| 尽数関係 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
尽数関係(じんすうかんけい)とは何でしょうか。Resonance(レゾナンス)の日本語訳です。一般的には「共鳴」とも訳されますが、天文学では天体の自転や公転周期が簡単な整数の比になっていることをいいます。その原因は天体間の引力ですが、太陽と地球、地球と月といった単純な2体問題ではなく、複雑な3体問題かあるいはそれ以上の多体問題になっていることもあり、数学的に厳密な解が得られない不思議な現象でもあります。
2001.12.16摂動宇宙にあるすべての天体は、自分以外の天体からの引力により軌道が変化します。地球の運動を考えるとき、太陽と地球しか無いのであればその運動は簡単に記述できますが、実際には月が地球に引力をおよぼします。太陽は月にも影響し、月は太陽と地球に影響し地球は月と太陽に影響し・・・そうなると3つの天体の動きを厳密に予測するのは不可能になります。月が太陽におよぼす引力は太陽が月に及ぼす引力に比べて微々たるものですが、それでも長い年月の間には積もり積もって目に見えるようになります。さらに地球は他の惑星や彗星などの引力もほんの少しですが受けています。このようなほんの少しの引力を「摂動」といいます。摂動によってほんの少しだけずれた軌道も長年積み重なると、最初とは全く違った軌道に変化します。特に小惑星や衛星などの小天体は木星や土星などの巨大惑星の摂動によって軌道が乱されることがわかっています。地球−月
尽数関係の身近な例では月の自転周期と公転周期の比が1:1になっています。この結果、月は常に同じ側を地球に向けていて裏側を見せることはありません。月が誕生したときから月は同じ面を地球に向けていたのかというと、決してそうではありません。月は約46億年前に原始地球ができて間もない頃 火星程度の別の原始惑星と衝突したときの破片が集合してできたと考えられています。(このことをジャイアントインパクトといいます)。ジャイアントインパクトは偶然の出来事なので、できたばかりの月の自転周期と公転周期が同じであるということは考えにくいことです。宇宙空間には摩擦が無いのでどこからもエネルギーが与えられなければ天体の自転速度が変化することはありません。 できたばかりの月の自転速度は今より速く、また地球の自転速度も1日=約8時間と高速であったらしいことがわかっています。月の自転が減速したのは地球によってブレーキがかけられたからです。この力を潮汐力(ちょうせきりょく)といい、月の自転速度は早い段階で公転周期と同じになったと考えられます。もし自転速度が公転速度より遅ければ逆に公転周期と等しくなるまで加速されます。地球が月に及ぼしたとおなじく、月も地球に対して潮汐力を及ばしています(潮の干満があるのはそのためです)から地球の自転速度も月によって減速させられています。遠い未来には地球も月に同じ面を向けたまま自転するようになると考えられています。 これは地球−月の2体問題と考えれば比較的単純な事例です。地球−月 の関係と同じく木星のガリレオ衛星とよばれる4大衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)も自転周期と公転周期が1:1になっています。また冥王星とその衛星カロンもお互いに同じ面を向けていると考えられています。 太陽−水星水星の自転周期は58.65日で、公転周期87.97日の3分の2になります。つまり自転周期:公転周期=2:3 の尽数関係が成立しています。水星の自転周期が正確に知られていない時期には地球の月と同じように同じ面を太陽に向けていると考えられていましたが1965年に電波観測から自転周期が求められました。本来なら1:1になるはずが2:3となったのは、水星の太陽をまわる軌道が円軌道からずれていて、太陽の引力(潮汐力)が水星の軌道上の位置によって均一ではないことと水星の形に起因することがわかっています。水星の近日点距離は遠日点距離の3分の2程度です。もし水星が地球の月のように少しだけ(ほんの数メートル)太陽に向かって膨らんでいると、この膨らみに対する太陽の潮汐力は距離の3乗に比例するので近日点では遠日点の3倍近い潮汐力がはたらきます。