プロローグ とある英雄の座る場所

──ここは……

 衛宮士郎は困惑していた。
 目の前には異常事態が広がっている。
 20代半ばの鍛え抜かれた鋼の体も、この異常事態に対処する術を知らない。27本の魔術回路も、このような事態に対処できるような器用な芸当があるわけではない。幾多の戦場で身に付けた戦闘理論も、この場では無駄だろう。
 鷹の目を連想させる鋭い眼も、困惑の為か地の優しげなものに変っている。

 自らの記憶が確かなら、自分はあの戦場で死んだはず。味方の裏切りにあい……。
 ──否、彼らからしてみれば裏切りは自分だったのかもしれない、非戦闘員を救う為に単独行動をしたのだから、彼らからしてみれば無駄な危険に巻き込まれたと思ったのだろう。
 だからと言って後悔はしていない、怨む気も無い。あんな理不尽な事で、戦う術も持たぬ人々が死ぬなんて絶対間違っているから。

 だが、この異常事態は一体?


──体は剣で出来ている
──血潮は鉄で、心は硝子
──幾多の戦場を越えて不敗
──ただ一度の敗走も無く
──ただ一度の理解もさない
──彼の者は常に一人、剣の丘で勝利に酔う
──故にその生涯に意味は無く
──その体は、きっと剣で出来ていた。

 そう、自らがたどり着くのは誰もいない孤独な剣の丘。

──身体を鍛え、背が伸びるたびに
──戦場を越え、視線が鋭くたびに
──無茶な魔術行使の代償に、髪の色が抜け肌が浅黒くなるたびに

 自らが赤き弓兵に近づいていることに、否応無しに気づかせられる。

 師でもあった古い友人が、何度も忠告をした。
 妹と思っていた女性が、涙で止めようとした。
 姉であり妹であった少女は、常に衛宮士郎の身を愁いていた。
 姉を自称していた女性が、戻る場所を常に用意してくれていたのに。

 だが、鋼の心をもって衛宮士郎は駆け抜けてしまった。

 借り物の理想を、美しいと信じたモノに向かって。
 あの日、剣の騎士であった少女との誓いを果す為に。

 故に、彼がたどり着くのは剣の丘……であったはず。

 しかし、彼の目の前に広がるものは……、若き日々をすごした自らの家であった。

「なんでさ!?」

 思わず昔の口癖が飛び出たのは、無理もない事だった。


 まぁ、だからと言って呆けていても仕方が無い。
 このような状況を把握できる便利な術を持たない以上、自らの足で調べるしか無いのは生前と同じだ。
 口元に苦笑を滲ませつつも、屋敷に踏み込んでいく。

 玄関には靴は無い。
 さて、どうしたものかと悩んでみる。
 靴と言うと日本にいた頃はただの衣装の一つとしてしか認識は無かったが、戦場で靴は防具であり武器である事を学んだ。足元の様々な危険から身を守り、また鉄板入りの硬い靴は必死をもたらす武器となる。事態がわからない以上、靴を脱ぐのは危険と言えた。
 とはいえ、日本風の屋敷に靴を履いて入るのも抵抗がある。長い海外生活の経験から家の中で靴を履く暮らしにも慣れたが、やはり日本風の家では靴を脱ぎたい。
「まぁ、危険も無いだろう」
 この屋敷からは、危険な場所に付物のイヤな匂いが無い。それどころか、人を引きつける優しい匂いすら感じられる。
 それに……。
「よく考えればこの身は既に霊体だ……、靴を履く意味もないだろう」
 靴を脱ぎ捨てると、きちんとそろえておく。身についた習慣はそうそう変らないものだと、内心苦笑をする。
「さてと……何処から行くか……。まずは居間からかな」
 とりあえず声を出す。敵がいるとも思えないが、いるならば誘き出そう。
 スリッパを取り出すと──あきれたことに、姉代わりだった女性が使用していた虎のマスコットがプリントされたスリッパをはじめ、この家によく来ていた人達の専用スリッパまで再現されている──廊下を注意しながら歩き始める。
 急ぐのでもなく、かといってノンビリ歩くわけでもない独特の速度。
 その最中にも、この屋敷を解析する。
 だが、彼の解析能力をもってしてもこの屋敷の解析は上手く働かない。巨大な神秘がこの屋敷を守っているようだ。とはいえ、僅かながら認識できた情報で、自らが過した時間が再現されている事に気がつく。
 柱の傷や、ある女性が頭から突っ込んだ襖の傷まで再現されている。
 この屋敷はあの聖杯戦争前後の様子を見せている。
 自分を此処に誘い込んだ存在の意図が理解できない。
 警戒を緩めることなく、歩を進めていった。

