写真の見せ方
弟子 「先生、今日は私の撮った写真を見てもらえるという事ですね。」
先生 「うむ、弟子よ、たまにはおまえの写真も見ておかんとのう。まずは人物ポートレートからいこうかの。」
弟子 「はい、これが先週撮ったポートレートです。」
先生 「ふむ、どれどれ。...この露出オーバーのは何ぢゃ?」
弟子 「あ、それは露出に自信がなくて段階露光したものです。」
先生 「この中途半端な笑顔は何ぢゃ?」
弟子 「あ、それは次のコマで上手くいってます。連射したのでベストなコマが2コマ目に来たということですね。」
先生 「この目をつぶっているのは何ぢゃ。?」
弟子 「あ、それはちょっとタイミングが合わなかったんですね。」
先生 「もしかしてこれはフィルムまるごと全部か?」
弟子 「はい、全部です。」
先生 「ぶわっかも〜ん!!全部とは何ぢゃ全部とは!」
弟子 「ど、どうしたんですか、先生。」
先生 「こんな捨てゴマまで見せられて怒らん方がおかしいわい!そもそもおまえはこの中のどれを作品にしようとか考えたのか?」
弟子 「え、あ、いや、とりあえず全部見てもらって良いのを決めてもらおうと思って...。」
先生 「おおぶわっかも〜ん!!!おまえそれでもカメラマンの端くれか!カメラマンたるもの他人に写真を見せる時は作品を見せる時ぢゃ。自分が決めた作品以外のものを他人に見せるとは何事か!それではおまえの主張が伝わってこんではないか!」
弟子 「あ、は、はい...。」
先生 「出なおしてこい!未熟者めが!」
弟子 「はは〜。」
...後日...
弟子 「先生、今度は大丈夫です。選別してきました。」
先生 「うむ、どれどれ。ん、今日は風景写真か。」
弟子 「はい。」
先生 「これなんか良い感じぢゃの。これもまぁまぁ。あ〜これはちょっとワシには良いとは思えんが...。」
弟子 「あ、先生、それはちょっと自信作なんですよ。それ撮るの大変だったんですから。なにしろ夜明け前から出かけて朝早くに撮ったものです。もう、眠いわ寒いわでとても大変だったんですから...。」
先生 「だからなんぢゃ。」
弟子 「へ?」
先生 「だからなんぢゃと聞いておる。」
弟子 「え、あ、いや、だから、それは苦労の一枚だと...。」
先生 「それでこれか?」
弟子 「はぁ。」
先生 「バッカむぉの!そんな苦労話をちらつかせて、作品を良く見せようとでも思っとるのか。だいたい人情に訴えて作品の価値を吊り上げようとは言語道断ぢゃ。」
弟子 「でも先生、カメラマンの苦労話を聞いて、その作品を見る目が変るっていう事はあるじゃないですか。」
先生 「おまえは判っとらんの。作品を掲載している時にいちいち、「この撮影には苦労しました。」、なんてコメントつけた展示を見た事あるか?」
弟子 「いえ、そういうのはないです...あとからインタビューとか自伝とかで見ますけど。」
先生 「そうぢゃろ。作品発表の時は誰も撮影当時の事など言葉では語らんもんぢゃ。その作品の価値が認められた後から聞かれるなり紹介するなりして、後日の付加情報として苦労話が語られるわけぢゃ。おまえもカメラマンの端くれなら、まずは作品で勝負しろ。出なおしてこい!未熟者めが!」
弟子 「はは〜。」
...後日...
弟子 「先生、今度はどうですか。選りに選って来ました。」
先生 「ふむ、だいぶ少なくなったのう。どれどれ。」
弟子 「...。」
先生 「うむ、なかなか良い作品ばかりぢゃ。こうしてみるとおまえもだいぶ腕を上げたのう。」
弟子 「どうもありがとうございます。」
先生 「さて、次の課題ぢゃ。」
弟子 「え?いきなり課題ですか?」
先生 「うむ。これらの作品をアルバムに入れて来い。」
弟子 「は、はい。」
...後日...
