とある英霊と猛虎と獅子
衛宮邸の居間は異空間と化していた。
もっとも、異空間となっているのは一昨日からずっとであり、正確にはいつもとは違う意味で異空間と化していると言うべきだろう。
毎日毎日様子を変えるのは中々バラエティに富んでいるが、問題は住人がその変化についていけない点だ。ほかにも、悶々とした青少年に相応しい諸問題に悩まされると言うのもある。
ああ、平和な日常が懐かしい。
んでもって、今日も今日とて異空間が一つ。
今日の主役は居間のテーブルで泣きじゃくる少女。
彼女の名前は間桐桜、この家の住人である衛宮士郎と同じ穂群原学園に通う一年生。先ほど玄関先でメイド服にネコミミを着けた凛を見て以来この調子だ。
走り去るのこそ阻止したものの、居間に連行されて以来、うつむいたまま自分の世界に閉じこもっている。
時折り肩を震わせる様が、非常に痛々しい。
そりゃ、ショックだっただろうと士郎は思った。
学園のアイドルである、優等生の遠坂凛がどこぞの喫茶店ですらやらないような痛々しい格好で出てきたのだ。大人しくて真面目なこの少女の精神的打撃は計り知れない。
もっとも、この朴念仁は他の意味でもショックだったなんて考えが及ばない。
行き過ぎると、朴念仁も犯罪だ。
「な、なあ桜」
士郎は、慰めの声をかける。
「──くすくすくす、姉さんは何時もそうなんです。外面は異常に良いくせに中身はずぼらでいい加減でいぢめっこで、そのくせ調子よくって一人で美味しいところを全部持っていくんです。自分は何でも知っていますよーって顔をしておきながら、実は初心でなんですよ。そういえば、アニメでは私は萌えキャラになっていたのを喜んでいたら、すぐに姉さんに出番を根こそぎ取られるし……。キャスターさんですら出番があるらしいって言うのに私は本編と同じ様に序盤でフェイドアウトしそうです……。と、思ったら出番ありましたけど、何でボンテージなんですか。そもそも、アレは一体誰が持ち込んだんですか、キャスターさんに捕まったのなら、普段は着れないゴスロリ系を着れるかなーなんて甘い事考えてたのに。ヨゴレは全部私に押し付けるなんて酷いです。あ、この部分加筆分ですから。ふふふ、このSSではネコミミメイドで人気を独占、本当は一発ネタだったのに人気が予想以上に高いから数話に渡ってネコミミですよ。本当にネコミミが好きなのか、と問い詰めたい、小一時間問い詰めたい。俺の今のお薦めはイヌ耳に首輪だね。でも、これはSMと勘違いされる諸刃の剣。素人にはお薦めできない。ま、素人は黒桜に萌えとけってこたった。って、このネタ調べるのが面倒だからって、このSS作者調べないで書いているんですよ、どうせ桜の長い台詞だから誰も読まないだろうって、酷いですね。書きたい放題書いているんですよ。このせりふに最初にツッコミを入れた人にはなんかプレゼント……するモノは無いですね。酷いと言えば姉さんはhollowでは序盤に出番が無いから人気出ないだろうって思ってたら、人気投票は二位ですよ。私だって今回は頑張ってランクアップしたのに……。黒桜と足せばって思ったら、諸葛凛やカレイドルビーと合わせれば姉さんは圧倒的な支持に……、でも、セイバーさんには勝てませんけどね。大体、イロモノ路線と癒し系は私の持ちキャラだったのに、ライダーに大分癒し系を取られるし……ふふ、後でお仕置きですよライダー。だいたい、姉さんは一人で詰め込みすぎ、恵まれすぎです。貧乳にツインテールに優等生にツンデレにニーソにミニに赤くて三倍に守銭奴で魔術師にドジッコに……どれだけ属性持っているんですか。私なんて、巨乳ジェノサイドだけですよ。桜は微妙だとか、黒桜と桜はもう不可分だとか言われ放題。でも、ジェノサイドならイリヤちゃんの方がすごいし、巨乳キャラだったのもリズさんやライダーにその座を取られるし。黒化だってセイバーさんのモキュモキュにくらべたら……。