 そして、居間にたどり着く。
 たどり着くと言った表現を使用するほどの時間がかかったわけではない。しかし、気分的にはたどり着くといった表現がピッタリとはまる。
 そこも、かつて彼がすごした時間をそのまま切り取ったようだった。
 綺麗に掃除をされた畳に、キッチリと拭かれたテーブル。奥にはキッチンがあり、大食漢の胃袋を満足させる為の大型冷蔵庫が鎮座している。
 自分が使っていた物と同じ調理道具も用意されていた。
 目を細めると、若かりし頃の自分達の影が見えるようだ。

──台所では■がこっそりとオヤツのおにぎりを握り。
──朝が弱い■■がフラフラと居間に現れ。
──■■■と■■■がドタバタと飯をたかりに現れる。
──テーブルに座った■■■■が、食事をできるのを今か今かと待ち構えている。

 幸せだった比の記憶。
 愚かにも自ら捨ててしまった日常の残滓。

「悪趣味だな……、罠だと言うのなら」
 思わず呟く。
 大切な時間、自ら捨ててしまった愛しい場所。
 それが余すことなく再現されているのだ。
 これが罠だと言うのなら、悪趣味極まりない。人の心を土足で踏みにじるようなものだ。

──だが、不思議と不快感が無いのも、また事実。

「次は……、俺の部屋にでも言ってみるか」
 とりあえずは事態が認識できるまではと、感傷を振り切る事にする。


「此処も再現されているのか……」
 そう、かつての自分の部屋も記憶の中にあるままだった。
 記憶の中にある通りだ、そうなんだ。
 そう思い込もうとしてはいるが、実のところこめかみから一筋の汗が流れ落ちている。
 いや、確かに彼の記憶の中にある通りだ。
 奥に机が置かれているだけの、何も無い殺風景な衛宮士郎の部屋だった。
 そう、何もない。

 ちょっと布団が敷かれている状態なだけだ。

 それだって異常でもなんでもない。
 夜になれば布団で寝ているのだから。土蔵で寝入ってしまう事も多々あったが、基本的には布団で寝ていた。
 でもだ、でも……。
「何で枕が二つも」
 そう、敷いてある布団には、枕が仲良く二つ並んでいる。しかも枕もとにはご丁寧にティッシュの箱まで完備されている。
 よく見ると、窓際には一度も飾った事など無いはずの椿の一輪挿しが。
 もう、完璧なセッティングだ。
 これ以上の完璧なセッティングはちょっとないだろう。さすがエロ学派。
「完璧ってなにさ!」
 思わずツッコミを入れる衛宮士郎。
 誰に入れたのか、ツッコミを入れた本人にすらわかっていない。
「とりあえず、次! 道場だ道場!」
 叫ぶように部屋を後にする。なんだか鍍金がはがれてきたような、そんな印象だった。


 いや、ここで鍍金は完璧に剥がれる。剥がされる。
 幾多の戦場を越えて身につけた戦闘理論も役に立たず、27の魔術回路も意味をなさず、鋼の肉体も飾りに過ぎない。

 素の衛宮士郎が道場の入り口で動きを止めていた。

 そこには、彼が失ってしまった一番大切な存在がそこにあった。
 温かな光に溢れる板張りの道場に、自らの半身とも言える少女があった。
 編み上げられた黄金色の髪は温かな光の下美しく輝き、白い肌はほんのり桜色に染まる。かつて戦友であった少女が見繕った、白いブラウスと青いスカートを身につけ、胸元には青いリボンが揺れる。
 瞑想するかのように座するその姿は、まだ何も知らなかった若き日々に出会った彼女と同じ。
 そう、あの朝の時間がそのまま切り取られたかのようだった。

「──セイバー……」

 意識せずに、少女の名前を口にする。
 それはかすれるような小声。
 しかし、例え小声でも衛宮士郎が自らを呼んだのならば、セイバーが気がつかないはずがない。何故なら衛宮士郎は彼女にとっての鞘だから。剣と鞘は対になってはじめて一つ。