弟子 「先生、入れてきました。」
先生 「うむ、どれ。...なんじゃこの順番は?おまえこれただ適当に入れただけじゃないぢゃろうな。」
弟子 「え、ああ、ま、そうです...。」
先生 「ばっかも〜ん!アルバムに入れるとは展示と同じぢゃ。何も考えずにただ並べるよりは、流れとかリズムとか起承転結とかがあった方が、見る人も写真そのものだけじゃなく、展示そのものも楽しめるとは思わんか。」
弟子 「ああ、なるほど。でも、その流れとかリズムってなんですか?」
先生 「だ〜か〜ら〜、おまえは未熟者というのぢゃ。おまえ、そろそろ名前を「弟子」から「未熟者」に格下げするぞ!」
未熟者 「先生、それだけはご勘弁...って、あっ、もう変えられてる!」
先生 「おまえにはそれがふさわしいわい。ええか未熟者よ、おまえの為に具体例で説明してやろう。」
未熟者 「は〜い...。」
先生 「まず簡単なところは風景写真。定番だと朝から夜への流れというのがあるな。朝日を浴びる風景に始まり、お昼時のベタな光の風景、そして夕方近くの黄色見を帯びた風景、やがて夕焼けに向かう。と、こうなる。」
未熟者 「なるほど。」
先生 「ここで難しいのは昼間のパートの風景をどう並べるかぢゃ。なかなか言葉では難しいが展示にも起承転結が欲しいところぢゃな。朝日から昼そして夕焼けというだけでも起承転結はあるが、さらにもう一ひねりして、昼間のパートの中にも起承転結が欲しい。例えば、昼のパートの中で自分が最も気に入った写真を最初に、中間にはそこそこ、そして最後にまたお気に入りを入れる等の見るものが飽きないような気遣いをするとかぢゃな。ま、このあたりが、写真家の腕の見せどころぢゃよ。ただ並べるにもセンスがいるのぢゃ。」
未熟者 「なるほど、展示にも頭を使えと言う事ですね。」
先生 「そうぢゃ。次はポートレート。これにも風景と同じような朝昼夕の流れが使えるが、ほかにもいろいろと状況があるな。例えば部屋の中から始まり屋外に流れるとか、部屋の中でも居間、ベットルーム、居間という流れとか。まぁ、注意すべきは似たようなロケーションをなるべく集めるという事かな。ま、これはあくまでも基本ぢゃがな。」
未熟者 「なるほど。」
先生 「ポートレートの場合は、時間による流れ、背景による流れ、ポーズによる流れ、顔アップ、バストアップ、ウェストアップ、全身像による流れなど、構成要素が多岐にわたる。これらを組み合わせるのぢゃ。」
未熟者 「これは難易度高しですね。」
先生 「うむ、これらのほかにも、縦横の構図で流れを決めるという場合もある。例えばミニアルバムに写真を入れるとする。ほれ、葉書サイズ位の小さなアルバムぢゃ。一枚の写真で一ページになるぢゃろう。」
未熟者 「あ、よくあるあれですね。」
先生 「うむ、よくあるあれぢゃ。例えばあれに写真を入れる場合、縦横が交互に入っておるとすると見る時にどうなると思う。」
未熟者 「写真の構図に合わせてアルバム自体を縦にしたり横にしたりで大変そうですね。」
先生 「その通りぢゃ。この場合は鑑賞者に対し楽に見てもらうことを考えるのぢゃ。しかし、ここで重要なのは、いくら縦横構図で流れを決めるといっても前半分に縦構図、後ろ半分に横構図をもってくれば良いと言う事ではない。その中にも先に述べた時間の流れとかポーズとかの要素を使って、違和感のない配置にすべきなのぢゃ。」
未熟者 「判りました、先生。ところでリズムってなんですか。」
先生 「なかなか厳しいところを突いてくるのう。これは言葉で表現するのはとても難しいのぢゃ。そうぢゃのう...ま例えばぢゃが、被写体の向いている方向というものがあるじゃろう、顔の向きとか太陽の位置とか水の流れとか。そういうものを揃えたりちぐはぐにしなかったりするとかぢゃの。あとはそういう向きとかではなく、写真全体の印象、つまり明るい写真、はじけた感じの写真、おちついたトーンの写真、暗い写真、コントラストのきつい写真とかあるぢゃろう。それらの画面から来る印象を組み合わせる際に、こう、なんというかリズム感を考えて配置せよという事ぢゃ。」
未熟者 「はぁ、なんとなく判ったような判らないような。」
先生 「ま、これは個人の感性に寄るからのう。なかなか口頭で伝えるのは難しいのぢゃて。」
未熟者 「先生。結局全てに言えるのは、展示にしろアルバムに貼るにしろ、鑑賞者が見て疲れないとか飽きないとかいう構成にしなさいという事ですね。」
先生 「お、最後にやっとまともな事を言いおったの。」
弟子 「どうもありがとうございます。あっ!名前が「弟子」に戻ってる!よかったぁ。」