とある英霊と剣の師

 

 

「なんでまた一人増えているのよー!」

 

 朝からいきなり、虎が爆発をした。

 原因は無論、昨日から衛宮邸にやって来た小さな来客、イリヤのせいだ。

 只でさえ前日に士郎は学園をエスケープしているのだ、藤ねえの怒りも押して知るべし。

 

「いや、藤ねえ。彼女は」

「彼女!? 士郎、あんた実はペドフィ……」

「そのネタは前にやった!」

 ひたすら失礼な事を言い出しそうになった藤ねえを慌てて止める。一体自分はどういう目で見られているんだと、士郎は少々悲しくなった。

「だいたい何よ、このぶるまぁ娘!」

「なんでぶるまぁなんだよっ!?」

「何となくよ!」

 なんだが、『ぶるまぁ』という言葉に妙に納得をしている士郎がいた。道場あたりで藤ねえと漫才をしていそうな……。

 シロウは頭に浮んだ妙な妄想を慌てて振り払うと、藤ねえに向き直る。

「何となくで妙なあだ名をつけるなっ! そうじゃなくて、昨日到着したお客さんだよ!」

「えーい、この期に及んで新キャラ投入でマンネリ脱出、新シリーズは学園物だなんて展開はあたしゃ認めませんぞ!」

「そんな、タワシを筆頭に第一期キャラは軒並み背景と化しているなんて……」

「ってか、ライダーって既に背景と化していない?」

「がーん!」

「君達、何を妙な漫才しているんだ……」

 ドサクサにまぎれて漫才を繰り広げるライダーとバーサーカーに、アーチャーが疲れたようなツッコミを入れる。

 そんな間にも、士郎と藤ねえの舌戦は士郎不利のまま進んでいった。

 しかし……アーチャーは思う。藤ねえの説得を士郎にさせる事が、そもそもの間違いなのだと。

 アーチャーはちらりと己れのマスターを盗み見る。目であの虎を説得してくれと訴える。

──自分でやりなさいよ。あんたが連れてきたんでしょう。

 レイラインを通して、面倒くさそうな返答が帰ってきた。こっそりと溜息を一つつきながら、アーチャーも返答する。

──連れて来たのはそこの未熟者だ。私に言われても困る。

──同一人物みたいなものでしょう。自分で何とかしなさい。

──その点は抗議しておこう。起源が同じだけでもはや別人だ。

 どうやらご機嫌斜めのようだ。彼女も、竹刀の音で叩き起こされた口らしい。

 士郎一人が困っているだけならば面白可笑しく眺めているのだが、真横でおあずけ状態の二人のセイバーがかなり危ない状況になっている。目の前の卵焼きからじっと目を離さず、身動ぎ一つしない。暴れ出す5秒前といったところだ。

 アーチャーは再び溜息をつくと、助け舟を出すべく声をかける。

「藤村様、よろしいでしょうか」

「なによっ! それとも新シリーズに新たな主人公を据えたのはいいけどいつの間にか雑魚キャラに転落、前作主人公に美味しいところを全部取られるって言うの!? 

 そんな、PS2版Fateの真のヒロインたるわたしの道場は、誰にもわたさーん!」

「すでにタイガー道場はぶるまぁに乗っ取られているような物だろう。というか、それは何処のFateだよ。イリヤルートがある可能性はあっても、タイガールートは多分無いぞ藤ねえ。

 ──ではなくて、藤村様!」

 士郎に対するのと同じ調子でアーチャーに叫ぶ藤ねえだったが、アーチャーのツッコミに我にかえる。

「あ、ごめんなさい、アーチャーさん。ついつい士郎と同じ調子で」

「いえ、それは大丈夫です」

 慣れてますから。アーチャーはその言葉を飲み込む。

「先日お伝えし忘れましたが、もう一人、後から当家のお嬢様が参ると……」

 アーチャーは言いにくそうに言葉を切ると、バーサーカーとイリヤにに目配せをする。二人ともそれだけで悟ったようだ。バーサーカーがレイラインを通してイリヤに簡単な事情説明をする。

