とある英霊と魔女と聖職者

 

 

 人気の無い雑木林で、一人の男を挟み二人の少女が対峙する。

 年頃の男女が三人。普通ならば、何か色めいたモノを考えるだろう。

 ましてここは学園の裏。若い男女が青春を謳歌する学び舎の側。人には言えぬ秘めた思いを打ち明けるには絶好のロケーション。

 だが、そんな甘ったるいモノは欠片も無い。

 二人の少女を庇うように、二人の騎士が対峙する。あるのは只、冷たい殺気と心地よい緊張感。

「──こんなに早くわたしの領域に踏み込んでくる奴がいるとは思わなかったわ」

 黒髪の少女──遠坂凛が冷たく言い放つ。

 一見すると緊張している様に見えるが、口元には笑み。

 険しい状況になればなるほど、この少女は輝きを増していく。

「その割には……ずいぶんと外道な結界が張ってありますね。それとも、あれは貴女の?」

 銀髪の少女──カレン・オルテンシアがサラリと口にする。

「違うわ」

 って、やば、忘れてた……。

 表情にこそ出さないが、内心自分の迂闊さに焦る。

 そういえばここ数日ドタバタしていたせいで、ライダーの張ったいかがわしい結界を解除させるのを忘れていた。

 桜の護衛で学園にいるはずなので、後で解除させなければ。

「自らのテリトリーと称する場所にあんな結界を放置しているなんて、この土地の管理者としては失格ね」

「色々と事情があるのよ」

「事情が何であれ、あんなものを放置している段階で役立たずね」

「後でちゃんと解除するわ」

「夏休みの子供の宿題と一緒。『後でちゃんとやる』なんて言って、やったためしが無い。そのまま、仮題を出し忘れた挙句赤点をもらう」

「何の話?」

「いえ、こちらの話です。で、いまいち役に立ってない管理者さんが私に何の御用ですか?」

「喧嘩売っているわけ? ランサーのマスター」

 凛が笑顔で受け答えをする。ただ、頬がぴくぴくと痙攣しているけど。

 カレンの背後にいるランサーが、ものすごく嫌そうな疲れた表情をした。

「いえ、純然たる事実を言ったのみです。私が貴女相手に喧嘩を売る理由などありませんから」

 そう言うとカレンはニッコリと天使のごとき微笑を浮かべる。

 ただ、真の悪魔こそ天使のふりをするんだけど。

 一方、もう一人のあくまは、ランサーに視線を向ける。

「ふーん、どうだか。じゃあ、貴女の後ろにいる青いのは何なの?」

 アレがランサーのマスターなら、彼女が士郎に標的を定めた理由は良くわかる。

 凛の視線に僅かながら殺気が篭る。回答次第では即、命のやり取りとなるだろう。

 だが……。

「コレですか? 拾いました」

「へ?」

 アイルランドの大英雄、コレ扱い。

 登場するたびに扱いが酷くなる現実に、ランサーは内心涙をする。

「ですから、拾いました。主人とはぐれて『さみしいよー』とないていたので、保護しました。餌(魔力)の供給こそやっておりますが、私は聖杯戦争のマスターではありません」

 なんか、『ないていた』の部分が妙に強調されている。イントネーションもちょっと違うし。

「人を強引に拉致したんだろうがよ……」

 ランサーの疲れきった呟きに、アーチャーがうんうんと頷く。

「女の細腕でそんな事できると?」

 だが、カレンはしれっと言う。

 二人のサーヴァントの思いがリンクする。すなわち、嘘つくんじゃねーと……。

「強引に拉致されたなら、なんだって付き従っているんだ?」

 士郎が呆れた声を上げる。

「いや、あのままじゃ消滅するだけだったから、軽い気持ちで護衛を引き受けたんだが……。なんか、いつの間にかゲッシュまで結んじまってて……」

「つくづくマスター運が無いな、君は」

 アーチャーが同情の声を上げる。この皮肉が多い男にしては珍しい。

「ああ、まったくだ。戦えればいいなんて早まったマネをするんじゃなかったぜ」

「酷い言い様ね。駄犬の分際で主人に文句を言うなんて。

 去勢するところだわ、この早漏」

「犬扱いするんじゃねえっ! てか、何だ今の問題発言は!」

「あっ。

 気にしないで、今のは嘘偽りの無い私の本心ですから」

 申し訳なさそうに、今のはホントのことだから気にしないでくれ、とフォローするカレン。どうやら、彼女の中ではこの程度の罵倒はデフォルトらしい。

「で、だったらあんたらは一体何者なのよ?」

 凛がぞんざいな口調で尋ねた。緊張感がどんどんと薄れていっている。なんか今回の聖杯戦争はこんなことが多くないか?

