とある英霊とめいどねこりん謎の侵入者

 

 

 ほんの一日前まで、衛宮邸は平和だった。

 男の一人暮らしではあったが、騒がしい隣人や可愛い後輩が押しかけそれなりに賑やかで華やかだった。

 いや、華やかさなら今も負けていない。

 黄金色の髪の少女達をはじめとして、見目麗しいご婦人達が居間を華やかに飾っている。

 

 しかし、今は平和ではない。

 

 この屋敷の主人たる衛宮士郎をはじめ、黄金色の髪の少女も、銀髪の女性も、そしてもう一人のエミヤも揃って沈痛な面持ちで沈黙している。

 なにやら、視線を上げないように、あわせないように必死だ。

 よく見ると、5人の口元は必死に何かを耐えているようである。

 彼らの沈黙の理由が、果てしなき混沌が居間に入り込んでくる。

 野獣の耳を持ち、漆黒と純白の衣を纏いし魔女が、獲物を狙う目つきで彼らを睨む。

 最高の弦楽器のごとき美しき音色の声が、彼らに語りかける。

 

「お茶が入りましたにゃん♪ ご主人様」

 

 5人の沈黙が、更に深刻となる。

 必死に、魔女と視線を合わせないように必死だ。

 これが幼い少女がやったのならそれなりに可愛らしいだろう。

 いや、彼女も容姿だけなら十分に似合う。

 しかし、中身がどんな人間なのか、短い付き合いのセイバーですらよく熟知している。

 はっきり言って、イタイ。イタ過ぎる。

 

「言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよっ!」

 

 沈黙に耐え切れずに、希代の魔女は怒鳴った。

 しかし、魔女の背後から居間に入ってきた7人目の人物が注意を促す。

 

「語尾は『にゃん♪』ですよ、凛」

 

 スミレ色の髪の女性が、無表情に言った。

 いっそ、笑いながら言ってくれたほうが気が楽だった。

 だが、彼女はニコリともしない。

 屈辱に身を震わせながら、魔女は言葉をつむぐ。

 

「にゃん♪」

 

 うつむいて肩を震わせる様は、男性陣の背中に冷や汗を流させるには十分だった。

 何とかフォローを、その思いだけで士郎は口を動かす。

「に、似合ってるぞ遠坂」

 うめくような声だ。視線をそらす様はなんとも痛々しい。

「た、たしかに。よく似合っている。コミケに行けば大人気間違い無しだぞ、凛」

「そ、そうね、アキバでも人気一番よ」

 3人の現代人のフォローになってないフォローに、凛は血の涙を流しながら絶叫した。

 

「うれしくないわあああああああああああああああああああああああ!」

 

「語尾は『にゃん♪』ですよ、凛」

「にゃん♪」

 

 

