とある英霊と剣の道

 

 

 その日の衛宮邸の朝は、道場から始まった。

 小気味良い、乾いた竹同士がぶつかり合う音が衛宮邸に響き渡る。

 その音に最初に気がついたのはイリヤだった。もぞもぞと布団から起きだす。目覚まし時計にしては随分とみょうちくりんな音だ。

「なんなの……、あれ?」

 ぽけぽけと寝ぼけた頭で布団から起きだす。ついでに、一緒の布団に寝ていたバーサーカーに蹴りを入れて叩き起こした。

「むー、いったーい」

「ゾウが踏んでも壊れないのに、何を言っているのよ。

 ねえ、バーサーカー。あの音は何?」

 大して痛そうではないのに、痛いと言うサーヴァントを冷たく一瞥しながら、あの音がなんなのか尋ねてみる。

「んーと、誰かが竹刀を振るってるんじゃないの?」

「竹刀って……あれ?」

 イリヤが部屋の片隅を指差す。そこには、バーサーカーが知り合いのししょーから借りてきたという竹でできた模擬刀が置かれていた。

「そうよ」

「あんな禍々しい物を振るうの?」

 その竹刀はなぜか動物のマスコットがくっついており、妙に禍々しいオーラを発している。

「禍々しいのはアレだけよ。五十人ほどキルと星が溜まってクリティカル率が上がるの」

「なによ、それは。人間の顔をしていない鎧ダルマをどこかのお姫様の隣りに置いておくの?」

「わかる人にしかわからないネタね……。わたしは泥棒とお姫様が好きだったけど」

 あんまり役に立たない組み合わせだったが。

「一部のマニアックなネタはいいわ。朝から一体何をやってるのかしら?」

 イリヤの疑問に、バーサーカーが母親のような笑顔を見せる。

「気になる?」

「ううん、そういうわけじゃないけど……」

「見に行こうか」

 そう言うとバーサーカーはイリヤの返事も待たず、着ていた寝間着を脱ぎ捨てる。白いシルクの下着のみを身につけた、均整の取れた肢体を大胆に曝け出す。決して背の高い訳ではないバーサーカーだが、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでおり、スタイルは抜群だ。その大きな胸がたゆんと揺れる。

「むー……」

 イリヤの視線がその揺れた部分に集中する。そして次に自分の未発達な胸を見て、溜息を一つつく。

 成長しない体だというのはわかっているが、よくよく考えてみれば何だって自分はこうなのだろうか。お爺様の趣味?

 生きていた年月を考えれば自分だってアレくらいあっておかしくは無いし、成長しないリズだってかなりすごい。あ、でもセラは小さいか……。

 未来の自分を名乗る女性のスタイルと自分の体の差に、イリヤは眉間に皺を寄せる。

 そんなイリヤの様子を楽しそう見ていたバーサーカーが、慰めるように声をかけた。

「大丈夫よ、イリヤ。ちゃんとフラグを立てればわたしみたいになれるから、それに……」

「フラグって何よ。それにって?」

 ちょっといじけるイリヤ。

「ロリッ娘の魅力でシロウをメロメロにしておいて、後から成長した姿でノックアウトするの。これはリンにもサクラにもセイバーにもできない技よ」

「技って何よ……」

 本当にこのサーヴァントが自分の未来の可能性か、ちょっぴり自信が無くなるイリヤだった。

 

 

