とある英霊と呪われし剣
「ふむ、よくよく考えてみれば無駄な事であったな。そこのどうしょうも無い阿呆は敵と見れば無謀にも突っ込み、少しでも弱っている者がいれば後先考えずに自らの身を盾にするような阿呆だ。これで実力差も判らないような愚か者ならまだ可愛げも有るが、実力差を理解していながらそれでも突っ込む愚者中の愚者だ。しかもその行いが周囲にどのような影響を与えるかまるでわかっていない、いっそ犯罪的だと言って良い。朴念仁も此処まで行くと死すら生ぬるい罪業だな。そもそもだ、貴様ごとき技量で聖杯戦争に参加できた事態が奇跡なのだ。さらに言えば、聖杯戦争から今日まで生き延びれた事は凛の助けがあったとはいえ砂漠の中から一粒の宝石を引き当てたほどの幸運の賜物理解しろ。そもそも、凛やセイバーがいなければ貴様は一番最初の夜にランサーに殺されていたのだ、彼女達にはどれだけ感謝をしても足りないくらいだ。さらに、桜が衛宮の家に出入りしてくれてどれだけ助かったか。虎と一対一で高校を過ごすことを考えてみろ、どれだけ苦労するか。それなのに貴様ときたら、事あるごとに彼女たちを心配させて、しかも死にかけてくる。いっそ自分で腹を切って死ね。恩を仇で返しているようなものだ。それなのにその事実にすら気がついていない。死ぬのが嫌なら私があの世に送ってやるぞ。そもそもだ、貴様一人の命で出来る事など高々知れているのだ。特に今の貴様は魔術は未熟、身体はまだ出来上がっていない、知識などその辺の見習いにも劣る。実戦経験などは欠片も無く、戦場に出れば真っ先にくたばる奴の典型だ。それなのに想いばかりが先行し、周囲に迷惑をかける。貴様一人が死ぬならまだしもと言いたい所だが、なんとも物好きな話しだと思うが貴様が死ねば悲しむ人がいる以上は死んではならぬ。少なくとも生き延びようと努力せねばならない。救われた命を無駄にしようなどとふざけるのも大概にせよ。なんだ、不満そうだな、自分は命を無駄になどしていないとでも言いたそうだな。自覚が無いだけに性質が悪い。いいか、命をかけるななどとは言わん。命をかけねばならぬ場面は確かに存在するからな。まして、貴様のような生き方をしていれば何度もあるだろう。まして貴様は自分が助かろうなどと考えない馬鹿だからな。そのくせ立ったフラグには気が付かない朴念仁のくせに、エロだけは一人前だ。そもそも、貴様が女性関係をキッチリとしていないからやたら苦労するのだ。いや、自分ではキッチリしているつもりなのだろうが、無自覚に口説くから性質が悪い。どこぞの絶倫病弱眼鏡馬鹿に匹敵するぞ。いいかげん生活態度を改める事を考えろ。それとだ、セイバー二号。君がこの阿呆を止めないでどうする。それどころか一緒についてきた挙句こっそりとつけてくるなどお馬鹿な真似をするとは円卓の騎士達も草葉の陰で泣いているぞ。そもそも……」
寺近くにある公園のベンチにちょこんと正座をさせられた士郎とセイバー二号を見下ろしながら、先ほどからアーチャーは一人エンドレスに説教を続けていた。
よっぽど延々と説教を垂れていたのだろう、士郎もセイバー二号も疲れからか微妙にへたれている。なんとなくだが、二ヶ月くらい放置されていた気分である。(作者注:二ヶ月更新が止まってました)
他の女性陣はというと、呆れ顔で三人を眺めていた。
「アーチャーが言いますか?」
どこぞの出身国が同じ正義超人のごとくマスクを外してお昼寝モードだったセイバー一号がその台詞に反応し、むくりと置きながらポツリと漏らす。
「心の棚が多いんですよ、先輩は」
「というよりも、同一人物でしょう……」
ブラのサイズについて語り合っていたアサシンとバゼットが、ようやく再開したかと同意と頷く。
そんな三人に、アーチャーが苦虫を噛み潰したような表情で振り向いた。
「私も確かに小僧だった時期はあるがな、ここまで間抜けな真似はしなかったぞ。ここまで間抜けだともはや別人だな」