水星の自転速度がだんだん落ちて公転周期の3分の2にになったとき、潮汐力は更に減速させようとするようにはたらきますが、膨らみに対する引力(偶力といいます)は逆に加速させるようにはたらきます。減速させようとする力と加速させようとする力が釣り合い現在の自転速度が維持されていると考えられます。 そのため水星の一昼夜は約176日で、近日点(太陽に最も近づく点)では2公転ごとに同じ面が太陽を向くことになります。 カークウッドの空隙火星と木星の間には小惑星とよばれる天体が多く分布しています。発見されたものも数万個に達していますが、まったく小惑星が存在しない空間があります。その代表がカークウッドの空隙(Kirkwood, Daniel 1814−1895)です。空隙とは天体が存在しない空間のことです。カークウッドは小惑星がまだ88個しか発見されていない時代に、木星の公転周期と2:1、5:2、3:1の公転周期をもつ小惑星がないことを予言しました。その後多くの小惑星が発見されましたが彼の予言通り、その公転周期をもつ小惑星は発見されませんでした。木星の公転周期と尽数関係をもつ小惑星は、公転している間に木星に近づき木星の引力(摂動といいます)によって軌道が乱されます。その結果尽数関係にある小惑星は長い間にその軌道から別の軌道に移されてしまうと考えられています。ところで、小惑星が逆に多く分布する空間もありますが、なぜその空間に小惑星が多いのかを説明する決定的理論はまだありません。 ヒルダ群
木星の公転周期に対して3:2の公転周期を持つ小惑星で、30個以上知られています。(少し古いデータなのでもっと多く発見されているでしょう) 木星が2公転する間に3公転する天体で、カークウッドの空隙とは逆にこの場所に集められたと考えられます。ヒルダ群の小惑星は太陽−小惑星−木星と並んだとき、近日点を通過していることが多いので木星の摂動を受けにくいとは考えられますががこの軌道がなぜ安定しているのかは厳密に知られているわけではありません。(ヒルダ群の軌道は287年で振動していることが計算で求められます)トロヤ群カークウッドの空隙とは逆に 木星と1:1の公転周期を持つ小惑星があります。アヤクス、オデュセウス、ネストル、メネラウス、テラモン、アガメムノン、ヘクトル、アキレス、アンティオクス、ディオメテス、アンキセス、パトロクルス、トロイルス、エネアス、ブリアムスといったトロヤ戦争に参加した勇士の名前(ホメロスの叙事詩「イーリアス」に登場します)をつけてトロヤ群と称しています。2001年現在1000個以上が発見されていて、パトロクルスには衛星まであることがわかっています。これらの小惑星は、太陽−木星を一辺とする正三角形の頂点付近にあり、安定した軌道を公転しています。この位置は3体問題の厳密解として知られるラグランジュポイントにあり木星の引力(摂動)で現在の位置から離れないようになっています。(実際には180年周期で振動していることが計算で求められます) なお 木星に先行する群をギリシャ群、追随する群をトロヤ群と区別することもあります。 ガリレオ衛星ガリレオが発見した木星の4大衛星のうち内側の イオ(i)、エウロパ(e)、ガニメデ(g)の公転周期は1.77日、3.55日、7.15日で1:2:4の尽数関係が成立しています。これらの公転周期を正確に求めて1日に木星の周りをまわる角度で示すと、i=203°.488992 e=101°.374762 g= 50°.317646 となります。 i−2e=e−2g=0.739469と全く等しく i−3e+2g=0という関係が成り立ちます。 衛星の平均経度λであらわすと λi−3λe+2λg=180°となっていて時間が経っても変動しませんから3つの衛星が同じ側で一直線に並ぶことは決してあり得ないということになります。 もしイオとエウロパが衝になれば、ガニメデは90°離れていて、イオとガニメデが衝になればエウロパは60°か180°離れていることになります。またエウロパとガニメデが衝のときはイオは180°離れている(木星の反対側にある)ことになります。このように3個以上に天体に尽数関係があることをラプラス共鳴といいます。 木星−土星木星の公転周期は11.86年、土星の公転周期は29.45年で 2:5に近いので摂動によって両者の軌道は少しずつ変化していくことがわかります。太陽系の最も大きな惑星と2番目に大きな惑星に尽数関係が存在することは、ボーデ・チチウスの法則(後述)に意味があるのかどうかという点でも興味があります。カッシーニの空隙・マクスウェルの空隙
