アルゴルパラドクス
 冬の夜空に輝くおおいぬ座のα星シリウスは全天で最も明るい恒星(自分で光る星・星座を作る星)です。そのみかけの明るさ(実視等級)はマイナス1.5等で、古代エジプトでは洪水の季節を告げる星として天文学の発達にも役立ってきました。図はシリウスの位置を示しています。
 このシリウスが実は2つの恒星が互いに重心の周りを公転している天体であることがわかったのは1862年のことです。明るい方(主星)をシリウスA(αCMaA)、暗い方(伴星)をシリウスB(αCMaB)とよびます。シリウスBのみかけの明るさは9等でシリウスAの明るさの1万分の1程度しかありません。明るい星のそばに暗い星が隠れていたのです。このように2個以上の恒星が互いの重心の周りを公転するものを連星といいます。

 シリウスAとシリウスBの質量は、次のような方法で知ることができます。
シリウスAは私たちの太陽と同じ主系列星とよばれる恒星群に属します。主系列星はその明るさと色の間に関係があり、青白いものほど高温で明るく、赤いものほど低温で暗いという性質があります。太陽は黄色の恒星で主系列星の中ではやや明るい方に属します。
 恒星は中心部の核融合反応でエネルギーを生産し、その巨大な質量を支えないと自分の重みでつぶれてしまいます。そこで重い(質量の大きい)恒星はその重さを支えるために多くの燃料(水素)を大量に消費し高温になり青白く明るく輝き、逆に軽い(質量の小さい)恒星は赤く暗いのです。
 シリウスAはA1型とよばれる青い色をした恒星で、黄色い太陽(G2)より高温で、その質量は太陽の2.28倍と計算することができます。また、共通重心の周りを公転するシリウスBは、重心からの距離の比(重い恒星は動きにくく、軽い恒星のほうが動きやすい)から質量が太陽の0.98倍であることが計算できます。
 シリウスBは太陽とほぼ同じ質量を持ちながら、その明るさはシリウスAの1万分の1、太陽の400分の1しかありません。シリウスBの表面温度は太陽と同じ6000度なので、表面1平方メートルから放出される光エネルギーはほぼ同じです。ところが全体の明るさが400分の1ということは、表面積が太陽の400分の1ということになります。つまりシリウスBの半径は太陽の20分の1となり、体積は8000分の1ということになります。太陽とほぼ同じ質量なのに8000分の1の大きさの天体、つまりものすごく密度の高い天体なのです。実際に計算してみると 1立方センチメートル(角砂糖1個程度)で0.4トン(軽自動車1台)となります。このような天体を白色矮星(わいせい)といいます。

 白色矮星はどのようにしてできたのでしょう。
 恒星は宇宙空間のガスが集まってできます。ガスの主成分は水素です。ガスが集まるとき、大きなかたまりが1個しかできない場合は恒星は単独ですが、2個以上できる場合も多くその時に連星ができます。太陽は単独ですが、木星や土星はガスを十分に集めることができず恒星になれませんでした。(もし木星がもう少し大きければ自分で赤く光っていることでしょう)
 ガスのかたまりはやがて自分の重力で縮んでいき中心部が熱くなります。そして中心部で核融合反応がおこります。核融合反応とは水素が集まってヘリウムができることで、このときにエネルギーを発生させます。このエネルギーが太陽やシリウスが明るく輝く原動力なのです。
 恒星は重いものほどより速く水素を消費します。つまり重い恒星ほど速く燃え尽きるのですが、このとき恒星は膨張して赤色巨星という巨大な星になります。太陽も数十億年後には巨大になり地球軌道まで膨張してしまうはずです。(地球は今より外側へ移動して呑み込まれません) そして今度は縮んでいき最後に白色矮星になるのです。(もっと重い星は超新星爆発をおこして中性子星やブラックホールになります)
 さてここまで読むとシリウスには矛盾があることに気がつきます。同時に誕生したはずのシリウスAとBですが、太陽の2.28倍も重いAがいまだに燃え尽きず、太陽と同程度のBがすでに燃え尽きた白色矮星になっています。このような現象をアルゴル・パラドクスといいます。これは色変光星として知られるペルセウス座β星アルゴルも軽い伴星のほうが進化しているということから名付けられました。

 この現象は次のように説明されます。
(1)2個の恒星 シリウスAとシリウスBは同時に誕生した。誕生したときはシリウスBの方が重かった。(図1)
(2)2個の恒星は同じ進化の道筋をたどりはじめるが、シリウスBのほうが重いので進化が速く、早い時期に赤色巨星となった。(図2)
(3)2個の連星にはそれぞれの重力の及ぶ範囲がある。その大きさをロッシュの限界(ロッシュローブ)といい、シリウスBはロッシュの限界を越えて巨大化した。
(4)巨大化したシリウスBの表面のガスは、シリウスBの引力より強いシリウスAに引かれシリウスAの方に流れ出す。(図3)
(5)シリウスBから流れ出したガスはシリウスAに蓄積されていき、やがてシリウスAの方がシリウスBより重くなった。
(6)やがてシリウスBが中心部の水素を使い切りエネルギー源がなくなって収縮をはじめたが、シリウスAはシリウスB表面の水素を集めて巨大化し青白い恒星になった。(図4)
というシナリオが考えられます。
 数億年前までシリウスは、シリウスBが主星でAは伴星だったのです。またその時のシリウスは赤い巨大な恒星だったのです。



 アフリカのドゴン族という民族の伝承に「古代にシリウスは赤い星だった」というお話があります。要約してみると
人間の目には見えぬ“ポ・トロ”こそ、全天で最も重要な星である。
ポ・トロは、天空で最も明るく輝く“母なる星”の主伴星であり、その周りを50年で一周する。
ポ・トロは楕円軌道を描いて回っており、“母なる星”はその焦点の一つに位置する。
ポ・トロは地球上のいかなる物質よりも重い“サガラ”という金属でできている。
“母なる星”には、ポ・トロの四倍も軽く、ずっと大きな円軌道を描くエンメ・ヤ(第3の星)が回っている。
エン・メヤの周りには、ノンモ(魚人)の住む“ニャン・トロ”が回っている。遠い昔、ノンモが地上を訪れ、人類に文明を与えた。

 伝承(あるいは神話)に真実のかけらが含まれていることがあるのは事実です。この話を信じる人々は「ポ・トロ」がシリウスBを指し示すのだと主張し、観測機器を持たないドゴン族がこのような天文知識をもつのは、古代にシリウスから宇宙人ノンモが地球にやってきて知識を古代のドゴン族に与えたからだと主張しています。
1946年 ドゴン族の祭司に招かれたグリオール博士らは、西欧人として初めて伝統的秘密儀式に参加し水陸両用生物「ノンモ」の像を目撃しました。更に伝承を聞かされた博士は1950年にディータレン女史とともに論文を発表しました。またロバート・K・G・テンプルが、上記の論文に触発され、ドゴン族の不可解な神話体系を独自に研究した成果を“シリウス・ミステリー”と題して発表し。伝統と権威を誇るイギリスの科学専門誌“ネイチャー”に掲載されたのです。
 故カール・セーガンはドゴン族のこのような伝承を「西洋人が喜ぶように作り上げた」のだと解釈しています。実際シリウスにはエンメ・ヤ(第3の星)もなければニャン・トロも存在する証拠はありません。シリウスは恒星としては寿命が短く明るさの変化が激しいので、生物が発生するには条件の悪い恒星であることは明白です。

2001.2.16

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