「で、ちょっと状況を整理したいんだけどいいにゃん?」

 相変わらず罰ゲームは継続らしい。

 ネコミミメイドのままの凛が血の涙を流しながら、居間に集まったメンバーを見渡す。

「ああ、そうするべきだろう……」

 あまりに痛々しい己が主人から視線をそらしながらも、アーチャーが同意を示す。

 他のメンバーも同じのようだ。ライダーのみ何やら満足げに凛を見つめているが。

「まず、これまでに判っているサーヴァントの整理ね……にゃん♪」

「ライダーよ、そろそろ許してやってはくれないか……。これでは真面目な話にならない」

「アーチャーが犬耳に首輪をつけるなら許しますが」

 たまらず、アーチャーが紫の髪の英霊に訴える。

 だが、ライダーは更にとんでもない提案を口にする。

「むっ、そ、それは」

 しかし……。

「いいのよ、アーチャー。情けはいらないにゃん♪」

「そ、そうか……」

 再び視線をそらすアーチャー。後で最高の紅茶を振舞おうと心に誓った。

「まず、通常召喚されるサーヴァントは7クラス7人にゃん。

 ──セイバー

 ──アーチャー

 ──ランサー

 ──ライダー

 ──キャスター

 ──バーサーカー

 ──アサシン

 これで間違いないにゃん?」

 凛の言葉に、視線をそらしながらもサーヴァント達はうなずく。

「んで、現状にゃん♪

 わたしが召喚したのがアーチャー。士郎の未来ってのは特殊といえば特殊だけど、それ以外は特に問題無いにゃん」

「ああ、私が生前に参加した時のアーチャーも、未来の私だった。まぁ、聖杯戦争の後に気が付いたことだがな」

 凛の言葉をアーチャーが肯定する。

「んで、ライダーも性格以外は今のところは何の問題も無いにゃん♪ マスターのワカメは太平洋で揺らめいているってだけにゃん♪」

「なんだよ、ワカメがマスターって?」

 ワカメの意味がわからなかったのだろう、士郎が質問をする。

 自分の友人がワカメ扱いであり、太平洋の無人島に放置されているなどとは夢にも思わないだろう。

「士郎、気にしなくても問題はありません」

「そうにゃん♪ ワカメのことはほっておいて次ぎ行くにゃん」

 釈然としない様子の士郎だが、特に口を挟まなかった。

「んで、こっからが異常事態にゃん♪

 士郎が召喚したのがセイバー……なんだけど、なぜか二人召喚される」

 凛の言葉に、二人のセイバーが肯く。

「うち一人は、アーチャー……平行世界の士郎と聖杯戦争を経験しているにゃん」

「その通りです。しかし、この世界は私の経験した世界とは明らかに違う様相を呈している」

 一号(仮名)の言葉に、アーチャーも同意を示した。

「ああ、私達が経験した聖杯戦争の流れは未来うんぬん抜きに伝えない方が良いだろう。余計な先入観を与えかねない」

「その辺は貴方達の判断に任せるにゃん♪

 で、異常事態その二、バーサーカー。やっぱり二人現れた」

「バーサーカーが二人って?」

 一人事情を知らない士郎が銀の髪の女性を盗み見る。彼女が二人いるということだろうか?

