とある英霊と怒れる巨人

 

 

 

「う、うそ……」

 

 バーサーカーの、美しい柳眉が驚愕に歪む。

 瞳孔が開き、四肢は硬直する。

 その表情は驚愕、恐怖……、そして憧憬。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!」

 

 それは死と破壊の権化。

 鉛色の巨人が、夜の町に咆哮する。

 

 

「な、なによ……、アレ」

 凛が、目の前の存在の圧倒的な力に、思わず後ずさりをする。

「──やば。あいつ、桁違いだ」

 5人いるサーヴァント達は誰も一歩も動けない。それほどまでの力を、目の前のサーヴァントは持っているのだ。

 どれだけの時間、動けずにいたのだろうか。

 案外と時間は短かったのかもしれない。

 月に雲がかかり、静寂と闇が支配する一瞬。それが合図だった。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!!」

 

 巨人が咆哮する。その手に握るのは石作りの斧剣。

「嘘っ! あの武器は!?」

 サーヴァント達が、一斉に武器を構える。

 

 巨人が大きく跳躍する。

 巨人は坂の上から何十mという距離を一息で落下してくる。

 そして、落下地点に存在するモノに向かって、斧剣を無造作に振り下ろす。

「くっ!」

 空気が震える。

 激しい金属音が夜の帳を切り裂く。

 狙われたのはアーチャー。双剣でかろうじて受け止めはしたが勢いは殺せるはずも無く、大きく後ろに跳ね飛ばされ塀に衝突する。

「シロウっ!」

「アーチャー!」

 口元を歪めるセイバー。

 二人のセイバーがそれぞれ不可視の剣を左右から巨人に向かって叩きつける。

 二人の剣の英霊の同時攻撃は、大気を打ち砕く轟音を発する。

 しかし、ただそれだけだった。

 巨人の皮膚には傷一つ付けることが出来ない。

「そんなっ!」

「ばかなっ!」

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!!」

 

 どちらのセイバーが驚愕の言葉を発したのか。巨人が軽く斧剣を振るっただけで、二人のセイバーは大きく跳ね飛ばされる。

 空中でかろうじて体制を立て直したものの、数mは軽く跳ばされていた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!!」

 

「しまったっ! シロウ! 逃げてっ!」

 セイバー一号(仮名)が巨人の意図に気がつき、アーチャーに向かって叫ぶ。

 巨人は跳ね飛ばしたセイバー達を無視して、そのままアーチャーに向かって突進を開始した。

「ここは、私がっ!」

 ライダーが鎖の付いた釘剣を投擲する。

 鎖が巨人の腕に絡みつき……。

「えええええええええっ! そ、そんなあああああああああ!」

 巨人は絡みついた鎖を握ると、そのまま鎖を振り回す。

 怪力であるはずのライダーが、そのまま振り回され投げ飛ばされ、数ブロック先の家の庭に消えていった。

 そして、巨人は再びアーチャーに向き直り……。

 

「──I am the bone of my sword.

 偽螺旋剣(カラドボルク)!」

 

 そこにいたのは、必殺の弓を構えた赤い弓兵。捻れた剣を矢に、黒き弓を構える。

 放たれるのは必殺の一撃。雷光を纏い、捻れた剣が突き進む。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!!」

 

 その刹那、巨人の意識は“矢”に向けられる。

 迎撃すべく、巨人は全力で斧剣を振るう。

 アーチャーの口が、静かに動いた。幻想の矢はその存在を歪め、閃光に変わる。

 全ての音という音が消え去る。

 辺りを爆音と閃光が支配した。

 

 その爆発から、アーチャーが跳び出す。

 その表情は大きく歪んでいた。

「しまったっ! 浅かったか!」

 アーチャーを追うように、巨人もまた爆発から跳び出す。

 その体は所々焼け焦げてはいるものの、その圧倒的な力は健在だった。

 全身の体重をかけたタックルをアーチャーに敢行する。

 

「ぐふぁっ!」

 

 再び大きく跳ね飛ばされるアーチャー。トレーラーに正面衝突されたような衝撃に、筋肉がちぎれ骨が軋みを上げる。

 今度は街灯に衝突して止まる。衝撃で街灯が根本から折れ曲がった。

「アーチャー!

