| 軌道要素と摂動 |
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2003年の火星の大接近は5万7千年ぶりとか・・・しかも今後数百年のあいだには今回と同等またはそれ以上の接近があるようです。ちなみに最接近の年月日と地球−火星間の距離を示しておきます。 1924/8/29 5578万km 2003/8/27 5576万km 2208/8/24 5577万km 2287/8/29 5569万km 高校の地学で惑星の軌道の形は太陽を焦点の一つとする楕円と学んだはずです。そうなると地球と火星の最接近時の距離は、太陽−地球−火星と並んだときの距離で計算できるはずで、地球の軌道の形(ほぼ円軌道に近い楕円)と火星の軌道の形(少し円からずれた楕円)がわかっていれば、数百年の間に似たようなことがありながら それ以前の5万年以上も機会がなかったなどということはないはずです。なぜ数万年もなかったことが立て続けにおこるのか考えてみましょう。 惑星や彗星など太陽の周囲を公転している天体の軌道の形をあらわす数値が軌道要素です。惑星の動きは17世紀初頭ケプラーによって解明され、ニュートンによって理論的な裏付けがなされました。ケプラーが示した惑星の動きは次の法則(ケプラーの法則)で表されます。 第一法則(楕円法則):惑星の軌道の形は太陽を焦点とする楕円である 第二法則(面積速度一定法則):惑星と太陽を結ぶ線分が描く面積は時間により一定である 第三法則(調和法則):惑星の平均距離の3乗と公転周期の2乗は比例する すなわち、火星のある時刻における位置を知れば、火星の過去も未来の位置も知ることができるはずです。 軌道要素とは軌道要素とは惑星の軌道を楕円と考えたときの形と軌道上を動く速度を6個の要素によって示したものです。1.軌道面の空間における位置を決める要素 昇交点黄経 Ω :惑星軌道面(惑星が南から北へ通過する点)が地球軌道面(黄道)と交差する交線と春分点のなす角度 軌道傾斜角 i :惑星軌道面が地球軌道面(黄道)となす角度。90°以上は逆行となる。 2.軌道の形を決める要素 軌道長半径 a :惑星軌道の長半径。公転周期が求められる。(単位:天文単位) 軌道離心率 e :楕円の形 0で円、0と1の間であれば楕円、1で放物線、1以上で双曲線となる 近日点引数 ω :昇交点と惑星軌道の近日点方向のなす角度 3.惑星が軌道上のどこにいるかを決める要素 元期の平均経度 ε :元期は任意の時刻で、その時惑星がいる位置を示す角度 ![]() 実際の軌道要素を示す記号には 平均日々運動(n)や平均近点角(M0)などが使われることがありますが、上の6個の要素から計算することができますし、逆も可能です。彗星などでは元期を近日点通過時刻(T)にしていますし、離心率 e=1 なので 軌道長半径の代わりに近日点距離(q)を使いますが、本質は変わりません。 惑星の過去や未来位置を計算することを位置推算といいます。このためにはケプラー方程式というものを解かねばなりませんが、この方程式を厳密に解くことはできませんが、計算を繰り返すことにより無限に精度を上げることはできます。 ケプラー方程式 E−esinE=M (E:離心近点角 e:離心率 M:平均近点離角) 摂動いずれにせよ、太陽と周囲を公転する惑星が1個しかなければ、その運動は永遠に続くはずです。しかし現実の太陽系には多くの惑星・小惑星・彗星があり、互いに引力を及ぼしあっています。太陽−火星系の運動に最も大きく影響するのは木星です。火星は木星に近づいたり遠ざかったする間に木星の引力の影響を受けます。特に火星が木星に近づくときは木星に向かって加速し、逆に遠ざかるときは減速します。木星の質量は太陽の1000分の1以下、距離も火星−太陽の距離の3倍あるので火星に及ぼす木星の引力は太陽の1万分の1以下になります。1日1秒しか遅れない時計でも1年で6分以上狂うように、木星の小さな影響も長期間に及べばその影響は充分に観測できるようになります。このように太陽−火星の2体に対して別の天体がほんの少しだけ影響を及ぼすことを摂動といいます。 木星が火星に対して摂動を及ぼすのですが、火星も木星に摂動を及ぼします。また他の惑星も火星に摂動を及ぼし、火星も他の惑星に摂動を及ぼします。当然他の惑星同士も摂動を及ぼしあっています。このように多くの天体が互いに引力を及ぼしあっている状態を多体問題とよびます。そして多体問題を厳密に解く方法は知られていません。惑星の長期間の運動を調べるためには多体問題を解かねばなりませんが、どうしても近似的な計算しかできないのです。 コンピュータを使った計算では初期値(いろいろな惑星の軌道要素)を与えて、一定の時間(例えば1日)を区切り A星に対するB星、C星の引力を計算しA星の1日後の位置を求めます。