とある英霊と赤き杖、黒き短剣
「って、いきなり何をするんだっ! 遠坂!!!」
豪快にぶっ飛ばされたアーチャーだったが、案外と復活は早かった。なれているだけとも言うが。
とにかく、すぐに起き上がると不敵に微笑むキャスターに向かって怒鳴り返す。
もっとも、アーチャーが怒鳴ったぐらいで動じるようなキャスターでは無い。
「あら、案外復活が早かったわね、士郎」
「そりゃ、なれてるしな……じゃなくって! 何で遠坂が此処に居るのさ!」
「何を馬鹿なことを言ってるのよ、学園であんな騒ぎが起きれば嫌でも気が付くわ」
キャスターの言葉にアーチャーは納得……しなかった。
「そりゃ気が付くか……じゃないっ! なんで遠坂がサーヴァントになってるのさ。しかもマスターはバゼットだし!」
「だから前にも言ったじゃないの、人の許可も無く約束をすっぽかして勝手にいなくなったアンタをぶん殴りに来たんだって、マスターは……」
「マスターは?」
「何故か知らないけど、ちょこっとひねってやったら、自分から土下座をしてマスターを辞めさせて下さいって言い出したのよね。で、荷物を抱えて実家に帰っちゃったのよ。
不思議よね、ちゃんと勝たせてあげるって言ったのに、あのチョビ髭」
キャスターの言葉にアーチャーの顔に縦線が走る。
元キャスターのマスターがどんな人物だったのかは知らないが、きっと死んだほうがマシな目に合わされたのだろう。彼女はアレを持っているのだから、魔力供給を止めようが関係ないだろうし……。
「一体何をしたんだ、君は」
「たいした事はやってないわよ……、って、その顔でアーチャーっぽい喋り方は気になるわね」
「何を言っているんだ、私はアーチャーなのだから仕方あるまい。そう言う君こそ、その顔の割には喋り方がおばさんっぽい……けばぶぅ!」
なにやら不用意な発言をしたアーチャーが再びキャスターに殴り飛ばされる。玄関から出てきた臓硯共々大きく吹っ飛ばされる。
「誰がおばさんよ!」
「だから、いきなり殴るなよっ! 凛よりも遥かに暴力的だぞ、遠坂!」
「凛って、この時代のわたしよね。なんで下の名前を呼び捨てなのよ!」
「君と違って可愛げがあるから」
「あんですってぇ! どうせ可愛げなんて無いわよ!」
「うわ、ガントを撃つな、あぶない、あぶないっ!」
何やら激昂したキャスターがアーチャーに向かってガントを乱射し、アーチャーは具現化させた双剣でガントを弾く。狙いがそれたガントが数発、家から出てきた臓硯に命中するが、そんな事をかまってはいられない。余裕そうに見えて意外と必死なのだ。
アーチャーとキャスター。二人のサーヴァントの争い……と言うか、じゃれあいを呆然と見ていた凛だったがいつまでも呆然としていられない。何とか気を取り直して真横のアサシンに声をかける。
「ねえ、ちょっとそこの貴女」
「はい、なんですか?」
「貴女、ちょっと顔を見せてくれないかしら」
呆然とした表情の凛に、アサシンは苦笑いを浮かべながら顔を覆っていた覆面を取ってみせる。その下から現れたのは、髪の色こそ違うが見慣れた顔。
その事実に、凛は錆びた機械のような歪な動きでアーチャーに疑問を投げかける。
「ちょっと、アーチャー」
「どうした、凛。ちょっと取り込み中なのだが」
アーチャーは振り向きもせずに答える。ガトリング砲の如く切れ間無く飛んでくるガントの迎撃は、アーチャーといえども神経を削る作業なのだ。
だが、さすがの凛と言えども、この状況下では冷静ではいられない。そんなアーチャーの事情を無視して質問を口にする。
「ねえ、アーチャー。そこの一見すると美人で優雅で可憐な優等生だけど、その内実は猫かぶりで守銭奴でケチで貧乏性で乱暴者で頑固者でツンデレな女は誰?」
「じ、自分で言うかな……、姉さん」
真横で聞いていたアサシンがひきつった笑みを浮かべるが、とりあえずは無視。
「ふむ、自覚があったのだな。君にはいつも驚かされる」
「何を驚いてるのよ!」
アーチャーは思わず視線をキャスターに向ける。返答はもちろんガントだったが。左右からの豪雨のようなWガントにアーチャーは防御用の宝具を投影してやりすごす。