土星の輪を地球から見ると写真のように3つに分かれています。実際にボイジャーが接近して撮影した写真には昔のLPレコードのような同心円状のたくさんの輪が見られますが、輪全体の構造は外側からa環、b環、c環とよばれています。そしてa環とb環の境界(写真のX)に環を構成する物質のない部分があるのがわかります。ここを発見者の名前をとってカッシーニの空隙とよびます。この空隙は環のすぐ外を公転する衛星ミマスの公転周期の2分の1、エンケラダスの3分の1 テティスの4分の1の公転周期にあたります。さらにb環とc環の境界(マクッスウェルの空隙:写真のY)はミマスの公転周期の3分の1にあたります。 土星の輪をボイジャーが撮影したところ環は一様ではなく細い環の集合だということがわかりました。そして環が崩壊しないように小さな衛星が環を守るように回っているのが発見されました。これらは羊飼い衛星と名付けられ摂動によって環の形を維持しているのですが、環の成因も含めてなぜこのような衛星が存在するのかはわかっていませんが、土星に捕獲された小天体がロッシュ限界内で破壊されたものであるとの説が有力です。 土星探査機カッシーニの観測によって、土星の環は、羊飼い衛星のために波打ったり捻れていることが明らかになりました。環を構成する粒子の動きもわかってきました。土星の環は壊れつつあり、将来は天王星や海王星の環のようになるでしょう。 土星の衛星摂動を およす天体の軌道に対して2:1や3:1の公転周期を持つ天体は存在しないかといえば必ずしもそうではありません。土星の衛星テティスとミマスの公転周期は2:1、同じくディオネdioneとエンケラダスも2:1、またハイペリオンと土星最大の衛星タイタンは4:3の尽数関係が成立しています。ハイペリオンとタイタンの関係を調べてみると、タイタンの公転周期15.945日、ハイペリオン21.277日で、二つの衛星が衝になるときハイペリオンは常に遠土点(土星から最もはなれる)にありタイタンからの摂動がもっとも小さくなるようになっています。これは木星−ヒルダ群と同じ関係です。 海王星−冥王星冥王星の軌道は近日点付近で海王星の内側に入っています。両者の公転周期がランダムなものであればいつかは衝突してしまうかもしれません。冥王星は海王星の衛星がなんらかの原因で飛び出した物だと主張する学者もいました。しかし、海王星の公転周期は164.774年 冥王星の公転周期は247.796年です。これは2:3の尽数関係になります。図のように海王星が3公転する間に冥王星は2公転するので両者が衝突することはありません。海王星の公転周期に対して冥王星の公転周期は正確に1.5倍ではありませんが、冥王星の公転周期は1.5倍を中心に約2万年単位で振動することが知られています。したがって両者が接近することはありません。。両者の質量は圧倒的に海王星が大きいので、海王星の引力が冥王星の軌道に与える影響が大きいと思われます。海王星−冥王星も木星−ヒルダ群と同じ関係で衝の時 冥王星が遠日点になるようになっています。 冥王星がなぜ現在のような軌道になったのかはまだよく分かっていませんが、冥王星が衛星カロンを持っていることから、海王星の衛星だったという説には賛同できません。冥王星は多くあった冥王星大の天体の中で、海王星と衝突せずに残った天体だと考えられます。 近年、海王星以遠のエッジワース・カイパーベルト天体が多く発見されるようになりました。このなかには冥王星と同じく海王星と2:3の尽数関係になっているものがあります。このような天体をプルティーノとよびます。冥王星はプルティーノの中で飛び抜けて大きい天体だと考える事もできます。