第参話 再始動

 
 風鳴市のあるマンションの一部屋に、普通の家には似つかわしくない、天井に届くほど巨大なコンピューターがあった。
 時刻は午前四時。モニターの前には、青みがかった長髪を持つ三十代後半だろう女性が、机に突っ伏して眠っていた。
 モニターに映っているのは一ヶ月前に発見された、ここ、第131管理外世界についての、報告書の一部である。
 報告書にはこう書いてあった。
≪第131管理外世界と第97管理外世界との相違点に関する報告≫
 ここ、第131管理外世界は第97管理外世界・惑星名地球(以下、地球と表記)に非常に酷似した世界であると、前提を置く。
 ここの文明レベルは地球と同等であり、恐らく、ほぼ同じ歴史を歩んできたものと推測される。
 しかし、同じ次元世界上に全く同一の世界は存在できない。これは「世界」と呼ばれる何かに拒絶されるからである、とされている。
 以下は地球との相違点や補足である。
 ・この惑星を指す名前が「命星」である事。
 ・地理についてはほぼ相違は無いと言ってよいが、「パンゲア連邦」と呼ばれる国家が命星すべてを統治している事。だが、各地域はほとんど自治状態にある。
 ・最大の相違点は、現在見つかっている全次元世界最硬の魔法金属「オリハルコン」が微量だが存在する事。
 蛇足だが、オリハルコンについて説明しようと思う。
 オリハルコンは、ミッドにおいても解析が終了していない魔力をもつ特殊金属のひとつである。固体と液体の二種類があり、液体のオリハルコンは水と混合すると強く結合してしまい、現在の技術では分離は不可能である。この世界に存在するオリハルコンのほとんどは液体であり、その90%以上がこの世界の水に溶け込んでいる。その為、この惑星のほとんどの生物がある程度、魔力を保有する。だが、魔法文化は一切無い。
 最大の特徴は、オリハルコン自体がとてつもなく強力なリンカーコアの働きをする事にある。その魔力生成量は、わずか一欠けらで魔力量SSランク相当の魔導師が生成する魔力量と同等である。
 しかし、その魔力はそのままでは生物には馴染まず、生物には使用できない。ただし、リンカーコアと融合させれば、その生物はオリハルコンの魔力が使用できる。だが、生成される魔力に耐え切れずに数分で自滅してしまう。リンカーコアの働きを持つのは固体のものだけである。
 以上。地球との同一点についてはP5より記載。
                           報告 ギンガ・スガヌマ二等陸佐
 
 
 少しだけあいた窓から、涼しい風が入り込み、彼女のほほを撫でる。
 彼女、ギンガはほんの少し身じろぎをすると、体を起こした。
「あ〜、寝ちゃったか。まあ、報告書はこれで良いとして、現在時刻は、と…」
 そうして彼女は、小さいあくびをしながら時計を見る。
 既に早朝といって差し支えない時刻であった。
 日付が変わる辺りまでの記憶はあるので、眠っていたのは数時間ほどのようだ。
「ん、セイラが帰ってきてない?」
 仮にも時空管理局の人間が、基地(ベース)としているのだ。
 退出記録はもちろん、入室記録も記録している。
 セイラには確かに昨日、二十四時間の自由行動を許可したが、朝帰りはさすがにまずい。
 セイラに何かあったら、一緒に住んでいる私が彼女の母親(魔王)に消し炭にされる。まあ、彼女の強さは半端じゃないから大丈夫かな。
 彼女はそう考えるが、それでも心配ではあったので、手近な通信機を手に取り連絡を取ろうとした。
 すると、タイミングを計ったように玄関の扉の鍵が開く音がした。
 そして、リビングに恐る恐る顔を出す、サイドポニーの不良娘一人。
「えっと、ギンガさん、ただいま…」
「遅い!いったい今まで何やってたの!」
「いや、ええっと、その、近くの丘の公園で一般人の男の子が、新型ガジェットに襲われていたから、助けてきた…」
「えっ?」
 ギンガはセイラの言葉に驚いた。
 新型ガジェットが一般人を襲った?襲っても意味の無い一般人を?
「ちょ、ちょっと待って。じゃあ、その男の子はどうしたの?」
「うん、ちゃんと怪我を治してから家に送り届けてきた。大丈夫だと思うよ。その家の人には簡単な事情説明もしたし、侵入を探知するだけの探知不可な簡易結界も張ってきたし。詳しい事はまだ聞いてないけど」
「そう、わかったわ。じゃあ、あなたは少し寝なさい。徹夜はお肌に悪いわよ」
「そうする。パパの手伝いで慣れてるけど、さすがに眠いよ。あ、そうそう。この子、ギンガさんの知り合いらしいし、ミッドのだったから連れてきたよ。それじゃあ、おやすみ〜」
 そういって、セイラは青いペンダントをギンガに手渡すと、そそくさと自室へと戻っていった。
 だが、ギンガは驚きと嬉しさの入り混じった、すごい顔をしていた。
「う、そ、まさか、マッハキャリバー?」
〈はい、十八年ぶりですね。お久しぶりです、ギンガ〉
 渡されたペンダントはマッハキャリバー。
 十八年前、事故で行方不明になった妹、スバルのインテリジェントデバイスであった。
 