そう言えばhollowのセイバーさんは胸が成長していましたね、偽者説までありましたけど……。このままじゃ貧乳キャラは姉さんだけになるんじゃないかしら。秋葉さんと頑張って競い合ってください。あ、でも向うは大金持ちのお嬢さんだけど、姉さんは万年金欠の似非御嬢様でした、これじゃあ勝負になりません。話しがずれました。姉さんは本当に酷いんです。だいたい、まだ処女なんですよ。取り込んであーんなことやこーんなことをして、すぐ泣き出して可愛いんです、抱きしめて食べちゃいたいくらい。あ、これは別の私のバットエンドでした。でも、最後に止めをさせずに抱きしめたり……。あ、また話しがそれました。でも、本当のヒロインは実は先輩だと思います。だって、赤毛で小柄で童顔で、家庭的で料理が上手で……でも、実は芯が強い。どう見ても属性だけなら先輩がヒロインじゃないですか……」
グロイ……いや、黒い。何だか知らないがすごく黒い。
てか、なんかメタすぎる発言が、混ざってないか。
士郎の中の幻想が、また一つ木っ端微塵に打ち砕かれる。このまま、全ての幻想が打ち砕かれたら廃人になりそうで怖い。
よく見ると、サーヴァント達は皆壁際に退避している。アーチャーに至っては、台所に逃げ込んでいる。
とりあえず、未来の自分を見た。なぜか、彼の心が流れ込む。
──桜に溺れて溺死しろ。
意味がわからん。
次に、一号(仮名)と二号(仮名)
──シロウ、おなかがすきました。
ダメらしい。
次にライダー
──メタ発言は禁止です。
それは、ちゃんと声に出して言おう。
最後に、バーサーカー
──シロウ、ごめんなさい。私には無理、あなたに任せるわ。
一番まともだが、それでも押し付けるのは変わらないらしい。
しかたない、意を決して士郎は桜に話し掛けた。
「さ、桜。大丈夫か?」
「答えを得ました。大丈夫です先輩。私も、これから頑張っていくから……」
「どんな答えを得たのか知らないが、その答えはたぶん間違ってるぞ」
今にも消えてしまいそうなイイ笑顔で答える桜に、士郎は即答する。横で私の台詞だとアーチャーがぼやくが、無視をすることにした。
「とりあえず落ち着け、桜」
「私は落ち着いています、先輩。ほら、こうして包丁を振り回せるぐらいに落ち着いています」
「桜、笑顔で包丁を振り回すな! すごく怖い!」
「先輩、どいて! その女を殺せない!」
「だから、危ないネタはやめろって!」
完璧に壊れている後輩に、士郎は為す術が無い。
「だいたい、なんで姉さんが先輩の家から出てくるんですかっ! しかもネコミミで……。コミケですか! コミケですね! 3日目ですかっ! でも、2月ですから夏までには大分時間が!」
「そんなこと言っていると、気がつくと締め切り間際になっていますよ、桜」
「大丈夫です、黒くなって印刷所の人に無理を言えばなんとかなります。最悪はコンビニのコピー機をフル回転させれば」
「それは迷惑だから止めましょう。論文の資料がコピーできなくて困る学生もいるのですから」
「意味がわからんっ!」
壁際からボケるライダーにツッコミながらも、士郎はふと気がついた疑問を口にする。
「ところで桜」
「はい?」
「ところで、なんで遠坂が“姉さん”なのさ?」
「あっ!」
壊れすぎたのだろう、自分の失言に桜は気がつく。
「え、えっと、えっと、女子高で先輩から頭蓋骨を渡してもらった仲でお姉さまと」
「何時からうちは女子高になったんだ。てか、どこのホラーだそれは」
「え、えっと……」
余計なところで勘が鋭い士郎に、桜が答えに窮している、その時だった。
「ふぉあたぁぁぁぁぁっ!」
どこぞの格闘家よろしく奇妙な掛け声とともに、居間に駆け込んできた影が士郎のこめかみに爪先蹴りを見舞う。
危険だから良い子はやっちゃダメだぞ。
飛び込んできたのはあかいあくま、ブルース・凛だっ!