「──シロウ……」

 だから、少女は青年に答える。
 青年は夢遊病のようにフラフラと少女に近づき。
 少女は確かな足取りで青年に向かう。

「セイバー!」

 青年は少女を抱きしめた。強く、優しく抱きしめる。
 離してしまえば、この少女はまた消えてしまう。そんな恐怖に囚われているようだった。
「セイバー……」
「シロウ……、会いたかった……」
 セイバーは消え入りそうな声でそう青年に囁く。
「セイバー、俺もだ……、でもどうして」
 自分は死んだはず。
 死ぬ間際の幻かと、自問する。いや、幻ではなく愛しい少女は確かにここにあった。
「世界が……サービスしてくれたのでしょう」
 トンと士郎から離れながら、セイバーは微笑む。
「世界が……? まさか!」
 士郎の表情が険しくなる。かつてセイバーは聖杯と引き換えに世界と契約した身、守護者へと成り果てたというのか。
 だが、セイバーは静かに首を横に振る。そして、ちょっと怒ったように言った。
「シロウ、私が再び聖杯を求めていると思うなら、それは酷い侮辱だ」
「あ、いや、そういう訳じゃないんだ。すまない、セイバー」
 背が高くなっても、表情が鋭くなっても、あの時と変らず謝る青年に、少女はクスリと笑う。
「いえ、シロウが心配するのも無理はありません。でも、私はもう聖杯は求めていません」
「でも、それじゃあなんで……世界がということは、君も英霊に」
「ええ、世界との契約は切れましたが……、あまり有名ではありませんが、この身は王として信仰にも似た崇拝を受けた身です。
 英霊の座に加わるには十分だったのでしょう、《湖の貴婦人》の末席に加わる気にはなりませんでしたから、英霊の座に……」
 あの姉と四六時中顔を合わせるのはいくらなんでもアレですしと、悪戯めいた表情で呟く。
 湖の貴婦人モリガン、アーサー王の姉。その歪んだ愛情と姦計は、常にアーサー王を苦しめ、ついにはその王国を崩壊に導いた。たしかに、延々と顔を合わせているのはキツイかも知れない。
「いや、でもそれは此処での再会の理由には……」
「シロウは私と一緒にいることが不満ですか?」
 怯えた子犬のような表情で、見上げてくる。
 思わず慌てる士郎。
「そ、そんな事あるわけ無いじゃないか!」
「ふふ、ごめんなさい。 私は死ぬ寸前に願ったのです。貴方達と居た時の夢を見たいと……そして、ふと気がついたらここに……」
 死ぬ寸前の願いを聞き入れ、座は時を共にした家を再現したのだと。
「じゃあ、1500年も」
「ここには時の概念はありませんが……長かった」
「セイバー……」
「浅ましい女の願いと笑ってください。でも……貴方に此処で一目会いたかった」
 そう言って、セイバーは自嘲めいた笑いを浮かべた。
 おそらく怒られる、見捨てられると考えたのかもしれない。
 しかし、最後に一目でも会いたかったのは士郎とて同じだった。だから……、
「セイバー、君はその使命を果したんだね」
「はい」
「だったら、俺がとやかく言うことじゃない……。おかえり、セイバー」
 万感の思いを込めて、セイバーに微笑む。
 だから、セイバーも万感の思いを込める。
「ただいま、シロウ」
 そう言って、お互い見つめつづける。

 どれくらい時間がたったか、一瞬か永久か。先に口を開いたのはセイバーだった。
「シロウ……、ずいぶんと背が伸びましたね。まるでアーチャーのようだ」
 その台詞に、士郎も苦笑を浮かべる。口調がいつの間にか若きころ、この家で過していた時のものに戻っている。
「気にしているんだから言わないでくれ、生前も散々遠坂やイリヤに言われたんだから」
 そう言えば、アーチャーと士郎は仲が悪かったと思い出す。凛やイリヤもビックリした事でしょうと、セイバーも笑う。
「シロウ、それなら姿を変えてはどうか?」
「姿を変える? そんな高等な魔術は使えないぞ」
「魔術ではありません。私たちの身は既に霊体、自らが在りし日の姿を念じれば無理が無い限りは戻れるはず」
 敵として合間見えたライダーも、神話に語られる最後の姿ではありませんでしたし。
「できるのかな?」
 そう言うと、士郎はかつての自分の姿を想像する。もとよりその魔術の性質上、想像するのは得意中の得意だ。
 かつて、セイバーと魔術師達の愚かな戦争を駆け抜けた二週間。まだ学生だった、何も知らなかった腹立たしいほど純粋だった自分。あの森の廃屋で、屋敷の一室で少女と愛し合った記憶。あの黄金の別離。
 まだ髪の色が赤かった自分、まだ肌が黒ずむ前の自分、背が低い事にコンプレックスを抱いていた自分。
 目を瞑り想像する。
 そして……。

「シロウ!」
 セイバーの声に慌てて目を開ける。何かおかしい、そう、視線が……。
 そう考えていると、セイバーが抱きついてくる。
「ああ、あの頃のシロウだ……」
 ああ、そうだったと思い出す。あの頃はセイバーとの距離はこんな感じだった。
「先ほどまではまるでアーチャーと話しているような違和感が少しあったのですが……、シロウだ」
「それは、ひどいなぁ」
 そう言って、士郎は苦笑する。
 視界まで戻ると、本当にあの頃に戻ったような気がする。
「シロウ……、後悔はしていませんか」
 セイバーが潤んだ瞳で見つめる。瞳に浮ぶのは無茶ばかりをくり返しただろう愛しい人への心配。
 だから、士郎は素直に答えるしかなかった。
「大丈夫だよ、セイバー。色々あったけど、俺は後悔していない」
 そう、彼には決して裏切れぬものがいくつもあった。
大切な物を斬り捨てる愚かな行いもした、何度も傷つき倒れた。でも、決して捨てられぬ大切なモノが彼には確かにあったから、彼はその全てを受け止め、駆け抜けた。
 そして、今彼のもとには何より大切な人が目の前に存在する。何を後悔する事があるだろうか。
 力強く断言する士郎に、セイバーは安堵と諦めのこもった溜息をつくと、そっと目を瞑る。何かをせがむように。
 士郎も、それに答えようと二人の唇が近づき……。