 着替え終わった二人が道場に向かう途中に最初に出会ったのは、士郎とセイバー二号だった。

「おはよー、シロウ、セイバー二号」

「ああ、バーサーカー、イリヤ。おはよう」

「おはようございます」

 バーサーカーの挨拶に返事を返してくる二人だが、士郎の顔が心なし青い。不思議に思い、イリヤが尋ねる。

「どうかしたの、シロウ?」

「あ、いや……」

「イリヤも気がつきましたか。シロウ、顔が真っ青ですよ」

 困ったような表情で頬を掻く士郎だったが、意を決したように質問に答える。

「いや、夕べはバーサーカー・ヘラクレスがいなかったから、久しぶりに土蔵に行ったんだ……」

「それで、朝からそのつなぎなのね」

 バーサーカーが納得したように呟く。

 たしかに、士郎の格好は所々油汚れのついたつなぎだった。イリヤもセイバー二号も知らない事だったが、それは士郎が土蔵でガラクタいじりをする時に着る服だった。

「それで、土蔵で寝過ごしたのね。ダメよシロウ。風邪をひくわよ」

 バーサーカーが怒ったようなポーズで注意をする。

「あ、いや、それは気をつけるよ……」

 再び言い難そうに口淀む士郎。セイバー二号が更に追求する。

「でも、それは今日が初めてではないのでしょう? シロウの顔が真っ青な理由にはなりませんが」

「ああ、朝起きたら……」

 一瞬口を閉じるが、バーサーカーをちらりと見ると、意を決して口を開く。

「……朝起きたら、いきなりあの巨人のアップが……」

 どうやら一晩アーチャーを追い掛け回した後、一人で土蔵に戻って待機していたらしい。ホントに狂っているのかと問いたくなるような、狂戦士である。

 それにしても……と、士郎は思う。

 朝目覚めたら、あの巨人がデーンと構えており、自分をじっと見下ろしていたのだ。

 その構図はまるで、『──問おう、貴方が私のマスターか?』と言っているようで、全力で『違います』と叫びそうになったのは、ここだけの秘密だ。

 悲鳴を上げなかっただけ上出来だと、自分を褒めてやりたい士郎だった。

 だが、バーサーカーは違ったようだ。

「あら、シロウは彼が怖いの? あんなに優しそうな顔をしているのに」

 狂っていない狂戦士の言葉に、二号が目を白黒させる。

「や、優しそう?」

 あの岩を削り出したような無骨な顔を、どう見れば『優しそう』と表現できるのだろうか。

「ねえ、あの巨人って……、昨日のアーチャーを追っていったアレ?」

「そうよ、イリヤも優しそうって思わない?」

 バーサーカーの言葉に、イリヤは少し考え込む。

「そうね……。

 うん、確かに優しそうだと思うわ。おっきな岩がじっと見守るって感じで、優しくって頼りがいがありそうで」

「そ、そうなのか?」

 この銀の少女も同じ様だ。どうも、この主従は一般と感覚が違うようだ。

「そうよ。それともシロウは……」

 

 パシーン!

 

 イリヤが何か言葉を続けようとするが、道場から響く一際大きな音に不意を突かれ押し黙る。

「忘れてた、あの音を確認しに行くんだった」

「そうだったわ」

 士郎が思い出したように呟き、イリヤがそれに頷いた。

 

 

 向かった先の道場では、二人の剣士が対峙していた。

 一人は剣の騎士セイバー一号。握る剣が竹刀とはいえ、朝日を浴び剣を構える様は神話の一場面を切り取ったかのような神々しさだ。それは、選ばれた騎士ゆえの完成された美。

 相対するのは弓の騎士アーチャー。セイバーと同じ様に竹刀を握り、無造作に構える。だが、それは何の才能もない男の、莫大な戦闘経験に裏づけされた最も効率のいい彼の戦闘スタイル。セイバーのような華麗な美しさは微塵もない。どこまでも無骨、どこまでも愚直。だが、それゆえに一種侵しがたい神聖さをかもし出している。