「あ、士郎は気絶していたんだっけ。昨夜のあの巨人、アレはアーチャーが士郎だった時のバーサーカーなんだって」

「ああ、そうだ。正体はヘラクレスだ」

「しかし、ふざけた話ね。そんな超一流の英霊をバーサーカーとして呼び出していたなんて」

 凛が、アーチャーの言葉に呆れた声を上げる。

 何度聞いても、ヘラクレスをバーサーカーとして呼ぶなんて無茶すぎだ。どれだけの魔力が必要なのか想像も出来ない。

「そうなのか? って、そう言えば家の土蔵に隠したって言ってたけど、どうやって取り押さえたんだ?」

 思い出すのは深夜の戦い。その圧倒的はセイバーの剣も、アーチャーの弓も通じなかった。桁違いなどというレベルではない。

 あの時、アーチャとまとめて吹っ飛ばされた所までは覚えているが……。

「って、アーチャー。お前夕べはっ!」

 今の今まで忘れていた事柄を思い出す。

「ふん、受身を取れぬお前が未熟なのだ。それに、私の時よりはだいぶマシだ……」

「マシってなんだよっ!」

「シロウは──今ここに居るシロウじゃなくってアーチャーのことだけど、バーサーカーに真っ二つにされちゃったから」

「こらっ、バーサーカー」

 激昂しかけた士郎だったが、バーサーカーの言葉に絶句する。

「なんだよ、それ」

「よ、よく生きているわね、アーチャー」

「わ、私の事はどうでも良いだろう。

 とにかくだ。あの後バーサーカーがあの巨人を制止させてな。すぐに大人しくなった」

 早口に誤魔化すアーチャー。

「その辺は後でまとめて追求するにゃん♪

 とにかくあの巨人はバーサーカーの言葉で大人しくなったけど、マスターは不明。何でわたし達を襲ったのかも不明。最有力はアーチャーとの痴情のもつれにゃん♪」

「ちがうだろっ!」

 凛の言葉にアーチャーが溜息交じりにツッコミを入れた。

「ええ、少なくともわたしのマスターが召喚したバーサーカーはわたし一人よ」

「よくそんなの家に連れてきたな……」

「大丈夫よ、ヘラクレスは私を絶対に裏切らないから」

 何故だか、絶対の自信を持ってバーサーカーは断言した。

 セイバー一号(仮名)とアーチャーも同意する。

「まあいいにゃん、暴れても壊れるのは士郎の家にゃん♪」

「よくないぞっ!」

 抗議の声を上げるが、無視される。

「でも、バーサーカー。そろそろ貴女のマスターを教えてくれても良いんじゃないにゃん♪」

 何かに気が付いたのだろう、凛が含みのある笑みをバーサーカーに向ける。

「まあ、アーチャーも一号(仮名)も知っているんだから隠す意味は薄いんだけどね。でもごめんなさい、事情があるから教えられないわ」

「凛、すまないが私からもお願いする。彼らが決着をつけなければならない問題だ、出来ればこれ以上は聞かないでくれ」

「貸し一にゃん♪」

 三人のやり取りをぽかんと眺める士郎と二号(仮名)。もっとも、彼らの秘密主義にもいい加減なれたのか、あえて聞き出さなかった。

「んで、現在わたしたちが確認しているサーヴァントは後2人にゃん♪

 一人はランサー。青タイツの芸人で真名はクーフーリン」

「アーチャー。ではランサーの持っていた槍は、まさか」

 二号(仮名)が顔を青ざめながらアーチャーを見つめる。

「ああ、あれはゲイ・ボルクだ。私の時は一度発動して危うくセイバーがやられるところだった」

「ええ、恐るべき呪いでした」

 苦い顔をするセイバー一号(仮名)。その時のことを思い出してるのかもしれない。

「では、あの時一号(仮名)がランサーを追わなかったのも」

「ええ、あの槍は“殺す”事に特化していますから。あのまま追えば私達でもやられていたかもしれません」

「続けていいにゃん?

 んで、もう一人教会を吹き飛ばした謎のサーヴァントが最低一人いるにゃん♪」

「ああ、ここまでで8人。更には最低あと一人いる」

 アーチャーが不意に深刻な表情をする。

「歴史が変わったなら居ない可能性があるんじゃないのか?」

「いや、こいつだけは歴史が変わっても確実に居る。

 私達の時にも存在した8体目のサーヴァント……英雄王ギルガメッシュが」

 アーチャーの言葉に、一号(仮名)の顔に露骨な嫌悪が浮かぶ。

「ギルガメッシュとは?」

「二号(仮名)も会っているはずですよ。前回のアーチャーです」

「ば、馬鹿なっ! 前回のサーヴァントが生き残ってるなんてそんな事がっ!」

 一号(仮名)の言葉に、二号(仮名)が叫び声をあげる。

「別に不思議なことではない。十分な魔力……そうだな、凛くらいの魔力があれば聖杯戦争後もサーヴァントの維持は十二分に可能だ。

 さらに、奴は前回聖杯から零れ落ちた魔力を浴びて受肉している。今回がどうあれ奴もこの町のどこかに居る」

「そいつはどんなサーヴァントなのにゃん?」

 深刻な表情のサーヴァント達に、凛が質問をぶつける。

「そうだな……一言で言って『金ぴか』だ」

「なによ、それは……」

 アーチャーの実も蓋も無い評価に、凛が絶句する。

「君が──私の時代の遠坂が一目見てそう表現したのだ。君も会えば判る」

「そ、それは一発で判りそうね……」

「奴の攻撃手段は後で説明しよう。私の能力に似ているので、言葉で語るよりも見せる方が早いだろう」

 わかったにゃん、そう言うと凛は目の前の紅茶を口に含んだ。そこそこ美味く入ってはいるが、アーチャーが入れた紅茶の方が美味しかった。

「つまり、この時点で最低9体のサーヴァントがこの町に居るということにゃん。原因は不明。更に他に何体いるかも不明。ついでに監視役の言峰綺礼はいにゃい」

 言葉にしてみると簡単だが、どう収拾をつけていいのか判らないほど混沌とした情勢だ。火をつけた火薬庫──いや、メルトダウン寸前の原子炉のようなものだ。

「そう言えば、私がこんな格好をする原因とにゃったのは綺礼がマスターだったからにゃんだけど、どいつが奴のさーヴぁんとにゃの?」

「凛よ、ネコ言葉が進歩しているぞ……」

 アーチャーのツッコミに、凛が赤くなる

「う、うるさいっ!