「はじめまして、タイガ。わたしはイリヤ。

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ」

 少女は立ち上がると、藤ねえに向かって優雅に一礼する。

「あ、よろしく。えっと、イリヤちゃん。

 って、もしかして、バーサーカーさんの……」

 一般庶民とは一線を隔した挨拶に、藤ねえは毒気を抜かれる。

 そして、バーサーカーとイリヤの容姿の似通っている事に気がついた。バーサーカーは笑顔で頷く。

「ええ、おそらくはタイガの考えている通りです」

「そっか、バーサーカーさんの娘さんか」

「ええ、アーチャーとの間にできた……」

「ちがあああああああああああああああああああああああうううううううううううううううう!!」

 とんでもない事を言い出す藤ねえとそれに乗るバーサーカーに、アーチャーは力の限り否定の絶叫をする。

「そんな、パパ、ひどいわ」

 そんなアーチャーを面白がってか、イリヤも乗ってくる。なんだか、イリヤに真っ黒な羽と角が生えていないか?

「自分の子供だと認知してくれなくて」

「奥さん、そりゃあんたが悪いよ。こういう時はガツンと言って、それでもダメなら法的手段に訴えなきゃ」

「でも、世間体が……」

「ダメダメ、そういうところに付け込んで来るんだよ。子供の将来を考えるなら、勇気を出してキチンとケジメをつけなきゃ。」

「ママー、おなかすいたー」

「ほら、子供さんが可愛いんでしょう。子供さんのために勇気を振り絞らなきゃ」

「はい」

 どこぞのお昼の番組の如く人生相談を始める藤ねえとバーサーカー、おまけでイリヤ。声の調子は深刻そうだが顔がニヤニヤ笑っている。

「藤ねえ、イリヤっ! 頼むからそういう冗談はやめてくれっ! 命に関わる!」

 アーチャーは漫才を続ける藤ねえとバーサーカーに怒鳴りながら、血の気の引いた顔で横のセイバー一号の顔を盗み見る。冗談の結果、聖剣の洗礼を浴びるのは流石に嫌だ。

 だが、幸いセイバー達はこのやり取りを聞いていなかったようだ。飢えた獅子の目で、目の前の卵焼きをじっと見つめており、身動ぎ一つしない。

 これはこれでかなり危ない状態である。

「命に関わるなんて大げさよ……、冗談はさて置き、バーサーカーさんの妹さん?」

「ええ、所用で遅れて来ることになったのですが……」

「そうなんだ。てっきり士郎がエロエロになって、あっちこっちから女の子を引っ張り込むような人になってしまったのかと思ったわ」

「なんだよ、それは……」

 あいかわらずのとんでもない言い掛かりに、士郎は憮然とする。

 もっとも、あながち外れではありませんけどね。赤いあくまに黒いさくら、にはらぺこ騎士王に麗しの騎乗兵、白いこあくまとオプションの大小メイドコンビ。あとさらにオマケで英語教師2X歳(独身)。しまいにはサドマゾシスターにボクシング馬鹿。どこの女子寮だと……。