「私ですか? 聖堂教会代行者、第七位……」

「うそっ、まさかこんな女の子があの弓!?」

 少女の言葉に凛が驚愕の声を上げる。

「嘘です」

 凛が無言でガントを無差別乱射する。

 アーチャーが逃げ回り、ランサーが槍で呪いを弾く。数発が士郎に当たったような気がするが、とりあえずは無視。

「で、次にふざけたらランサーごと吹き飛ばす」

 指の間に大量の宝石を挟み、凛がじろりと睨む。

 もっとも、カレンは気にする様子も無く言葉を続ける。

「ちなみに昨日までは本当にいたのですが、既に帰っています。北海道にスープカレーを食べに行くとか……」

「そんな事どうでもいいわ。で、あんたは何者なの?」

「はい、聖堂教会から派遣された査員兼聖杯戦争の監視役代行です」

「それも嘘なのね」

「いえ、これは本当です」

 凛が疑いの視線を投げがける。見ている士郎が震え上がるが、カレンには通じない。

「どうやって信じろと?」

「別に今は信じなくとも構いません。後ほど正式に挨拶に伺いますので」

「ずいぶんと潔いのね。

 ──でも仮に本当だとしても、無断で学園に潜り込んだ異分子をわたしが見逃すと思うの?」

 凛が挑発的に笑う。

 だが……。

「なるほど、意訳すると『わたしの男に手を出した泥棒猫め五体満足で帰れると思うのか、ゴラァ』と言う事ですね」

「どういう意味よっ!」

 真っ赤になってがあぁっと吼える凛。こういった方面でのからかいには随分と弱い。

「いえ、そのままの意味です。でも、気をつけないとそのタイプは、あっちの女性に手を出し、こっちの女性に手を出しとフラフラ。ケダモノのごとく遊び歩く癖に、人が善いからついつい許してしまうという悪循環に」

「人聞きの悪いこと言うなっ!」

 カレンの評価に士郎が猛抗議を上げるが、無視される。

「随分と詳しいのね」

「いえ、単なる一般論です。お薦めは首輪をつけての飼い殺し、ラッキーカラーは鮮血の赤」

「どっちかって言うとそれのラッキカラーは青じゃない?」

 不穏な会話を続ける二人の少女に、この場にいる男性陣の血の気が引き、顔色がそれこそ青くなる。

 思わず隅っこに固まり、ヒソヒソと会話を開始する。

「ランサー、なんだってアレを連れてきたのだ、君は」

「いや、心底悪いとは思うけどよ……。何だか知らないが逆らえねえんだ」

「嫌よ嫌よも好きの内ってやつか?」

「断じて違う。なんて言うか、平行世界を越えた苦手意識というか……」

「多分、それは座に溜まった記録だろうな」

「げっ、マジかよ……。帰ったらキッチリ整理しないとダメだな」

 

「そこっ! 和んでるんじゃないわよ!」

 

 凛の怒鳴り声に、慌てて飛び退くアーチャーとランサー。いつの間に取り出したのか、地面に封の開いたポテトチップカレー味と缶コーヒーが置いてある。

 まるで、コンビニ前の学生である。

「マスターをほっといて雑談とは。召喚者を守れない役立たずな上に、職場放棄ですか?」

 カレンの言葉にランサーが渋い表情を作った。

「おいおい、戦うっていうのなら幾らでもやってやるがよ、今回は挨拶と情報収集だけじゃねえのか?

 争い事は極力避けろって事前に念を押したのはアンタだろう」

「そうでした。心弾ませる会話につい忘れるところでした」

「今の会話で心弾むのか?」

 カレンの言葉に、士郎が再び呆れ声を上げた。

「ええ、とても。

 ──私が何者か信じる信じないは勝手ですが、先ほど申し上げたように後ほど正式にご挨拶に向かいますので」

 そう言うと、カレンは踵を返す。

 会話はコレまでとばかりに立ち去ろうとして、ふと足を止めた。

「ところで教会爆破の件ですが、何かご存知ありませんか?」

「残念ながら」

 冷たく言い放つ凛。士郎は何か言いかけて……凛に視線で制される。

 もっとも、カレンも返事を期待してはいなかったのだろう。特に落胆する様子も無かった。

「そうですか。

 ──そうそう一つ挨拶代わりに。ランサーが柳洞寺に魔術の痕跡を見つけたそうです」

「魔術の痕跡?」

 カレンの言葉に反応したのはアーチャーだった。

「ええ、そこそこ古いようなので詳しく調べていませんが。では」

 そう言うと、カレンとランサーは本当に立ち去っていく。

 