アーチャーの言葉をキャスターが鼻で笑う。ちなみに、アサシンとバゼットの話には彼女だけはついていけてない。最近さらに貧乳属性が強化されているのだから無理もない。
「やかましいっ!!」
痛い、痛い。思わず暴れ出すキャスター。地の文に攻撃を仕掛けるとはさすが第二魔法の後継者である、胸以外は。
「まだ言うかっ!!」
うわっ! 危ない。 こうなったら、アーチャーバリアー。
「な、なんだとっ! ギャー!」
なぜか飛んできたキャスターのガントを受けて派手に車田落ちでふっとぶアーチャー、無論背後に惑星はお約束。もっとも、毎度の事なので誰も気にしていないが。
士郎とセイバー二号など、やっと説経が終わったとばかりにヤレヤレと立ち上がった。
「ふぅ……、まぁここの士郎も迂闊なのは事実だけど」
アーチャーを吹っ飛ばして気が治まったのか、キャスターが激しく失礼極まりない事をのたまう。ちなみに、倒れているアーチャーはスルーである。
「というか、迂闊じゃなきゃ士郎じゃないわよね。アーチャーもああ見えてかなり間抜けだし」
それに答えたのは凛であった。彼女は倒れているアーチャーをスルーしきれずにこめかみに冷や汗が流れているあたり、キャスターと比べると修行が足りないのかもしれない。
もっとも、ああなっては人間として色々な意味で終わっている気がしないでもない。魔術師として人間を辞めるのは構わないが、あーいった風にヒトとして大切な何かを忘れたくは無い。ああはならないとこっそりと心に誓う遠坂凛である。
「すでに手遅れだと思うが……」
レイラインでそんな凛の決意が伝わってきたのだろう、倒れていたアーチャーが小声でつっこみを入れた。
つくづく、墓穴に全力三回転スピンダイブ体質である。
「だまれっ! このうっかり男」
ゼロセコンドでアーチャーの頭を踏み潰す凛。アーチャーの言うとおり既に手遅れかもしれない。
「うぐっ。遺伝性レベルでうっかりが染み付いている君には言われたくは無いぞ」
「どの口で言うのかな、アーチャー。ってか、わたしのどのあたりがうっかりと」
ぐりぐりと頭をアーチャーの頭にかかとをめり込ませながら冷酷な表情を浮かべる凛。未来の凛であるキャスターがさすがにひきつった苦笑を浮かべる。
そんな二人に、アーチャーも酷薄に告げる。
「ミニスカートで人の頭を踏み潰すあたりだ……ふごっ!!」
けっこーよゆうがあったっぽいアーチャーに、顔を真っ赤にしたキャスターの右の拳がめり込む。
そんな何時もの如くドツキ漫才を繰り広げる、彼女達の背後では……。
「どっちもどっちだと思いますが……」
「知っています? サーヴァントとマスターって似たもの同士が召喚されるって……
セイバーさんと先輩は真面目つながりでしょうが、アーチャーさんと姉さんはうっかりつながりなんですよ……」
人事のように好き勝手言うセイバー一号とアサシン。その言葉にキャスターが思わず振り向く。
「そこっ、うるさいわよっ!!!」
「まて、遠坂や凛はさておき、私までうっかりとはどういうことだっ!!!」
もっとも、二人の抗議は周囲には受け入れられなかったようだ。ただただ生暖かい視線が二人に向けられる。
なぜだか士郎まで生暖かい視線を向けていた。
「って、なぜ貴様までそんな目で見る!」
「だって、『もはや別人』なんだろう。アーチャー」
「ぐぐぐっ……」
一瞬言葉に詰まるアーチャーを見て、士郎は密かな勝利感に浸る。
もっとも、その勝利は長くは続かない。黒い人が俯きながらボソリと呟く。
「結局の所、先輩と姉さんとセイバーさんってそっくりなんですよね。真面目で初心で奥手で初心でちょっぴりエロででも初心でどじな所があるってあたりが……。くすくすくす、どうせ私だけはエロとグロ担当でラスボス属性で仲間外れなんですよ……」
桜ルートでも思い出しているのか、微妙に黒い笑いを浮かべる桜……じゃなくてアサシンにさすがの周囲も腰が引ける。
「い、いや、桜……じゃなかった、アサシンが仲間外れってことは無いと思うぞ……」
