BLAZE、発動(下)
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そこはあまりにも静かだった。
いつもなら聞こえる、ささやかな虫の声や、木々のざわめきさえもが、なりを潜めているようだ。
白い建物が、風景にとけ込むようにひっそりと立っている。
病院だ。
と、闇が揺らいだ。
いや、これは正確ではない。
闇は揺らがないものだから。
音もなくそいつらは、建物に駆け寄る。
地面と垂直に立った壁など、そいつ等には無意味なようだ。
さっと張り付くと、素早い身のこなしで登っていく。
が、彼らの穏行もそれまでだった。
突然、轟音と共に激しい閃光が辺りを覆い尽くした。
小さくうめき声を上げて倒れる、黒尽くめの男達。
どうやら、スターライトスコープで明かりを確保していたらしく、突然の閃光に為す術もない。
何倍にも増幅された閃光に目を潰され、のたうち回る男達。
幸運にも目をやられなかった男が数人、閃光と爆音の発信源を見た。
そこに見たものは、特殊な装置で闇にとけ込んでいた自分たちの運送艦が、火を噴いているところだった。
と、立て続けに光線が宙を薙ぎ、運送艦に続けざまに火の手が上がる。
光線の元には・・・・薄緑色のCKがビームライフルを構えて立っていた。
CKの名は白炎。
赤毛の少年、レイアスが駆る、ハンドメイドリテイナーだ。
状況に合わせて三つの形態に変形出来る、白炎の今の形態は、重装備モード、ツヴァイだ。
運送艦もお返しとばかりに主砲を白炎の方に向けて連射する。
「しゃらくせえ!」
叫ぶなり、一気に集中砲火の中へ飛び出し、間合いを詰めるレイアス。
これがオーラシップや戦艦であったならば、白炎もただでは済まなかったのだろうが、所詮は隠密専用の運送艦。
リテイナーの装甲に傷ひとつ負わせることもできない。
ともあれ、運送艦は病院に張り付いていた黒尽くめの男達を素早く回収ししながら、逃げの体勢を整て数機の戦闘機を放出する。
だが、それさえも、白炎の敵ではなかった。
脚部に装備したミサイルポッドが火を噴くと、あっさりと十数機の戦闘機が消し飛ぶ。
一気にブリッジに張り付くと、レイアスは接触通信回路を作動させる。
「そこにいるヤツ、本社に伝えろ。欲しがってる資料は俺が持っている。ついでに、キュラーもここにいる。今からお前をぶちのめしに行くから、首を洗って待ってろ!」
それだけ言うと、4つある砲門のうちの一つと、3つあるエンジンの一つをビームライフルで無造作に破壊した。
不快な音をあげながら墜落していく運送艦に、白炎は興味を無くしたかのようにすっと離れる。
「目的地はNEO=テックの本社だ。白炎、発進!!」
「了解。白炎、高速飛行型、ドライモードにチェンジ。発進します。」
キュラーの声に応じて、飛行機型に変形する白炎。
「待ってろよ、NEO=テック!てめぇらに殺された師匠や星、それに、アレクやマリアにした事への償いをさせてやる!」
一筋の流星のように白い光となった白炎は一気に加速すると、そのまま大気圏を突き抜け、惑星上空でワープした。
薄暗い事務室だ。
重厚そうな机と椅子、そして本棚が、周りの調度品に不釣り合いで、趣味の悪さを露にしている。
その机の椅子に座った黒髪の男が手元のモニターに向かって怒鳴りつけている。
男は、30代だろうか?
鋭い目元と、意外にすらっとした顔の輪郭、さらには透き通るような青い瞳をしているが、身に纏った卑屈な空気がそれを裏切っている。
それさえなければ、ダンディと言う言葉がよく似合うのであろうが、彼を見たものがその言葉を思い浮かべることはないだろう。
「お前もあれを聞いただろうが?警備を早く充実しろ!金は十分払っただろう!」
言いたいことだけをヒステリックに叫ぶと、乱暴にスイッチを切る。
まるで、何かに怯えているようだ。
怯えている?