 二人は、互いに静かに相対していた。士郎達が道場に向かうまで激しく鳴り響いていた打ち合いの音が嘘のような静けさだった。

 そしてその雰囲気に飲まれ、誰もが息を飲んだ。

 どれだけ、その光景を眺めていただろうか。不意に、士郎がその光景の違和感に気がつく。

「あれ?」

 それは、小さな呟き。

 だが、その呟きは膠着した状況を動かす。

 最初に動いたのはセイバーだった。小柄な身体からは信じられないほどの膂力で突進、斬撃を繰り出す。だが、アーチャーはその手の竹刀を用いて剣の軌道をそらす。

 必殺とも取れる斬撃をそらされれば、並みの剣士であれば態勢が崩れる。そう、並みの剣士であればだ、剣の英霊たるセイバーは無論、並みの剣士ではない。

 いや、それどころか士郎の目には必殺の一撃に見えた最初の攻撃は、セイバーにとってはごく平凡な一振りにしか過ぎなかった。

 いや、それも違う。

 セイバーの一振りは、その全てが必殺の一撃と為りうるのだ。それゆえに、剣の英霊なのだろう。

 態勢など全く崩れず、セイバー一号に隙など一欠けらも無かった。

 そらされた軌道のまま、セイバー一号は剣を振るう。一撃目にも勝るとも劣らない一振りがアーチャーを襲う。

 だが、アーチャーはその一撃すらも、受け流してしまう。

「す、すごい……」

 イリヤが小さく呟く。

 おそらく、意識して動いているわけではないだろう。いかにアーチャーの目が鋭いといっても、認識してから動いていればすぐにセイバー一号の剣に捉えられてしまう。

 そう、莫大な戦闘経験が、戦場の動きを予測しているのだ。

 剣の騎士の一撃を、アーチャーは幾度も受け流す。才能、能力、技能。どれをとってもセイバー一号の実力はアーチャーをはるかに上回っている。安易に攻めにまわっては、すぐに敗北する。

 相手が並み、いや、少々腕が立ったとしても、アーチャーの鉄壁の防御を打ち破る事はできないだろう。そして、攻めつづければいずれは隙ができる。

 だが、相手が悪かった。

 相手は剣の英霊。聖剣の担い手、騎士の王。

 徐々に、徐々にだがアーチャーの防壁は打ち破られ、アーチャーの動きに余裕がなくなっていく。

 このままでは敗北は必死、アーチャーの心眼がわずかでもとセイバー一号の隙を見出す。

 そこに向かい、フェイントも絡めた渾身の一撃。

 だが……。

 

 スパーン!

 