「ひでぶっ!」
おかしな悲鳴を上げて、ゴロゴロと転がり士郎は柱にぶつかり停止する。なんか、首の角度が微妙にまずい。
「ま、まさかあの技はっ!」
「知っているのか、雷電……じゃなくてバーサーカー」
なんとなくボケるバーサーカーとライダー。
「し、シロウ!」
「り、凛よ……、その打撃はまずいのではないか?」
悲鳴を上げるセイバー二人。
アーチャーが冷や汗を流しながら、過去の自分をぼんやりと眺める。
「大丈夫よっ! 遠坂家に伝わる秘伝の記憶消去法だから!」
「ほんとうかっ!」
「気にしちゃダメよ、ちょっと違うかもしれないけど多分あっている筈だから」
「そ、そうか……」
まあ、士郎の体内にはアレがあるのだから、あの程度は大丈夫だろう。それに、これ以上ツッコミを入れて矛先がこっちに来るのは怖い。
サーヴァントだって、無駄に痛いのは嫌なのだ。
「ねえさ……じゃなくて、遠坂先輩っ!」
学園のアイドルの仮面をかなぐり捨てて暴れる凛に、桜の顔が引きつる。
「いい、桜。ここで見た事は忘れなさい! 忘れるのよっ!」
「了解です、サー!」
「マムよっ!」
「今更だと思うが……」
小声でツッコミを入れるアーチャーだったが、無論無視される。
「とりあえず、この状況をどうするのだ……」
とりあえず進行役の士郎がダウンしたので、小声でぼやきながら周囲を見渡す。
耳から血を流して倒れている士郎……、まあこれはいい。
制服姿で肩を上下に揺らす凛、微妙に黒い桜、士郎を介抱するセイバーズ、何時もの指定席に座り朝食が出るのを待つ藤ねえ、笑い転げているバーサーカー、何を考えているのかよくわからないライダー……。
……。
なんか、変なのがいた。
いや、変なのしかいないが、今までいなかった変なのが追加されている。
アーチャーの視線に気がついたのだろう、藤村大河、2X歳、職業は英語教師。通称藤ねえは口を尖らせながら文句を言った。
「ねえ、士郎。ご飯まだー? おねえちゃん、おなかぺこぺこだよ」
その台詞は、もっと幼い少女じゃないと似合わないと思うアーチャーだった。
「あ、ごめん藤ねえ。すぐ準備する」
一方、ゾンビのごとく藤ねえの声に反応して起き上がる士郎。さすが見上げた主夫魂、ダメージが残っている様子は無い。
「あ、先輩。私も手伝います」
黒化が解除されたのか、桜も慌てて手伝いに立ち上がる。
「あれ? もう出来ているな?」
「何を惚けているのだ。先ほど私が準備していただろう」
「そうだっけ? なんか記憶が……、何か大切な事を忘れているような?」
どうやら、先ほどの遠坂流記憶消去法は効果があったらしい。
首をひねりながら、アーチャーが作った朝食を食卓に並べていく士郎と桜。並べる側から料理を強奪していく藤ねえとセイバー一号(仮名)。
「は、はしたないですよ、一号(仮名)」
並行存在の行為に、二号(仮名)が顔を赤らめる。
「ふふふ、やりますね、タイガ。これなら」
「二段がえし!? それならっ、奥義虎返し!」
「甘いッ! 必殺技など邪道! これでっ」
「ああ、卵焼きー」
もっとも、二人とも聞いちゃいない。
ますます顔を赤くするセイバー二号(仮名)に、アーチャーは気の毒そうな表情をしながら山盛りの茶碗を差し出した。
ああ、あの清楚で可憐な士郎(アーチャー)のセイバーはどこに。
「アーチャー、すいません」
「いや、君の責任ではない」
「一号(仮名)は、どうしてこんなに……」
一号(仮名)ほどはっちゃけていないが、二号(仮名)だっておかずは山盛りで確保している。