「なんなのよ、アレは」

 カレンの立ち去って行った方角を睨みながら、凛は吐き捨てるように言った。

「自己紹介通りだろう。教会の調査員役兼監視役だ」

「なんだって断言できるのよ……って、あ、そういう事?」

 断言するアーチャーに凛は一瞬だけ不思議そうな顔をするが、すぐに納得をする。

「ああ。生前に何度か会っている。正直関わり合いになりたい相手ではないな」

 アーチャーは、生前のトラブルを思い出しつつ顔をしかめた。

 この町での彼女がらみのトラブルの大半は、彼女単独ではなく遠坂凛とセットで起きている。欧州で関わった時は、既にトラブルが起きている土地での再会だった。

 この場合、遠坂凛+トラブルの起きている土地だから、どれだけ苦労するか……、まあ、苦労するのはアーチャーではなく士郎のような気もするが。

「この時代は……代行者の見習いだったはずだ」

 言葉をぼかす。本来の彼女は生きた怪異探知機。霊媒体質の彼女は、その身の傷を持って代行者に怪異の存在を知らせる異能。

 彼女自身がその生き方を納得しているとはいえ、その歪さは決して面白い話しではない。

 もっとも、歪さでは衛宮士郎……自分自身も大差が無いと、すでにアーチャーは自覚している。

「私の過ごした歴史では半年以上後に出会うはずなのだが……」

「人物照会と相手の能力がわかるだけで十分よ」

「でも、それなら教会の件を教えても良かったんじゃないか?」

 二人の会話に割って入った士郎に、アーチャーが呆れ果てて天を仰ぎ、凛が絶句する。

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、まさかここまでとはな」

「なんだよっ!」

 アーチャーの皮肉に、むっとした表情を見せる。そんな士郎に、凛は笑顔で語りかけた。

「衛宮くん」

「と、遠坂?」

「アーチャーの話じゃ教会の人間ってのは確かみたいだけど、カレンが敵にならないって保障はないのよ」

「でも、できるならちゃんと話して協力を取り付けた方が良くないか?」

「あのね、士郎はこっちの世界に疎いみたいだけど、もともと代行者ってのは教会の命によって死徒みたいな人外の化物を狩る存在よ。いい、重要なのは教会の命によって動いてるってことで、無償で働いてくれる正義の味方じゃないの」

「えっと、それは……」

 かつて正義の味方を目指した男が引き継ぐ。

「そのままの意味だ。場合によっては敵対する可能性もありえるということだ。まあ、素直に命令だけを聞くようなタイプでもないが」

「それにああいった手合いは下手に内に取り込むと混乱の種になるわ。絶対に身内をおもちゃにして遊ぶタイプよ」

 それは凛の事じゃないかなーと思う士郎だったが、その疑問を口にするほど命知らずではなかった。

「君が言うかね」

 いや、命知らずが一人。

「うるさいっ!」

「ふごっ!」

 無論、凛の鉄拳制裁にのた打ち回る事になったが。

 なんで一言多いんだかと、未来の自分に一抹の不安を覚える。

「いい、あらゆる意味で出来うるなら関わらない、関わるにしても最小限にとどめておくべきよ」

「同感だ」

 すぐに復活したアーチャーが同意する。そんな漫才を繰り広げる二人を眺めながら、士郎は思ったことを口にする。

「えっと、つまり二人ともカレンが苦手って事か?」

「貴様もいずれわかる……」

 アーチャーが心底疲れたような口調で答えた。

 てか、生前何があったのか聞きたいような聞きたくないような、そんな恐怖に駆られる。

「それに、それ抜きにしても教会を爆破したのはキャスターとバゼット一味よ。彼女は魔術師教会の封印指定の執行者、綺礼が先に手を出したとしても、一方的に代行者だけに情報を伝えるのはまずいわ」

 組織間のパワーバランスというものがある。綺礼を抹殺するだけならまだしも、教会ごと吹き飛ばすというのは二つの組織に軋轢を起こすには十分すぎる出来事だ。

 

「へえ、アレをやったのはバゼットだったのか」

 

 不意に、彼らの背後から声がかかる。

 声の主は、カレンと共に去ったはずのランサーだった。

「ランサー!」

 突然の登場に、凛と士郎が飛びのき、アーチャーが身構える。

「おいおい、俺は今日はやる気が無いんだって。俺はそれでもいいんだがよ、アイツにばれるとどんな嫌味を言われるか……」

「ホントに大変そうだな」

「ああ……」

 げっそりとした表情のランサーに、思わず士郎は同情の声を上げる。

「というわけだから、伝言を持ってきただけだ」

「そのついでに、盗み聞き? いい趣味ね」

「結果的にそうなっちまったけどよ、お前らだって警戒しないで話していただろう」

「そうだけどね。参考までにどこまで聞いていたの?」

 鋭い視線を向ける凛に、ランサーは笑みを浮かべる。同じ『いぢめっこ』でも、こっちの少女の気性は好みらしい。

「バゼットが教会を爆破したって所だけだ。本当か?」

「隠しても無駄みたいね……、本当よ」

「そうか」

 そう言うと、ランサーは一瞬押し黙る。

「気になっているのか?」

「まっ、最初……ってか、唯一気に入ったマスターだし、少しな。

 ──あんがとよ」

 どこか優しげな、そして戦士の悲哀が篭った微笑を浮かべ、ランサーは礼の言葉を口にする。

「ちゃんと貸しにつけておくわよ」

「チャッカリしているな、嬢ちゃん。ま、そういう事にしておいてやるよ」

 ランサーはニカリと笑うと、立ち去ろうとした。

「ちょっと、伝言はどうしたのよ?」

「おっと、忘れるところだったぜ」

 凛の言葉に、慌てて立ち止まる。

「カレンから伝言だ。『授業に遅れますよ、先輩方』だそうだ」

「あっ」

 時計を見ると、すでに昼休みはとっくに終わっていた。

 

 

 ちなみに、昼休みが終わってすぐの授業は藤ねえの英語だった。

 遅刻をした士郎に叫ぶ、泣く、喚く、ダイブする、怒り狂うといった奇行の限りを尽くした虎を取り押さえた為か、妙に士郎の背中が煤けていた。

 今日も一日命があってよかったと、士郎は安堵の溜息をする。少し日が霞んで見えるのは、きっと夕日がまぶしいからさ。

「てーへんだてーへんだ、衛宮のダンナ!」

 なにやら黄昏ながら帰り仕度をしている士郎にクラスメートの一人が話し掛けてくる。

「なんでえ、ハチ……じゃなくて、どうしたんだ後藤?」

 思わずクラスメートの変なノリに付き合ってしまう。ちなみに彼の名前は後藤、前日に見たTVにより口調が変わるという愉快な個性の持ち主である。

「ヘイ、衛宮のダンナに話しがあると、遠坂の姐御が」

 遠坂に姐御って似合うなーなどとぼんやり考えながら、後藤が指差す場所を見ると赤いコートに身を包んだ凛の姿があった。普段は一個旅団の猫部隊を配備して優雅に微笑んでいる事が多い遠坂だが、今は不機嫌そうにこちらを睨みつけている。

