おてんとうさま

                         
 師走、明日土曜日パールハーバーの日だったな、と思いつつ、夕方病院に薬を貰いに行ったついでに、薬局傍のバス停からヨーカドーに買い物に行った

 孫のヒロくんのトウサンの好物のノンアルコールビールAll-freeを、決まってヒロくんが取りに顔を出す慣わしになっているので、ヒロくんの顔を見たいばかりに何時もストックして置く。

 彼のトウサンもカアサンも、3人の孫たちの塾代など出費が大変であろうから、年金ジジ・ババも彼のトウサンへのご褒美にAll-free350ml6本(2kg強)を切らさないように補充している。

今日の買い物は、その上に自分用の焼酎紙pack2kg弱)と手ごろな値のキャベツ1個(1kg位)など、嵩の張る5kgの荷をリュックに詰めて近い帰りの公園横のバス停に行く予定の江ノ電バスの待ち時間は20分くらいあったから、杖をベンチに立てかけて重いリュックをベンチに降ろす

 と、もう行ってしまったと思った予定外のミニバスが来たので急に方針を変え、ベンチのリュックを左手に提げて乗った。

 ミニバスは駅から3駅目の一丁目バス停で別道を行くから、自宅最寄の公園口バス停の1駅手前で降りて歩くことになる。 

 ところが、歩こうとしたら杖が無い。忘れ物! 

さっき、左手で荷を抱えてバスに乗ったから、を忘れたのだ。 左手に杖が無いと2300メーターの家まで安全に歩けないし、杖を無くすと直ぐ困る

エイヤッ、向かい側の駅行きバスで取りに戻ることにした。既に日は暮れている。直ぐにバスは来た。

 西公園バス停に着くと、道の向こう公園側の明かりのついたバス停ベンチにポッツリ1本忘れたわが杖が見える。信号のある横断歩道を行くのは大回りで、片麻痺人には杖なしで歩く自信がない

よせば良いのに、道路を横断すると近いと咄嗟に決断した。信号を見計らって車の隙間に広い道を渡る。

道の中央分離帯が始まる斜線の引かれた所に蒲鉾型の標識ライトがあったのだろう、不自由な右足がつまずいた。
日ごろはさえあればこの位の躓きには平気だが、杖がないから躓いても踏み止まれず、バランスを失いユックリ、てんとうさま。

 手足の不自由な右半身の方が先に崩れるのだろう。
右手は先に突いたが、力が無いから上半身を支えられず、右頬がゆっくりと地面に近づくのが分かり、メガネと帽子が30cmくらい先に飛ぶのが見えた。

「やってしまった!」

 今降りたバス停で待っていた女性が気付いて道路を横断して駆け寄ってくれた。向かいを通りかかった何処かの特別老人ホーム」と書かれたミニバスが止まって、運転手助けに来てくれた。何せ、僅かな分離帯線があるとはいえ車道の真ん中である。

 自力でリュックの前ベルトを外し、座り込んだ姿勢にはなれたが、カフカの小説「ヘルバンダルング(変身)、ある朝突然昆虫に変わった男のように、立とうとするが手は空しく空を掻くばかり。

 運転手さんが背後から抱きかかえて起こそうとしてくれるが、それは無理だろう。

ワシのようなデクノ坊でも抱えあげるには重過ぎる。

 手を離してもらって、自力でひっくり返って四つんばい姿勢になって(実際は片麻痺のつんばいだが)、両膝と左手の3点支持をして先ず両膝を立ちあがる姿勢にして、立つというリハビリで習った方法でやっと立ち上がれた。

運転手さんの「無理しちゃあいけないよ」という声が耳に残る。

 助けてくれた皆さんはワシが立てて、歩けるのを喜んでくれた。礼を言いながら道をバス停まで歩いた。

リュックは運転手さんが杖のあるバス停まで先に置いてくれた。皆さん本当にありがとう。

 すぐにまたミニバスが来て、さっきの一丁目バス停に着いた。再び大きく重いリュックを担いで家まで歩く。

右ひじは少し痛いところがあるが、これは元々右手首辺りが少し痛いが折れては居ないようだ。

左ひじが痛いがこれは服を通してのコンクリート擦過傷に違いない。

幸いなことに、骨に異常はなさそうだ。メガネも壊れていないようだし、地球に頬擦りした右頬も若干痛くて、あつっぽいが、傷はなさそう。

カミサンに言うと叱られるのは必定この程度なら当分黙っていてもばれないだろう。