「遠坂も凛も、殺す気かっ!」
「この程度じゃ死なないでしょうが、あんたは」
全てを遮断する障壁が消えるのと同時にアーチャーが怒鳴るが、やっぱり聞き入れてもらえない。
「というか、アーチャー。アレは誰なのよ」
わかってはいるが、認めたくは無いのだろう。凛が悲鳴じみた怒鳴り声を上げる。
流石にほって置くわけにはいかないだろう、ぶちぎれて令呪でも使われたら大変だ。凛に限ってそんな馬鹿な真似はしないだろうとは思うのだが、なにせ最初の時の前例がある。
「あー、凛よ。認めたくない気持ちは良く分かるというか、私も正直認めたくは無い、夢だと思いたいのだが……」
「そう言えば自己紹介がまだだったわね」
アーチャーの言葉を遮って、キャスターが凛に微笑みかける。
「わかっているとは思うけど、私はキャスターのサーヴァント。真名は衛宮凛よ」
キャスターの言葉に、辺り一帯の時が停止する。流石は第二の継承者……って、ちと違うか。
どれくらい固まっていただろうか。あまりの沈黙に耐え切れなくなったキャスターが口笛を吹きながら髪をいじくるのにも飽きた頃になって、ようやくアサシンが再起動した。
「な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、なん、なん、なん、なん、なん、なん、なん、なん、なん、なん、なん、なん……」
「ナン? インドのパンの事? あれって美味しいわよね」
「ちっ、違いますっ!!! な、なんなんですかっ! 衛宮凛ってのは!」
「子供の事は知っているのに、そっちは知らないの?」
「こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、子供って何よっ! け、結婚ってなにっ!? って、わたしが士郎と? え、ちょっと、それって、どういう、えっと、え、でもそれだと、へ、あ、どう言うことよ、説明しなさいっ! アーチャー、あんたセイバーと恋人じゃなかったの!?」
「聞きたいのは私も同じだっ! なんなんだ、衛宮凛というのはっ! てか、子供って何さ!?」
混乱するアサシンと凛に詰め寄られながら、アーチャーが絶叫する。
そんなアーチャーに、キャスターはあくまの笑みを浮かべながら答える。
「あら、式を挙げたじゃないの、教会で」
「式って……。アレは単なる式の真似事じゃないかっ!!! そもそもカレンに式を上げてもらって嬉しいのかっ、遠坂はっ!」
「あら、今となっては良い思い出よ。ライスシャワーの代わりに血の雨が降る無茶苦茶な式だったけど」
「なによ、その血痕式は……」
「どう言うことなのですか、それは?」
歩いて地下から出てきたのだろうか、何時の間にか追いついてきたバゼットが臓硯を片手に問い掛ける。
「カップルだけを襲う謎の覆面集団を一網打尽にするという作戦に従事した事があって、その時に囮として俺と遠坂が結婚の真似事をしたんだよ……」
ちなみに、本来は知り合いが囮をやる予定だったのだが、『素人を巻き込む訳にはいきませんね』とチームを組んでいた鉄拳女史が提案、あかいあくまやきんのけもの、ぎんのこあくままで悪乗り。なぜかその町に滞在していたサドマゾシスターが式を仕切りはじめる始末。正義の味方の反論などこの面子に受け入れられるはずもなく……。
そういえば、あの時協力してくれた軍人さんは元気だろうかと、アーチャーは涙目に考える。
「そんな涙目にならないでよ、男の子でしょう。これくらいの冗談で」
「あのな、遠坂。最近はこれくらいの冗談でもデットエンドにつながるんだよ」
何処からとも無く聖剣の一撃が飛んできても不思議ではない。
「相変わらずバイオレンスな生活しているわね。あの時の写真もあるわよ」
一方、そんなアーチャーを尻目にキャスターが懐から一枚の写真を取り出す。
そこに映っているのは、結婚式の写真だった。冬木ではない何処か。小さな教会を背景に、タキシードを着込んだ白髪の青年の腕にウェディングドレス姿の黒い髪の女性が抱きつく。これだけならごく普通の幸せそうな結婚式の写真なのだが……。
「なによ、これ……」