「えっと……」

「あっしは伝えましたでゲス。では、これにてご免、ジェーット!」

「色々混ざりすぎだ、後藤」

 混ぜると危険だとツッコミを入れながら、士郎は廊下の凛をあらためて盗み見る。

 なんか、すごく不機嫌そうだ。口をへの字にまげ、半眼でこちらをジーっと睨みつけている。

 左を見る。窓だ……ここから脱出は……やってできない事はないけど、魔術師とばれるとまずいので

不可能。

 右を見る。

「って、うわわわっ!」

 おそらくは男女関係に関しては学園一のにぶちんである士朗だが、その境遇ゆえか人の気配には案外鋭い。

 廊下でこちらを睨む凛。これは……よくないけど、まあいい。

 問題はクラスメート(男子限定)だ。まだ教室に残っていた生徒までもが士郎を睨みつけている。

 なんか、殺気をヒシヒシと感じないか? ちょっと、微妙にピンクだけど。

 ここに来て、士郎は逃げ道がない事を悟る。十三階段を登る覚悟で鞄を掴むと、廊下に出て凛に声をかけた。怒らせると危険なのは、男子生徒より凛だ。

「衛宮くん、待っていたわ」

 凛は、女神のような笑顔を浮かべる。ただし、女神といってもヘラとかパールヴァーティーとか鬼子母神とか、そっち方面の女神。

「と、遠坂……どうしたんだ?」

 服の下で冷や汗を流しながら尋ねる。

「貴方に用があって。ちょっと付き合って」

 そう言うと凛は士郎の腕を強引に引っ張っていく。

 背後で『間桐桜にカレン・オルテンシアに、さらには遠坂凛だとっ! 衛宮士郎、あやつどこまでぇ!』などという怒号を聞きながら、明日は言い訳が大変だろうなーと人事のように考えていた。

 

 

「な、なあ遠坂?」

 強引に引っ張られながら、士郎は恐る恐る声を上げる。

「なに、士郎?」

 だが、予想に反して凛の声は普段の声に戻っていた。

「あ、いや。なんか不機嫌そうだったから」

「別に不機嫌でも何でも無いわよ。士郎が気にする事じゃないわ」

 振り向きもせずにそう言うと、さらに歩みを速める。

「そうなのか?」

「そうよ、それよりもちょっと付き合ってもらうわよ」

「つきあう?」

 一瞬、別の意味を想像して赤面する士郎だったが、すぐに頭の中に浮んだ妄想を打ち消す。

 遠坂が自分にそんな感情を抱いてる筈なんて無い。おそらくは聖杯戦争がらみの何かだろう。

 半分は正解だが、やっぱりにぶちんである、士郎は。

「何かあったのか?」

「何かあったって……マジボケ?」

 掴んでいる手に力が篭る、ちょっぴり痛い。

「いや……俺に用って事は、戦争がらみだろう? こんな急に動くって事は突発的に何か起こったってことか?」

「あんたね……魔術師だったら少しは頭を使いなさいよ」

 呆れた様子の凛だったが、やっぱり振り向かない。

「頭を使うって……、まさか、カレンの所に襲撃を!?」

 不意に、士郎の頭の中にカレンを襲撃する凛の図が浮ぶ。

 

 

『おうおう、来たかカレン』

『何の用ですか、先輩方』

『カレンさん、最近“ハイテナイ”がうけているからって、調子に乗りすぎじゃないですか』

『間桐先輩、いくらアニメ版では出番が無くて、このままだと折角ランクアップした人気がまた下がりそうだからって、人にあたらないで下さい』

『がふっ!』

『さ、桜!』

『あ、ライダーはアニメ版ではあっさりと退場でしたね』

『ぐふぁ!』

『あああ、サクラとライダーが死んじゃった』

『死んでないって』

『あっ、イリヤさんはhollowでは、新しい立ち絵が水着姿だけで出番が……』

『うわーん、シロウー!』

『あっという間に三人も……』

『ええ、どうせ私はアニメ版に出番はありませんから。そう言えばセイバーはアニメ版で廃屋のシーンは評判が……』

『む、無念』

『そ、そんな! 型月のハイテナイは化け物かっ! あんたって人はー!』

『事実を指摘しただけだから気にしないで下さい。そう言えば凛はナイチチイロモノ路線が定着して……。hollowでセイバーは胸が増量されてましたが、その影で凛は……』

『うるさーいっ!』

 

 

「何想像しているのよ」

「い、いや……ちょっと電波が」

 頭の中に浮んだ電波を強引に振り払う。

「? まあいいわ。

 そりゃ、カレンを襲撃したいけど……」

「やっぱり、するのかよっ!」

 何となくだが、先ほどの電波どおり返り討ちにあう図だけが克明に浮ぶ。

「まっ、アレはしばらく様子見。教会関係者に手を出す訳にはいかないし。

 ──それよりも、カレンが昼間言っていた事を覚えていない?」

「昼間言ってたこと?」

 はて、と思い出す。そういえば……。

「柳洞寺に魔術の痕跡があるってやつか?」

「そっ。それを日の高いうちに調査に行くわよ」

「目立たないか?」

 魔術は人目に触れさせてはならぬもの。昼間に調査では目立たないかとの疑問を口にする?