そうだ。怯えている。
男の名はカルキオ。
NEO=テック社の社長という役についている。
今まで、いくつもの事業を成功させてきた。
裏の稼業にも手を出したが、無能な警察官どもには、その片鱗さえも匂わせていなかった。
恐れるものは何もないはずだった。
何処から嗅ぎつけたか、彼の裏の事業の証拠を掴んだ者もいくつか現れた。
だが、彼はそのことごとくを事前に潰していった。
証拠を掴んだものの親元の企業を潰し、忍び入ったものを暗殺し、捕まれた証拠をもみ消した。
今までは、上手くいったと思っていた。
そして、今回も上手く行くと思っていた。
だが、つい先ほどの報告は、この小男を怯えさせるには十分なものだった。
暗殺は失敗し、暗殺に向かったものは地元の警察に捕まった。
さらに、正体不明のリテイナーが自分の命を狙ってこちらに向かっているという。
あまつさえ、誘拐した女を軍事用に、ファティマとして改造したものまでもが一緒だという。
これでは、警察に要請するわけにもいかない。
もし殺されずに捕まったら、逆に自分のしてきたことが明るみに出てしまう。
自分の組織でどうにかするしかない。
だが、相手はリテイナーだ。
リテイナーに対抗するには、リテイナーか強力な兵器――――核兵器やビーム兵器のような――――が必要だ。
リテイナーと他の兵器との力の差は、あらゆるところに現れている。
戦闘機よりも高速で飛行し、戦艦よりも高出力な武器を扱い、戦車よりも硬い装甲を有している。
軍から横流しされた、一昔前の戦艦では役に立たないのだ。
そのリテイナーも、それほどの数はまだ造られていない。
あらゆる神秘の力を操り、他の2機種よりも強大な火力と装甲を誇るGFは造るのに未だ解明不能なパーツを何処からか入手しなければならない。
オーラコンバーターによって高速飛行し、精神力を絶大な破壊力を持った刃と変えるマインド兵器を、唯一操れるMWは、乗る人間が限られる。
その二つのちょうど中間を埋めるようなCKは、前者の二種類よりも手軽に作れるし、誰でも訓練を受ければ乗れるが、企業で持つことを考えると、戦闘機や戦艦を多数持っている方が効率がよい。
(他の2機種、SSとPTに至っては、まだ存在すらしていない。)
以上の理由から、NEO=テック社にはリテイナーは存在しない。
他の企業だってそうだろう。
この後、リテイナーが量産されるようになったりすれば、話はずいぶんと変わるのだろうが・・・・。
とにかく、相手は一機だ。
数で押し切れるかもしれない。
カルキオは、煙草を取り出して火を付ける、煙をくゆらせる。
数で押し切れる。
そこまで思い浮かんで、カルキオの胸に巣くっていた不安はあっさりとぬぐい去られたようだ。
思考が”かもしれない”から、あっさりと”出来る”に変わっている事に、気が付いていない。
そうだ。
俺には他の大企業に負けない力がある。
この星自体が私の星なのだ。
リテイナーなど、つい先月軍から横流しされた戦艦で捻り潰してやろうではないか。
リテイナー一機くらい、どうという事はないではないか。
カルキオは、この被害を如何に少なくするか、思案することにした。
だから、次に通信が入ったときには、彼は冷静な自分を取り戻していた。
「社長、例のリテイナーが現れました。」
「相手は、たかがリテイナー一機だ。叩き潰せ。」
「へい。了解しやした。」
カルキオは知らなかった。
ここしばらく、カルキオの実働部隊には戦闘の機会がなかったことを。
会社が大きくなるに連れ、カルキオの実働部隊は量を増しながらも、質をどんどん落としていった。
質より量。
確かに、戦闘に置いては、それは正しいのだろう。
暗殺部隊などの、量より質が求められる部分には、最高級の質を与えるよう、気を配ってきた。
彼の判断力は、ある程度正しいはずだった。
今までは。
だが、劣りすぎた質では、大部隊の統制は取れない。
たとえどんなに大きな壺でも、たった1カ所の穴があるだけで蓄えた水はだんだんこぼれていく。
蓄えた水が大量であればあるほど、たった1カ所の穴で崩壊することさえあるのだ。
そして、カルキオは知らされていなかった。
自分が取り仕切っていると思っているNEO=テック社に、他に支配者がいることを。
既に、用済みの烙印を押されていることも。
「ひのふのみーの・・・・・いるいる。」
「大型戦艦1、軽巡洋艦3、重駆逐艦5、戦闘機1026、固定砲台500。扇状にこちらを包囲しようとしています。」
白炎は、周囲に何もない宇宙空間にいた。
高速飛行形態、「ドライ・モード」で宇宙空間を飛行している。
白炎のレーダーが相手全部を映し出している。
