火星から地球を見ると
 火星へ行って、火星から地球を見るとどのように見えるのでしょうか。
 火星は地球の外側をまわる外惑星ですから、火星から地球を見ると、地球から内惑星の金星を見るように宵の明星や明けの明星のように見えることは容易に想像がつきます。つまり地球から見た金星の姿を思い浮かべればよいのです。

 地球から望遠鏡で見た金星はその位置によって月のように満ち欠けします。当然見た目の大きさは地球に近づく内合のとき最も大きいのですが、そのとき望遠鏡で金星の表面を見ることはできません。金星が太陽と同じ方向に見えるため日食のように昼でも金星が見られる状態にないといけないこと、たとえ位置が確認できても、光の当たらない夜の側を見ているため表面の模様を確認することはできません。金星が最も見やすいのは「宵の明星」とか「明けの明星」とよばれる東方最大離角、西方最大離角の位置に近い状態の時です。このとき金星は半月のように太陽に向けた面だけが明るく輝いて見えます。

 火星から見た地球もこれと同じ変化がおこります。実際にシュミレーションしてみましょう。
まず地球と火星の会合周期は約780日です。会合周期とは太陽−地球−火星と並んだときから数えて、次に同じ状態になるまでの日数です。金星と地球の会合周期が584日ですから、火星から見た地球は、地球から見た金星の4分の3の速度で動くことになります。(詳しい理由は不明ですが会合周期に3:4の尽数関係があると考えられます) 金星の最大離角(太陽から最も離れたときの角度)は約46度ですが、火星から見た地球の最大離隔は41度です。ただし火星の軌道は金星や地球にくらべて離心率(円からのずれ)が大きく、地球−火星の位置関係によって最大45度になることもあります。

 では火星から見た地球の明るさはどうでしょうか。金星のように明るく見えるのでしょうか。
最大離角のとき火星から見た地球の明るさを知るには、太陽と地球の距離、地球の半径、地球の反射能、火星から地球の距離のデータが必要です。
 太陽と地球の距離:地球は太陽の光を反射しているので、地球軌道にとどく太陽の光量(距離の2乗に反比例)
 地球の半径:地球の表面に当たる太陽の光の総量(断面積に比例)
 地球の反射能:吸収されずに反射される割合(反射能に比例)
 火星−地球の距離:火星に届く地球の光の量(距離の2乗に反比例)
火星−地球の関係と地球−金星の関係を比較すると次の表のようになります。
 
 火星−地球地球−金星
太陽からの距離1.00 AU0.72 AU
半径6.37 x10^3km6.05 x10^3km
反射能0.370.65
惑星間の距離1.16 AU0.73 AU
 この結果、地球軌道に届く光は金星軌道に届く光の52%、地球が光を受ける面積は金星の111% 単位面積当たりの反射能は金星の57% 地球の光が火星に届く時の光の強さは金星の39%となります。 0.52×1.11×0.57×0.39=0.13 となり火星から見た地球は金星の明るさの13%となります。約7.8分の1の明るさです。

 金星は地球より太陽に近いためより多くの光を受け、また高い割合で光を反射するため火星から見た地球よりもずっと明るく見えることがわかります。金星の最大離隔のときはマイナス4.3等星に匹敵しますが、地球はこれより2.2等級ほど暗く見えマイナス2.1等星として輝くことになります。金星とはいかなくても十分に「宵の明星」「明けの明星」になるでしょう。金星の最大光輝(最も明るくなるとき)はマイナス4.7等級ですが地球の最大光輝はマイナス2.6等級です。

 もし火星人が最大離角時の地球を観測すればどう見えるでしょう。火星の大気は薄いので大気による揺らぎの影響をほとんど受けません。星はまたたかないのです。
 肉眼では地球と月をかろうじて見分けることができます。双眼鏡で覗くと半月状に輝く地球と月が見えるはずです。月は2.6等星に見えます。
 持ち運びができる程度の小型の望遠鏡では、地球の雲が毎日少しずつ移動していくのがわかるはずです。自転周期はわかるでしょう。雲の下に海と陸があるのがかろうじてわかるかもしれませんし、砂漠と緑も区別できますが、地平線近くでの観測で長時間見ているわけにはいきません。
 直径1メートル以上の大型望遠鏡ならかなり陸と海の境界の形がわかり、ぼんやりした世界地図が描けるはずです。また都市の光で夜の側も光っているのがわかりますし、火山の噴火なども観測できるはずです。電波望遠鏡を持っていれば地球から強烈な電波が発せられていることがわかります。火星で地球のテレビ放送を受信することも可能です。地球は電波で観測すると太陽よりも強く輝いていることがわかりますから、文明があることはすぐに知れることになります。

2002.8.12

 上の文章を書いて約1年後 実際に火星から撮った地球の写真をみることができました。


 2003年5月8日に火星周回軌道上のマーズグローバルサーベイヤー(MGS)に搭載されたカメラ(MOC)から、火星から見た地球の画像が送られてきました。
 このときは火星−地球−木星と並んだときで、火星から地球と木星が1枚の写真に写り込んでいます。地球を拡大すると右上に月が写っています。また地球にボンヤリとした模様があるのがわかります。右の図と比べてみれば、アメリカ大陸が火星からどのように見えるかが分かるはずです。MOCの分解能力は火星の表面1mのものを見分ける高精度ですが、それで撮った地球はなんともボンヤリした模様が見えるだけということです。同時に撮影された木星と比べても弱々しい光ですが、それでも十分宵の明星として輝いています。

関連サイト
MOCイメージ 画像の入手先です。他にも火星画像多数あります。
2003.9.5


前に戻る