 めずらしく魔術師らしい意見に、凛は感心したと前置きをしてから理由を語った。

「それも考えたんだけどね、桜のことがあるでしょう」

「あ、そうか……」

 桜の心臓に何者かが使い魔を潜ませるという事件がおきている。本当の事は桜には隠しているが、安全の為にしばらくは衛宮邸に寝泊りするようにと言いくるめていた。

 ライダーが常時護衛をしてくれる事になっているが、魔術師が本格的に動く夜間はできるなら彼女達だけにはしたくは無い。

「セイバー達も呼んであるわ。カレンの話を信じるなら痕跡は古いらしいから、簡単な調査で終わるはずよ」

 短時間で終わらないとするなら、それはそれで放置して置く訳にはいかない。

「セイバー達を呼んだのか? どうやって?」

 純粋な興味で士郎は尋ねた。

 何時連絡を取ったのかわからないが、学園から出たりアーチャーに伝言をさせた訳ではないだろう。何らかの魔術的手段だろうか?

「携帯電話で」

「あっ」

 真に偉大なのは文明の利器であったか。

「そのぐらい思いつきなさいよ」

「君が言うかね」

 不意に、背後の何も無い空間から声がする。

「携帯電話を家から持ち出したのも使ったのも私だろう。忠告しておくが携帯電話は持ち歩いてこそ意味があるのだ、食わず嫌いをしないでかけ方ぐらいは覚えるべきだぞ。とりあえず、君がよく電話をかけそうな所は登録しておいたが、ここで覚えておかねば何年経っても君は……ふごぉ、れ、霊体を殴るなぁ」

 凛が無言で腕を振り上げた先から、なにやら悲鳴が聞こえてくる。

 悲鳴の正体を確認する勇気も無く、脳内で演奏されるドナドナを聞きながら士郎は凛に引っ張られて行くのだった。 

 

 

 到着したのは昼間の雑木林の一角だった。

 すでにセイバー達が待機をしている。

「ごめん、二人とも。待たせちゃった? あれ? バーサーカーは?」

「いえ、私達も今到着したところです。バーサーカーはヘラクレスが心配だから家に残ると」

 答えたのはセイバー一号だった。二号も同意とばかりに頷く。

 二人の格好は、凛が持ってきた私服姿だった。

 一号は白いTシャツにジーンズ、それにスニーカーという活動的な格好で、寒いのか上に黒いパーカーを羽織っている。よく見たらパーカーは士郎のだったが、よく似合っているので問題は無い。

 一方二号は何時もの白いブラウスと青いスカートだ。見慣れた姿ではあるが、やはりよく似合っているが、どことなく不満そうだった。

 同じ服装だとややこしいので、あえて違う服装できたのだろうか。

「どうしました? シロウ?」

「いや、よく似合っていると思って」

 士郎の素直な感想にセイバー一号が一瞬嬉しそうな表情をすると、すぐに凛の背後を睨みつける。きっと霊体化しているアーチャーを睨んでいるのだろう。

 一方、二号は不満を漏らす。

「出かけるからといって、着替えなくとも」

「二人とも同じ格好ではややこしいでしょう」

「それはそうですが……」

 まだ不満そうな二号だったが、確かに双子以上にそっくり(というよりも同一人物)な二人が同じ服装では、ややこしい上に目だって仕方ない。それに別に着飾っているわけでもなく、動きやすい服装になっただけと言えば、その通りだ。

 とは言え、このもう一人の自分に対する違和感が拭えないのも事実だった。

「それよりも……」

 そんな二号の葛藤を知ってか知らずか、一号はそれまでの表情を一転させ、真剣な表情をとる。

「柳洞寺ですか……」

「そうよ、何か思い当たる事があるの?」

「私達の時は、キャスターの本拠地だったからな」

 アーチャーが実体化しながら答える。

「そういえば、そんな事を言っていたわね……、って、なによ、その格好は」

 実体化したアーチャーの服装は何時もの赤い外套ではなく、黒いシャツに同色のズボンと言う平凡な服装だった。ちょっぴりホストっぽい。

「敵がいる訳でもないのに軍装で実体化してみろ。もし人に見られたらどう言い訳するのだ……、まあ、悪い噂が経つのはそこの小僧だから問題は無いが」

「あるぞっ!」

 思わず怒鳴り返す士郎に、アーチャーは苦笑をする。

「何処で買ったのよ、それにお金は?」

「投影した。君のへそくりには手をつけてなどいないから安心しろ」

 本来のエミヤの魔術は武器──、剣専門なのだが、他の品も投影して出来ないことは無い。武装も魔力も概念も篭っていない普通の服程度なら、さほど労せず投影できる。

「便利ね……、あんたらの魔術」

 凛は思わず半眼で士郎とアーチャーを見る。よからぬ事を考えているのかもしれない。美術品を複製させて儲けようとか……。

 何か不穏な物を感じたのか、士郎が慌てて話題を修正する。

「で、でもそれじゃあ二人は柳洞寺で戦ったのか?」

 士郎の言葉に、アーチャーとセイバー一号が顔を見合わせる。

 