記憶は美化されるらしいと、アーチャーは涙した。
で、狂乱の朝食は終焉を迎える。
かなりの量を用意していたはずだが、ほとんどすぐに無くなってしまった。
「士郎、今日のご飯はとっても美味しかったけど、ちょっと味付けを変えた?」
「そうですか? シロウのご飯は何時も通りとても美味しかった」
虎と獅子は満腹したらしい。
仲良く座り、お茶をすすって……。
次の瞬間、虎が首を機械的に回す。
士郎、獅子、金髪美少女、凛、桜、蛇、しろいあくま、士郎……。
「って! なんで士郎ん家にこんなに女の子がいるのよおおおおおおおおおおおおおおお!」
虎が吼える。
背後に、虎の姿が幻視できる。
「って、今頃気がついたのかっ! 藤ねえ!」
ご近所の人に心の中で謝罪しながら、士郎はボケまくっている自称姉にツッコミを入れる。
「それに、士郎が二人? ドッペルゲンガー!? 双子? 刑務所の門番!?」
「い、言われてみればっ! 先輩が二人!? ブラックドラゴンの聖闘士!?」
「意味がわからん! って、桜もかっ!」
この後輩も、藤ねえと同レベルらしい。
流石に不憫に思ったアーチャーが口を開こうとする。しかし、その前にバーサーカーが口を開いた。
「貴女が藤村タイガ様ですか。キリツグの言ったとおり、可愛らしい方です!」
白々しいほどの演技に、内心アーチャーは呆れる。顔には出さないけど。
「え? 切嗣さんのお知りあいですか?」
突如出た今は亡き人の名前に、藤ねえはあっけに取られる。
名前を出したのは、20前後の上品そうな女性。ただ、なぜか虎の中で警報がなる。野生の感かも知れない。だが、その彼女は優雅に一礼をしながら、藤ねえに話し掛けた。
野生の感による警報と、礼儀正しい同じ年頃の女性にたいする安心感で、藤ねえは混乱する。
「自己紹介がまだでしたね。私はバーサーカー・フォン・アインツベルンと申します」
「……アインツベルン?」
その名前に反応したのは凛だった。一人何か考え込む。
「キリツグには色々と当家の者がお世話になりまして……、所要で日本に来る事になりましたのでご挨拶にと思ったのですが……」
「あ、え、う……でも、切嗣さんは……」
「はい、まさか五年も前に亡くなられていたとは……」
そう言って、目頭を押さえて悲しむバーサーカー。あまりに白々しい演技にアーチャーの背中が痒くなる。
とはいえバーサーカーが演技をしている以上、合いの手を入れないわけにはいかないあろう。生前も旅の途中でよくやった事だし。
「元気な方だったのですが……、まさかこのような事になっていたとは……」
「お嬢様、涙を……」
そういうと、アーチャーは懐から取り出したハンカチをバーサーカーに渡す。こっそりと投影した目薬もいっしょだ。
「シェロ、あなたは何時までも私をお姉ちゃんと呼んでくれないのですね……」
悲しそうな顔をするバーサーカー。頬から一筋の涙(目薬)が零れ落ちる。
もっとも、アーチャーの目にはあくまのような笑みを浮かべるバーサーカーの顔が幻視できたが。てか、その名前で呼ぶかと内心ツッコミを入れる。
「いえ、例え旦那様に戸籍上は息子としていただいても、私はアインツベルン家の執事ですので」
「えっと、そっちの方は士郎じゃないの?」
「ええ、申し送れました。こちらは当家の執事で私の義理の弟でもあるシェロ・アーチャー・フォン・アインツベルンです」
「はじめまして、藤村様」
紹介されたアーチャーもまた、優雅に一礼をする。