「って、そこも、変なナレーション入れるなっ!」

 こっそりととんでもないことを言い出すライダーに、士郎はツッコミを入れる。

「メタ発言は禁止よ……って、久しぶりね、この台詞」

「メタ発言うんぬんじゃありません、ライダー!」

「そうだ、桜、言ってやれ!」

 このメンバーで唯一の良心とも言える後輩の言葉に、士郎とアーチャーは期待をする。

「だれが黒いんですかっ! 私は純正癒し系強襲妹型ヒロインです!」

「違うだろう、桜……」

「そうです、アーチャーの言う通りです。桜はエロとヨゴレとジェノサイド担当で、“癒し系ヒロイン”と言うよりは“嫌死系悲路員”かと」

「外れては居ないけど、どこの暴走族よそれは」

「クスクス、ライダーそれってどういう意味。それに、姉さんまで……」

「気にしないで下さい、桜」

「そうよ、気にしちゃいけないわ」

「だから、メタ発言の連発は止めろと、話しが進んでいないぞ……」

 士郎が疲れた声でツッコミを入れる。まったくボケキャラばかりで、アーチャーと二人ではツッコミが間に合いそうにない。

 そんな騒がしい食卓に、一際透る声がした。

「ごはん……サメル……」

「たまごやき……ツメタクナル……」

 妙な片言で呟くのは、二人のセイバーだった。うつむき加減のセイバー一号の目がギラギラと輝き、箸を握り絞めたセイバー二号が鬼気迫るオーラを発する。

 はっきり言って、無茶苦茶怖い。

 騒がしかった居間が、一瞬で静まり返る。

「あ、あー。とりあえず食事にしようか」

 痛いほどの沈黙を打ち破り、士郎がぎこちなく皆に訴える。

 皆も直感的に危険を察知したのだろう。やはりぎこちなく頷き返す。

「そ、それじゃあ、いただきます」

 士郎が挨拶をするのと同時だった。

 2人の剣の英霊が神速の動きを見せ、飢えた獣そのままの表情で食卓を蹂躙する。その箸の動きは常人には視認できず、朝食のおかずは次々に二人の胃袋に消えていく。

 かつて彼女達に従った騎士達が見たら、あまりの情けなさに悶絶するような光景だ。いや、萌え狂うかもしれないが。

「ああああああああああっ! 卵焼きがああああああああああああ!」

 藤ねえの悲しげな悲鳴が、居間に響き渡った。

 

 狂乱の朝食は、あっという間に終わった。

 セイバー達の手が動くたびに居間に藤ねえの悲鳴が響いたり、士郎とアーチャーが食べる暇も無くセイバー達のお代わりをよそい続ける事になったり、凛はちゃっかり自分の分だけは確保していたのは、ご愛嬌だろう。

「藤ねえ、テーブルに肱をつくな、行儀悪いぞ。

 ──って、時間は大丈夫なのか?」

 まったりとお茶をすすっていた藤ねえに、シロウは声をかける。士郎の言葉に、藤ねえはだるそうに壁時計を見た。

「うん……。って、大変だ、遅刻するっ!」

「えっ? あっ、時間が!」

 朝から無駄に漫才を繰り広げていた為だろうか、弓道部の朝練の時間の遅刻ギリギリとなっていた。

 桜共々慌しく立ち上がると、居間を後にしようとする。

「ごめんなさい、アーチャーさん。また、後片付けを押し付けちゃって……」

「構わないさ。気をつけて行くんだぞ」

 台所で食器を洗っていたアーチャーが、声だけで返事をする。一方藤ねえは、いつの間にかトーストをくわえながら、士郎に注意をする。

「んじゃ、士郎も遠坂さんも遅刻しないようにね」

「あ、藤ねえ。そのことだけど……」

 だが、士郎の返事は藤ねえの予想と違う物だった。

「ごめん、藤ねえ。俺は今日は休むから」

「ええっ、なんでよっ!

 まさか、本当にセイバー二号ちゃんあたりとエロエロな展開で……」

「違う、藤ねえ。どうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ」

 またとんでもない事を言い出しそうになった藤ねえだったが、士郎の真摯な視線と言葉に言葉を切った。

「それは、必要な事なの?」

「ああ、説明はできないけど。どうしてもやっておきたい事なんだ」

 藤村大河と衛宮士郎の視線が交差する。

 互いにじっと見つめ合い……、折れたのは藤ねえだった。

「そっか。必要な事なのね。それならしょうがないか」

「ごめん、藤ねえ」

 

 

 藤ねえと桜、ついでにこっそりと桜の護衛をしているライダーを送り出し居間に戻ると、10個の瞳が士郎を射抜いた。ようするに、Wセイバーに銀色主従にあかいあくまだ。ちなみに、赤い執事は台所でシャカシャカと食器洗い中だったりもする。

 彼女たちの視線は、ある者は感心であり、ある者は期待であったり、ある者はニヤニヤと笑っている。

「な、なにさ?」

 戻った途端に妙な注目を浴び、士郎はうろたえる。

 そんな士郎に、凛が感心したような声を上げる。

「士郎も少しは魔術師らしくなったなって、感心したのよ。短期間で意識が芽生えるのは私の教え方が良いせいね」

「なんか俺、遠坂に習ったっけ?」

 たしか、最初の時に弟子入りとか教わるとか約束した気がするが、連日の馬鹿騒ぎですっかり忘れ去られたような気がする。

「い、いいのよ! 優秀な師匠はその行動だけで弟子を導くんだから! それに、これから教えるんだから問題ないわよ!」

 早口でまくし立てる凛に、台所のアーチャーが小声で『それは、まだ何も教えていないと言っているうなものだぞ』と呟く。

 周囲の冷たい視線に、凛は頬を赤らめそっぽを向いた。

「と、とにかく。他所のマスターの監視のために本拠地を空けないなんて、士郎もマスターらしくなったじゃない」

 そう、士郎はイリヤの監視のために学園を休んだだろうと、凛は当たりをつけていた。

 しかし……。

「え、そうなのか? そんな事考えてもみなかった」

 凛、撃沈。

 士郎の言葉に、思わずテーブルに突っ伏す。

「その阿呆がそのような警戒心を欠片でも抱くはず無かろう」

 台所から出てきたアーチャーが、己れの主人を慰めるように声をかける。ついでに、いつの間にか作っていたデザートのミカンのシャーベットを皆に配る。セイバー達の分が多めで、士郎の分が少なめなのはご愛嬌。