──あの長い階段。引き戻して二人で静かに暮らす、それはどれだけ魅力的な提案だっただろう。しかし、二人にはそんな選択肢は無かった。

──相対する敵は、最古の英雄王と狂った聖職者。

──聖杯に捧げられる、銀の少女。

──命がけの戦い、溢れかえる呪いの泥、宝具の雨。

──金色に染まる世界。夜と朝が交差する刻。

──少女は若者にその思いを告げる。

──シロウ、貴方を愛している。

──若者の返事も待たず、一陣の風と共に消え行く少女。

 

 それは、二人の別れの時。

 切なさ、誇り、愛しさ……さまざまな感情がセイバー一号の中で渦巻く。

「くっくっっ……」

 だがそんな思いは、アーチャーが含み笑いに打ち消される。

「あ、アーチャー?」

「ど、どうしたのよ。何か悪い物でも食べたの?」

「君達と同じ物しか食べていないが。

 いや、ちょっと思い出してな。ちょうど今日の夜だったなアレは」

「なっ!」

 アーチャーが何を思い出しているのか気がついたのだろう、セイバー一号が顔を赤くする。

「し、シロウ! それは!」

「え? 俺?」

「いえ、貴方ではなくアーチャーの方ですが」

 狼狽するセイバー一号を横目で見ながら、アーチャーは含み笑いをやめない。

「気持ち悪いわね。なに思い出してるのよ、あんた」

「いやな、私の時も今日キャスターが柳洞寺に陣取っている事を知ってな」

「シロウっ! ……もがっ」

 慌ててアーチャーを止めようとするセイバー一号だったが、二号が背後から一号の口をふさぐ。

「アーチャー。続けてください」

「ああ、セイバーもアーチャーも私の時は負傷しててな。遠坂と相談してしばらくは様子見をしようという話になったのだが……」

「もがっ! もがっ!」

 アーチャーの暴露話を一号が止めようと必死になるが、二号が捕らえて放さない。

「一人で勝手にセイバーが飛び出してしまってな。いやいや、あの時は慌てたものだ」

 しみじみと語るアーチャー。セイバー二号が一号から手を放しながら冷ややかな声を上げる。

「ほぅ、一号。主が立てた作戦を無視してそんな事を」

「あ、あれはっ……シロウがあまりにも頼りなかったから!」

「そうストレートに言われると傷付くが……、アサシンが見逃してくれなければ拙かったのはどっちかな」

 ニヤニヤと性格の悪い笑みを浮かべるアーチャーに、二号が全くですと同意する。

「一号、自らの状態を把握できずに主に迷惑をかけるとはどうかと思いますよ。戦力把握が出来ていないとは。ましてアサシンごときに負けるとは情けない」

「ま、負けてなどいません!」

 真っ赤になって怒鳴るセイバー一号に、アーチャーは助け舟(?)を出す。

「いや、今思い出せばあの剣士は……純粋な剣技だけなら君に匹敵するか、あるいは上回っていたかも知れんぞ」

 思い出すのは月下の邂逅。アーチャーが彼の剣技を見たのは僅かな時間なれど、魔技と呼ぶのに相応しい剣の冴えだった。

「ほう、そんな剣士がいたのですか。興味深い」

 キランと目を輝かす二号に、アーチャーは苦笑いを浮かべる。

「私が見たのは僅かな時間だったので、彼の刀から読み取った情報に過ぎないがな。その辺は一号に聞いてみるといい」

 そう言って一号を見る。

「なっ!」

 セイバー一号はすごくにこやかな笑みを浮かべていた。ただ、右手が何やら唸りを上げ、風が渦巻いている。

「まさか、シロウに剣の講釈を聞くとは思いませんでした」

「いや、ちょっとまて、セイバー」

 待ってくれなかった。

 可愛らしいとさえいえる笑みを浮かべ、セイバー一号が迫ってくる。

「そういえば、私がシロウに稽古をつけてからシロウがどれだけの時間を過ごしたのか知りませんが……。

 どれだけ剣の腕が上達したのでしょう」

 ブルンブルンと振るわれる風王結界。

「いや、少しは上がったとは思うが……とりあえず落ち着け、セイバー」

 からかいすぎた。アーチャーが慌ててセイバー一号を止めようとする。

 しかし、遅かった。

「ふふふふふふ、それではシロウの師匠として腕を確認させてもらいましょう」

「うぎゃー、ちょっと落ち着けー!」

 そして始まる追いかけっこ。

 逃げ回るアーチャーと周囲の木をなぎ倒しながら突進するセイバー一号。

 そして、それを見送る二人のマスターとセイバー二号。

「ど、どうしましょうか……」

 呆然と見送っていたセイバー二号だったが、思考停止のままマスター達に声をかける。

 何があったらあーなってしまうのか、自分の事ながら不安に思う。もっとも、棚上げしているだけで一号も二号もそう性格が違うわけじゃないんだけど。

「どうしようか……」

 やっぱり思考停止状態の士郎が、生返事をする。

「ほっときましょう。犬も喰わないわよ、あんな喧嘩」

「そ、そうだな……」

 無常にもマスターとサーヴァントは、痴話喧嘩と呼ぶには少々派手な喧嘩(注・アーチャーに対する一方的な折檻)を繰り広げる二人はほっとく事にするのだった。

 