 Gewicht, uz zu Verdoppelung──!

 凛は黒曜石を取り出すと、中空にばらまく。

 天空から飛来する無数の銀光。

「う、うそ……」

 本来なら家を吹き飛ばすほどの魔力を秘めた攻撃だったが、その全てが巨人にぶつかった瞬間に霧散した。

 巨人は、そんな人間の魔術師など気にもせず、再び突進を開始する。

 だが、その間に二人のセイバーが立ちふさがる。

「いきますよ、二号(仮名)!」

「心得た、一号(仮名)!」

 そう叫ぶと、二人のセイバーが巨人に向かって不可視の剣を振るう。

 無数の斬撃が巨人を襲う。

 槍兵と戦った時とは違う、息の合った連携。

 閃光が煌き、火花が散る。

 剣戟が夜の空気を振るわせる。

 流石にこの連撃の前に、巨人も斧剣を振るう。

 

 一層大きな剣戟が夜道に鳴り響いた。

 

 セイバー一号(仮名)が、全身の力を駆使して巨人の斬撃を受け止めたのだ。

 じりじりと起こる鍔迫り合い。だが、勝敗は誰の目にも明らかだ。このままでは少女は巨人の剣に潰されるだろう。

 だが、少女に潰される気は無かった。もう一人の自分に呼びかける。

「二号(仮名)、今です!」

「はあああああああああああっ!」

 一号(仮名)が命がけで作った隙に、二号(仮名)が巨人の懐に入り込み渾身の一撃を放つ。

 しかし……。

 

 夜道に響いたのは、鉄を打ち合わせるような甲高い音。

 

 二号(仮名)の渾身の一撃も、巨人の皮膚を浅く切り裂くのみであった。

「ば、ばかなっ!」

 驚愕の叫びを上げながら、二号(仮名)が大きく後ろに跳び、一号(仮名)もそれに続く。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!!」

 

 巨人は大きく咆哮すると、無造作に斧剣を電信柱に叩きつける。

 へし折れる電柱。

 電柱は一直線にセイバー達に向かい倒れて行く。

「し、しまったっ!」

 一号(仮名)が叫び、二人のセイバーは更に大きく退く。

 

 そして、巨人は再び突進を開始する。

 

「なんなのよ、あれはっ!」

 凛が悲鳴を上げる。いざとなれば令呪を使ってでもこの場を離脱しなければならない。

 二人のセイバーは態勢を立て直すと、再び剣を構え……。

 

「待つんだ! セイバー!」

 

 それまですさまじい戦いに気を取られていた士郎が、静止の声を上げる。

「どうしたのですか、シロウ!」

「様子を見るんだ、二号(仮名)!」

 士郎が、突進する巨人と迎え撃つ弓兵を睨みながら、二号(仮名)を止める。

「なに言ってるのよっ! あんた、まさかっ!」

 隣りにいた凛の視線が険しくなる。

 まさか、彼はこの気にアーチャーを排除しようとしているのか?

 口では色々言っていたが、やはり聖杯の魅力には勝てなかったのか?

 凛の視線に殺気が篭る。

 士郎は静かに呟く。

「いや、さっきからあの巨人、アーチャーだけしか狙ってないんじゃないか?」

「ゑ?」

 士郎の指摘に、凛は改めて己の従者と謎の巨人を見てみる。

 

「おのれっ!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!!」

 どか〜ん!

 

「くそっ!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!!」

 ちゅど〜ん!

 

「これならっ!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!!」

 ぼかーん!

 

「なんでさっ!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!!」

 ぐしゃっ!

 

 たしかに、巨人は手を出さなければ他の面子には興味を示さず、執拗に弓兵だけを狙っていた。

 逃げながら攻撃するアーチャーだが、巨人はそれを斧剣で弾き飛ばし、あるいはその身で受け止めながら弓兵を襲っている。

 なんだか、物言わぬ巨人の目が『貴様だけは絶対許さぬ』と言っている気がしてならない。

 士郎の背中に、冷たい汗が流れる。

「な、なんで?」

 凛が呆然と呟く。

「さ、さあ?」

 セイバー一号(仮名)もこめかみに汗を流しながら呆然と呟く。

「きっと、痴情のもつれですね」

 いつの間にか戻ってきたライダーが、後ろから呟く。

「痴情のもつれ?」

 誰かが、呆然と呟く。

「ええ、きっとアーチャーは生前あの巨人の娘に手を出してあーんなことやこーんなことをやった挙句、将来いっしょになろうとか言っておきながら、一人でこっそり逃げたのです! 巨人の娘はいなくなったアーチャーに悲しみ、彼の忘れ形見を一人育てる。