これをB、C星に対してもおこないます。そして1日後の位置を出発点として更に1日後の位置を求めるといった数値積分をおこないます。当然 時間間隔を短く取ればよい精度が得られますし、遠い惑星や小さい惑星の引力を考慮すればより正確になりますが、その分計算量は幾何級数的に増大していきます。 つまり軌道要素はある時点(元期)での惑星の運動を楕円だと仮定したときの形で、実際には少しずつズレていくので軌道要素は少しずつ変化することになります。数十年程度の変化なら直線、あるいは二次関数に近似することができるので、要素の変化を組み入れることも可能です。 2003年版天文年鑑にある火星の軌道要素についてみると Ω=49.35581+0.7720T i=1.8497+0.0006T e=0.093401+0.00090T a=1.523679 ω=336.0602+1.8410T+0.0001T^2 L=355.433+0.52407108d+0.0003T^2 となっています。L は平均黄経で元期と同じ意味のものです。 d=JD−2451545.0 T=d/36525 です。JDはユリウス日で要するにdもTも時間を示しています。軌道要素は少しずつ変化しています。 しかしこのような変化が永遠に続くわけではありません。数百年以上の長いタイムスパンでは軌道要素はある一定の範囲以上の変化はせず、波打つように振動していることがコンピュータシミュレーションによりわかってきました。上の表のe(離心率)の値も現在は増加傾向にありますがやがて減少傾向に転じるはずです。 いつ減少に転じるかはどれだけ多くの惑星の影響を加味して、どれくらいの時間間隔で計算するかによって計算結果が変わってきます。より多くの惑星とより短い時間間隔、より長期間にわたる計算をするかによるのですから、計算能力の高いコンピュータを長時間使えることが有利になります。 どこまでたどれるか現在のデータを元にして、天体が過去にどこにいたかを推測することができます。1994年年7月にシューメイカー・レビー第9彗星が木星に衝突しました。この彗星は元もと太陽系の彼方のオールト雲からやってきたと考えられていますが、1992年7月に木星のロッシュ限界以下に接近して分裂して木星の周りをまわる衛星のような状態になったと考えられています。この彗星の軌道は彗星の運動を太陽と木星の引力を考慮してどんどん過去にさかのぼって計算していくことによって知ることができるようになりました。では 太陽系の惑星や彗星の軌道を何億年も過去や未来にわたって知ることができるのでしょうか? 残念ながらそれは不可能です。その原因は観測技術にあります。現在の観測技術では天体の位置は8桁くらいの精度で求めるのがやっとの状態です。信用できるのは8桁目までですから、1年の観測で得られた結果から10年後の位置を予想すれば最後の1桁の観測誤差が10倍となり7桁しか信用できないことになります。つまり、数千年もたてば信頼できるのは4〜5桁しかないことになります。火星を含むいくつかの惑星の正確な位置観測はせいぜい100年ですから、摂動による軌道変化も10万年のオーダーでしか正確に知り得ないことになってしまいます。火星が57000年ぶりの大接近といいますが、おおよその傾向としては正しくとも本当にそうなのかどうか正確なところはわからないというのが真相です。 現在の最新の測定技術でも観測精度は10桁がほぼ限界です。正確さを誇るGPS衛星は約20000km上空から約2センチメートルの誤差があるといわれています。これで10000000000倍(=10の10乗)になります。しかしそのような精度で観測できることはまれで実用上では数十センチメートルの観測誤差がありますし、カーナビでは2メートル(8桁)が限界のようです。大気のゆらぎによる電波の屈折などが原因です。残念ながら惑星観測はもう一桁精度が悪いのが実情のようです。 彗星の観測などで次の回帰を正確に知ることができないのは、さらに彗星独自の理由があります。彗星は突然現れて数ヶ月で太陽の周りをまわって遠ざかっていきます。そのため観測期間が短いこと、また彗星はガスで包まれていて中心核がはっきり見えないこと、ジェットのようにガスを放出して中心核が不規則に運動すること、質量が小さいため他の天体の影響を受けやすいこと、太陽から遠ざかったとき小惑星などに接近しても観測できないこと など惑星以上に未来位置の予測は困難なのです。 関連サイト日本アマチュア衛星通信協会の衛星軌道解説Mitsu's Space 天体軌道可視化システム スタークリック バックナンバー 彗星の軌道要素 2002.12.24 前に戻る |