 

 ドタバタ騒ぎの結果、柳洞寺に到着する頃には夕方近くとなっていた。

 士郎と凛、セイバー二号が先に進み、後ろから一号とアーチャーがついてくる。士郎達は振り向かない。なぜなら、追いついてきたアーチャーは妙にボロボロだったから。

 何となく、口を訊くのも躊躇われる雰囲気だった。

 痴話喧嘩のトバッチリを受けるのは、流石に嫌なのだ。

 

 もっとも、彼らが気がつかないだけでそれほど雰囲気が悪かったわけじゃない。

 それどころか、彼らが振り向かない事をいいことに二人だけの会話をやっていた。

「まったく、シロウ……いや、アーチャー。何処をどうすれば貴方はそう捻くれるのですか……」

「悪い、セイバー。でも、まだ聖杯の事は知らせたくないし」

 何処となく、アーチャーの口調が士郎のものに近づいている。

「たしかに……、それは理解できますが……」

 もう一人のセイバーが外道な振る舞いをするなどと思ってはいないが、未来の事はできる限り知らせたくは無いし、余計な先入観を植え付けるのも戦略上良くない。今回この寺に聖杯が現れると言う保証は無いのだ。

「それだけじゃないんだけどな……」

 アーチャーが苦々しい表情を浮かべる。何かを思い出している、そんな表情だ。

「まだ私の知らない何かがあるのですか?」

「ああ、後で教える」

 そう、この地には■■■が存在する。アレも破壊するべきだろうが、今の段階で破壊してしまえばどのような影響がこの地に起こるか判らない。

 なにか苦々しげなアーチャーに、セイバー一号は軽い調子で話題を変える。

「でも、思い出しますね……、この階段は」

「アサシンか?」

「違います!」

 またからかおうとするアーチャーを、セイバーが横目で睨む。

「ごめんごめん。確かに……思い出すな。あの時は夜だったが」

 あの長い階段を登った日、別れの時を。

 実際、アーチャーだって先ほど思い出したのは最後の夜の事だ。

 でも、素直にそう表現できないあたりは、大分捻くれている。

「あの時の言葉……、覚えていますか?」

「ああ、黄金のよ……」

 不安そうに見上げるセイバー一号。そんな一号にアーチャーは……。

 

「ちょっと、二人ともなにノンビリ登ってるのよっ!」

 

 アーチャーが言葉を紡ぐより前に、山門まで登りきっていた凛が声を上げた。

 ノンビリと思い出話ができる環境ではなかったなと、二人は顔を見合わせて苦笑した。

 

 

 山門をくぐると、寺の境内となる。

 近所の子供達だろうか、数人の子供が境内で走り回っている。

「平和そうな光景ですね……」

 セイバー二号が、目を細めて夕日に染まるその光景を見つめた。

 夜の闇の奥底で魔術師達の戦争が起きているとは、とても信じられない平和そうな光景だ。

 それは、少女が思い描いた平和な国、そのままのまぶしい光景。

「そうだな……」

 横の士郎も、走り回る子供達を眺め頷く。

 もはや、彼の記憶の中には存在しない、でも自分にもあっただろう平和な光景に目を細める。

 トテトテと走っていた小さな少女がコテンと転ぶ。近くに居た母親だろうか、フードをかぶった女性が子供に手を貸し起き上がらせる。そして子供達はまた遊びに走る。

 ごくごく平凡な幸せそうな時間の一幕、血生臭い調査に来たことを一瞬だが忘れさせた。

「なあ、セイバー」

 横で、茜色の日を浴びる金の髪の娘に、士郎は声をかける。

「なんでしょう、シロウ」

「セイバーの居た国って……、どんな所だったんだ?」

 それは、何気ない一言。つまらない雑談。

「そうですね……、戦いばかりでした。このような平和な光景は……どこにも無かった」

 平和を願い、握ったはずの剣。しかし、国は荒れるばかり。騎士達も一人、また一人と自分の元を離れていった。

 自分は■として、相応しかっただろうか。自分以外が■となっていたら……、そう思わずには居られない。だから、彼女は最後の瞬間に……。

「セイバー?」

 士郎の声で、セイバーは不意に現実へと戻った。

「シ、シロウ?」

「ご、ごめん。変な事を聞いたみたいで……、なんか考え込んでたから」

「いえ、私こそ……」

 それっきり、二人は黙り込んでしまう。

 どれだけそうして無言で寄り添っていただろうか、遅れて登ってきたもう一人の自分達と、凛が追いついてくる。

「どうしたの、二人とも?」

「いえ、なんでもありません。遅いですよ、一号にアーチャー」

 照れ隠しに、少し強めに文句を言う。

「すいません、二号。ところで何かありましたか?」

「いえ、平和そうな光景だけで……」

 そう言うと、二号は子供達が遊ぶ境内に視線を移す。子供達が遊ぶ平和な光景。

 つまらない日常だけど、何時まで見つめていても飽きない光景だった。

「えっ?」

 だが、不意に二号は気が付く。

 セイバー一号とアーチャーの顔が驚愕……そして、緊張に固まっていることを。

 彼らの視線は、先ほど子供を起き上がらせた女性に集中している。

「あ、あれは……」

「ま、まさか……」

 武装こそしていないが、二人は明らかに戦闘前の様子を見せる。

 自分達の様子がおかしい事に気が付いたのだろうか、先ほどの女性がこちらに向かってくる。

「どうしたのですか?」

 二号の問いかけに、一号がうめくように呟く。

「きゃ、キャスター……」

「えっ。屋敷で見たのと違うっ!」

 凛が小さく叫ぶが、同じサーヴァントが二体以上存在する可能性は否定できない。

 しかし、あの女性からは……。

「しかし、サーヴァントの気配は感じない」

 そう、二号の言うとおりあの女性からはサーヴァントの気配どころか、魔術師の気配すら感じないのだ。

 ちょっとした混乱をする一行の前に、先ほどの紫のフードの女性がやってくる。

 値踏みするように彼らを眺め、口元を愉悦にゆがめる。

 

