾られてありました。
なつみちゃんは一人で皮をむいて一口食べてみました。
「おいしい・・・。」
「やっぱり、明日、謝ろう・・・。」
「うそ、ついちゃ、だめだよな・・・。」
なつみちゃんはりんごをほおばりながら、素直な気持ちで、そう思いました。
「なつみちゃん、ホントは心のキレイな子なんだべなや。」
りんごたちは、そっとつぶやきました。
※ ※ ※
きたのくにのりんごやさんのおじさんとなおこちゃんは、その頃、遠く旅だったりんごたちのことを考えていました。
「お父さん、りんごだち、元気なべが?」
「うん?ああ、きっと元気だとも。いろんた人がりんごだちを手にした時に、どうか、優しい気持ちになりますように・・・って、おどさんが一年中、魔法をかけておいだがらなぁ。」
「ちちんぷいぷい〜・・・ってな。」
くすっと、お父さんは笑って答えました。
「あっ、そうだったね!」
なおこちゃんも、お父さんの言葉に安心して微笑みました。
(おしまい)