とある英霊を呼び出す者

 

 

 突然の浮遊感。足元の喪失。身体に泥が纏わりつく感覚。強引に生み出される痛みと苦しみ。

 よく見ると、夜の町を落下していく。

 なにか、自分のものではない知識が刷り込まれていく。サーヴァント、聖杯、マスター、令呪……、霊体化のやり方、現代の情報……etc。ほとんどの知識は既に持ち合わせていた情報だったような気がするが、あらためて刷り込まれる感覚は新鮮だった。

 ああ、これが召喚なのかと、英霊■■■は理解をする……。

 やがて、英霊は一軒の屋敷の屋根を打ち破り、家具を破壊する。瞬間的に受身が取れたのは、生前の鍛練の賜物だろう。

 この身がサーヴァントでなければ怪我どころの騒ぎではなかった。突然深夜にノーロープバンジーとは酷い話しだ。

 瓦礫の山に腰をかけながら、こんな乱暴な召喚を行ったのはどこの誰だと呆れかえる。きっと、うっかり者で貧乏性の魔術師に決まっている。根拠は無いがそう思った。

 

 ドタバタドタバタ

 

 廊下を何者かが駆けて来る。

 その軽い足音から、子供か女性だと判断した。いや、召喚できるほどの技量をもった魔術師が相手ならば、子供ではないはず、女性だろう。

 やがて、扉をガタゴトと揺らすが、周囲の瓦礫がバリケードとなり、また扉の枠が歪んでいるので開かないようだ。

 自分の力なら簡単に開けられるだろうが、中々面白い見世物なので様子見をする。

 やがて……、

 

 「──ああもう、邪魔だこのおっ!」

 

 どかっーんと扉や周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。

 中々の威力だと感心する。扉の奥から一人の少女が現れる。

 長い黒髪をツインテールにまとめ、赤い衣装を身に纏う美しい少女。あの年齢の少女とは思えない強い魔力を感じる。あの召喚の影響か、何処かであった記憶はあるが、いまいち思い出せない。

 いや、そもそも自分はなんと言う名前なのだ?

 自分が何者で、何を為すべきなのかは分る。しかし、自分の個人情報となると検閲がかかっているように思い出すことが出来ない。

 もっとも、だからと言って慌てるわけでもない。そもそも、この状況で慌てれば目の前の少女が不安になるだろう。見れば魔術師としてはかなりの力量とわかるが、まだまだ子供とも言える年齢だ。

 ふむ、一計をもって戦いから遠ざけるべきだろう。

 先ほどの少女は、呆けたようにポカンとこちらを見つづけている。サーヴァントの持つ圧倒的な力に気圧されているのだろう。

 ますます戦いから遠ざけねばならない。足手まといになる程度ならまだいい、最悪彼女が命を落とすのはあまりにも忍びない。

 どれだけ互いを見つめ合っていたのだろう。かろうじて破壊を免れたアンティークの柱時計が時を告げる。ヤレヤレと思いつつも、魔術師の少女に語りかける。

 

「いつまでこうして見つめ合っていればいいのだね」

 

 皮肉をたっぷり込めた魔術師口調。この少女には嫌われるかもしれないが、死なれるよりはずっと良い。

 しかし英霊の予想に反して、少女は呆然と答える。

 

「……なんであんたが此処にいるの?」

「開口一番それか。これはまた、とんでもないマスターに引き当てられたものだ」

 ヤレヤレと肩をすくめる。自分のサーヴァントだと自覚が無いのだろうか。これは貧乏くじを引いたかなと、英霊は聞こえないように呟く。

 何時までも瓦礫の椅子に座っているのも間が抜けているので立ち上がる。赤い外套についた埃を軽くはたくと、少女の目の前に立った。

 ふむ、ずいぶんと大柄な少女……いや、自分の視界が低いのか?

 

「わたしは■■君なんて呼んでいないわよ! サーヴァントを呼び出したはずなのに!」

「どういう意味だ? やれやれ、サーヴァントの見分けがつかないのかね。良くそれで召還できたものだ」

「なっ、何ですってー!」

「私がサーヴァントかどうかすら、わからないのかね。まったく未熟なマスターもあったものだ」

「ま、まぁとりあえず良いわ。良くないけど……ああぁ!