「無茶苦茶ですね……」
写真を覗き込んだ凛とアサシンが呆れ声を上げる。
なんせ、青年は憮然とした表情をしており、黒髪の女の反対側には金の巻き毛の女性が、やはりウェディングドレスを着て男の腕を取っている。ついでに、男の背中にはウエディングドレス姿の銀髪の少女が抱きついていたりもした。
これだけでも十分異常なのだが、さらに背景の教会の横には無駄に筋肉質な男達の屍が山と積まれており、その山の頂きに胸の大きいメイドさんがハルバード片手に突っ立っている。他にも、屍を埋める穴を掘っているスーツ姿の女だの、男たちを棒でつっつくハイテイナイシスターだの、軍服姿の青年だの、スキンヘッドの大男だの……、どう見てもまともな奴が一人としていなかった。
はっきり言って『幸せな結婚式』と言うよりも『地獄絵図』、もしくは『混沌図』と言ったほうが正しい写真だ。
「ほほう、これが平行世界の私ですか。自分の記憶には無いのに自分が映っているとは……変な気分ですね」
写真を覗きこんでいたバゼットが何やら感心の声を上げる。
一方、ようやく再起動したアーチャーが、思わず呆れ声を上げる。
「なんだってそんな写真を持っているのさ」
「ん〜」
そんなアーチャーに、ふとキャスターが寂しげな笑みを浮かべ言った。
「これが最後だったかしら」
「そうか……」
その言葉の意味は、凛やバゼットには判らなかった。
だが、アーチャーだけは苦笑いを浮かべ……、次の瞬間にはっと気がつく。
「って、そんな事で誤魔化されるか、遠坂! なんだって遠坂や桜までサーヴァントをしているのさ!」
「桜……?」
そんなアーチャーの声に反応したのは、意外にも男の声だった。
なにやらバゼットの側から……。
「あっ、そこで拾ったのですが……」
そう言うと、バゼットは引きずっていた物体を掲げてみせる。
それは、手と足を持った人らしき物体だった。やたらめった不健康そうな肌色をした小柄な和服姿の老人……。
「間桐……臓硯!?」
そう、その物体は間桐の当主、間桐臓硯だった。
予想外の人物の登場に、サーヴァント達が警戒を見せる。
一方、臓硯はアサシンの姿を見つけると、孫に語りかけるような親しげな口調で言った。
「おや、桜。朝食はまだかのぉ……」
臓硯の言葉に、周囲の空間が凍りつく。流石は500年を生きた妖怪爺……ちと違うか。
どれくらい固まっていただろうか、最初に反応したのはアサシンだった。
「あらやだ、もう朝食は食べたでしょう」
「おや、そうだったかのぉ。ところで、朝食はまだかのぉ」
「って、違うだろうっ!」
思わず現実逃避気味にボケるアサシンに、アーチャーがツッコミを入れる。
「おや、衛宮の倅か、本日はお日柄も良く……」
「無理にボケるなっ!」
「おや、遠坂の当主かい。幼稚園のかえりかのぉ……」
「だから、無理に……」
「桜や、朝食はまだかのぉ……」
延々とボケ続ける臓硯に、流石のアーチャーやキャスター、凛もツッコミ切れなくなる。それを見ていたバゼットがポツリと呟く。
「もしかして、本当にボケているのではないでしょうか……」
その言葉に、今まで以上の沈黙が周囲を覆う。なんというか、認めたくは無いがものすごく当たっているような……。
そんな混沌とした状況をさらに混沌とさせる声が彼らの背後から響く。
「おや、魔術師殿。どうなされましたか?」
それは、男のような声だった。
その気配無く突然現れた存在に、サーヴァント達が一斉に振り向く。
そこにいたのは、一人の影だった。黒い装束に身を包んだ片腕が異常に長い影。顔を覆うのは白い骸骨の仮面。
その黒い影に、臓硯は声をかける。
「ハサンや、朝食はまだかのぉ……」
「魔術師殿、もう朝食は食べたでしょう」
その影は、ニョキっと大根の突き出た買い物篭を持っていたりもした。
カチ、カチと古いのっぽな柱時計の音のみが響く。
豪華な応接室のソファーに座る凛とバゼット。彼女たちの目の前には湯気を立てるティーカップが存在した。
「毒など入っておらぬゆえに、安心召されよ」
そのお茶を入れたのは、彼女たちの目の前にいる髑髏の仮面の影だった。