 そんな主従をイリヤは勝ち誇った目で見つめ、髪をかきあげながら士郎に話し掛けた。

「ふふん、士郎はわたしと一緒にいるために休んだのよね」

 どっか遊びに行きたいなーと、期待に満ちた目で士郎を見つめる。

 しかし……。

「ごめん、イリヤ。そういう訳じゃないんだ」

 イリヤ、轟沈。

「えーん、シロウがいじめるよ、バーサーカー」

「よしよし」

「なんでさ……」

 士郎の言葉にイリヤがバーサーカーに泣きつく。ちょっぴり……というか、見え見えの演技だが。

「では、何故シロウは休んだのですか?」

 セイバー二号が疑問の声を上げる。それほど長い付き合いではないが、意味もなく学校を休むような人物ではない。

「あ、いや、二号につき合ってもらおうと思って……」

「えっ?」

 

──二人の視線が絡まる。

──二人の頬に朱が挿す。

──触れ合った手と頬が、お互いの体温を伝える。

──少しだけ二人の時間が止まり、やがてどちらからとも無く徐々に二人の顔と顔、唇と唇が近づいて……。

 

 ふと脳裏によぎるのは、今朝の光景。なまじっか自分たちと同じ容姿なだけに、つい意識してしまう。

 セイバー二号は、真っ赤になって答える。

「わ、私は一号ほどふしだらではありません!」

「ど、どういう意味ですかっ!」

「シロウの淫獣」

「ちっ、ちがうっ、そういう意味じゃないっ! って、イリヤも何処でそんな日本語覚えた!」

 士郎は顔を真っ赤にして、不名誉な勘違いを正す。

「そうじゃなくて、二号に剣の鍛錬に付き合ってもらおうと思って」

「剣のですか? 構いませんが、一体何のために?」

 セイバー二号が不思議そうな視線を士郎に向けた。正直士郎の意図がつかめない。将来のために基礎だけでも習っておこうと言うのなら、なにも学校を休んでまで習う事ではない。

 そんなセイバー二号に、彼女の予想外の答えを士郎は語った。

「いや、俺は遠坂と違って魔術師としては半人前だし、これから先も戦いが無いとは断言できない。どんなサーヴァントが出てくるかわからない以上、少しは戦えるようになっておかないといけないと思って」

 そう、まだこの町に何体サーヴァントが存在するかわからない。明確にこちらに殺意を向けてきているもう一人のアーチャーもいる。これまでは偶然にも平和だったが、この平和が何時までも続くかわからないのだ。

 それに、朝に見たアーチャーのあの動き……。そのイメージが消えないうちに体を動かしてみたかった。

 そんな士郎に、セイバー二号が呆れた声を上げる。直感的に士郎の言葉の裏に潜んだ考えを嗅ぎ取ったのだ。

「何を考えているんですか、シロウ。

 ──訓練をして戦いの心構えを作るのは重要です。マスター同士の戦いもあるでしょうから、訓練が無意味とは言いません。しかし、サーヴァントと戦うのは私たちの役目ですよ」

「いや、その……、セイバー達は女の子だろう。女の子ばっかり戦わせておくのは……」

 士郎の言葉に、セイバー二号の目が点となる。

 横では、セイバー一号が含み笑いをしながらアーチャーを横目で見つめ、アーチャーはこれから起こるだろう惨劇に耳をふさいでいた。

 

「な、な、な、何を考えているんですかっ! 貴方はっ!」

 

 獅子の咆哮。

 士郎の言葉に、セイバー二号が真っ赤になって怒鳴りつけた。あまりの声量に屋根に止まっていたスズメが飛び立ち、まともに怒鳴り声を聞いてしまったイリヤがひっくり返った。