 とりあえず確認するけど、貴方はわたしのサーヴァントで間違いない?」

「それはこちらが訊きたいな。君こそ私のマスターなのか。ここまで乱暴な召喚は初めてでね。正直状況が掴めない」

「状況がつかめないのはこっちも同じよ!

 というか、サーヴァントは英雄の霊がなる物だと思うけど、あんた本当に英霊?」

「あの召喚失敗だ、自分のサーヴァントかどうかを聞いてくるかならまだしも、今度は人が英霊かどうかを尋ねるとは……。

 つくづく傍若無人だな、君は」

「あーもう、口が減らないわね!

 いいから、とりあえず貴方はわたしのサーヴァントかどうかを答えなさい!」

 

 この程度でいらつくとは……、英霊は少々意地悪な気分となった。

 それに、やはりこんな少女を戦いに巻き込みたくは無かった。

 

「確かに、私は君が召喚したサーヴァントだ。だが、君は私のマスターなのかね?」

「あっ、当ったり前じゃない……! それよりも、貴方は本当に英霊なの!?」

「まったく、要領を得ないな、君は。

 英霊で無いというのなら一体なんだというのだね。英霊以外……執事や料理人や学生がサーヴァントにでもなるというのかな?」

「英霊に見えないから聞いているんでしょうがー!」

「君は今までに英霊を見た事があるとでも? 外見で油断をするなどと魔術師とも思えない言いようだな。小柄な少女騎士や、タラシメガネにしか見えない殺人貴などもいるのだぞ。

 ふむ、本当にどうしょうも無いマスターに引き当てられたものだ」

「なによ、馬鹿にするつもり!」

「馬鹿にはしていないさ。ただ、マスターが明らかに自分より劣る者だったので落胆しているだけだ」

「誰が劣るですって!」

「君が、だ。

 なあに、安心したまえ。君に特に害意があるわけではない。ただ、今後君の指示には従わないと言うだけだ。聖杯戦争での戦闘方針は私が決めるし、君はそれに従って行動する。サーヴァントや英霊すら理解できない君が生き残るには、これが最良の手段だ。これで構わないなお嬢さん?」

 英霊の言葉に少女は黙り込む。

 ちょっと言い過ぎたかなと英霊は一瞬後悔し……フォローを入れる。

 ……もとい、火に油を注ぐ。

「いや、もちろん君の立場は尊重するよ。私はマスターを勝利させる為に呼ばれたのだからな。私の勝利は君のものだし、戦いで得た物は全て君にくれてやる。それなら文句はないだろう?」

 

「あっ、あったまきたぁー!」

 

 部屋に、なにやらヒンヤリとした冷気が流れ込む。

 その少女、遠坂凛は怒っていた。

 自分の目の前に居るヤツは、外見は確かに彼に似ている。同じ服を着せれば見分けがつかない。あの赤い夕日に染まる放課後、届かぬものに懸命に手を伸ばしていた尊い彼に瓜二つだ。

 でも外見だけだ。アイツはこんな嫌なやつではない。

 そして、魔術師・遠坂凛を侮る事は例え何者であっても許す事は出来ない。

 それに、彼のあの優しい顔であんな皮肉げな態度を取る事が許せない。どうして許せないのか理屈はよくわからないが、遠くから見ているだけの彼だけど何故か許せない。

 まぁ、素直に自分の感情を理解できないからこそ、遠坂凛なのですが。

 

Vertrag…… Ein neuer Nagel Ein neuer Gesetz neuer Verbrechen――――……」

 

「……ま、まさか!? 正気かマスター! こんなコトで令呪を使う奴があるか!」

 

「そのまさかよ! その顔その声その姿でアンタの態度は許せない! いい、アンタはわたしのサーヴァント! なら、わたしの命令に絶対服従ってもんでしょうー!!」

 

 たった3回のみのサーヴァントに対する絶対命令権、令呪の一つが消費される。魔力の鎖が、あるいは糸が、英霊を包み込む。

 強力な力が行使される。魔力による束縛が英霊に制約を与える。

 やがて、令呪の輝きが消える。呆然とした英霊がその場にいた。

 