 アーチャーの一撃は、セイバー一号の一振りによって弾き飛ばされる。

 そう、受け流したのではない。弾き飛ばしたのだ。

 アーチャーの剣とて、凡庸な一撃ではない。それを弾き飛ばすとは並大抵の技量ではできない。力、技、そして気合が充実していなければ不可能な技だ。

 一号はアーチャーを弾き飛ばした態勢から、流れるようにアーチャーの頭上に必殺の一撃を叩き込もうとする。

 態勢を大きく崩されたアーチャーに、もはや防御は不可能。一号の竹刀がアーチャーの頭を打つ……寸前にその動きを止める。

 アーチャーも崩された態勢を立て直すと、竹刀を杖のように床につき苦笑いを浮かべる。

「やれやれ、やはり君には勝てなかったか」

「当然です。剣を教えた師としては、そう簡単に弟子には負けられません」

 アーチャーの言葉に、セイバー一号がえへんと薄い胸を張る。だが、次の瞬間にちょっぴり暗い顔をした。

「でも、やはり私の教えた剣ではありません……」

「別に奴を真似たわけじゃない。君に教わった剣を基本に独自で鍛錬を繰り返したら、こうなっただけだ」

 慰めるように、言い訳をするようにアーチャーが苦笑いをする。普段の皮肉な雰囲気が也を潜め、本当に衛宮士郎にそのままの表情、そのままの口調だった。

「わかっています。わかってはいますが……」

 そんなアーチャーに、一号はどこか不満そうに頬を膨らませる。師匠として、剣筋の違いが少々気に入らないのだ。嫉妬とも言う。

 そんなセイバー一号に、アーチャーはますます困ったような表情を作る。

「できる限りセイバーの剣筋を真似ていた時期もあるんだけれど、体格や筋肉のつき方が違うだろう。どうしても上手くいかなかったんだ。ごめんな、セイバー」

「……もう、そんな顔で謝られたら怒れないではないですか」

 そう言うと、セイバー一号も困ったような、それでいて花のような笑顔をアーチャーに向ける。その可憐さにアーチャーの頬が少し赤くなり、照れ隠しか少し顔をそらす。

 ふと、そのアーチャーの頬に僅かだが傷があることにセイバー一号は気がつく。

「当たらなかったと思ったのですが……」

「ああ、これか。捌ききれなかったか……、いや、剣圧で少し赤くなっただけだな」

 アーチャーが、自らの頬を擦りながら呟く。どうやらセイバー一号の剣の衝撃だけで、当たらなくとも腫れてしまったらしい。

「そうでしたか」

 そう言うとセイバー一号もアーチャーの赤くなった頬を触る。突然の事にアーチャーの目が驚きに開かれる。

「あっ……」

「あ……」

 二人の視線が絡まる。

 二人の頬に朱が挿す。

 触れ合った手と頬が、お互いの体温を伝える。

 少しだけ二人の時間が止まり、やがてどちらからとも無く徐々に二人の顔と顔、唇と唇が近づいて……。

 

「ごほんごほん!」

 

 不意に響いたわざとらしい咳き込みに、二人の体はバネ人形のようにぴょんと離れた。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

 『あ』を連発しているのはセイバー一号だ。顔を真っ赤にして、道場の入口にいる4人を指差しうろたえている。

「き、君達は……、一体何時から、い、いるんだ!」

 何とか声を絞り出したのはアーチャーだった。こちらも顔が真っ赤で、狼狽のあまり呂律が回っていない。

 セイバー二号は、横で『ちぇっ!』とか『あーん、いいところだったのに』などと言っている銀色コンビを一回睨むと、次に真っ赤になってうろたえている未来の自分達をギロリと睨む。