 ちゅどーん♪

 突然爆発がおきた。
 慌てて離れる士郎とセイバー。真っ赤になってあたふたしたり、無意味にお辞儀をしたり。中々見ていて微笑ましい初々しさだ。
 もっとも、二人は次の瞬間には表情を引き締め、戦う者の表情に変っている。
「セイバー、いったい!?」
「わかりません……、座に攻撃など聞いた事も無い。そもそもこの座に侵入者など考えられない!」
「離れか!」
 すぐさま駆け出す二人。外見はあの頃に戻ったようでも、二人の関係は守る者と守られる者ではなく、肩を並べて戦う恋人だった。いや、互いを守ろうと考えていたあの頃は、互いに未熟だったのだ。


 そうしてたどり着いた離れには……。

 あかいあくまが降臨していた。
 どこぞの弓兵のごとく、ぶっ壊れた家具の玉座にふんぞり返っている。

「あ、セイバー。何か食べたい物は無いか。今日は何でも作るぞ」
「シロウのご飯は久しぶりです。できれば温かいものを希望します」

──ちょっと、そこの二人。

「そっか、冷蔵庫には何があるのかな?」
「あ、すいません.あの中は空なのです。さすがに食料は再現できなくて」

──士郎、それにセイバー!

「そっか、じゃあどこかに買いに行かなきゃ……、って、できるのか?」
「あ、それならば他の座には擬似的な町もあります。ランサー……クーフーリンが魚屋でアルバイトをしていますよ」
「そんな事をしているのか、あいつ」

「あんたら二人ー! 人を無視してるんじゃないわよ!」

 いきなり現れた存在を幻だと思い、ありえない存在だからほっとけば消えるかなーと二人は考えたが、どうやら消えなかったようだ。
 生前の記憶と全く同じ様に怒鳴る遠坂凛。見た目の年齢はどう見ても20代後半、30手前……、否、ギロリと睨まれて考える事を停止する。
 いくら英霊となったこの身とはいえ、さすがに命に関わる。
 アレはそういう目だ。
「り、リン。どうして貴方が此処に」
 ちょっと不機嫌そうにセイバーが言う。いいところを邪魔されたのだから、無理も無い。
「なによ、20年ぶりに再会した友人に酷いじゃない」
「20年ぶりということは、遠坂はさんじゅ……うわぁくぁwせdrtfgyふじこlp!」
 とりあえず余計な事を言おうとした朴念仁にガントを一発叩き込むと、かつての戦友であり永遠の恋敵だった少女に微笑みかける。
「いや、良いとか悪いとか言う以前に、此処は英霊の座ですよ……、人が入り込める場所ではありません」
「そうよ、人では入り込めない。此処に入り込めるのは……」
 二人の脳裏に、考えたくない可能性が思い浮かぶ。
「まさか……、遠坂、お前英霊に?」

「そうよ」

 たいしたことも無いように言い放つ。

「な、な、な、な、なにやってるんだー! この戯けがー!」

 思わずアーチャーモードになって叫ぶ士郎。もっとも、見た目は高校生士郎だが。
「五月蝿いわね! わたしが英霊になろうと真祖になろうと、魔法少女カレイドルビーになろうとかまわないでしょう」
「真祖は無理だろうが! それに、魔法少女は歳を考え……うわぁくぁwせdrtfgyふじこlp!」
「歳の話はするんじゃないわよ! というか、何であんたらそんなに若いの!」
 女性に歳の話は厳禁だと、中々学習しない士郎であった。
「歳の事はさておき、凛! 何で英霊になんてなったのですか!? そう簡単になれるものではないでしょう!」
 なろうとしてなれるものではないのは事実だ。なったところで良い事など何一つ無いが。
「べ、別に何もしていないわよ。ちょっと大師父の真似事で月落としを受け止めたぐらいで……」
 何か露骨に焦る。そりゃそうだ、人の思いも知らず勝手にいなくなったあの馬鹿(士郎)を追いかけて行ったら、うっかりといつの間にか英霊になっていたなんて口が裂けてもいえない。自分の最後の望みが『あの馬鹿(士郎)と会いたい』とは言えない。言えるなら、そもそも英霊になんぞなってない。そういう意味ではこの場にいる三人は似た者同士なのだ。
 そんな遠坂の微妙な様子にピーンとくるものがあったのだろう、セイバーの表情が少し厳しくなる。
 こっちはこっちで、恋する乙女なのだ。
「なるほど、貴方が英霊になった経緯はよくは理解できませんが、此処にいる以上は本当なのでしょう。
 しかし、何故此処に……私とシロウの家に現れたのですか?」
 セイバー、真名はアーサー王。所有スキルは直感A。普段の凛ならばあしらえただろうが、突発的な事態に対処できないのは若かりし頃とあまりかわって……うわぁくぁwせdrtfgyふじこlp!
「だから、歳のことは言うなー!」
「士郎、しっかりしてください」
 3度目のガントを喰らって沈む士郎、紫の髪の長身の女性が慌てて介抱する。
「リン! 貴女、シロウによからぬ事を!?」
「し、知らないわよ。ふと気がついたら爆発して此処にいただけで」
「此処は私とシロウの為の座ですよ! 招かざる者が無断で入れるはずが無い」
「だから知らないって! 最後にちょっとあいつの顔見たいかなーって!」
「ああ、士郎。こんなになって。部屋に布団が用意してありますからそこで介抱を。ついでに朝まで……」
「リン、まさか!」
 セイバーの表情が厳しくなる。
「う、五月蝿いわね! そうよ、私は勝手に居なくなったあの馬鹿を一発殴りに来たのよ」
「素直じゃありませんね、リン!」
「あ、でも野外でプレイというのも良いですね」
「こらー、ドサクサにまぎれてズボン脱がすな!」
「う……。 大体『私とシロウの座』って何よ! こいつらみたいにいやらしい事するつもりだったんでしょう!」
「何を小娘みたいな事を! シロウが望むなら私だってあんな事やこんな事を!」
「さぁ、ヌギヌギしましょう」
「服に手をかけるなー!」
 ふと、セイバーと凛の会話が止まる。
 さび付いたブリキ人形のごとく、ギギギギと首を動かす二人。
 そこには、鎖でぐるぐる巻きにされながらも必死に抵抗する士郎と、子供が見たら絶対にトラウマを残すだろう笑顔で服を剥こうとする紫の髪の女性が居た。