「まさか……こんな事に令呪を使うなんて……」

「う、五月蝿いわね! それで、わたしの言う事を聞く気になった?」

「念の為に尋ねるが、君は令呪の重要性を理解しているのかね?」

 そんな凛に英霊は呆れたように答える。

「し、知ってるわよ。サーヴァントを律する三回きりの命令権でしょ。それがなによ」

「はあ。いいかね、令呪はサーヴァントを強制的に行動させるものだ。それは行動を止めるだけでなく、“行動を強化させる”という意味でもある。例えば、私は遠くの場所まで瞬間的には移動する事はできない。だが令呪を使って”行け”と命じた場合、それが私と君の魔力で叶う範囲の事ならば可能となる。強制命令権とはそういう事だ。サーヴァント自身でも制御できない、肉体の限界さえ突破させる大魔術の結晶が三つの令呪なのだ。まあ、今では二つに減ってしまったがな」

「し、知ってるわよそんなコト。いいじゃない、まだ二つあるんだし、貴方に命じた規則は無駄じゃないんだし」

「確かに、これは私の誤算だった。本来、令呪は曖昧な命令には効きが弱くなるはずなのだが・・・・・・、君の意見に異を唱えるとそうだな……ランクが一つばかり落ちるようだ。どうも、君の魔術師としての性能はケタが違ったらしい。」

「え、えっと?」

「前言を撤回しよう、マスター。君はたしかに私のマスターにふさわしい。子供と侮り、戦いから遠ざけようとしたのは私の過ちだった。無礼ともども謝ろう」

 居を正して、礼儀正しく頭を下げる。外見で侮っていたのは自分だったと、英霊は苦笑をする。

「え――ちょっ、止めてよ、たしかに色々言い合ったけど、そんなのケンカ両成敗っていうか……」

「そうか、いや、話の解かるマスターで助かった」

「……なんか、切り返し早いわねアンタ」

「なに、誤算は誤算だったがうれしい誤算というヤツだったからな。これほどの才能があるなら、君を戦いに巻き込むことに異論は無い」

 英霊は、唇をほころばせる。先ほどまでの皮肉気な雰囲気は消え、優しい笑顔がそこにはあった。

「……じゃあ、令呪抜きで、わたしがマスターだって認めるのね?」

「無論だ。先ほどは召喚されたばかりで馴染んでいなかったが、今は完全につながった。魔術師であるのなら、契約による繋がりを感じるだろう」

「契約──そっか。サーヴァントは聖杯に呼ばれるけど、呼ばれるサーヴァントをこの世に留めるのは」

「そう、マスターの力だ。サーヴァントはマスターからの魔力提供によって現界を続ける。魔力供給量は十分だ。まだまだ未熟な部分はあるようだが年が若いからだろう。君の能力は飛びぬけている。──もう一度謝罪しよう、君は一流の魔術師でありマスターだ」

 先ほどとはうって変わった態度だ。ストレートな物言いに、凛の頬が朱に染まる。

 もっとも、英霊はそんな凛の変化には気がつかない。生前から散々朴念仁呼ばわりされていたが、英霊になっても変らないらしい。凛の態度よりも、この少女との確かなつながりを感心していた。これならば、敵が何者であろうと負ける事は無い……、たぶん。