「シロウ! 貴方は私たちがなんなのか理解していなかったのですか! 私たちは性別以前にサーヴァントなのですよ!」

「それでも女の子だろう、やっぱり戦うのは良くないと思う」

「それがそもそもの間違いなんです! 私たちは戦う為にこの時代に呼び出されたのです!」

「それはわかっている」

「いいえ、わかっていません。そもそも……」

「二号、そこまで言うのならシロウにわからせてあげればいいではないですか。サーヴァントとの力量差を」

 二人が口論に発展しそうになったところで、セイバー一号が止めに入る。ちょっぴり表情が邪悪だ。

「そ、それは……、あ、そういう事ですか」

「ええ、私もアーチャーに剣の稽古をつけました。シロウはサーヴァントととの力の差というものが全然理解していなかった」

 もっとも、理解していないのはセイバー二号も同じだ。

 彼女はまだ理解していない、衛宮士郎の危うさ、歪さを。それを知る場面が無かったから、まったく気がついていないはずだ。

 しかし、言葉で伝えたところでわかるはずは無いだろう。アレは、実際に見てみなければ信じられるような代物ではない、下手をすれば冗談と取られかねない。

 突然黙り込んでしまった。セイバー一号に、セイバー二号は不思議そうに尋ねた。

「どうしましたか、一号?」

 そんなセイバー二号に、セイバー一号はどこか上の空で答えた。

「いえ、何でもありません。少し過去のことを思い出していただけです」

「過去のこと?」

「ええ、シロウ……アーチャーに稽古をつけた時に『必殺技が欲しい』などと言われた事を」

 突然暴露された己れの恥ずかしい過去に、アーチャーがずっこけた。

 

 

 一部の人たちが爆笑を続ける居間を士郎とセイバー二号は抜け出していた。

 目的地は道場。無論、稽古をつけてもらうためだ。

「鍛錬の相手は構いませんが……」

 そんな士郎に、セイバー二号が声をかける。

「どうしたのさ? サーヴァントと人間の力の差なら理解しているつもりだぞ」

「いえ、そのシロウの認識の甘さは後でとことん問い詰めますが……。

 ──戦い方を習うのならば、私よりもアーチャーに頼んだ方が良いのでは? 彼ならシロウにぴったりの戦術を伝授できると思いますが?」

 その言葉に士郎は苦笑いを浮かべる。

「あいつが素直に教えると思うか?」

「……そ、それは」

 たしかに、士郎の言うように、あのアーチャーが素直に戦い方を教えるとは思えない。

 士郎に害意は無いだろうが、格段に善意があるわけでもない。

「それに、俺は奴になりたいんじゃない」

 それは意地なのだろうと、士郎は思う。

 何故だか知らないが、あの弓兵相手にはいらつく。

 未来の自分、英雄となった自分、完成された自分、正義の味方になりそこなった自分……。

 間違ってもそんな嫉妬ではない。

 自分と同じ存在だからこそ、自分とは根本的な何かが違うと感じるのだ。恐らくはセイバー二号が己れの未来の存在であるセイバー一号に感じているのと同種のいらつきだろうと思う。

 同時に思い出すのはもう一人の英霊エミヤ。長身の白髪の男。真アーチャーとも呼べるあの男が向けてきたのは殺意。

 そして、真アーチャーに感じたのは敵意と嫌悪。

 アーチャーに感じるいらつきとは全く違う、もっと根本的な拒絶。アレの有り方は認めてはいけない。なぜだかそう感じるのだ。

 それは、アーチャーも同じだろう。なお更いらつく。

「シロウ、どうしました?」

 考え込んでしまった士郎を、セイバー二号が心配そうに覗き込む。

 これから教えを請うのに、こんな調子じゃ良くないな。士郎はそう考えると、気分を入れ替える。

 そう、考えるのはできる事をやった後でいい。今はまだ、考え立ち止まる時じゃない。

「なんでもない、大丈夫さ。それじゃあ、セイバー二号、頼むよ」

 そう言うと、士郎は道場を勢いよく開けた。

 

「よく来た、ひよっこどもよ。ここは紳士淑女の社交場、地獄の一丁目タイガー道場」

 胴着姿のししょーが、竹刀片手に雄雄しく吼えた。

「ししょー、ようやく出番っす」

 ぶるまぁ姿の少女が、楽しげに元気よく飛び上がる。

「うむ、弟子一号よ。本編27話、幕間1話を経て真のヒロインたるわたしはようやく登場なのだ」

「でも、ししょー。シロウはまだ死んでいないっすよ」

「なーに、どうせこの道場で死ぬのだから、先回りをしても問題あるまい」

「ししょー、いちおうは死亡回避する手段をアドバイスしないと」

「うむ、だんじ……」

 

 ピシャ!