「「ライダー!!」」

 二人の叫びがハモる。
 一方名指しされたライダーことメデューサは、ヤレヤレと言った表情で言い放つ。
「二人とも、なぜ私と士郎の『ラブラブで爛れた午後の昼下がりの若奥さんハァハァな座』に入り込んでいるんですか? さっさとお邪魔虫は帰ってください」

「「なんですか、それは!」」

 あかいあくまとハラペコ騎士王が叫ぶ。
「人の座を勝手に妖しげなピンク空間にしないで下さい!」
「というか、なんでアンタが此処に居るのよ!」
「何故と言われましても、私と士郎は永遠を誓い合った恋人。彼が座に加わるなら私が隣りにくるのは道理」
「何言ってるんですか! あなたはポセイドンのヒゲオヤジと同衾していれば良いんです!」
「もう過去の話です。女の過去にこだわる男は嫌いです」
「誰が男ですか!」
「男として子供まで作ったのは、セイバー、貴女でしょう」
「あ、あ、あ、あれはマーリンが勝手に!」
「っていうか、アンタそもそも士郎と接点が無いでしょう! このSSはFateルート前提よ! HFルートやhollowルートならまだしも!」
「メタな発言は世界の修正を喰らいますよ、凛」
「いや、メタ発言はさておき、貴女はシロウとの接点は無いのは事実だ! 聖杯戦争では私の攻撃を受けて一番最初に消滅したはず!」

「消滅していませんよ」

「「はぁ?」」
 いきなりな証言に、セイバーと凛は言葉を失う。
 一方ライダーは、過去を思い出すように遠くを見つめ語る。
「あの時……、そうあの冬木の聖杯戦争で私はたしかにセイバーの宝具合戦になり……、変なワカメがマスターだったために押し負けました」
「そうだ、その時消滅したはず」
「いえ、私が消滅するよりも、ワカメの持っていた偽臣の書が先に燃え尽き……私の支配権は本来のマスターの手に戻りました」
「本来のマスターって誰よ」
 凛が聞いてくるが、ライダーは聞いちゃいなかった。
「本来のマスターの十分すぎるほどの魔力は私を瞬時に活性化させましたが……、セイバーの宝具からは最速のライダーとはいえ逃げるだけで精一杯でした。また、魂の一部にもダメージを受け聖杯にもっていかれ、聖杯戦争が終了するまでまったく動けませんでした」
 もぞもぞと逃げ出そうとする士郎を、凛は振り向きもせずに無表情で捕まえる。
 ついでに、セイバーもいつの間にか完全武装だ。
「聖杯戦争が終結した後も、マスターの好意で現界を続け……やがて事件は起こるのです」
「事件って?」
「はい、こちらを」
 そう言うと、ライダーは何処からとも無く自転車を取り出す。荷台には四角いボード状の箱が設置されている。
 俗に言う、紙芝居用の設備だ。
「あ、水あめを買ってください」
「お金取るのかよ!」
「気分の問題です」
「シロウ、水あめにはとても興味があります」
「私はエビ煎餅が好きなんだけど、ある?」
「はい、30円です」
 セイバーと凛の手に駄菓子が行き渡ると、ライダーはおもむろに紙芝居をめくり始める。
 お手製なのだろう。当社比五割増に美形に書かれた士郎とライダー、見覚えが有るような無いようなおどろおどろしいタッチで書かれた髪の長い女性と不気味な年寄り。みょうちくりんなネコ(らしき物体)がネコ缶を持っていたり、メガネをかけた女性がカレーを食べていたりもする。
 思いっきり作り手の主観が入り込んでいる。
「な、なかなか絵が上手いのね」
「ありがとうございます。さて、聖杯戦争後も現界していた私でしたが、本来のマスター──長いので仮にSとしておきましょう」
「S?」
 そのイニシャルの女性は、一人思いつく。
「サディストという意味です。
 ──さて、私はSのもと、時々誰にも気がつかれないようにこっそりと士郎の後をつけ、たまに淫夢を見せたり、吸血したりしながら新たな危機に備えたのです」
 なにやら、18禁スレスレの絵が出てくる。
「何やってるのよ、あんた」
「趣味です。まぁ、シュチエーション的には私だけではなく、セイバーや凛、Sやイリヤやメイドコンビにタイガやバーサーカーやら一成やら三人娘もありましたから、気にしないでください」
「なにか、混ざってはいけないモノが混ざった気がしますが」