「そ、それで貴方は何のサーヴァントなの。やっぱりアーチャー?」

 話題を変えるように、凛はサーヴァントに話し掛けた。

「ふむ、よく一目で見抜いたな、さすが我がマスター。確かに私はアーチャーだ」

「前に美綴から百発百中の腕だって聞いてたから……。

 でもドジったわ、あれだけ宝石を使ったのにセイバーじゃないなんて、目も当てられない」

 あまりの物言いにサーヴァント──アーチャーはむっとした表情を見せる。

「……む。悪かったな、セイバーでなくて」

「あ? うん。そりゃあ痛恨のミスだから残念だけど、悪いのはわたしなんだから……それに貴方が出てくるなんて」

 赤くなってモジモジする凛。しかし、やっぱりそんなことには気がつかないアーチャーである。

「ああ、どうせアーチャーでは派手さに欠けるだろうよ。

 いいだろう、後で今の暴言を悔やませてやる。その時になって謝っても聞かないからな」

 アーチャーの言葉に、凛は唖然とする。

「え? もしかして怒った、衛宮君?」

「ああ、怒った。必ず自分が幸運だったと思い知らせてやる」

「え、あ、でも、ある意味幸運だったとは思ってるわ」

 何か様子がおかしい。朴念仁のアーチャーでもさすがに気がつく。

「先ほどから様子がおかしいが、マスター。魔力が切れたのならゆっくり休むべきだぞ」

「様子がおかしいのは貴方よ、衛宮君。そりゃ、顔見知り程度だけど……同じ学校に通っている相手にその態度は無いんじゃない? 口調も普段と違うし……」

「いや、学校に通っているとは? それにその名前は、私の名前だというのか?」

 聞き覚えがあるような無いような。

「ちょ、ちょっと、自分が何者かも分らないの?」

「ふむ、その件だが」

 アーチャーは言葉を切ると天上を軽く仰ぐ。少し困ったような表情で頬を指で掻いている。

「君の乱暴な召喚の為か記憶に混乱が見られる」

「はあああああああ!? なによそれ、アンタ私の事バカにしているワケ!?」

「……マスターを侮辱するつもりは無い。言葉の通りに記憶に混乱が見られるだけだ」

 そう言うと、溜息を一つつく。只でさえ少ない幸せが逃げていく気分だ。

「そもそも、通常の肉体なら召喚された瞬間あの世に逆戻りになりかねないような失敗だぞ。自分が何者なのかはわかるが、名前や素性がどうも曖昧だ。もっとも、この程度で済んでいるだけ幸運だと思うがね。まあ、さして重要な欠落ではないから気にする事はない」

「ちょっと、じゃあ、貴方記憶喪失なの?」

「うむ、そう言うことになるな」

 胸を張って答えるアーチャーに、凛は呆れて叫び声を上げる。

 

「じゃあ、明日から学校はどうするのよ!」

 

「ちょ、ちょっとまて。そこでなんで学校が出てくる! 私は英霊だぞ! 英霊が何処の学校に行くというのだ!」

「何言ってるのよ! お化けの学校じゃないんだから、授業も試験もあるのよ!」

「いや、そうでなくてな……、君は英霊というモノを理解してるのか?」

「英霊だって学生は学生でしょう。大体、保護者の藤村先生や桜が心配するでしょう」

「いや、そうでなくてな……、話しがかみ合ってない気がするのだが!?」

 困惑するアーチャーに、凛は無言で壁の一角を指差す。

 そこには破壊をかろうじて免れた大きな鏡があり……。

 

「なっ!」

 

 そこに移っていた自らの姿に、アーチャーは困惑する。

 赤い外套に黒い革鎧。これはいい。英霊としての自らを象徴する衣装だ。

 問題は、その姿だ。身長は男性としてはかなり小柄、髪は赤銅色。肌は黄色人種特有の黄色、強い意思を秘めてはいるがやさしげな眼。まだ若い。少年と言っていい年頃。

「記憶喪失なら教えて上げるけど、貴方の名前は衛宮士郎。わたしと同じ穂群原学園に通う2年生よ!」

「いや、ちょっとまて。それはおかしいと気がつかないか。英霊というのは本体を英霊の座という所にあり、何かが起こると分身がこの世に現界するものだ。それが現世の学校に通っているわけは無いだろう」

「そんなこと言うのなら、ほら!」

 そう言うと凛は、自らの財布から一枚の写真を取り出す。

 そこには、鏡に映った自らの姿と同じ容姿の人物が、学園の制服を着込んでいる。カメラを向いていないところを見ると隠し撮りしたのだろう。

「なんで、写真が財布に?」

「い、いいじゃないの! とにかくこれは貴方でしょう!」

「た、たしかにこれは私と同じ姿をしているが……」

「本当に頭でも打ったの……、ちょっと見せてみなさい」

 そう言うと、凛はアーチャーに顔を近づける。体温すら感じられそうな距離に、アーチャーの顔が真っ赤になる。

 マズイ、アーチャーの鍛え上げられた心眼(真)が危機を知らせる。

 案の定、あかいあくまはニンマリと笑う。人の弱みを見つける事に関しては天才的なのだ。

「ふーん、衛宮君ったらこれぐらいで真っ赤になるんだ」

 自分だって心臓が破裂するぐらいドキドキしている事は、とりあえず棚上げだ。

「マ、マスター。歳若い女性が恋人でもない男性にあまり接近しすぎるのはどうかと思うぞ!」

「そんな風に考えているんだ。別にとって食うわけじゃないんだから、少し見せなさい」

 そう言って、アーチャーの眼を覗き込もうとして……。

 