 

 シロウは慌てて道場の扉を閉めた。

 ナニカいる。

 ナニカ、どっかで見たことがあるような人たちに酷似をした、それでいて致命的に違うすっげー変な存在がいる。

「ど、どうしましたか、シロウ?」

 背後から、不思議そうにセイバー二号が覗き込んでくる。どうやら士郎の背中に遮られて、道場の中が見えなかったらしい。

「いいや、なんか疲れているのかな……、変なのが」

「はい?」

 不思議そうにセイバー二号は答えると、士郎に代わって道場の扉を開けた。

 そこには、静まり返った道場があるだけだった。

 何処も変なところは無い……壁に昨日出来た大穴があいている以外は。

「何もいませんが?」

「き、気のせいだったのかな……?」

 不思議に首をひねりながら、士郎は道場へ足を踏み入れるのだった。

 さあ、修行の時間の始まりだ。

 

 

 続く……できれば週一ぐらいで続けたいっす。

 

 

 

 

 

 オマケ劇場10

 

 らみぱすらみぱするるるるる嘘予告。

 

 

 

「私を抱いてください……」

「一つ訊ねるが。それは手荒くか、それとも優しくか」

 

 それは、奇跡の出会い。

 

 男は、雨降る山の中で衰弱しきった女を拾った。

 普段なら捨てて置くところだ。何故なら男の心は既に死んでいる。今更行倒れの一人や二人で心動かされることなど無い。

 だが、この時、この瞬間だけは何故か死んだはずの心が揺さぶられた。

 女を助けよう。男は決意すると、女の体を抱きかかえた。

 その意外な軽さ、弱々しさに、眉が少しだけ動く

 

 彼の名は、葛木宗一郎。朽ちた殺人鬼を自称する男。

 

 女が目を覚ました場所は、何処かの板張りの部屋だった。

 布団に寝かされており、濡れた衣服は剥ぎ取られている。

 

 助かった……そう思う以前に、ほんの刹那の時間に今までの不可解な状況を吟味する。

 

 自分はこの地で行われる聖杯戦争に参加するサーヴァントとして召喚された……はずだった。しかし、何の手違いか己が召喚された場所にはマスターらしき人物はいなかったし、契約によるつながりを感じない。気がついた時には無人の公園に一人立ち尽くしていた。

 それに、町に充満する魔力は聖杯を呼び起こすには到底足りない。これでは数年はかかるはず。

 全くもって不可解な状況に、女は困惑する。

 だが、幸いその身体に満ちる魔力は1日くらいは現世に留まれる程度ある。その辺から適当に魔力を補充すれば……いや、その前に現世との接点となるマスターを確保しなければ……。

 考え込んだのがいけなかったのだろう。

 その魔獣の不意打ちに、女は気がつかなかった。

 大して強い魔獣ではなかったが、とにかく数が多かった。10体を葬ったところで数えるのを止め、撤退を決意する。

 その時、魔力の残量に気を使ったのが失敗だった。僅かな隙を突かれ、深手を負ってしまう。

 

 そこから先はぼんやりとしか覚えていない。

 座標を決めない空間転移の先は、何処か野山の中。

 このまま何も知らず、何も出来ずに消えるのかと女は自嘲した。裏切りの魔女が裏切る相手すらいない状況で消滅するとは、間抜けとしかいいようが無い。

 そんな時だった……男が……。

「気がついたか」

 女はすぐ側に男がいた事に、この時初めて気がついた。

 

 女の名はメディア。神代の時代、裏切りの魔女と呼ばれし女。

 

 それは、奇跡の出会い。

 悪意と気まぐれの果ての邂逅。

 セイギノミカタの住まう町で、男と女が出会う。

 

