| シンクロニックバンド |
彗星の尾
2007年1月 南半球で見られたマックノート彗星(Conet Mcnaught 2006P1)は世紀の大彗星となりました。この彗星の最大の特徴は長大なダストの尾に見られるシンクロニックバンドとよばれる線状構造です。彗星の尾は太陽に近づくと出現します。尾は太陽と正反対方向に吹き飛ばされるイオンテイル(ガスでできている)と、大きさが1μm(マイクロメートル)より大きなダスト(チリ)の粒子で構成されたダストテイルからなっています。 太陽から遠いところでは表面だけが暖められて蒸発したガスが尾を形成します。小型の彗星ではダストテイルは見られないことも多いのです。太陽に近づき中心核の内部からガスとダストが吹き出してくるとダストテイルが出現します。ダストテイルは彗星が太陽に近づいているときはイオンテイルとほぼ同じ方向に吹き出していますが、彗星が近日点を通過して軌道が大きくカーブすると曲がります。まるでカーブを曲がりきれなかったように彗星本体から遅れてしまいます。このときイオンとダストの2種類の尾が分離して見えます。肉眼でもはっきりと見えるダストテイルを持つ彗星が大彗星です。 このダストテイルの内部に見える線状構造がシンクロニックバンドとよばれるもので、20世紀後半以降に出現した彗星では、ムルコス彗星(1957)、関ラインズ彗星(1962)、ウエスト彗星(1976)、ヘールボップ彗星(1995)、マックノート彗星(2007)に見ることができました。 右の写真は2006年に発見され南半球で巨大彗星として目撃されたマックノート彗星です。インディアンの羽根飾りのようなシンクロニックバンドが上に向かって伸びています。 シンクロンとシンダイン
尾の形は、シンクロン(Syncrone)とシンダイン(Syndyne)という2つの要素で分析することができます。彗星の中心核から放出されたダスト粒子は、太陽の引力と輻射圧(光圧)による斥力を受けています。引力は太陽からの距離の2乗に反比例する力です。また輻射圧も距離の2乗に反比例するので、両者の力の比は一定となります。 太陽の輻射圧P、輻射L、彗星と太陽の距離r、光速c とすると P=L/(4πr^2c) で表され、このPが半径Rの物質におよぼす斥力Frは Fr=LπR^2/(4πr^2c)=LR^2/4cr^2 となります。 またこの物質におよぼす太陽引力Fgは Fg=GMm/r^2=(GM/r^2)(4πR^3ρ/3) =(4πGM/3)ρR^3/r^3 よって、斥力の引力に対する比(1−μ)は 1-μ=Fr/Fg=(3L/16πGMc)/ρR ここで L=3.83×10^33erg/sec G=6.7×10^-8 M=1.98×10^33g c=3×10^10cm を代入すると 1−μ=5×10^5/ρR となります。 ρの値は流星物質の研究などから 0.25程度と推定されます。 シンクロン
シンクロンは等時放出曲線ともよばれています。彗星の中心核から、同時に放出されたダストが光圧による斥力によって彗星中心核からどの程度離れているかを示します。大きいダストほど核の近くにあり、小さいものほど核から遠ざかります。 右図のコホーテク彗星(Comet Kohoutek)では実線であらわされます。10で示される曲線は10日前に放出された物質(ダスト)は10の曲線上のどこかに存在し他の場所には存在しません。 シンダインシンダインは等斥力曲線ともとばれています。彗星の中心核から放出された物質のうち、光圧による斥力が同じ物質がどこにあるかを示します。放出される物質の反射能などは同じと推定されますから、同じ大きさの粒子の分布を示していると考えてもよいでしょう。 これが破線で示されています。図では10日前に放出された 1−μ=0.4 の物質はAにあることがわかります。 コホーテク彗星の場合、地球から見ると現在より6日以上前に放出された物質は彗星核より太陽方向に見えることが予想されます。実際のコホーテク彗星の写真を見るとアンチテイル(スパイクとも言う)が太陽方向に出ていることがわかります。これは古いダストが彗星中心核から遅れてしまい、たまたま太陽方向に見えたのです。 彗星の尾は太陽と反対側に伸びるはずですが、見方によっては太陽方向に見えることもあるのです。 一般にシンクロンは直線状で、シンダインは大きな曲がり方をします。マックノート彗星の場合巨大なダストテイルはシンダインである可能性が高いことになります。つまり核から放出された物質の粒がそろっていて、徐々に彗星が太陽に近づく間に徐々に放出された可能性が高いのです。 シンクロニックバンドシンクロニックバンドの性質について ウセスビアッキ(Vsekhsviatsky)(1959)はつぎのような特徴を挙げています。(1) 配列の規則性 多くのバンドがほぼ平行に並ぶ バンドの延長方向は太陽と彗星を結ぶ線分の間にある バンドの間隔はほぼ等しい (2) 寿命が短く数日間しか見ることができない (3) バンドの二重構造 ウセスビアッキはシンクロニックバンドの成因について電磁気的な力を考えていますが、セカニナ(Sekanina)は1976年はバンドを力学的に解析することを試みています。また下のウエスト彗星(Comet West)については 植村和彦(Kazuhiko UEMURA)・西岡公彦(Kimihiko NISHIOKA)・赤羽徳英(Norihide AKABANE)の先駆的な研究(1976、1977)がおこなわれています。 核が近日点を通過した頃に崩壊し、内部から大量のダストが放出されたということは明かです。その後 太陽からある程度遠ざかった時点でダストが再分裂したものがシンクロニックバンドとして見えていると考えられています。 植村はシンクロニックバンドが再分裂が徐々におこったシンダインである可能性が高く、赤羽は同時に再分裂したシンクロンであるとの考えを示しています。また西岡は暗い部分にも物質があり、明るい部分が可視光を反射しているのだという説を唱えていますが結論が出たわけではありません。いずれもウエスト彗星についての研究であり、他の彗星にも当てはまるかどうかも不明です。 下の図はウエスト彗星のシンクロン(実線)とシンダイン(破線)を示しています。右の写真は近日点通過後9日の彗星の写真で、ダストテイルが近日点通過時(実線9)に放出された 1−μ=2.0以下の粒子によって構成されていることがわかります。 ![]()
クリンケンベルグ彗星
右は1744年に出現したクリンケンベルグ彗星です。シェゾーという人が6本の尾が地平線から見えているところをスケッチしたものです。場所によっては11本の尾が見えたとも伝えられています。図では彗星核の位置として、尾の延長と考えられる破線の集中するところに核(A)を描いていますが、もしこの尾がシンクロニックバンドであるなら、核の位置は全く違うことになります。実際はBの付近であった可能性があります。 2007.2.01 前に戻る |