不思議なもので、(あたり前だが)外見こそ士郎と大差が無いのだが、こうやって一礼する様は堂に入っており、熟練の執事の貫禄すら見せる。
「でも、執事といったらタキシードに仮面にシルクハットで……『わははは、また会おう明智君』って感じじゃない?」
「それは怪盗だ、藤ねえ」
妙な連想をする藤ねえに、士郎が冷たくツッコミを入れた。
「そのような服装がよろしければ、そちらに着替えますが……。旅の間ぐらいはラフな格好でとお嬢様が……」
「せっかっく堅苦しい家から出れたんですから、その間ぐらいはラフでお洒落な格好をしてもらいたいわ」
プーっとむくれるバーサーカー。少し貴族としての彼女から遠ざかった。
「申し訳ございません。お嬢様が普段着をお望みなので」
「そ、そうなんだ。でも後でタキシード姿も見せてね。士郎と二人で着ているところ見てみたいな」
「そうね、それは面白そうね、アーチャー」
「お嬢様がお望みなら」
内心苦虫を噛むアーチャー。絶対爆笑されると確信している。もっとも、爆笑されるのは士郎だけだろうからかまわないのだが。
「藤ねえ。そういうわけでしばらくこの人達を家に泊めるから。わざわざ外国から親父を訪ねてきた人を無碍には出来ないぞ」
「そ、それならしかたないわね、そちらのお姉さんはちゃんとした人みたいだし……。
うん……って、言うとそちらの女の子たちも?」
「はい、当家の使用人でセイバー一号と、セイバー二号、ライダーです」
その名前は無いんじゃないかーと、士郎と凛は思ったが、あえて口にはしなかった。
「え、それ人の名前?」
当然と言えば当然の疑問を藤ねえは口にする。
「いえ、愛称のようなものです」
「我が家のしきたりなもので……」
「気にしないでください、タイガ」
「しきたりか、なら仕方ないわね」
「納得しちゃったよ!」
「しきたりなら仕方ないじゃない。当人が納得している以上は文句を言わないのが大人なのだ。
でも、こんなに使用人を連れて旅行するなんてすごい家ねー」
驚愕する士郎に、えへんといばる藤ねえ。もっとも、何人も若い衆が出入りする家のお嬢さんの台詞ではない。
「えっと、使用人ならさっきの遠坂先輩のメイド姿は……?」
「はい、彼女たちの服なのですが、凛がどうしても一度着てみたいと言うので」
あくまだ、あくまがいる。士郎とアーチャーの背中に冷や汗が流れる。
「う、うん、きょ、きょうみがあったのよ」
棒読みだ。何かの屈辱に耐えているような棒読みだった。
「そ、そうですよね。遠坂先輩がネコミミメイドで『にゃん♪』なんて言わないですよね」
「そ、そうよ……きっときのせいよ」
内心血の涙を流す凛。
「って、何で遠坂さんまでいるのよ?」
「何で気がつかないんだよっ! 藤ねえ!」
「私もしばらく衛宮君の処にご厄介になることになったので……」
さらりと、爆弾を投下する凛。
「そっかー、今日から一緒に住むのかー」
なるほどとなるほどと、納得してぐぐーっ、とお茶を飲み干す藤ねえ。
「って、なんで遠坂さんまでこの家に住み着くのよー!」
再び咆哮をあげる冬木の虎。どっかーん、とひっくり返るテーブル。
なんか、先ほどのバーサーカー達の時よりも反応がでかい。なまじっか知っている人だけに許容できないのかもしれない。
テーブルに残っていた味噌汁やご飯やつくね煮込んだ鍋ものをひっかぶるアーチャ。『何故私がっ! またかっ』と、悲鳴を上げる。そりゃ、背中に熱々のつくねが入ったら大変だろう。