 娘を傷物にされた巨人は怒りのあまり世界と契約、このチャンスにアーチャーを亡き者にしようと……」

 半分くらい当たってるような気がする。

 その言葉に、ギギギと音を立てて凛と二号(仮名)が士郎を眺める。

 その目は、何か汚らしいモノを見る目だ。

「ま、まてっ! 俺はあいつじゃないぞ! そんな事していない!」

「でも、シロウの未来の姿なんですよね、アーチャーは」

 一号(仮名)の何気ない一言。

「士郎! あんたまさかっ!」

 凛が思わず宝石を構えながら、こちらに鋭い視線を向ける。

 隣りでは、二号(仮名)も剣をこちらに向けている。

「ちがうっ! いや、違わないけど絶対違う! そもそもそれが本当だとしてもやったのはアーチャーであって俺じゃない!」

「私だって違うっ!」

 遠くから、アーチャーも否定の声を上げる。

 てか、ずいぶんと余裕があるようだ。

「あー、アーチャー。ちゃんと謝っておきなさいよ、許してもらえないでしょうから一回ぐらい腹を切って詫びなさい。

 それと、道路もちゃんと直しておきなさいよっ!」

「又○イエスかっ! そんなことしたら死んでしまうだろうがっ!」

「だまれ、女の敵!」

 冷たい声で答える己のマスターに、アーチャーは巨人の攻撃を器用にかわしながら溜息をつく。確実に今の自分の幸運のランクはE--だと確信した。

「だから違うといっているだろうっ!」

「アーチャー。俺はお前のようにはならないっ!」

 なんだか、妙に力をこめて力説する過去の自分。

「おのれっ、やはり貴様と私は相容れぬようだな、衛宮士郎!」

 さすがに腹が立ったのか、アーチャーは大きく飛び退くと一気に士郎に駆け寄る。

 そして、いつの間にか用意したのか煙幕を爆裂させた。

 

「──投影開始」

 

 27の魔術回路に魔力が流れる。

 エミヤシロウの魔術が発動する。

 そして……。

 

「げほっ、げほっ! 何するのよ、アーチャー!

 ……って、うそっ!」

 

 突然の事に、目に涙を為ながら凛は自らのサーヴァントに抗議の声を上げ……途中で絶句をする。

 そこにいたのは二人のエミヤシロウだった。

 いや、アーチャーは士郎の未来の姿であり同じ容姿をしていたのだが、服装までまったく同じになっているのだ。

 こうなると、もう二人の見分けができない。

 右側の士郎が口を開く。

「あー、お前アーチャー! 何やってるんだっ!」

 左側の士郎が反論する。

「お前がアーチャーだろうがっ!」

「お前がアーチャーだろうっ! まさかっ、入れ替わる気か!?」

「俺は衛宮士郎だっ! お前こそ入れ替わるつもりだろっ!」

 二人でアーチャーを擦り付け合う。

 普段は人の嫌がる事を率先してやる士郎だが、さすがに未来の自分の尻拭いは嫌なのか、思わず口論となりそうになる。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!!」

 

 だが、そんなやり取りを巨人は許さなかった。

 思わず場を忘れた二人の背後に立つと、大きく斧剣を振りかぶる。

 なんとなくだが、『面倒だから、まとめてぶちのめす!』と言っている気がする。

 

「うぎゃー!」

「うわぁー!」

 

 振るわれる斧剣。吹き飛ばされる二人のエミヤ。

 

「ちょっと、いいかげんにしなさいいいいいいいい!」

 

 呆然としていたバーサーカーが思わず叫び声をあげる。

 両手をあげて怒鳴る様が年上とは思えない。大きな胸が強調されている。

なんとなくかわいいなーなどと考えながら、士郎の意識はブラックアウトするのだった。

 

 

 

続く・・・かも。