前回は、巧妙にカモフラージュされた運送艦を、一目で見破った高性能なレーダーが、相手の数まで正確にあらわしている。
「なんだ。リテイナーは一機も無しか?」
「はい。今のところは、ですけれど。」
白炎のコクピットでは、先ほどからレイアスとキュラーが話し合っている。
「数の誤差は、大体どのくらいだ?」
「1%以下です。恐らく、あれでほぼ全部です。NEO=テック社に直接ハックして得た情報なので、間違いはないでしょう。」
「ハックした情報を、リストに出来るか?」
「はい。」
キュラーがコントロールパネルを叩くと、ディスプレイにずらっとNEO=テック社の実働部隊のリストが表示された。
年齢やらが載った、かなり詳しいものだ。
「俺も人のことは言えないけど、素人ばっかりじゃないか。」
「そうです。相手のほとんどはここ2、3年で入隊した、それこそ戦闘経験のない者ばかりです。」
「そうか・・・・・。」
レイアスも、ほんの少し前に初めて白炎に乗ったのだ。
戦闘経験のなさという点では、大した違いは無かろう。
ネックはおそらく、大型戦艦だけだろう。
まぁ、それが最大の難関なのだが・・・・・。
所詮こちらはリテイナー一機。最新の大型戦艦に勝てる可能性は、限りなく零に等しい。
「よし、行こう。紅い炎よりも熱い炎があるって事、思い知らせてやる!」
レイアスの声に併せるかのように、白炎はその速度を増し、一直線に目標に向かって、突っ切っていく。
大型戦艦のブリッジ。
二人の男がそれぞれの席に座っている。
今は警戒中で、人が沢山いるべきなのだが。
「ふあぁぁぁ・・・・・。」
小太りな男の方が大きなあくびを漏らす。
トランシーバーとかを頭にかけている。
どうやら、レーダー手か何からしい。
「おいおい、一応俺等は見張り役だぜ?」
やせぎすの方が注意する。
二人並ぶと、絵に描いたような凸凹コンビだろう。
この艦の艦長らしい。
「わぁってますよ。給金もらってますから。」
「他の奴らはどうした?」
「さぁ?でも、大丈夫でしょ。どんな戦艦でもこんなに速く・・・・・・。」
その時、まるで太った男の言葉を裏切るかのように、暗い室内に赤いランプが明滅した。
同時に、激しいサイレンが鳴り響く。
「何だあ?」
「ちょ、ちょっと待ってください!・・・・・これは、例の奴です!」
「なにぃ!?」
「高エネルギー、収束!来ます!!」
ほとんど泣き言だ。
彼らの怒号も、悲鳴も、戸惑いも、全てを飲み込んで白い光が閃く。
凄まじい音がしていた。
だが、爆音は聞こえなかった。
続けて閃いた光も、見えなかった。
全て飲み込まれてしまったから。
「敵、大型戦艦1隻、重駆逐艦1隻、戦闘機349機、撃破。」
予想よりも遥かに大きな戦果だ。
始めに、レーダーの届かない範囲から、予想される相手の配備の中心に向けてビームライフルを乱射したのだ。
もちろん、当たるとは思っていなかった。
しかも、戦艦が落ちたというのだ。
なんといっても、大型戦艦が中古品だったのが幸いした。
近頃の戦艦は、間違ってもブリッジを剥き出しになんかしていない。
おかげで、最初の砲撃で、たった1艦だけ配置されていた戦艦のブリッジを破壊できたのだ。
「重装備モード、ツヴァイから、高速飛行モード、ドライにチェンジ!」
レイアスの声に併せて、白炎が人型の形態から飛行形態へ変化する。
このリテイナーに乗って、まだ1日もたっていないと言うのに、レイアスは白炎を手足のように操っている。
音速を越え、亜光速で一気に突っ込んでいく。
機体の色は薄緑色だが、周囲に張り巡らせたフィールドが白く輝き、まるで純白の矢のようにも見えた。
数条の火線が閃くが、白炎にかすりもしない。
いや、かすったものもあったかもしれないが、白炎に届く前に虚しくかき消えた。
白炎の周囲に群がろうとした戦闘機はことごとく、発生させているエネルギーのフィールドにずたずたにされていく。
辛うじて、パイロットは生きているようだが、とても戦闘の続行できる状態ではない。
爆光が、まるで帯のように白炎の後に続く。
浮き足だったNEO=テックの私兵は、もはやレイアスの敵ではなかった。
音もなく、白炎はNEO=テック社の前に降り立った。
おかしい。
上空の私兵達は完全に沈黙した。
だが、地上の防衛装置まで破壊した覚えはない。
ここは本社前なのだ。
地上の防衛装置も、凄まじい数になっているであろうと、レイアスは予想していた。
だが、おかしい。
防衛装置は一つも火を噴かなかった。
しかも、NEO=テック社の本社は、まるでもぬけの殻のように見えた。
人の気配が全くしない。
謀られたか?
いや、そうではなさそうだ。
この匂いは血の匂いではないか?
あそこに見える赤いのは、あれは血、か?