 スキル・うっかり、Aランク発動。

 

 足元の瓦礫につまずいてバランスを失う。

 バランスを失った先には、当然アーチャーの顔があり……背が低いアーチャーの唇の位置が凛の唇の位置とちょうど良い所にあったりするものだから。

 このまま行くとくっつくかなー。いえーい、ラッキー。そうじゃなくて、どうする遠坂凛。このまま熱い接吻を、ああー、でも■に対する裏切りに……。あっ、衛宮君の顔も真っ赤だ。

 此処までの思考がおよそ0.28秒。

 

 しかし、そうは問屋が卸さないのが世界の法則だった。

 

 ガシッ!

 

 突然何者かが転びかけていた凛の身体を受け止める。アーチャーでは……無論無い。

 そこに居なかったはずの第三者が、凛の身体を受け止める。

 視線を隠す馬鹿でっかいサングラスに、女性が見ても見ほれるほどの抜群のスタイルを黒いスーツで包む、長身の紫の髪の女性だった。

 

「危ないところでしたね。ここでチューは早すぎます」

 

「って、アンタは誰よー!」

「聞かれて名乗るもおこがましいが、ター○ネーターのサーヴァントです」

「そんな者いるかー!」

 突然の乱入者に、凛は叫び声を上げる。

「我侭ですね。では通りすがりのグレイという事にしておきましょう」

「米軍呼ぶわよ!」

「解剖されるのはさすがに嫌です。できれば愛する人の前ですべてを曝け出したい」

「なにげに、すごいこと言うわね」

「ありがとうございます。 さて、それでは貴女のサーヴァントを頂きに参りました」

「まさか、敵のマスター!」

「いえ、聖杯戦争はどうでもいいのですが、永遠を誓い合った恋人を取り戻しに」

「嘘を言うなっ!」

 思わず、アーチャーは絶叫する。

「記憶は無いが、それは嘘だと断言できるぞ!」

「嫌も嫌も好きのうちという心境ですか」

「いや、違うでしょう」

「というか、なんで脈絡もなく現れるんだー!」

「知らないのですか。私の特技はストーカーですよ」

「威張って言う事か」

 呆れてツッコミを入れる。

「記憶が無い貴方なら、この場で他のメンバーが居ない間にさらっていって、背徳的でずぶずぶの生活をエンジョイしましょう」

「いや、遠慮しておく」

「ふふふっ、愛は力ずくで奪えという事ですか! ならば!」

 そう言うと、紫の髪の女性はサングラスを取り外そうとして……。

 

 ちゅどーん!

 

 彼らの間に爆発が起こる。

 否、爆発ではなく石を削りだした巨大な斧剣が彼らの間に落ちてきたのだ。

 

「そこまでよ!」

「む、何奴です!」

 天井に空いた穴の向うから、二十歳前後の女性が月を背後に仁王立ちしていた。銀の髪は腰まで伸び、赤い瞳はどこか悪戯めいた輝きを帯びる。女神のごとく均整の取れた肢体を、真っ白なドレスで包む。おそらく彼女が斧剣を投げ入れたのだろう。

 彼女を見て、凛の表情が険しいものになる。

 彼女の纏う強力な魔力に反応した……訳ではない。凛が何より殺気を向けたのは、その胸だった。

 そりゃ、もうばいーんと大きいくせに垂れているわけではなく、見事に重力に逆らって存在を主張している。凛にとっては、正しくアレは敵だ。

「大丈夫ですか、アレは……私たちの敵です」

 先ほど乱入してきた自称グレイが鎖の付いた釘の親玉を取り出し、サングラス越しに白い女性を睨みつける。

 彼女の胸もやっぱり大きく、『重力? なにそれ?』と言った感じだ。

 

 凛からしてみれば、二人とも敵だ。決して交わる事の無い怨敵だ。

 

「アーチャー。貴方の力を見せてもらうわよ! あいつらを追い出して!」

「え、あ、いや、此処は穏便に話し合いを」

 いきなりへたれるアーチャー。

「うるさいわね! あんな大きな胸は存在していちゃいけないのよ!」

 そんな理由で戦いたくないなーと、一瞬考えるアーチャー。

 しかし、女性陣はそうでもなかったらしい。

 

「ああ、リンは最後まで成長しなかったからねー」

 銀色の女性が勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「大丈夫ですよ、凛。そっちの方が好きだというマニアも世界にはいます」