 
「そっか、逝っちゃたんだ、あの娘。覚悟していた事だけど、やっぱり悲しいな」
 ギンガはとてもさびしそうな顔をしていた。
 それはそうだろう。幼い頃から一緒に育った妹が、見知らぬ世界で亡くなっていたのだから。
 だが、マッハキャリバーは言う。
〈ですが、スバルはとても満足した顔で逝きました。ただ、ティアナやギンガに会えなかった事と、子供たちを残して逝くことは心残りだったようです〉
「そうなんだ、立派に、母親やってたんだ。それで、さっきセイラが言ってた襲われた一般人って、もしかしてスバルの子供たちのこと?」
〈ええ、双子の兄妹の銀となのかです。いまは二人で生活しています。詳しい事情ならば、私もその場にいたので説明できますが、どうしますか?〉
「うん、お願い」
 そうして、マッハキャリバーは昨夜起きた事を簡潔に説明した。
 それらにギンガは驚いた顔をして、少し疑問に思ったことを聞いた。
「ねえ、マッハキャリバー。あなたがセットアップしてたら勝てたんじゃないかしら?」
〈それは無理です。私のセットアップ機能は自己修復機能の限界を超えて破損していますので、自己修復は無理です。〉
「ああ、そういうこと。じゃあ、後で母艦に行って診てもらいましょう」
ギンガからの申し出に、マッハキャリバーはうれしそうに明滅する。
〈助かります。それにしても、セイラは随分と強いのですね。さすが、なのはの娘です〉
「ええ、そりゃあもう。まあ、リンカーコアを二つ持ってる変り種だからね」
 ギンガは一瞬嬉しそうな顔をして、すこし苦い顔になる。
 その様子を、マッハキャリバーは不審に思った。
〈どうしたのですか、ギンガ?〉
「うん、ちょっとね。マッハキャリバー、セイラの左目が義眼だって気付いてるわね?」
 ギンガは質問を返してくる。
 マッハキャリバーはそれを肯定する。
「一人の人間に、二つのリンカーコアは大きすぎるし、質の違う魔力同士は競合を起こしやすい。彼女はその魔力を制御しきれなかった。だから、義眼でそれぞれのリンカーコアの役割を限定した」
〈それでですか。彼女の砲撃と治療の魔力光の色が違うのは…〉
 マッハキャリバーは思い出す。
 最初、彼女が放ったディバインバスターは桜色だったはずだ。だが、銀を癒した魔法の魔力光は翡翠色だった。
 なのはから受け継いだ桜色の魔力は攻撃に、ユーノから受け継いだ翡翠色の魔力は防御や補助に、魔力の流れるラインを限定、隔離したのだ。魔力を暴走させないために。
「まあ、それでもあの娘はオーバーSランクなんだから、凄いよねえ。私はいまだにAAランクなのに」
〈それは、あの魔王の娘ですから。仕方ないんじゃないですか〉
「それもそうねえ。魔王と張り合うのは難しいからね」
〈そうですね。ふふふ〉
 二人は苦笑しあうのだった。
 その時、ミッドの教導官ロッカーで魔王がくしゃみをしたかは、定かではない。
「それはそうと、もう一眠りしたらスバルの息子達のところに行くわよ。そこでスバルがどうやってこの世界に来たか、話してもらうからね、マッハキャリバー」
〈ええ、わかっています。あの子達も、両親が何処から来たのかは、そろそろ知るべきでしょうね〉
「ん、両親?父親もミッド人なの?」
〈はい。ギンガも会ったことがありますよ。スバルの同僚で、恋人だった彼を〉
 そういわれて、ギンガは銀髪の男を思い浮かべた。
「あ、ああ、彼だったんだ。そういえば、一緒に行方不明になってたっけか」
〈忘れてたんですか…。なんか、彼の扱いひどくないですか〉
 そんなマッハキャリバーの言葉はスルーして、ギンガは自室に戻っていった。
 