立て続けに起こる予想外の(アホらしい)事態に、なんとなく魂が抜けそうな気分の凛だったが、気を取り直して、できうる限り冷静な声で質問を口にする。
「あんた、いったい何者なの?」
「ふむ、魔術師である貴女からそのような質問が出るとは。ホームヘルパーのサーヴァントであるが、何か?」
なにやら胸を張って答える骸骨仮面。
「んなホームヘルパーいるかー!!!」
冷静な仮面は0.28秒で剥がれ落ちた。
「ちゃんとホームヘルパーの資格を持っているぞ」
「あるのかっ!?」
「あるぞ、偽造だがな」
「駄目じゃん!」
なにやらゴソゴソとホームヘルパーの免許を取り出す骸骨仮面に、アーチャーが反射的にツッコミを入れる。
「そう言われてもな、魔術師殿があの様子では……、ホームヘルパーの資格は必須。そもそも現代は資格社会、自動車免許ぐらいは持っていないと彼女とデートにもいけぬぞ、士郎殿」
「偽造の資格で力説するなっ!」
「てか、彼女が居るのっ!?」
「うむ、いない」
「いない奴が力説するなっ!」
アーチャーとキャスターのマシンガンツッコミにも動じない骸骨仮面に、さすがの凛も頭痛を隠せない。というか、なんなのだ、この変人のオンパレードは……。
「で、アサシンのサーヴァントが何で老人介護などをやっているのですか?」
「何故私がアサシンだと!?」
「他にどう見ろと言うのだ?」
「ちょいと小粋な魔法使いのおじいさんと言うのはどうであろう?」
「んな魔法使いいるかっ! いや、変人度ではさほど変らない気もするが……」
アーチャーは生前出会った二人の魔法使いと、第二魔法に辿り着いた天才や第三魔法と係わり合いのある少女を思い起こす。いずれも変わらぬ変人揃いで、何故だかあの連中の起こす非常識極まりない騒ぎの数々は自分と後一人が巻き込まれる事に……。
「ふごらぁ……!」
「ああ、士郎殿が吹っ飛ばされたっ!」
「悪かったわね、変人で!」
「なんでキャスターが反応するのよ?」
「い、いいじゃないの、どうだって!」
「士郎殿、女子には優しくし接するべきであろう」
「この状況を見て、何でそうなるのさ……がふぅ」
「ああ、先輩が死んじゃう!」
なにやら間抜けな言い争いに発展しそうなサーヴァント達の様子に、バゼットは溜息をつきながら話の軌道修正をする。
「で、冗談はさて置き、本当になぜ老人介護を?」
ニコリと微笑みながら、バゼットは先ほどと同じ質問を繰り返す。まぁ、なにやらプカプカと鉄球が浮んでいたりもするけど。
「何故と問われても、魔術師殿がボケてしまったのだからとしか答えようがないな」
「ボケてしまったって……」
「二ヶ月くらい前から急にな。二人いる孫は一人は遊び歩いて家に寄り付かず、もう一人は甲斐性無しで鈍感でフラグのたて捨てが激しくエロでペド風味でお父さんちょっと君の将来が心配だよな男の家に入り浸っているので、私が代わりに……」
一同の視線がアサシンとアーチャーに集中する。
「だ、誰が入り浸ってるんですかっ!」
「というか、それは俺じゃないっ!」
同じ様なもんだろうと誰もつっこまないのは優しさか。話題を変えるつもりか、骸骨仮面はしみじみと語る。
「最近は徘徊の末に行方不明になる始末。昨日など東京まで引き取りに行っていたのだぞ」
「昨日?」
「東京……」
骸骨仮面の言葉に反応したのは凛とアーチャーだった。間抜けな雰囲気に飲まれてしまっていたが、此処には調査に着たのであったと思い出す。
てか、忘れるなよ。
「うむ、2週間前くらいから魔術師殿の姿が見えなくなってな」
「2週間?」
「一人で電車に乗って東京まで行ってしまったらしい。いやはや、冬木中を探し回っても姿が見えないわけだ……」
骸骨仮面がしみじみと語る。その言葉には、なにやらえらく実感が篭っていた。
「貴方、昨日この町で何が起こったか知っている?」
「ふむ、地下のガスが噴出して穂群原学園の生徒が皆倒れたとか……、恐ろしい事故だな」
「いや、そうじゃなくて……」
「それ以外に何かあったのか?」
きょとんとした様子で、逆に骸骨仮面が問い掛けてくる。
「何分昨日は警察での手続きやら発見者にお礼に行ったりで忙しかったものでな。先ほど商店街で話を聞くまで事故の事も知らなかったくらいなのだ」