「気にしてはいけません。
 ──1年ぐらいは冬木の町には騒がしくも平凡な時間が過ぎていきましたが……1年後、士郎と凛が冬木の町から旅立っていったのです。残されたSと私は悲しみに暮れたのです」

「一緒に旅立ったのですか、シロウ?」
「アレは旅立ったとは言わないと思うぞ……、簀巻きにされて手荷物として拉致されて行っただけで。パスポートも取り上げられるし」
「そうよねー、あの後シロウを取り戻すのが大変だったんだから。リンったら、ロンドンでも無茶苦茶するし」
「し、失礼ね!」

「そこ、話は続きますよ。
 ──Sと私は冬木の地で、異郷に過す士郎の身を案じ続けます。しかし、ある日風の便りで士郎が行方不明になったと知るのです!」

 なにやら、白い従者を連れた青年が、輝く剣で赤い悪魔を打ち倒すイラストが出てくる。片隅には『注・イメージです』と書かれている。
「な、なによ! そのイラストは!」
「あら、リンにはあのイラストの悪魔が自分だって考えているんだ」
「他になんだって言うのよ!」
「わたしとシロウの冒険の一幕にきまってるじゃない」
 遠坂凛、『スキル:うっかり』をもつ女。

「続きます。
 ──この時、静かにですが歯車が狂いだします。悲しみに暮れるSに、悪しき魔術師ゾウケンが黒い心を吹き込むのです」

「そんな事しなくても元から真っ黒じゃないの? サクラは」
「桜じゃなくて、Sです、S」
「匿名にする意味あるのか?」

「さて、邪心に囚われた桜……、もといSは周囲から魔力を奪う存在へと変りつつあった。しかし、彼女に残された最後の良心が私の説得に応じ、人の命を奪うにまでは至らなかったのです」

「ライダーってなんか説得したっけ?」
「していないわよ。サクラに死なない程度に搾り取る手法は教えたみたいだけど、エコロジーが流行りだから再利用しなきゃって」

「ギリギリのラインで保っていたSですが、やがて破滅の時が訪れます。
 ──異郷の地より、士郎が帰還したのです。彼に悪しきモノへと変貌しつつある自分を見せたくない。そんなSの思いをゾウケンは利用するのです。
 彼女の精神をギリギリで保たせている最後の要因、士郎を殺そうと刺客を送ります」

「シロウ、そんなことが……。すいません、貴方の剣になると誓いながらそんな時に側に居れなくて」
「いや、セイバーとの思い出が挫けそうになる俺を助けてくれたんだ」
「シロウ……」
「ぶー、シロウ。私はー」
「ああ、ごめんごめん。イリヤにも何度も助けられたな」

「襲い来る恐るべき刺客、過去のサーヴァント、死徒、平行世界の剣の英霊、あるいは遠坂の追っ手」

「遠坂が一番大変だったな……、山が3つくらい消えたっけ」
「そうね、リンったら本当にレディの謹みが無いんだから」
「あんたが逃げるのがいけないんでしょうがー!」
「な、何をやらかしたんですか!?」

「しかし、そんな士郎にも頼もしい味方が……、
 常に側にいたという白い従者。
 直死の魔眼を持つ青年。カレー好きの代行者、あるいは真祖の姫君、黒のお姫様、青の魔法使い、宝石翁、平行世界の剣の英雄。
 ──そして、紫の髪をもつ美しき英霊」

「なんか、自分だけ異様に良く描いていない?」
 イラストを見て、思わずツッコミを入れる。確かにライダーと思われる人物だけ異様に綺麗に描かれていた。
「ちょっと、何よそのすさまじい名前のオンパレードは!」
「いやー、大変な騒ぎだったから」
「あの、平行世界の剣の英霊とは?」
「ああ、遠坂のサーヴァントになったセイバーというのが助けてくれたんだ。敵にも桜のサーヴァントになった黒セイバーが出てきたし」