 紫の髪の女性が、慰めているのか貶しているのかわからない言葉を口にする。

 

「ふっふっふっふっふ……」

 

 ぷちん♪

 

 アーチャーの耳に、確かな破滅の音が聞こえる。

 

「あんたら好き勝手言ってるんじゃないわよー!」

 凛のすべての指から、物理的な打撃力さえ伴うガントが際限なく発射される。

 

「落ち着くんだ! マスター……くぁwせdrftgyふじこlp!」

「ひょい、ひょい、そうそう当たる物ではない!」

「ライダーのスピードについてこれるかな、マッハ○ジョン!」

 約一名以外にはかすりもしないガントが、遠坂家の居間を破壊するのだった。

 

 

「……夢?」

 気がつくと、ベットの上だった。

 お気に入りの猫柄パジャマに着替えており、髪も綺麗にとかされている。

 寝起きのぼんやりした頭で考える。

 そう、深夜にサーヴァントの召喚儀式を行い……そうそう、何故か知らないけれど居間が爆発して衛宮君が召喚されてしまった。

「そりゃ、こっそり写真を持っていたりはするけど……別になんとも思っていないんだから」

 思わず呟く。

 とにかく、欲求不満のつもりは無いけど、召喚したサーヴァントが学友だったなんて変な夢だ。

 そのあと良く分らない胸だけ大きくて頭の悪そーな女性が二人乱入してきて乱戦になって……。

 さすが夢、ろくでもない展開だ。

「とにかく……おきなきゃ……うんしょ」

 ベットからのろのろと起き上がる。

 とりあえず着替えるのは後にして……牛乳を。

 冷蔵庫に確かあったはず。

 

 凛はのろのろと起き上がると、何度か壁や柱に頭をぶつけながら居間へと向かった。

 そして居間につくと。

 

「あ、凛。おはようございます」

 メガネをかけた紫の髪の女性が、卵焼きをぱくつき。

 

「リン、おはよー……って、パジャマのままなんて淑女の自覚0ね」

 銀の髪の女性が優雅に紅茶を飲みながらあきれ返り。

 

「起きたか、マスター。サーヴァント召喚の直後に無茶をするから倒れるのだぞ。魔術師なら自制も心がけるべきだな」

 赤い外套を着込んだ同級生が、エプロンを身につけて台所から出てきた。

 

「ゆ、夢じゃなかったの」

 呆然としながら、遠坂凛はたち尽くすのだった。

 

 

続く……かもしれない。

 

 

次回予告(嘘)

 

「──ところでマスター。君は大切な事を忘れていないか?」

「え? 大切な事ってなに?」

 アーチャーは溜息を一つつく。

「まったく、契約において最も大切な交換を我々はしていないのだぞ」

「指輪の交換ですか?」

「違うわよ、籍を入れる事よ」

 茶々を入れる紫と白。

「そこ、違うぞ!」

「あっ、しまった。名前……」

「私はライダーと申します。不束者ですがよろしくお願い申し上げます」

「わたしはバーサーカーね。子供は5人は欲しいなー」

「だから、くだらない茶々入れはやめてくれ。

 それでマスター、君の名は? これから何と呼べば良い」

 疲れたようにツッコミを入れるアーチャー。

 しかし、サーヴァントとマスターの関係は令呪を介した力ずくの関係。名前の交換など意味が無い。それなのに名前を聞こうというのは、共に戦っていこうという信頼の証。それに、何故か白いのと紫は私の名前を知っていて連呼したのに、名乗っていないからかコイツは私の名前を一度も呼んでいない。

 やっぱりこいつは衛宮君だ。記憶喪失でひねくれちゃってはいるけど、すごく良い奴なんだ。

「わたしは遠坂凛よ。好きなように呼んでいいわ」

 でも、そんな衛宮君……いや、アーチャーに素直になれず、ぶっきらぼうに私は答える。

 そんな私に、アーチャーは何かすごく大切な物を噛み締めるかのように小声で一度私の名前を反芻すると。

 

「それでは凛と……。 ああ、この響きは本当に君に良く似合っている」

 

 なんて、トンデモナイことを言い放つ。

 ああ、自分でも真っ赤になるのがわかる。なんか横で白いのと紫が騒いでるが、聞こえない。