 とにかく、綺礼のサーヴァントは何なの?」

「語尾は『にゃん』ですよ、凛」

「にゃん♪」

 意地を張る凛と意地悪なライダーに苦笑いをしながら、アーチャーは答えた。

「言峰はランサーとギルガメッシュのマスターだ」

「なによ、あいつ二体もサーヴァントを持っていたにゃん?」

「ああ、ギルガメッシュは前回の聖杯戦争からの生き残り、ランサーは今回召喚したマスターから令呪ごと奪ったらしい」

 苦々しげにアーチャーは答える。

 それにしても全くもって前途多難、不明な事が多すぎる。

「ふう、現在わかっているのはこれ位ね……。

 ねえ、士郎。一号(仮名)をちょっと借りて良いかにゃん?」

「借りるって、なにさ?」

「セイバー達の服よ。とりあえずはそのブラウスとスカートを二着持ってきたけど、二人ともずっと同じ格好だとややこしいから別の服を持ってくるわ」

「語尾は?」

「にゃん♪」

 凛の指摘に、士郎は今更ながらに二人の格好が軍装でない言に気が付く。

「あれは遠坂が持ってきてくれたのか。すまない」

 ペコリと頭を下げる士郎に、凛の表情が赤くなる。

「い、いいのよ。どうせあるだけで着ない服なんだから。

 とりあえず、私は一回帰ってお昼前に戻るから、それから今後の方針を話し合うにゃん」

 そう一方的に言うと、凛は逃げるように立ち上がる。

 だが、アーチャーが沈痛な面持ちで止めるのだった。

「凛よ、とりあえず着替えたらどうだ?」

「あっ」

 

 

「で、凛よ。何故私達を連れ出したのかそろそろ話してくれて良いのではないかね?」

 衛宮邸が見えなくなる場所に来て、アーチャーが始めて口を開いた。

 凛の服装もネコミミメイドでは無く、学園の制服姿に戻っている。着替えやら何やらですっかり昼過ぎになってしまったが。

 アーチャーもいつぞやのジャケット姿で、ちょっと見た限りでは両手に花の学生三人組に見える。

「そうですね。理由があって私達二人を指名したのでしょう。それも、他の者には聞かれたくない話を」

 セイバー一号(仮名)も、真面目な表情を作る。

「あ、やっぱり判った? 貴方達二人に聞きたいことがあるの」

 冗談の一言も混ぜたい所だったが、その余裕は無いだろう。

 小声で呪文を唱える。聞かれる可能性は皆無だが、念には念を入れて防音の結界を張る。

「単刀直入に聞くわ。貴女とセイバー二号(仮名)、どちらが偽者だと思う?」

 その言葉に、セイバーが息を呑む。

 だが、マスターであり魔術師の端くれだったアーチャーは、薄々気が付いたようだった。

「偽者という表現は適切ではないな。衛宮士郎のサーヴァントでは無いセイバーはどちらか……という事だろう」

「アーチャーは気が付いた?」

「未熟者だったとはいえ、私もマスターだったものでね。

 衛宮士郎の手にあった令呪は一つだけだった。つまり、衛宮士郎のサーヴァントは一体だけと君は考えたのだろう」

「正解。わたしの直感だけど二号(仮名)は聖杯戦争の理に殉じて召喚されたサーヴァントじゃないわね」

「だろうな」

 凛とアーチャーの推測に、セイバーただ一人が混乱する。

「そ、それはどういうことですか?」

「そのままの意味だよ、彼女は君としては本物だが、聖杯戦争のセイバーとしては偽者だ。あのバーサーカーがヘラクレスとしては本物だが、聖杯戦争のバーサーカーとしては偽者のように」