「ふん、随分と衰えたな衛宮」

「ははは、久しぶりだと言うのに厳しいな。橙子ちゃんは……」

 かつて、魔術師殺しと恐れられた男も、既に病床の身だった。

 そんな男に、久方ぶりに顔を合わせた古い友人は煙草をくわえたまま冷たい目を向ける。

「どうやらその呪いはどうにもならなかったようだな」

 言外に、彼女は愚かな事だと言っているのだ。少なくとも、この男はあの呪いを消し去る手段を保有していたはずだ。

 だが結局のところ、何処の誰とも知れぬ子供を救うためにその手段を捨ててしまったのだ。

 それを愚かと言わず、何と言おうか。

 だが、男は苦笑いをうかべると、全く未練も後悔も無いと言った。

「あの子が……士郎が僕の生きていた意味を継いでくれるって言ったんだよ」

 男の何処までも透明な笑顔に、女は何も言わず紫煙を吐き出した。

 

 セイギノミカタの名は衛宮切嗣。

 

 朽ちた殺人鬼と、裏切りの魔女。そしてセイギノミカタが奏でる三重奏。

 

 

 邂逅

 

「ふうん、聖杯戦争が始まったわけでもないのに、まさか既にサーヴァントが居るなんてね」 

「この時代の魔術師……ええっ?」

 メディアの目が驚愕に見開かれる。いつの間にか男の手には自らがかぶっていたはずのフードが握られていたのだ。

「中々可愛らしいお嬢さんだ。でも、おいたが過ぎたようだね」

 そう言うと、切嗣は二挺の拳銃を引き抜き、煙草を地面に落とす。

 それは戦闘開始の合図なのだろう。メディアは計算する。あのような玩具でサーヴァントたる自分を傷付けられるとは思えない。しかし、自分が気付かせずにフードを奪っていた魔術師がサーヴァントの目の前に姿をあらわしたのだ。何らかの隠し種があると見て間違いないだろう。

 倒そうと思えばいつでも倒せる。しかし、あえて今ここで危険を冒す必要は無い。

 此処は逃げるべき。メディアはそう判断した。その瞬間だった。

「危ないっ!」

 切嗣は咄嗟に駆けてくると、メディアを押し倒す。

 一瞬だけ遅れて、彼女の頭のあった所を暴力的な何かが通り過ぎ、遥か後方の壁に激しい音と共に突き刺さる。

「な、なんで助けたの……?」

 押し倒した態勢のまま、自らの胸元に頭をうずめる男に呆然とメディアは呟く。

「いや、咄嗟だったもので、ついね……いや、なかなか」

 そんなメディアに、切嗣は姿勢を変えずに答えた。

「って、いい加減離れなさいっ! このスケベ爺!! そこは宗一郎様の場所よっ!」

 

 

 日常

 