「そ、そうよ。アサシンだって桜ルートではうっかりと『無駄に外出して敵の手に落ちたり』『うっかりと助けようとしていた私を食べちゃったり』しているじゃない……」
励ましているつもりでとどめを刺しているキャスターの言葉に、アサシンの影からなんかうにょうにょしている存在が顔を出す。どこに顔があるかは微妙に不明だが。
「くすくすくす、やっぱり姉さんは敵ですかぁ!?」
「な、何言っているのよ。ちょこっと胸が大きいのを嫉妬してなんか……って、はっ!」
「本音が出たな」
思わず口走ったキャスターの台詞に、アーチャーが半眼でボソッとツッコミを入れる。
「う、うるさいっ! 大体、あんたが昔人の胸を見て溜息一つついたのがいけないんでしょうがっ!」
「まてっ! そんな記憶は無いぞ!」
「シロウ、どういうことですか? やっぱり貴方はオッパイ星人だったのですか!?」
「せ、セイバー。ってか、どこでそんな単語覚えたっ!!」
何となく黒くなりかけているセイバー一号に、さすがのアーチャーも冷や汗を流す。
「どっちかと言うとロリペドですよ、先輩は……」
「そうよね、セイバーもイリヤも炉系統だし」
「さ、桜に遠坂っ! 人聞きの悪い事を言うなっ!!」
「し、失礼なっ! そりゃ、選定の剣を抜いてから肉体的には年は取っていませんがっ! というか、だれが炉系統ですかっ! 私にはお姉さん属性がPS2で追加されてますっ!」
こんな時ばかり絶妙なコンビネーションを見せる姉妹に、アーチャーが血の涙を流しながら絶叫を上げセイバー一号がツッコミを入れる。
「イリヤと同じじゃない、その系統。やっぱり永遠の炉系統ね」
「貧乳属性と似非お嬢様属性が強化されているリンに言われるのは心外ですっ! リンは秋○とタメを張れる」
「私はあんなイロモノキャラじゃないわよっ!!!」
「イロモノ度では遠坂の方が上だと思うが」
「そうですよね。姉さんってイロモノが板についてきたというか、むしろ藤村先生やワカメをぶっちぎったFateのヨゴレ役って感じ?」
「あんた、どっちの味方だっ!」
無駄に騒がしいサーヴァント達……というか、自分達の慣れの果てに士郎と凛、セイバー二号が地の底まで落ち込む。そりゃもう、三人揃って黒化しそうな勢いだ。こそこそと、『いっそ殺っちまおうか、あいつら』なんぞと相談していたりもする。
そのあほらしいまでの醜態に、一人冷静……というか、司会進行役が板についてきた感のあるバゼットが、鉄球片手にポツリと小声をもらす。
「で、漫才は良いのですが……、そろそろ話を進めませんか? 貴方達の話しと此処でも同じとするなら、時間が無いと思うのですが」
バゼットの言葉に、馬鹿騒ぎをしていたサーヴァント達が一瞬で真剣な表情に戻る。
確かに彼女の言う通り、もし敵がサーヴァントを自由に複数召喚できるなら……不利どころの騒ぎではない。
既に勝負など決している舞台で茶番を演じていたに過ぎなくなる。
聖杯が発動していない所を見ると、相手側にも何らかの制約があるのは予測が出来るのだが、だからと言って楽観視は出来ない。
だが、それでも……。
サーヴァントと凛の視線が、この場で事情を知らない二人──士郎とセイバー二号に向けられる。
その視線を感じたのだろう、士郎も真剣な目で周囲を睨み返す。
「なんだよ、悪いけど昨日の朝は譲ったけど今度は誤魔化されないぞ」
士郎とて馬鹿ではない。恋愛関係は朴念仁を光の速さで通り越してフラグクラッシャーな士郎だが、それ以外に関しては決して鈍くは無い。昨日の朝は凛とアーチャーが何かを隠したがっているのに気が付いて説得されたが、この夜はついて行かなければならない。何故かそう悟っていた。
そして、それはセイバー二号も同じだった。
「一号、それにアーチャー。貴方方が何かを隠したがっているの承知していますし、聞く権利があるなどと偉そうな事を言う気はありません。しかし、貴方達のあの慌てようはただ事ではない」
「しかし……」
アーチャーにしては珍しく言葉に詰まる。
「慎二の事で桜が辛いのはわかるつもりだ。そりゃ俺はまだ頼りにならないかもしれないけど……」