「まぁ、戦いは長いのではしょります。それだけで一本長編が書けそうですし」

「「「「はしょるのかよ!!」」」」
 思わず叫ぶ、聴衆達。

「まぁ、そのうちに。ではクライマックスへ……。
 様々な障害を乗り越え戦い抜き、後はSを助けるだけとなります。しかし、私はSとのラインを絶たれ、激しい戦いの連続に魔力が枯渇状態。そこで私は士郎と白い従者と一夜を共にし魔力を回復させるのです」

「あの晩のシロウは激しかったな」
 ポッと顔を赤らめるしろいこあくま。あかいあくまが燃え上がり、騎士王の目が金色に輝く。
「シロウ……貴方を殺して私も死ぬ!」
「この、死ね! ペド野郎!」
「わーエクスガリバーは死ぬ死ぬ! ガントを撃つなー!」

「過去の女の悲しい嫉妬はほっておいて、先に進めましょう。
 黒い桜……ではなく、Sとの戦いは熾烈を極めます。激しい攻防、ゾウケンの最後の罠。しかし、錬鉄の魔術使いはその鋼の意思を持って勝利を収めSを救い出します。
 しかし、その代償は大きかった。紫の髪の英霊は力を使い果たし消滅します。
 夜と朝の交差する紫の刻……、英霊は許されぬ事と思いつつも思いを打ち明けるのです
『士郎、貴方を愛している』
 そして英霊は世界から消えていくのです、座の本体に影響を与えながら……。」

「ちょっと待ちなさい! それは私の台詞です!」
 セイバーがいきり立つ。そりゃそうだろう、最後の瞬間にすべての思いを込めて愛する人に言った台詞だ。
「そうでしたか。ちなみに私のときは士郎は『うん、俺もだ』と」
「シロウ! そ、そんな……」
「嘘を言うな! 嘘を! 『ごめん、俺の心は……』だろう!」
「そうそう、『俺の心は……イリヤたん萌え〜なんだ』だったわね」
「やっぱり、士郎。あんたロリペド野郎だったのね!」
「シロウ、そうですよね……、私みたいな筋肉質で幼児体型の女より……」
「だから嘘を教えるなっ! イリヤ!」

 一瞬、士郎の頭の中身が真っ白になる。

「何でイリヤが此処にいるのさ!」

 思わず絶叫。
「そうですよ、イリヤ。いつの間にか登場など二番煎じは良くありません」
「そういう問題ではないでしょう! イリヤスフィール、何で貴女まで英霊の座に!?」
「イリヤよ。
 わからない? 私はセイバーがいなくなった後ずっとシロウと行動を共にしたのよ。英霊になる資格は十分にあるし……」
 そう言うと、イリヤはシロウをじっと見つめる。
「私はシロウをずっと見守るって決めたし、シロウが英霊の座に行くなら当然私も行くわ」
 大した事ではないとばかりに言い放つ。
「イリヤ……、貴女はそれでいいのか?」
「あの冬の城に比べれば、シロウの側なら何処でも天国よ。それに、出来の悪い弟をアーチャーにしたくは無いから私は此処にいるんだし。それはリンもでしょう」
「ま、まぁね」
 それは、聖杯であった少女と主だった魔術師のみが気がついた英霊エミヤの真の望み。
 彼が英雄となることが止められないのなら、せめて悲しき思いをしないように支えたい。姉弟の、男女の深い愛。
 しかし、そんな空気を読めない……もとい、読んではいるがあえて無視をしている英霊が此処に一人。
「というわけで、士郎は私がもらっていくので、お三方はカツオの臍でもかじっていてください」
「ライダーだったのかー! あの布団敷いたの!」
 そう言うと、士郎の部屋にと走ろうとする。
 かつては最速のライダーのクラスを割り振られた英雄。その怪力もあって三人が反応するより早く士郎を連れ去ろうとして・……。

 影に飲まれそうになる。

「ああ、溺れる溺れる!」
「ちょ、ちょっと! こ、これは!」
 突如庭に現れた影の泉がライダーを飲み込もうとする。必死に抵抗するが、影の触手が捕らえて離さない。
 そして、影の泉から一人の女性が現れる。長い銀の髪、黒き衣装。それは旧知の女性。
「桜、これは流石にまずい! 私には触手プレイの趣味は無いのです!」
「先輩とライダーがそんな関係になってたなんて……、私には指一つ触れなかったくせに……、お仕置きです」
「桜、だからまずい、痛い、痛いです!」
「桜!?」
 凛が驚愕の叫びを上げる。なんか、ちょっぴり拙くないかと思う。
 もっとも、驚愕の叫びを上げたのは凛だけで、他の三人は『またか』と言った表情をしていた。
「桜も英霊になったのですか?」
 とりあえずといった感じでセイバーが尋ねる。
「クスクス、はい。私は正規の英霊ではなくて反英霊ですけど……。でも良いんです、また先輩にこうして出会えるのですから」
 なんでも、錬鉄の魔術使いの敵役として世界に登録されてしまったらしい。
 なんか、すごくテンパっている。すごく怖い、怖すぎる。
「ふふふ、でも姉さんは先輩との間に子供まで作るし、イリヤちゃんにまで手を出してるし……、私はお尻を見たりするだけで指一本触れなかったのに」
「こ、子供!? シロウ、本当なんですか?」
「え、あ、え、知らないぞ!? そりゃ行為はあったけど、子供は出来なかったはず」
 シロウ、自爆。
「ああ、もうシロウは死んじゃってたんだっけ。魔術で保存していたシロウの精子で人口受精して生んだのよ、リンは」
「行為は責めません。私が居なくなった後ならそういうことも有るでしょう。しかし子供まで作って……」
「まて、それはどういうことだ!」
「クスクス、先輩も姉さんもお仕置きですよ」
「う、うるさーい! あの子のことが最後の心残りではあるけど……、なんで桜が知っているの!」