プルティーノはどれも離心率が大きく、海王星が内側の軌道から現在の軌道へ移動したなごりだと考える学者もいます。 今後 海王星と2:3以外の尽数関係を持つカイパーベルト天体が数多く発見されると予想されます。 ![]() 太陽−木星太陽系を見ると中心の太陽が質量を独占していますが、次に大きいのは木星です。力学的には太陽系は、太陽−木星の連星と考えても差し支えありません。太陽の活動周期(黒点の増減周期)はほぼ11年で、木星の公転周期11.86年とほぼ等しいのは偶然でしょうか。金星−地球金星の自転周期が確定したのは、地球から発射した電波のドップラー効果を測定するレーダー観測技術が確立した1970年のことです。それまでは厚い大気を通して地表が見えないため、地球と同じ24時間程度とするものや公転周期と同じ224日 その他諸説が乱立していました。実際の240.02日は金星が逆回転していることを示していますが、これは地球の公転周期365.24日と2:3の関係が成立しています。地球の公転周期が金星の自転周期に影響するにはどのような力学的メカニズムが必要なのかは、いまだに説明されていません。 金星−地球−火星の会合周期金星の公転周期は224.7日(=0.615年) 地球は365.2日(=1年) 火星は687.0日(=1.881年)です。三者の公転周期にははっきりした尽数関係は存在しませんが、金星と地球の会合周期は584.0日、地球と火星の会合周期は779.9日で 3:4の尽数関係が成立します。(779.9×0.75=584.9) このため金星が内合になるときの火星の位置は火星軌道上の4点のどこか、火星が衝になるときには金星は金星軌道上の3点のどこかにしかいないことになります。会合周期とは、惑星と他の惑星(この場合 地球と金星あるいは地球と火星)の位置関係(たとえば衝)が同じになるまでの時間のことです。 ボーデ・チチウスの法則チチウスが発見(1772年)してボーデが紹介したという法則で、高校の教科書にも載っている経験法則です。0から始め 0.3、0.6、1.2、2.4・・・・と順に2倍した値に0.4を加えると太陽から惑星までの平均距離に一致します。当時は土星までしか知られていませんでしたが、1781年に天王星が発見されると法則とよく一致したので、火星と木星の間にも未知の惑星があるに違いないと考えられるようになりました。その結果1801年1月1日に小惑星セレス、続いてパラス、ジュノーと相次いで発見され小惑星帯(アステロイドベルト)とよばれるようになりました。しかしその後発見された海王星と冥王星は法則から外れています。(冥王星は法則上の海王星の位置にあるので海王星だけが異常とも考えられます)いずれにせよ太陽系の主な惑星の位置が簡単な数列で表されることは、惑星の配置が尽数関係にあるということにほかなりません。しかしそのことに意味があるかどうかは他の恒星の惑星系などを調査するまではわからないでしょう。ただし最近の太陽系形成理論では微惑星から惑星ができあがるときの引力を及ぼす範囲としてボーデの法則が必然的に導き出されるシミュレーションも存在するようです。
ボーデの法則以外にも惑星配列についての法則を考えた人は多数いますし、中には衛星系まで拡張した関数もありますが、なぜその式が導き出されるのか惑星系・衛星系の成因をふまえた理論がなければ単なる数遊びにしかすぎません。 太陽系外の尽数関係太陽系外の恒星の周囲を公転する惑星にも尽数関係が成立しています。太陽系から約15光年離れた赤色矮星グリーゼ876(Gliese 876=Ross 780)には主星であるaの周囲をbとcが公転しています。bの公転周期は60日、cの公転周期は30日で 2:1の尽数関係が成立しています。主星の質量は太陽の0.32倍なので、軌道長半径 bは0.21AU、cは0.12AUであることがわかります。グリーゼ876には地球の7倍程度の岩石惑星dが約2日で公転していることも知られています。b、cは木星型巨大惑星なのですが、巨大惑星が2個以内であれば内側にできた岩石惑星が生き残る可能性が高いことが指摘されています。 2002.8.15(追補) 2002.10.19(追補) 2006.7.24(追補) 前に戻る |