てか、生前に何があったのだか……。
「藤ねえ! テーブルをいきなりひっくり返すなよっ! 危ないじゃないかっ!」
「うるさーい! アンタこそなに考えているのよ士郎! 海外からのお客さんならまだしも、同い年の女の子まで下宿させるなんてどこのラブコメだい。ええいわたしゃそんな質の悪い冗談じゃ笑ってたらないんだから!」
「笑いを取るつもりなんかねーってば……!」
横で熱さにのたうち回るアーチャーを見ながら、士郎は何とか反論をひねり出す。
もっとも、藤ねえを論破したのは凛だったけれども。
かくして、衛宮邸に住人が一気に増えることになった。
「間桐さん」
不意に、アーチャーが桜に声をかけた。
時刻は登校間際。玄関先には準備を整えた士郎と凛が待っている。藤ねえはすでに先に学園に出かけてしまった。
「なんでしょう、シェロさん」
「アーチャーとお呼びください」
執事口調で話すアーチャー。
もっとも、桜は警戒を緩めない。無理もないと、アーチャーは内心苦笑をする。
なぜなら間桐桜は■■■なのだ、いやそれどころか■■■■の正規の■■■■だ。■■■■とこの家で顔をあわせてよく自制できたものだと感心する。
まぁ、それ以外にも衝撃的な内容が多かっただけかもしれないが。
「何の御用ですか? これから学校に行かなければいけないのですが」
「いえ、お手間は取らせません」
「いえ、お手間は取らせません」
シェロさん……いや、アーチャーさんは私にそう言った。
正直、すごく怖い。彼はきっと■■■■■■だ。■■■■は■さんか先輩か判らないけど私が■■■■だと気が付いているのかも……。いえ、でもそれならこの家には入れなかったはず。でも■■■■が居る以上、すぐにばれる。
どうしたら、どうしたら……。
思考が上手くまとまらない。
ひざが震える、心が萎縮する。
「大丈夫だよ、桜」
不意に、アーチャーさんが私に微笑みかけた。
その笑みは先輩と同じ笑み。優しくて、切なくて、どこか歪な……とってもキレな笑み。
何故だろう、すごく安心する笑み。
「俺は正義の味方だから」
「えっ?」
それは、先輩の望み。先輩の夢。私がまぶしいと思った先輩そのもの。
「───」
小声で、アーチャーさんは私に何かを言った。
アーチャーさんの手に、何か握られていることに私は気が付いた。
それは、手の中に納まる程度の……小さな真っ赤な杭。
「“──偽刺し穿つ──死棘の槍──”(ゲイ・ボルク)」
アーチャーさんの口から漏れる、杭の真名。
その言葉と共に、間桐桜の心臓は破壊された。
「あっ……」
私の口から小さな悲鳴が漏れる。
聞こえる悲鳴。巻き起こる怒号。
間桐桜はこれで死ぬ……仕方ないのかもしれない。
せめて、先輩に告白したかった。
せめて、■さんと呼びたかった。
でも、これでおしまい。
■さんがアーチャーさんにすごい剣幕で怒鳴り、私を抱きしめる。
先輩も、恐ろしいほどの怒気をこめてアーチャーさんに殴りかかる。
なんか、その光景がすごく嬉しかった。
ああ、この人達は私を愛してくれているんだって、愛される資格なんて無いはずの私なのに、すごく嬉しい。
生きたい。生まれて初めてかもしれない、この瞬間私はそう思った。
でも、間桐桜はこれで死ぬ。
でも、私はアーチャーさんを恨む気にはなれなかった。
だってアーチャーさんは私にさっきこう言ったのだから。
「大丈夫だ、桜。絶対に助ける」
だから、きっと大丈夫だよね……。
だから、姉さん……なか……ないで……。
続くっ!