 なんか、ものすごいカオスだった。
 6人のいい合いがドンドンと訳がわからない方向に進んでいった、その時だった。

 ドタドタドタ!

「しっろ〜う。今日のご飯はなにかなー? お姉ちゃんはお腹がグウグウだぞ〜♪」
 虎が現れた。
 どうする?

  たたかう
  ぼうぎょ
 >にげる
  どうぐ

 しかし、シロウは逃げられなかった。

「って、なんで藤ねえまで英霊になってるのさー!」
 何度目かわからない絶叫を上げる。
 そんな士郎に対し、なにやら塗りが甘い胴着姿の藤ねえが言い放つ。
「ふっ、愚問ね。20XX年、冬木の町を襲ったワカメ星人に対し愛刀・虎竹刀を持って果敢に立ち向かい、マーボ大帝の野望を阻止した冬木の虎、英霊タイガの物語は型月より近日発売予定!」
 そんな予定はありません。
 藤ねえの登場で、さらに周囲にカオスが広がっていく。
 周囲で女性達が何やら言い争っているが、聞こえない、聞きたくない。
 涙が流れ落ちるのは何故だろう。
 そもそも、此処は本当に英霊の座なのだろうか。実はタイガー道場なのではないだろうか。
 そう言えば一度死んでいるし、イリヤはぶるまぁだし。
 ああ、できる事なら過去に戻りたい。人生をやり直したいとは全く思わないし、自分の歩んできた道そのものは間違っているとは思わない。しかし、過去の自分に会ってこう言ってやりたい。

『女性関連だけは、ちゃんとケジメをつけろ』

 英霊エミヤは、心底そう願った。その時だった。

「え?」

 突然の浮遊感。足元の喪失。身体に泥が纏わりつく感覚。強引に生み出される痛みと苦しみ。
 よく見ると、それまでの地面が突然消え、夜の町を落下していく。
 なにか、自分のものではない知識が刷り込まれていく。サーヴァント、聖杯、マスター、令呪……、霊体化のやり方、現代の情報……etc。ほとんどの知識は既に持ち合わせていた知識だったような気がするが、あらためて刷り込まれる感覚は新鮮だった。
 ああ、これが召喚なのかと、英霊■■■は理解をする……。
 やがて、英霊は一軒の屋敷の屋根を打ち破り、家具を破壊する。瞬間的に受身が取れたのは、生前の鍛練の賜物だろう。
 この身がサーヴァントでなければ怪我どころの騒ぎではなかった。突然深夜にノーロープバンジーとは酷い話しだ。
 瓦礫の山に腰をかけながら、こんな乱暴な召喚を行ったのはどこの誰だと呆れかえる。きっと、うっかり者で貧乏性の魔術師に決まっている。根拠は無いがそう思った。

 ドタバタドタバタ

 廊下を何者かが駆けて来る。
 その軽い足音から、子供か女性だと判断した。いや、召喚できるほどの技量をもった魔術師が相手ならば、子供ではないはず、女性だろう。
 やがて、扉をガタゴトと揺らすが、周囲の瓦礫がバリケード隣り、また扉の枠が歪んでいるので開かないようだ。
 自分の力なら簡単に開けられるだろうが、中々面白い見世物なので様子見をする。
 やがて……、

「ああもう、邪魔だこのおっ!」

 どかーんと扉や周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。
 中々の威力だと感心する。扉の置くから一人の少女が現れる。
 長い黒髪をツインテールにまとめ、赤い衣装を身に纏う美しい少女。あの年齢の少女とは思えない強い魔力を感じる。あの召喚の影響か、何処かであった様な気億はあるが、いまいち思い出せない。
 只、これだけは気がついた。
 運命が始まったという事を。


 で、一方こちらは英霊の座。
 6人の英霊が庭に突然開いた穴を見下ろしている。
「逃げたわね」
 違うと否定する人は、この場にはいない。
 凛の声に他の5人も頷く。
「追うわよ」
 英霊が次々に召喚の穴に飛び込んでいく。
 運命が始まった……のかもしれない。


続……かない。

もどる もくじ すすむ>