同じエミヤシロウだ。アーチャーも士郎が凛と桜、遠坂と間桐の関係に薄々ではあるが気付いている事は承知している。というか、アレで気が付かないほど馬鹿じゃないだろう、たぶん。
「話せる事だけでもいいから教えてくれないか?」
「貴様にはな……「そうですね、わかっている事だけでもお話ししましょう」……って、アサシン?」
アーチャーの言葉を遮ったのは、アサシンだった。アサシンはニコリと笑うと横目でちらりとある人物を見ながら言う。
「こちらの私と遠坂先輩、後オマケで兄さんの事は話せませんけど……、これは当人に聞いてくださいね」
「その当人がいる前で言う? 性格が桜と違わない?」
「というか、何かあるって言っているような物ね」
苦笑混じりのジト目でアサシンを睨みつける凛、小声で呆れるキャスター。
「私も色々とありましたから、PS2も出ますし打倒ライダーです」
「無理ですね、サクラ」
「無理でしょう、アサシン」
「無理ね、ゼロの新規キャラだっているんだし」
「そうね、桜は新規キャラに票を食われてランクダウンの可能性の方が大きいわ」
「無理だろう」
一斉に無理だと言う面々。いちおーは士郎だけは……。
「が、がんばれよ……」
と、応援の声を上げるが、視線は微妙に明後日の方向に逸らしている。その態度があからさまに『俺も無理だと思うけど、夢見るのは自由さ』と言っていた。
「ひ、ひどいですっ! 順位だって前回より上がっているんですから今度こそ「でも、担当のエロとグロのうちエロは今回無しよね……」はっ!!」
決意を口にするアサシンこと桜に、ゼロセコンドでキャスターこと凛がつっこむ。血も涙も無い姉である。
「ね、姉さんこそ貧乳ツンデレツインテールの天下はいつまでも続きませんよ! 次こそは、次こそははらぺこ巨乳だーくねすな私の時代が来るんです!!」
パチパチと視線を交わすサーヴァントになった遠坂姉妹。一方騎士王さま(一号)はと言うと。
「ふっ、でも一位はまた私ですよね。ゼロもPS2も主役級ですし……」
「せ、セイバー……たのむから君だけは黒くならんでくれ」
思わず涙するアーチャーこと士郎。
「どうでもいいですが、そろそろ真面目な話しを進めてもらえないでしょうか……」
何時もの如く一人真面目なセイバー二号が肩を震わせながらツッコミを入れる。その様子に、生身の魔術師三人はこっそりと公園の端に避難するのであった。
後日、冬木市にお住まいの冬木の恋愛探偵(仮名)が自らのプログに『2月某日、冬木に謎の閃光が。巨大UFO出現ヵ!?』と書く事になるが、今回の話とは関係が無い事である……たぶん。
「そうね、二号に士郎。この聖杯戦争っておかしいと思わない?」
微妙にこげたローブを着るキャスターが、山道を歩きながらセイバー二号に問い掛けた。
ちなみに、山道に入るまでは何故か気を失っていたサーヴァントの皆さん(セイバー二号を除く)を、士郎とバゼットの二人で抱えていたりもする。
まったくもって、緊張感が無い一行である。
「おかしい? 何がですか?」
キャスターの奇妙な問に、妙に清々しい表情のセイバー二号が逆に問い返す。
「そうね、なんでサーヴァントなんてものが必要なのかしら?」
「聖杯に相応しい者を選別する為では無いのですか?」
そう、聖杯戦争とは7騎のサーヴァントを駆る7人の魔術師達の戦い、愚かなセレモニーだったはず。
「そうね、それが表向きの理由。
でもおかしいと思わない? 聖杯に相応しい者を選別する為に魔術師が戦う。そのために何でサーヴァントが必要なのかしら?」
「聖杯は霊体で、同じ霊体であるサーヴァントにしか触れられないからじゃないのか?」
士郎が最初の頃に凛に聞いた説明を口にする。そういえばまだ10日程度しか立ってないはずなのに、もう一年近く前のような気がする……。
「此処だけの話、もうすぐ一年なんだけどね」
「何に向かって話しているの、バーサーカー?」
「気にしてはいけませんよ、イリヤ。っと……青短が出来ましたね。こいこいです」