 
 暗い昏い夢。そこは、闇が全てを覆い尽くし、焦土と化した滅び行く世界。その世界の名は「アルハザード」といった。
 その世界は、とても進んだ文明を持っていた事がわかる。なぜわかるのかは、わからない。
 だが、知っていた。彼らは己の矮小さも弁えず、『神』である「俺」に手を出した。その報いを、彼らは今、受けている。
 虫けらどもを、叩き潰す。紅い花が咲く。綺麗だった。
――――なんだ、これは
 炎に炙られ、必死に親を呼ぶ幼い――を噛み砕く。紅い液体が流れ出す。美味だった。
―――――――心地よい
 無謀にも立ち向かってくる、羽虫どもの身体を、闇を使って引き千切る。紅い塊が堕ちる。快感だった。
――はは、最高の気分だ
 我は万物の頂点に立つ者。故に絶対。「俺」は、辺りに広がる赤黒い湖を覗き込む。
――――――――――?
 そこにうつるのは、歓喜に顔を醜く歪める、バケモノダッタ。
 
 
「うわあぁぁ!!」
 俺は飛び起きた。そこは自分の部屋ではなく、一階の客間だった。
「???」
 ハテナが乱舞する。時計を見れば午前八時。まあ、休日だからいいか。
 とにかく起きて、もう起きているであろうなのかにでも聞こう、そう考えて起き上がろうとする。
 すると、手がとても柔らかく心地よい感触を脳に伝えてきた。
「ん、んんう」
 さらに聞こえる甘い声。
 さて、落ち着こうか、俺。ここは客間で、隣には妹のなのかが寝てる。しかも、俺と一緒の布団の中。
 たしかこの客間は、なのかの部屋の隣だったはずだ。つまり、なのかは寝ぼけて部屋を間違えた、と。
 そこまで思考して、凄まじい悪寒。下を見れば、ひどく冷たい目をしたなのか。そして、俺の手はいまだ、なのかのちょっと大き目の胸に。
「こんのっ…」
 俺の未来確定。たぶん、一切の弁明は許されないだろうなあ。
 そんなお気楽な思考をして現実逃避を試みるが、現実はすぐにやってきた。
「ばか兄いいいいぃぃぃぃ!!」
「みぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「うおわぁ!なんだっ、地震か!」
「な、何ですか!今の悲鳴!」
 家を揺るがすほどの悲鳴をあげ、なぜかいる友人二人を叩き起こして、俺の一日は再び始まった。
 
 
 To be continued
 
 

あとがき
 こんにちは、柳葉澪です。
 俺の妄想は如何でしたか?お楽しみいただけたでしょうか?
 ちょびっと出てきたスバルの彼氏は、すみません、オリジナルです。ちょっとカップリングが思いつかなかったので。
 あ、ちょっと、いたいいたい、石を投げないで、スバルは俺の嫁という人、魔力弾はいたいから、ぶつけないで〜。
 それと前話のあとがきでも書きましたが、コンさまという方の経営するサイトさまにこのお話が載ってます。ですが、微妙に展開が違います。特に、銀に着目してみてください。
 それでは、またいつの日か。
 え、ちょっ、まっ、ディバインバスターとかSLBはマジでやめてくれええええ!ぎゃあああぁぁぁ・・・合掌
 

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