「先ほどからいました。貴方達は、朝っぱらから何をしているんですかっ!」

「い、いや、その……」

「け、剣の鍛錬です!」

「ほほう、剣の鍛錬をするついでにイチャイチャするわけですか」

 朝っぱらから自分と同じ存在のラブシーンを見せられ、どうもセイバー二号はご機嫌斜めのようだ。前日のように身悶え転がらないだけ耐性はできているが。

「いや、ついでにというわけでは……」

「ほほう、イチャイチャするのがメインと」

「い、いえ、そういうわけではありませんが……」

 二号の追求に、一号がしどろもどろに答える。

「では、どういうわけですかっ! 真面目に訓練していると感心してみれば……。大体、貴方達は真面目に聖杯戦争をする気があるのですか」

「あー、それは私も知りたーい」

 思わず合いの手を入れるイリヤ。困ったようにアーチャーがそちらを振り向くが、二号に睨まれて慌てて視線を二号に向ける。

 というか、なんで自分らは二号に怒られなければいけないんだろうか?」

「い、いや、そう言われても……」

「もう、正常な聖杯戦争じゃないじゃないですか」

「正常じゃなければ、真面目にしなくてよいと?」

 言葉尻を捕まえて追求を繰り返すセイバー二号。一号が堪らず悲鳴を上げる。

「リ、リンがうつっていますよ、二号!」

「ええ、今の私はリンに匹敵する邪悪さです」

 それは人間としてまずいんじゃないかなーと思う士郎だったが、そんなツッコミをするほど命知らずじゃなかった。

 とはいえ、セイバー一号が子犬の目でこちらに助けを求めているのを見捨てるのは偲びない。話題を変えようと声をかける。

「ま、まあ、その辺でいいじゃないか、二号。

 で、でもさ、話は変えるけどアーチャーは二刀流だと思ってたけど、違うのか?」

 強引というか、無理やりだった。

 だが、アーチャーの心眼が、この機を逃すと当分はセイバー二号の追求からはのがれられないと告げていた。

 だから、士郎の質問ではあったが素直に答える事にする。とはいえ、うろたえているのか口調が衛宮士郎のままだった。

「あ、ああ。あの二刀流は俺が好んで使っているというだけで、俺は二刀流専門って訳じゃない」

「そうなのか?」

 士郎が不思議に質問をする。先ほど気がついた違和感はそれだった。何度か見たアーチャーの戦いは、全てが白と黒の双剣だった。

「ああ、その気になれば剣が一本だろうが二本だろうが……それこそ槍だって使える」

「それって、アーチャーは武芸百般だって事?」

 イリヤが、アーチャーの言葉に質問をする。それが本当なら、士郎の未来の可能性である彼は、アーチャー以外にもライダーを除く全クラスに相当する実力があることになる。

 だが、そんなイリヤの言葉に、アーチャーは苦笑を滲ませ首を横に振った。

「いや、“使える”というだけだ。武芸百般というのは、あのバーサーカー……ヘラクレスのような者の事を指すんだよ。

 俺は剣で戦えばセイバーには勝てないし、槍で戦えばランサーに遅れをとる。魔術で言えば英霊となった今でさえ、実力では凛の足元にも及ばない」

「それじゃ、アーチャーは最弱って事?」

 イリヤの無邪気な一言に、アーチャーの表情がひきつる。

「ま、まあ、確かに俺はそんなに上等な英霊じゃない。なんせ、衛宮士郎には何の才能も無かったからな。

 ただ、最弱かどうかはわからないぞ。要は相手の土俵で戦わなければいいだけなんだから」

 ちょっぴり言い訳じみた自分の言葉に、アーチャーは苦笑をする。

「そんな物なのか?」

「それってずるくない?」

 二人の言葉に、セイバー一号が助け舟を出す。

「いえ、シロウ……アーチャーの言う通りです。実戦で態々相手の得意とするフィールドで戦うのは愚か者のする事です。

 剣だけで戦えばまず私が勝ちますが、実戦をするならアーチャーは決して剣だけでは戦わないでしょうね」

 セイバー一号が、アーチャーを頼もしげに、そして寂しげに眺める。少なくとも今のアーチャーは、彼が“衛宮士郎”だった頃からは考えられないほど強くなっている。

 それは嬉しい反面、彼の歩んだ苦難の人生の表れでもある。それを考えると、胸が苦しくなった。

 だが、そんなセイバー一号の思いを知ってか知らずか、アーチャーがおどけた答えを返す。

「そうだな、セイバーと戦うなら……、まずは腕を振るった料理を大量に用意するな」

「なっ!」

「ど、どういう意味ですかっ!」

 アーチャーの言葉にセイバー一号が言葉を失い、二号が激昂して怒鳴る。

 そりゃそうだろう、自分たちは食べ物で釣れると言っているようなものだから。

「だってさ、美味いご飯を食べながらだったら、戦わなくたっていいだろう。

 俺はセイバー達とは戦いたくないし、セイバー達が美味しい物を食べて嬉しそうな顔をしているのが見るのが好きだから」

 だが、アーチャーはそんな二人のセイバーに、優しく嬉しそうな笑顔を向けた。

「そ、それは反則です……シロウ……」

 その言葉に、一号が真っ赤になってうつむき、二号が毒気を抜かれ絶句する。

「むー、バーサーカー、アレ本当にシロウなの?」

「アレで口説いている自覚ないのよ……。イリヤも気をつけないとダメよ」

「浮気をするって事? それとも口説かれるって意味?」

「両方」

 横で見ていたイリヤのバーサーカーが、少し顔を赤くしながらこそこそと話し合う。

 俺ってそういう風に見えるのかと、少し鬱になりかけている士郎だった。

 そんな士郎に、アーチャーが思い出したかのように声をかける。

「ところで、こんな所にいていいのか?」

「なにがさ?」

 アーチャーの言葉の意味がわからず、士郎は聞き返す。

 そんな士郎に、アーチャーは普段の皮肉げな態度を復活させて答えた。

「やれやれ、だから貴様は未熟者だというのだ。

 この時間にこんな所にいては、また桜に朝食を作られてしまうぞ」

「あっ!」

 たしかに、時間は6時近い。この時間なら桜が勝手に朝食を作り始めてしまうだろう。

「早く行け。まあ、貴様が朝食を作れなくて落ち込むのを見るのは愉快ではあるがな」

「アーチャー、それではまるで言峰やリンのようですよ」

「そ、それは……、注意をしよう」

 セイバー一号が、アーチャーの耳を引っ張って注意をする。さすがに、アレと同類に語られるのは嫌だった。

「誰だよ、言峰って……。って、それどころじゃなかった。じゃあ、後でな」

 そんな相変わらず甘い雰囲気をかもし出す二人をほっておいて、士郎は自らのひそかな楽しみを奪おうとする、黒い魔王の待つだろう台所に向かおうとする。

 