「そっちは確かなの?」

「それは間違いない。たとえ平行存在だとしても私がセイバーを見間違えるはずは無いからな」

「わ、判るように説明してください」

 一人わからないセイバーが説明を求める。

「セイバー、英霊は聖杯に呼ばれサーヴァントとして現界するのは判るわよね」

「ええ……って、まさか」

「そのまさかよ。彼女は聖杯以外のナニカに呼ばれ現界したんでしょうね」

「違和感は最初から感じていたのだが、確信したのはバーサーカーが『召喚されたのは自分だけだ』と証言した時だ。

 彼女は二ヶ月前に召喚されたはずだからな。ヘラクレスが一緒に召喚されていたのなら気が付かないはずが無い」

「しかし、それほどの奇跡を聖杯以外が可能なのですか?」

「判らない。それにこれはあくまでも推測の域を出ないわ。

 ただ、同一クラスが二体、それも二組召喚されたのならこれは偶然と考えるべきじゃないわ。最悪、この町には15体のサーヴァントが存在していると考えられるわね」

 凛の表情が、暗く鋭いものとなる。

「どれだけ被害が出るか判らんな……」

 同じ推測をしながら、アーチャーは生前の聖杯戦争を思い出す。

 たった8騎のサーヴァントでアレだけの被害が出たのだ。倍のサーヴァントがこの町で争ったら……考えたくも無い話だ。

「まあ、彼女もヘラクレス・バーサーカーも中身はまっとうな英霊だ。今の段階で必要以上に警戒する必要は無いだろう」

 もっとも、中身はまっとうでもサーヴァントの身体を外部から操られた場合は保証の限りではない。

 さすがにその言葉は口にしないアーチャーだった。

 

 

 最初に異変に気が付いたのは凛だった。 

「あれ? 鍵が開いてる?」

 場所は遠坂邸の玄関。出かける前に鍵をかけたはずなのに、開いているのだ。

「鍵を閉め忘れたのか?」

「リン、魔術師の家だからといって無用心ですよ」

 背後でアーチャーとセイバーが呆れた声を上げる。

「おっかしいな、確かに閉めたはずなんだけど……。

 まあ、警報が鳴るようにしてあるから大丈夫よ」

 凛がおどけた様子で後ろを振り向き……緊張した様子のサーヴァントに驚く。

「どうしたの?」

「リン、家の中にサーヴァントの気配が……」

 不可視の剣を構えたセイバーが緊張した様子を見せる。

「ああ、遠坂の工房の結界を安々と潜り抜けるとは……キャスターかアサシンと考えるべきか」

 こちらも、見慣れた黒と白の双剣を取り出している。

 この二人がここまで緊張しているとは、遠坂凛に気付かれる事無く入り込んだサーヴァントが居るのだろう。

 最初に感じたのは恐れ。

 自分が完全無欠だとは思ってないが、それなりに自信があったのも事実だ。

 その自分に全く気づかせずに屋敷に侵入する存在とはどれだけの力があるのか。冷たいものが背中に流れる。

 だが、その感情はすぐに消し去る。

 そして、次に浮かぶのは怒りと感嘆。

 この遠坂凛をここまでコケにしてくれたのだ。それなりにケジメをつけなければ相手に失礼だろう。

 自然と笑みが顔に浮かぶ。

 それは、見る者の魂の奥底に焼きつく、壮絶なまでに美しい笑みだった。

 アーチャーとセイバーがそんな彼女を頼もしげに見る。

 それは、遠く離れてしまった大切な戦友と同じ笑み。あの笑みに何度助けられただろう。平行世界でも、凛はやはり凛だった。

「どうする、凛?」

 だから、アーチャーも口元をゆがめながら己が主人の命令を待つ。

「そうね、屋敷に出来うる限り傷つけないように、でもきっちりと痛い目にあわせてやって」

「無茶を言いますね、リン」

 セイバーも微笑む。かつての戦友であり、あらたな戦友を頼もしく思い微笑む。

「あんまり壊すと……直すアーチャーが苦労するわよ」

「私かっ!」

 苦笑いを浮かべるアーチャー。

「魔術師の城に入り込んだ代償は支払わせるわよ、相手の場所は?」

「恐らくは居間だな。やれやれ、先日直したばかりだというのに」

 ぼやくアーチャーを尻目に、居間にある仕掛けの幾つかを頭に浮かべる。それほど大掛かりな仕掛けは無いが、大丈夫、やれる。

「一気に突撃するわ。セイバー、先陣をお願いして良いかしら?」

「ええ、任せてください」

 

「じゃあ、行くわよ」

 

 遠坂凛が玄関を押し開ける。

 遠坂の屋敷を舞台に、魔術師達の戦争が再び幕をあけた。

 

 

 

続く……と思う。