「まぁ、あがりなさい。お茶ぐらいは出すよ」

 切嗣はメディアと葛木に自らの家に上がるように勧める。

 魔術師だから油断は出来ないが……、今は敵意は無いと言う事だろう。殺気や敵意が欠片も無い。

「ああ、お邪魔する」

 危険はないと判断した葛木は家に足を踏み入れる。

 メディアもそれに続こうとして……。

「メディア」

「は、はい、宗一郎様」

「靴は脱げ。日本の家は屋内では靴を脱ぐのが習わしだ」

「あっ……」

 一見悪役風の二人だが、妙にほのぼのとしていると切嗣は微笑む。

 それを目ざとく見つけたメディアが、切嗣を睨みつけながら怒鳴る。

「そこっ、笑ってるんじゃありません!」

「ああ、ごめんごめん、メディアちゃん。さて、お茶は何処だったかな?」

 切嗣はそう言うと、台所に逃げるように入り込む。

 しかし、中々お茶は見つからない。最近は士郎が『ろくなことをしないから』と言って、台所に入れてくれないのだ。

 父親としてちょっぴり悲しくなるが、自分が不器用な事は良く知っているので文句も言えない。

「どこだったかな、お茶は……」

「戸棚の上だよ」

「ああそこか……、って、え?」

 切嗣は慌てて振り向くと、そこには呆れ顔の少年が一人。

 彼の名前は衛宮士郎。5年前に引き取った彼の息子だ。

「爺さん、寝てなきゃダメだろう」

「ごめんごめん、でもお客さんが来て大事な話しをしなきゃいけないんだよ……って、士郎学校は?」

「今日は午前中で終わりだよ。ほら、お茶なら俺が入れるから、それならお客さんの相手をしなよ」

 そう言うと士郎は切嗣を台所から追い出し、お茶の準備を始める。

「あー、それなら僕が」

「また『地獄の毒々焙じ茶』を作るつもりか、爺さん」

「うっ、それは……」

 数日前にやらかした失敗を言われ、切嗣はしぶしぶと引き下がる。

 居間に戻ると、仏頂面の男と、悪女めいた笑みの女が迎えてくれた。今までの会話が筒抜けだったのだろう。

「ご子息ですか?」

 葛木が表情一つ変えずに尋ねる。

「ああ、自慢の息子さ」

「そうなのね……」

 これは重大な弱点となると、メディアは考える。

 その考えを見抜いたのだろう。切嗣は冷たい目で宣言する。

「あのバケモノを倒すまでの同盟は構わないけど、あの子に手を出したら……容赦しないよ」

 それは、ぞっとするほど冷たく、熱い目だった。

 恐らく、その宣言どおりこの男は自分達を容赦なく殺すだろう。人質をとっていようが、お構い無しに容赦なく戦うはずだ。

 この男に人質は無駄だと、直感的に悟る。

「そうね。でも、可愛い子だから、綺麗な服を着せちゃダメ?」

「そ、それは男の子だから、勘弁してやってくれ」

「ちぇっ!」

 

 

 戦い

 

 少年を取り込んだ影は、その姿を大きく変えた。

 巨大な胴体はそのままに、その形が少女の姿と変わる。剣を持ち、鎧を纏う少女騎士の姿に。

「な、なによ、あれはっ!」

 メディアは驚愕の叫びを上げる。

 英霊として、サーヴァントとして、魔女として。その全ての知識を動員しても、あんな物は見たことも聞いた事も無かった。

「下がれ! メディア!」

 葛木がメディアを抱えて、大きく飛び退く。

 一瞬だけ遅れて、それまでメディアが居た場所に騎士の剣が振り落とされる。大地が大きくえぐれ、巨大な溝が出来上がった。

「すみません、宗一郎様」

「かまわん。しかし……」

 葛木は呆然と巨大な騎士を見上げた。

 彼の格闘術は初見ならば何者にも負けない。それだけの自身と鍛錬もある。

 しかし、あのようなちょっとした怪獣サイズの敵に通用するとは思えない。通用するとすれば、それはメディアの魔術だけだろう。

「メディア、アレは倒せるか?」

 葛木の言葉に、メディアはすぐに答えを出すのを躊躇した。

 たしかに、今の彼女の魔力残量なら倒せない敵ではない。しかし、今のこの魔力で戦いたい敵ではない。

 衛宮切嗣との盟約に従い、町の住人からの魔力奪取を最低限に抑えたのが裏目に出てしまった。

 もっとも、それで切嗣を怨むのは筋違いだ。彼が提示した品物は、魔力奪取以上の魅力がある品物だったのだから。

 とはいえ、今の状況では何の役にも立たないのも事実。

 逃げる。

 メディアはその選択肢を一瞬だけ考えて、すぐに却下した。

 あの怪物は、明らかに自分達を追っている。

 そして、最初は獣程度の雑魚だったのに、出会うたびにその魔力、その知性を増している。

 この場を離れ魔力を蓄えたとしても、次に戦う時にどれだけ力を増しているか想像もつかない。

 判断に躊躇しているメディア達に向かって、騎士は独特の構えで剣を振り上げた。

 信じられないほどの魔力が、剣に集いはじめる。

「まっ、まさか……宝具!?」

 メディアが驚愕の叫びを上げる。

 その叫びに反応したかのように、騎士はその剣の力を解放した。

 

──や……さ…た……ゥ…り………!!

 

 黒い泥と光の奔流が、メディアと宗一郎を襲う!

 

 

 それは、奇跡と奇跡の物語。

 無限の砂漠に落ちた一粒の奇跡を引き当てた、魔女と教師の御伽噺。

 

 

 

 

 新シリーズ。

 Fate/decayed murdeous fiend meets betrayal witch(仮題)

 

 製作……できません。ネタが持ちません(涙)

 

「なら予告するな、この愚か者」

「私……ヨゴレ確定ですか。このSS作者の士剣スキーは絶対嘘です!」

「せ、セイバー、泣かない泣かない」

「なお、スペルはいい加減なので、英語に詳しい人ヘルプです」