 だが、途中で不意に足を止めて道場を振り向いた。

 

 落ち着いた所で始めて見る、未来の自分の戦い方。

 養父が死んでから5年。何一つ進展が無く基礎訓練のみを繰り返していた。目指すモノはあっても、それに向かう道筋が全く見えない袋小路の日々。

 そんな士郎が初めて掴んだ重要なヒントだった。

 アーチャーは謙遜していたが、あれはまだ自分には手が届かない極みの一つ。

 凡人ゆえの血の滲むような鍛錬の結晶。

 そう、“まだ”届かないだけ。

 そう、“凡人ゆえの”技。

 未来の自分だからというだけではなく、あの戦い方なら真似事ならできると妙な確信が士郎には芽生えつつあった。

 

 

 ちなみに、朝食はすでに桜が完成させていました。

 

 

 

 続く・・・かな

 

 

 

 

 

 

 

おまけ劇場その9(だったと思う)

 

絶対無敵元気爆発熱血最強偽予告編

 

 

「なあ、遠坂……、なんだって俺は縛られているんだ?」

「あら、いい格好じゃないの。ゾクゾクするわ」

「リン、それではまるで変態ではないですか」

 暗い地下の一室で、赤毛の少年は縛られ、蓑虫のように転がされていた。

「なあ、遠坂」

「なに、士郎」

 爽やかな笑顔で答える思い人に、士郎は思わず絶句をする。すくなくとも、恋人と称される人間を簀巻きにしている人間の笑顔ではない。

 彼女に聞いても無駄だ。そう悟った士郎は金色の髪の少女に語りかける。

「なあ、セイバー」

「なんですか、シロウ?」

「なんだって、俺は縛られているんだ?」

「昨晩に散々リンから説明されたではありませんか。リンの実験から逃げようとするから、捕まったのでしょう」

 まあ、たしかに説明は受けている。だが、少なくとも奴と接触する可能性のある実験に付き合うのは嫌だと拒絶したはずなのに。

「セイバーは助けてくれないんだな」

「もうしわけありません、シロウ。マスターである凛から、協力を要請されましたので」

 申し訳なさそうに答えるセイバーだったが、士郎の目はセイバーの口元についている餡子を見逃さなかった。

 さては、大判焼で買収されたなと、絶望的な状況に涙をする。

 

 あの、冬木市から様々なものを奪っていった聖杯戦争からすでに数ヶ月。冬だった町も夏の装いを見せていた。

 そんな夏休みを控えたある日、冬木の魔術師である遠坂凛は、己れの恋人である衛宮士郎と、使い魔であるセイバーにある魔術実験をする旨を伝えていた。

 それは、衛宮士郎を触媒とした並行世界の観測実験だった。

 彼の並行存在であるアーチャーを知る故に、おそらくは思いついた実験だろう。

 危険は全く無い。凛は自信を持って宣言したが、士郎は頑なに抵抗した。下手をすればあの弓兵と接触しかねない実験など、流石に嫌だった。

 だが、騎士王は既に買収済み(江戸前屋大判焼10個)だった。

 あわれな小兎が、あくまと獅子にかなうはずも無く……。

 

「さあ、実験を開始するわよっ!」

 凛が元気よく宣言した。

 

 

 

 それは、少女の思いついたささやかな実験だった。

 

 

 