「って、私たちの出番はこれだけですか……」
「何か今通らなかったか?」
「気にしちゃ駄目よ。
でもそれっておかしくない。戦いで相応しい魔術師を選ぶのなら、わざわざサーヴァントなんて必要無いわ。霊体しか触れられないのなら、最後に勝ち残った魔術師が召喚すれば良くない?」
「そ、それはっ……」
たしかに、キャスターの言う通りだった。
戦うだけなら、なにもサーヴァントなどという規格外の奇跡は必要ない。
「じゃあ、この聖杯戦争は意味が無いのか……いや、何かを隠す為のダミー……いや、それなら他にも簡単な手段があるし、アーチャー達のあの慌てようの説明にならない。サーヴァントを呼び出す事に意味があるのか?」
キャスターの言葉に、士郎が驚愕しながらも考え込む。士郎も魔術師業界に片足を突っ込んだ人間である、サーヴァントのデタラメさは判るつもりだ。
その様子にキャスターは内心で『こっちの士郎は筋がいいわね。誰かと違って』などと思いながら呟きに答える。
「そうね、士郎の推測は正しいわ。
──此処の聖杯は純粋たる魔力の固まり、英霊の魂を6騎分取り込む事によって完成するの」
最初、二人はその言葉の意味がわからなかった。
「聖杯戦争の“聖杯に相応しい者を決める為の戦い”ってのは聖杯を作ったアインツベルンの流した偽情報。真実は聖杯を完成させる為の生贄の儀式なの」
キャスターはつまらなそうに真実を口にする。
聖杯戦争の御三家などと呼ばれながらも、遠坂である彼女が聖杯戦争の真実に気が付いたのは大分後の話なのだ。そりゃ不機嫌にもなる。
もっとも、この話を初めて聞いた士郎とセイバー二号は彼女のそんな様子に気がつくことはできなかった。言葉が脳裏に染み込んでゆくにしたがって、どれだけ事態が深刻なのかに気が付いたのだ。
セイバー二号が悲鳴じみた声を上げる。
「ちょ、ちょっとまってください。敵は、サーヴァントを多重召喚できるのですよね」
「そうね、まだ推測の域は出ないけどそれに近い事ができるんだと思う」
「では……」
「そう、理論上は好きな時に聖杯を完成させられる。もっとも、今日まで聖杯が発動していない所を見ると、技術的に何らかの問題があるんでしょうけどね」
『それに、今のところ聖杯の器はどちらもこちらの手の内にあるのよね』。キャスターは内心でこっそりと付け加える。
しかし、それだって何時まで大丈夫なのかわからない。相手には本物のアサシンがいる。四六時中ついていたとしても“聖杯”を守りきれる可能性は低い。最悪、乱戦の最中に“聖杯”の一部を奪われる……などと言った可能性もあるのだ。
もっとも、“聖杯”はバーサーカーとライダーが守っている。遥かに格下のサーヴァントであるアサシンごときでは、不意を討つことすら難しいだろう。
「で、では、サーヴァントの多重召喚を行っている者を早く見つけなければ、聖杯がその者たちの手に!?」
「完成させた上で出現させる手間があるんだけど……、サーヴァントの多重召喚なんて離れ業をする相手が出現させる方法を知らないわけないわね」
「たしかに……」
「でも、それならば急がなければならないのはわかるけど、なんだって柳洞寺なんだ?」
士郎の言葉に、セイバー一号も疑問の声を上げる。
「それは私も聞きたい。よく聞かずに来てしまいましたが、今回は此処に聖杯が出現するという以外に何かあるようでしたが……」
「へー、そうなんだ。ここに聖杯が出現するのか」
その言葉に答えたのは、この場にそぐわない、陽気な男の声だった。
いや、陽気を装っているだけ。その奥底には捻じ曲がった怨嗟の念が込められている。
それは、彼らがよく知る人物の声。
「慎二!!」
士郎の叫びに答えたわけではないだろうが、夜の闇より名を呼ばれた一人の青年が姿をあらわす。
慎二は親しい友人に語りかけるように、にこやかに片手を上げる。
「よう、衛宮。いい夜だな、散歩か?」
「慎二、お前っ!!!」
その、つい先日ヒトを殺そうとした男とはとても思えない様に、士郎が一瞬言葉に詰まる。