「その格好で東京に行ったんですか?」
「いや、ちゃんとスーツを着たが。流石にこの衣装では先方に失礼だろう。そのくらいの常識はわきまえている」
「スーツを着たんですかっ!」
「無論」
「仮面は?」
「被ったままだ。これが今の私の顔なのでな」
「スーツ着たまま被るなよっ!」
なにやらボケボケな会話を繰り広げているアサシンと骸骨仮面を尻目に、凛とアーチャーは考え押し黙る。表情は骸骨の仮面でよく判らないが、声の様子や喋り方、あるいは横で小刻みにプルプルと震えている臓硯の様子から話しが嘘とは思えない。
どう見てもあの臓硯はボケている。仮に演技であるのなら、キャスターかアーチャーが見抜いているだろう。
桜やライダー、士郎から聞いた昨日の顛末との矛盾。この骸骨仮面が本当に昨日は東京に居たとしたら……。
「アンタ、本当に東京に居たの?」
「うむ、東京にいたぞ。嘘だと思うのなら調べてみれば良かろう、警察にも捜索願を出しているし、正規の記録にも残っている。なぜか某ネズミの国では子供に大人気だったが」
「何処からつっこんでいいやら悩む発言ですね……」
「てか、なんでボケ老人を引き取りに行ってネズミの国に行くのよ」
キャスターが呆れ声を上げるが、その程度で骸骨仮面は動じない。
「ほかにも東京タワーや六本木ヒルズ、秋葉原のメイド喫茶にも行ったぞ。いや、最近の子は発育がいいね。あ、これ記念写真」
「うわ、デジカメ使えるの!?」
「なんでこの子だけ割烹着なんですか? 本当にメイド喫茶なんですか?」
「細かい事を気にしてはならない」
「この長い髪の娘は発育は……。これなら……勝ったわね」
「いや、これはこれで趣があると思うのだが……、ワビサビとでも言おうか。そう言うコンセプトであるしな」
「ふむ、眼鏡の男が吹き飛ばされているな。横にいる赤毛は……」
「って、これ遊びに行っただけじゃないの、もしかして?」
何処まで本気で何処まで冗談か判らないが、正規の記録ならすぐに調べがつく。
「そういえば、遠坂の当主殿が二人いるように見えるのだが……、目の錯覚か? それと桜殿、髪を染めるのは感心しないな」
「気が付いていないのかよっ!」
単にこいつもボケているだけなのかもしれないが……。
こうして、なにやら疲労ばかりが蓄積した間桐の屋敷の調査が終わった。
というか、ろくに調査などできていない気がするのだが仕方が無い。流石にあの状況下で調査をするテンションは維持できない。
「おお、そうだ、これはお土産の東京銘菓ヒヨコ饅頭だ」
「これは御丁寧に」
なにやら骸骨仮面はお土産をアーチャーに手渡している。
「いや、桜殿がお宅でお世話になっているようなのでな」
「ハサンや、メシはまだかのぉ」
なにやら玄関先で繰り広げられるボケボケなやりとりに、凛は思わず頭を抱える。
いや、先ほどまでのやりとりで幾つか収穫が無かったわけではない。いや、何か重大な事を根本的に間違えていた事に気がついた。
だが、それを真面目に考察しようにも、頭痛の方が大きいのだ。
「おお、そうそう。士郎殿に伝えておかねばならぬ事があった」
そんな凛を尻目に、骸骨仮面は何かを思い出しかのようにアーチャーにのみ聞こえるように小さく呟く。
「士郎殿、“臓硯”には気をつけるんだよ」
「どう言う意味だ?」
その言葉に、アーチャーの目が鋭くなる。
「うむ、今は特に足元」
「へ?」
髑髏仮面の言葉にアーチャーは足元を覗き見る。殺気も敵意も無かったものだから気が付かなかったが、何時の間にか臓硯が足元に近寄ってきていた。
そして……。
「うあわ、なんか汁がっ!!!」
「魔術師殿っ! そこはトイレではありませぬ!」
「トイレ扱いかよっ!」
「先輩、逃げてっ!」
「でも助けには行かないのね、アサシン……」
なにやら再び馬鹿騒ぎをはじめるサーヴァント達に一つ溜息をつくと、凛は己れの従者に呼びかける。
「アーチャー、帰るわよ。それと靴は洗っておきなさいよ」
「君も助けには来ないのだな。了解したマスター。地獄に落ちろ」
続く・・・といいなぁ。