「いつまで此処にいるつもりだ、貴様は」

 白い髪に黒ずんだ肌の長身の青年は、目の前で素麺をすする青年に向かって嫌そうに語りかける。

「ほとぼりが冷めるまで頼むよ」

 女性だったら一目でコロリと参ってしまいそうな笑顔を、その眼鏡の青年は浮かべ懇願する。

 だが、生憎白髪の青年にその手の趣味は無い。

「貴様がいるとトラブルが絶えん。さっさと帰れ殺人貴! 帰らなければ秋葉さんに連絡するぞ!」

「そんなことするなら、凛ちゃんに居場所をチクルぞ」

 お互いの言葉に、二人の青年は少しの間だけ睨み合い、やがてどちらからとも無く乾いた笑みを浮かべる。

「俺たちって、立場低いな……」

「まったくだ……」

 裏の世界では恐れられている殺人貴と錬鉄の魔術使いも、一皮向けば身内の女性に追いかけまわされるアホ2人にすぎないのだ。

 

「リズ、何をやってるのですか?」

「メル友にメール。『アンバーちゃんへ、今うちにはシキという子が遊びに来ています』

 セラは何をしているの?」

「少々、ロンドンに書状を」

 

 あの、冬木に消せない爪痕を残した聖杯戦争から数年、あの戦争の勝利者だった衛宮士郎は数年ぶりに冬木の町に戻っていた。

 小柄だった少年は逞しい青年に姿に成長していた。

 もっとも中身はというと、女性に振り回される日々は変わっていない。今回の帰郷も、実のところ無茶をする知り合いの魔女からの逃亡という意味合いが強かった。

 まさか、彼女の管理地たる冬木に逃げ込む事はないだろうと、盲点を突いたのだ。

 まあ、欧州で知り合ったオマケが一人と一匹ついてきたのは、予想外だったが。

 

「そういえば、イリヤちゃんとレンは?」

「ああ、城に行くといっていたぞ。レンはセラがケーキを焼いたと聞いてついていくと言っていた」

「なるほど……って、イリヤちゃんは平気なのか?」

「人型のときは平気だそうだ」

 だからって、大の男2人が面と向かって昼間っから素麺をすすっている姿は、一種異様だった。

 さらに、彼らの裏の姿を知る者が見れば、絶対に頭を抱える事だろう。

 だが、二人からしてみればそんな人の事情など知った事ではなかった。

「しかし、平和だな」

「こんな時にかぎって、なんか事件がおきるんだよな……」

「不吉な事を……」

 言うな。士郎がそう続けようとした、その瞬間だった。

 

 チュドーン!

 

 不意に、衛宮邸を揺るがす爆音が響く。2人の男は、すぐに反応する。

「な、なんだっ!」

「くっ! 土蔵か」

 慌てて駆け出す二人。彼らがついた先の土蔵では、入口からもくもくと煙が噴出していた。

「爆弾でも暴発したのか?」

「うちにそのような物は……、多分無い」

 絶対に無いと言い切れないのが、悲しいところだ。よくわからないガラクタを持ち込む人が一人、いるんだから仕方が無い。

 二人が警戒する中、煙の中から二人、小柄な人影が這い出てきた。

 二人揃って、ケホケホと咳き込んでいる。

「女の子?」

 志貴が、その人影をみて声を上げる。だが、士郎はその言葉に返事をしなかった。

 

「ケホケホ、り、リン。一体何が……」

「な、なんか魔力がおかしな方向に捻じ曲がったみたいね。幸い、士郎の家の土蔵に空間転移しただけみたいだけど……」

「リン、貴女という人は……」

 