そんな士郎の様子に気がつく事も無く、慎二はサーヴァント達を見て感嘆の声を上げる。
「へー、話しには聞いていたけど、ほんと同じ顔ばっかだな。遠坂が二人もいるのかよ」
「いちゃ悪いかしら? ところで、貴方名前は何かしら? 似たような顔の蛆虫がいたような気がするんだけど思い出せなくて……」
そんな慎二に、キャスターが棘のある言葉を口にする。
「ふ、ふん。口の悪い所も遠坂と同じだな。サーヴァントになるような遠坂でも、性格はもろくなもんじゃないって事か」
一瞬で余裕ぶった仮面が剥がれ落ち怒りかけた慎二だったが、何とか気を持ち直すと再び尊大な物言いをする。
だが、キャスターはそんな慎二に追い討ちとばかりに辛辣な言葉を浴びせた。
「あら、奇襲闇討ち弱い者いじめしかできないチキンな蛆虫いかの(ピー)虫のでき損ないに性格の事を言われるとは思えなかったわ。魔術も使えないくせに魔術師に憧れて魔術師を気取るなんてイタイ以外の何者でもないドリーマーのくせに覚悟なしの無能以下の卑怯者はてっきり蟲爺のオムツの奥でがたがた震えているものだと思ったんだけど。そもそも……」
その言葉に、慎二の顔が怒りにどんどんと赤く染まっていく。
もともと癇癪もちの慎二だ、限界だった。
「殺してやるっ! お前等皆殺してやるぞっ、衛宮っ!!」
「なぜ俺が名指しっ!?」
理不尽なご使命に思わずツッコミを入れる士郎だったが、慎二は聞いていない。
「サ、サーヴァントを揃えて余裕ぶってるみたいだが、これを見て余裕ぶっていられるか。出て来い、お前等っ!!!」
慎二のヒステリックな叫び声が夜の闇に響き渡る。それが合図であった。
ザワッ、ザワッ、ザワッ……。
不意に、それまで何の気配も無かった夜の闇の間に、ナニカの気配が這いずり、滲み出す。
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せころせコロセコロ……。
それは、圧倒的な殺意だった。
ただ、殺意があるのみだった。
その為にのみ作られたものであり、その存在の誕生の為に作られた歪な獣だった。
ある魔術師の少女、あるいは魔術使いの青年が健在であれば生まれるはずの無い存在。
この世の全ての悪……の欠片たる獣の群であった。
だが……。
その存在を前に、魔術師の英霊は鼻で笑う。
「ふーん、どうやったか知らないけど、ソレを一応は制御しているみたいね。
でも……それでわたしたちに勝てると思っているのかしら?」
──嘲笑。
たしかに、具現化したソレはサーヴァントである彼女達にとっては天敵とも呼べる存在だ。特に、真に英霊たるセイバーなどは触れただけで一瞬で汚染されてしまうだろう。
だが、それは本体である“この世の全ての悪”に対してだけだ。
具現化した獣。アベンジャーのサーヴァントの出来損ないなど、数がどれだけいようとも彼女達の敵ではない。
その分析は正しかった。
だが、そんなキャスターの言葉に、慎二は幾分余裕を取り戻した表情で答える。
「はん、僕がそんな事に気が付いていないとでも思っていたのか? この間の一件でこいつらはお前達に対しては戦力にならないなんて百も承知さ! こいつらは、お前等が逃げられないようにする為の壁ってだけだっ!!!」
慎二はそう叫ぶと、芝居がかった仕草で片腕を上げる。
「切り札はこいつさっ! 出てこい、セイバー!!!」
その言葉と共に、夜の闇の奥よりソレは現れる。
闇よりも深い黒を纏わせて、ソレは現れる。
──それは、くすんだ金色の髪をしていた。
アーチャーの目が大きく見開かれる。
──それは、濁りきった金色の目をしていた。
キャスターと凛の瞳孔が開かれる。
──それは、死人のような白い肌をしていた。
アサシンとバゼットが息を飲む。
──それは、漆黒の鎧を身に纏っていた。
士郎が……。
──それは、穢れた聖剣を携えていた。
「せ、セイバー……」
誰かの呟きが、夜の闇に染み込んでいった。
続く……みたいです。