思い出 出会いの旅


 不自由な身体になっても旅はやはり憧れである。旅の出会い 思い出は たとえそれが小さくても いつまでもきらりと光る。
倒れる前の年 大学を出て貿易会社に勤めた若い甥の達っちゃんが プラハ駐在になった。彼の母や叔母3人 つまり3姉妹が これを機会に彼のコンドミニアムを利用してのプラハ見学を企画した。自分は留守番をするつもりであった。
 ところが 頼んだ旅行社の手配が済みそうになった頃 母親の都合がつかなくなり 大慌てで代人を探した末 留守番予定の自分が狩り出されることになった。そうこうしているうちに 出発の日が近づいた。 そして 何と 母親の都合もつきそうになったのだ。

 結局 3姉妹と 老いぼれ爺の 奇妙な旅のパーティになってしまった。中でも うっかり爺の行動は特筆すべきもので 旅なれていて知ったかぶりが目立ち いざというときは 役に立つだろうが いつもビールを片手に歩くようなのん兵衛であった。
 アムステルダムのスキポール空港に降り立って 先ずさきに ブリュッセルやブルージュを見に行きたいとの希望で ヨーロッパの超特急タリスに乗って ブリュッセルに行った。夕暮れ時で 生憎タリスは定期点検とかで運休の表示があり それでも動く列車もあるらしい。ホームの表示も何処にあるか解らず どの列車がそれかも解らず 探すのに苦労の末 ホームの端にいた列車の最後尾に乗り込むことが出来た。発車寸前!19時を過ぎた頃 ブリュッセル中央駅に着いた。そこで 爺の大失態!混雑が激しい降車のデッキ上でスリにやられた。うっかり 成田からズボンの後ポケットに入れた財布のことを忘れていたのである。

 警察に届けても意味がないと諦めて 予約のホテルに移動した。4人とも 滑車つきの大きな旅行ケースを引きずって ごった返す街の中を行く。車に乗るほどではないらしいし 街を見るのも勉強だから。やっと見つけたホテルは 5つ星といわれるメトロポール 先ずフロントにスリに会ったことを伝え カードの停止を東京に連絡したいと頼み カード番号も控えもしていなかったのを後悔しながら 東京に連絡が取れた。フロントも極めて親切で 下手な英語を助けてくれたし ベルギー国内の連絡もしてくれた。東京への通信費などの請求を聞いたが 無料にしてくれた。さすが 客のもてなしが違うと 感心した。

 フロントの前の大理石の柱に 額に入ったモノクロ写真が飾ってあった。何気なく 覗き込むと 何と「scientists at Solvay Congress」とある。Solvay Congress は一番左に座っている物理学者ネルンストが提唱したアインシュタインをヨーロッパに招いた会で「第一回欧州物理学会」とも言える会だそうだ。

ホテルに掲げてあった写真(不鮮明で字が読めないところもある)
同じ原版の写真と思われる別なところからの入手写真/インターネットから(表情も鮮明 学者の名前も鮮明に書かれている)

Nernst with a group of famous scientists at Solvay Congress, Hotel Metropole, Brussels, 1911
Sitting (left to right): Nernst, Srillouin, Solvay, Lorentz, Warburg, Wien, Perrin, Madame Curie, Poencare. Nernst with a
group of famous scientists at Solvay Congress, Hotel Metropole, Brussels, 1911
Staying (left to right): Goldschmidt, Plank, Rubens, Sommerfeld, Lindemann, De Broglie, Knudsen, Hasendhrl, Hostelet,
Herzen, Jeans, Rutherford, Kamerungli Onnes, Einstein, Langevin.
熱定理で名高いノーベル賞のネルンスト やはりノーベル賞の量子物理のローレンツ 黒体熱放射で有名なウイーン ノーベ
ル賞のキューリー夫人 数学や物理学で有名なノーベル賞学者ポアンカレ 量子物理・ノーベル賞のプランク このとき学会
はヨーロッパに33歳の若い量子物理学者アインシュタインを招いたという。 この学会に Solvay の名がついているのは 
学者の中に同名の人があるとことを見ると ネルンストが提唱と言われているが ソルベイ さんが言わば中央に座っている
し 一番長老格に見えるから 彼の名をオナーとしてつけたのではないかと推測する。
1913年 第二回 欧州物理学会(サボイ・コングレス) ブリュッセルにて 
(インターネットから)
William Henry Bragg, Marcel Louis Brillouin, Louis de Broglie, Marie Curie, Albert Einstein, James Hopwood Jeans, Heike Kamerlingh Onnes, Martin Hans Christian Knudsen, Paul Langevin, Max von Laue, Hendrik Antoon Lorentz, WaltherNernst, Heinrich Rubens, Ernest Rutherford, Arnold Johannes Wilhelm Sommerfeld, Joseph John Thomson, Emil Gabriel Warburg, Wilhelm Wien, Robert Williams Wood (October 1913, Second Solvay Congress, Brussels)
いずれにせよ このホテルに 1911年 ヨーロッパの英才たちが集ったということは ロマンを掻き立てる事実である。
 思わぬ出会いで 親しみを覚え興奮した。思わぬところで 思わぬ出会い 旅って素敵である。
少々体が動かなくても 人様に迷惑をかけない限り 旅の機会は 失いたくないものである。
 それにしても 1911年は日本では 多分 明治の最後ごろでしょう。やはり ヨーロッパは奥が深いですね。

なお このホテルには 欧州の第1号というエレベーターもあり 今も十分機能している。2面の真鍮で組んだ伸縮格子があり
 フロント・フロアーの出入り口面と 上部各階の出入り口面とは 直交している。写真は 当HPの 「プラハの旅」を参照くだ
さい。