 煙の中から出てきたのは、金と黒の髪の二人の少女だった。服の所々が煤けている。

 その少女達……、いや、金の髪の少女を見た瞬間、衛宮士郎の中のすべてが停止する。ほかの全てが彼の認識から消え、彼の意識の全てが只一人の少女に向けられる。

 その姿は、あの戦争の最後に永久の別れをしたはずの、最愛の少女の姿そのままだった。

「せ、セイバー……」

 士郎が、消え入りそうな声を出す。

 ふらふらと、夢遊病者のように少女達に近づいていく。

「お、おい、エミヤ!」

 志貴が今まで見たことも無いような士郎の行動を慌てて止めようとするが、士郎は止まらなかった。

「へ、アーチャー?」

 黒い髪をツインテールにした少女が呆然と呟くが、それすらも気にならない。

 士郎は金の髪の少女──セイバーの目の前に立つと、彼女を突然抱きしめた。

「セイバー!」

 それは、永久に分かれたはずの半身に対する抱擁。

 だけど、抱擁されているほうは、そうじゃなかった。同じ存在だけど、別のセイバーなのだ、彼女は。

「な、な、な、な、何をするんですか、アーチャー! は、放しなさい!」

 じたばたと暴れるセイバーと、抱きしめる士郎。呆然とする凛と志貴。

 妙な光景が土蔵の前で繰る広げられていた。

 

 

 

 それは、ありえないはずの出会いだった。

 

 

 

 その少年は、森で倒れていた。

 最初に見たとき、イリヤは信じられなかった。彼が誰なのか、彼女にはすぐにわかった。

 そして、何故そうなったのかも、すぐに思いついた。ロンドンに在住した時にも、似たような実験に付き合ったことがあったから。

「リンのせいね。この子の世界のリンも困ったものね」

 少年を城に運び込み、イリヤは自分で介抱していた。一緒についてきたネコ娘──もとい、夢魔やメイドには任せたくは無かった。

「くす、あの頃のシロウのまんまね」

 少年の姿は、出会った頃の彼と同じまま。今では随分と逞しく、そしてひねてしまったが。

 イリヤは眠っている少年の頬をつんつんと指でつついた。

 反応は無いが、怪我らしい怪我は無いから大丈夫だろう。

 どれくらいそうしていただろう、額に肉でも書こうかな、昔ある人に聞いた悪戯を思いついたときに、少年がうめき声を上げる。

 ざんねーんと、内心で呟く。

 目覚めるのだろう。イリヤは少年の枕もとに座り、微笑んだ。

 少年の目が、うっすらと開き始める。

「おはよう、お兄ちゃん」

「い、イリヤ……?」

 うめく少年の目に浮んだのは、怯えと悔恨。

 それだけで、彼の世界の自分がどのような運命だったか、イリヤは全て悟った気がした。

 

 

 

 ありえないはずの出会いは、事件を誘発する。

 

 

 

「と、遠坂先輩……って、なんだってそんなにワカインデスカ!」

「そうよっ! イリヤちゃんといい遠坂さんといい、そんなの反則! 肌の張りをよこしなさいっ!」

 

 戦い。

 

「ふふっ、またセイバーちゃんと競えるとは思わなかったわ」

「ふっ、(こちらの世界の)タイガもやりますね、ソラソラソラ、どうしたどうしたどうした」

「せ、セイバー(ほろほろほろ)」

 

 出会い

 

「にゃっ!(びくっ!)」

「がおー!(びくっ!)」

 がしっ!

「な、なんなんだ、一体……」

 

 

 そして、絶体絶命の危機

 

「さあ、凛さん! カレイドルビーに変身よ!」

「ふざけるなー!」

「あはー、何時まで抵抗できるかなー」

 

 

 

 製作費用(ピー)円で送る、新シリーズ。

 

 とある正義の味方の帰還(仮題)

 

 そのうち書く……のは無理っぽいです、ハイ。

 とある英霊しり〜ずだけで、いっぱいいっぱいな物で(汗)

 

「というか、前半はシリアスっぽいのに、後半はギャグですね」

「シリアスが続けられんのか、このSS作家は」

「シリアスやギャグだけを続けられるだけの技量が無いのよ、きっと」

「というより、シロウ……いや、アーチャー。平行世界の私と見分けがつかなかったんですね……(ごごごごご)」

「ま、まて、セイバー! は、話せばわかる!」

「問答無用! 

 ──約束された勝利の剣(エクスガリバー)!」

「ギャー!」

 

 キラン☆

 

 

「なお、この予告編が書かれることは、多分ありません」

「あ、二号。おはぎができたんだけど食べるか?」

「はい、頂きます。シロウ(ぴょこぴょこ)」