バスのノンキ旅(万座温泉編)

 前回と前々回のバスのんき旅(赤倉温泉編と軽井沢編)で味をしめて、また激安温泉ツアーに行ってきました。

今度は、再び新幹線の軽井沢駅に行き、そこからホテルの送迎バスだけの2泊3日、憧れの山奥の温泉場に直行です。

万座温泉、最初に名前を聞いたのは、前回の軽井沢編で書いた通り、確か東京オリンピックの前、昭和48年頃の安サラリーマンでも無理すれば買えた中古の軽自動車スバル360での幼子含め一家4人の夏休みドライブで、志賀高原を目指したときの、工事中の白根山⇔志賀高原山岳道路の上でした。

何しろ夜間通行止めの道でしたから、志賀高原に抜けるのに必死で、名前を聞いて思い出したのはずいぶん後になってでした。

あれから40年も経ってから、長野周りで信州・湯田中に行った折、湯田中からの志賀高原・白根山への路線バスに乗ったとき、その山岳道路のバスの車窓から、万座温泉の集落が初めて望めました。

新幹線で、既に見慣れた軽井沢駅に着き、指定された時刻までずいぶん待った後、ショッピングモールのある南口の送迎バス待合所で待っていると、ボディにホテルの表示もない小型バスが来て客待ちの様子です。思い切って若い運転者に聞いてみると、それがホテルの送迎バスでした。

バスは軽井沢駅南口から、しなの鉄道・中軽井沢駅前経由で、鬼の押し出し方向に進みます。雪渓が残る浅間山がくっきりと見え隠れして、鬼の押し出しの脇を通りますが、何十年も前とはまるで変わっていて、記憶に残っているのは溶岩流の時に残った観音堂位だけです。

そこから先は、最近パソコン仲間から教わった、昔あった旧軽の草軽・軽便鉄道や、今も建物だけが残る、その北軽井沢駅の絵に馴染んでいるものの、今回はその道とは違う道だそうで、延々と1時間奥へ奥へと山の中を走ります。

時々、鄙びた観光地らしいところがありますが、JR吾妻線沿線の街に出るまで、山ばかりです。

夕方に着いた万座温泉は、思ったとおり、山奥ではあるけれど垢抜けた感じのするホテルの集落という感じです。標高が1,800mだそうですから、先日行った妙高高原の秘境と言われる燕温泉と同じ位の標高にあるわけです。長野県新潟県にまたがる広い信越国立公園に属する温泉地で冬場は、スキーの盛んな土地柄らしく、送迎バスを運転していた若者も含め、ホテルの従業員たちにも若者が多いような印象は、北海道のように、スキーの指導員をはじめスキー事業に従事している若者が地域を支えているような気がしました。
ホテルの人たちも、案内や食堂接待もホテル内ですれ違った時でも、爽やかで明るい印象です。

ホテルに着くまでは晴天でしたが、この春に度々到来した寒波がやってくる予報通り、夜になって霙が雪に変わり、白濁の露天温泉の木製パーゴラにも降りかかり、北海道の山の露天風呂を思い出しました。温泉オタクには独り生憎の雪中露天温泉で頭に雪を頂いて入るのもまた格別です。

初夏だというのに、夜が更けて気温がどんどん下がり、あくる日は朝から零下になり風も強くなり、裏の窓下の残雪層も溶けるどころか、かえって分厚くなったようです。

だから散歩も出来ず、旅のキャッチフレーズ通り、一日中のんびりと、温泉三昧。窓から外も見えず、部屋でスケッチというわけにはいかず過ごしましたが、幸い3日目は晴天になりました。

翌朝、また温泉に入り、湯の中で万座温泉の湯めぐりをしている人に会いました。近くのPホテルに泊まっていて、あちらこちらのホテルの温泉を巡り歩けるのだそうです。僕らの泊まったホテルの湯が一番と聞いて、さにあらんと膝を打ちました。予約のとき、名前からして老舗のような気がして、直感的にこのホテルを選んだのでした。

帰り支度をして、チェックアウトを済ませ、送迎バスの発車時刻まで、たっぷりと時間がありました。

玄関を出ると、見上げるような位置に、爽やかな高原の緑が雪渓や林を抱いて広がる様には息を呑みます。明らかにスキーゲレンデやリフトの林の隙間を思わせる見事な新緑が映えて、時折頂上付近に白いバスや乗用車がチラッと過ぎるのが見えます。地図を見ると、あの辺は標高2,000m弱です。

脚が悪い僕は、付近の散策に出かけたワイフを送り出し、早速、リュックからスケッチブックと絵の具を取り出し、矢継ぎ早に2枚描きました。付近には草津のように温泉畑があると書いてありましたが、ワイフが言うには、有るにはあるが、規模は小さいといいます。僕には坂の上りが苦手で、帰りのバスの車窓から、火山の噴火口を思わせる剥き出しの地層や湯けむりの谷間を垣間見ただけで、十分満足です。

来たとき同様、もう一組みの老夫婦と共に、軽井沢駅へ送ってもらって、何時もの峠の釜飯本舗の名物立ち食い駅そばを食べたりして時間を待っている間に、僕に取っては嬉しい大発見をしました。駅中の売店で何気なく手にした持ち帰り自由のPLATINUM MAGAZINEが、群を抜く素敵な読み物だったのです。

銀座に古くからある名物小冊子「銀座百景」に負けずとも劣らない出来の軽井沢発の文化誌です。
上品な記事に溢れ、適度にバランスの取れたCMの内容は、FM軽井沢 社の発行とあって、流石文化の伝統 軽井沢に相応しい企画です。

ちょっと要らぬ心配ですが、この素晴らしい文化の灯火が財政難などで消えることのないようにと、祈るばかりです。     
      (2012年6月10日)