 ごくりと、誰かが唾を飲み込む。

 

 緊張する一瞬。

 フードの女性が、厳かに言葉を紡いだ。

 

「ねえ、貴女達、私のモデルにならない?」

 

「へっ?」

 緊張をぶち壊しにする一言。

 あっけに取られている彼らに、女性はその思いを告げる。

「あー、二人とも可愛いわね。金の髪小さな胸、男の子みたいな凛とした容姿。そんな極上の子が二人も……。ふふふふふ、しかも服の色が白と黒、プリティでキュアキュアかしら。でも、最近の青と赤のお姫様も捨てがたわいね。

 ねえねえ、貴女達、わたしのモデルに是非なるべきよ、なりなさい、絶対なりなさい。これは神の意思よ」

 そう言うと、女性はセイバー達をぺたぺたと無遠慮に触る。

 あまりの事態に、どちらのセイバーも対処が出来ない。

「うんうん、思ったとおり小柄だけど、ちょっぴり黒い服の子の方が胸が大きいのかしら?

でも許容範囲ね。鍛えているみたいだからどんな服でも着れそうね。

 やっぱりレースの沢山付いた白いドレスかしら? ゴスロリも捨てがたいわね。メイドさんなんてどう?」

「め、メイドはちょっと」

「というか、やめてください……って、シロウ、見ていないで助けてくださいっ!」

 あっけに取られている士郎に、二号が助けを求める。

「シロウ? あら……」

 女性の視線が、二人のエミヤシロウにも注がれる。

「んー、坊やには興味が無かったんだけど、同じ顔が二つって言うなら別ね。思いっきり耽美な格好をさせれば……ふふふふふふふ、そこのケチで強欲そうなお嬢さんを女王様な格好をさせてセットで……うふふふふふふふふふ」

 怖い、ひたすら怖い。

 なんか、目がイッている気がする。

 女性は含み笑いをしながら、この面白そうな面々を着替えさせるプランを脳内で練っているっぽい。

「あ、わたしたちはそ、そーいうのに興味が無いので……」

 かろうじて再起動した凛が、腰を引きながら断りの言葉を口にする。

「最初はみんなそういうのよ、でも、だんだんと良くなっていって、最後は自分から求めだすのよ」

「表現が微妙にエロくないか?」

「エロは基本よ、坊や。聖女りょ……」

「まて、それはまずい。一応このSSは全年齢対応だ!」

「それもそうね」

 ひたすら暴走を開始しそうな女性に、アーチャーがツッコミを入れる。

 状況がひたすら混乱し始めたその時、第三の乱入者の声が境内に響き渡った。

 

「何をしているのだ、お前達」

 

 巌のような渋い声。

 長身の男が、彼らに向かって近づいてくる。

「く、葛木先生?」

 向かってくるのは、葛木宗一郎。穂群原学園の教師で性格は真面目で堅物。常に厳しい表情を浮かべている。凛のクラスの担任でもあるのだが……。

「どうした、遠坂」

 何時も学園で見るのと同じ、厳しい表情で呆けている凛を見る。

 だが、凛はこの突然の乱入者に、凛は間抜けな質問をする。

「あの、先生……、横の小さい子は……?」

 言われてみれば、葛木のズボンには3歳か4歳ぐらいの小さな女の子がしがみ付いていた。泣きそうになりながらも、葛木の影に隠れじっとこちらを見ていた。

 たしか、先ほど境内で遊んでいた子供の中に、この子もいたような気がする。

 葛木は、そんな女の子を一瞥すると、あらためて凛に向き直り紹介した。

「私の娘だ」

「へっ?」

「せ、先生……子供が居たのですか?」

 凛の言葉に、葛木は無言で頷く。

 そして、それまで黙っていた女の子は葛木のズボンを放すと、フードの女性に駆け寄っていった。

「ママー!」

 その言葉に、セイバー一号とアーチャーが硬直する。

 そんな彼らの様子に気が付いた訳でもないだろうが、葛木はフードの女性を凛達に紹介する。

「家内のメディアだ」

 葛木の紹介に、女性はフードを取る。

 一部が編みこまれた青い髪、同じ色の瞳、すっきりとした鼻梁にわずかに尖った耳。フードの下から美しい素顔があらわれる。

「あら、宗一郎様の教え子だったのね。よろしくね、坊や達」

 そう言うと女性──メディアは、あやしく微笑む。

 

「「「「ええええええええぇ〜!」」」」

 

 近所迷惑な叫び声が、寺の境内に木霊するのだった。

 

 

 

続く・・・らしい。