「これは、一体?」
だんだんと、その光景が近くなっていく。
NEO=テック本社ビルの中身は、大量虐殺の後だった。
内蔵を飛び出させているもの、頭が消し飛んでいるもの、体中の骨があらぬ方向を向いているもの・・・・・・。
その全てが、死んでいた。
レイアスは、思わず吐き気を催した。
「建築物内部に、生命反応がありません。」
キュラーの、いつもよりもさらに感情の消えた声がレイアスの耳に空虚に響く。
そして、見てしまった。
その大きな建物のちょうど真ん中には、広いロビーがあった。
その真ん中で、血と、肉と、骨の海に浮かぶように、恐怖の表情を浮かべたカルキオの顔を。
間違えるはずがない。
ここに来るまでに、何度と無く確認してきた顔だ。
レイアスが、殺すはずだった男だ。
レイアスの背中に、戦慄が走る。
「俺は、こんな事をしに来たのか?」
拳を、握りしめる。
「おれは・・・おれ・・・は・・・・・・。」
思考が迷走する。
怒り?悲しみ?哀れみ?レイアスは、自分のあらわすべき感情が思い浮かばなかった。
「レイアス・・・・・・・。」
戸惑う。
何か、声をかけてやらなければいけない。
だが、キュラーにはかけてやる言葉が思いつかない。
だから、二人とも、敵が背後に音もなく忍び寄るまで、気が付かなかった。
突然、衝撃がコクピットを襲う。
前のめりに吹き飛ばされる白炎。
姿勢を低くして、直撃を避けれたのは、奇跡以外の何者でもない。
「!?」
声にならない叫びをあげつつ、何とか姿勢を整えて反転する。
そこには、白いリテイナーが剣を振り下ろした姿勢でこちらを見ていた。
だが、その白さは『白』と言う色を、冒涜しているようだった。
剣が赤い輝きを放っている。
マインドソードだろう。
地面が大きくえぐれている。
とすると、相手はMWと言うことになるか?
マインドソードはリテイナーの搭乗者の精神を、何よりも鋭い刃に変える剣だ。
後一瞬でも反応が遅れたら、白炎の胴体はあっさり真っ二つにされていただろう。
「お前は!?」
ゆっくりと剣を構え直す白いMW。
「く、く、く、ここがお前の墓場だ。我が名は処理者、ブラスター。我が愛機、ホワイトシェイドの名を、その身に刻め。」
ブラスターと名乗った男がそう言ったとき、ホワイトシェイドから、むせ返るような血の匂いがした気がした。
直感的にレイアスは、NEO=テックの虐殺を、こいつが行ったと確信した。
一気に踏み込んでくる、白いMW。
「速い!」
咄嗟にあげた右腕のビームライフルが、あっさりと鉄屑に変わる。
舌打ちをして、シールドの裏から長い棒を取り出すを構えるレイアス。
白炎の手が棒を握り込むと、白い光がまるで刃のように棒の先端から伸び、まるで絵本の死に神が持っているような大鎌の形になる。
白く光る大鎌と、赤く光る剣が火花を散らしてぶつかり合う。
と思うと、赤く光る剣が翻って左から白炎の胴体を狙う。
レイアスは、反応しきれない。
だが、キュラーが反応してくれた。
左腕の盾でマインドソードの攻撃を防ぐ。
盾は盛大にへこみ、もう盾として使えない。
「お前、何者だ?」
踏み込む隙を見つけられずに、じりじりと後退する白炎。
「お前に教える筋合いは、無い。」
剣が再び閃く。
「自分の名は、名乗ったくせにか!」
バランスを崩しそうになりながら、何とか大鎌で弾く白炎。
「お前はここで殺され、NEO=テック社を壊滅させたという汚名を被るんだからな。」
「やっぱり、お前があれをやったのか!?」
あれとは、すぐ側の建物の中のことである。
見渡す限りの血の海と死体の山・・・・・。
「貴様も、それを望んだのではないか。」
尋ねている口調では、無かった。
断言されている。
「・・・・な!?」
一瞬、気がそれた。
だが、この場での一瞬は致命的だ。
白いMWの右腕が閃き、白炎の右腕の武器があっさりと切り落とされると共に、凄まじい衝撃がコクピットを襲う。
レイアスの意識は、闇に飲まれた。
見渡す限り、黒く、深い闇の中だ。
ここは、どこだ?
自分が立っているのか、寝ているのか、飛んでいるのか、それさえもあやふやで分からない。
俺は、死んだのか?
闇がさらに深くなった気がした。
体が痺れているような、そんな気さえしてくる。
しかし・・・・・・。
意識のそこで誰かがしゃべる。
いや、それは自分の声なのか?
良かったじゃないか。
師匠のあだは討たれた。
本当にそうか?
そうだ。
カルキオの死を、先ほど見たばかりではないか。
ここに着く前に、何度も何度も調べ、確認したではないか。
マリアとアレクも無事だった。
体が、冷たくなっていく気がする。
そうか、死ぬのか。俺は・・・・。
もう、自分のすべき事はないのではないのか?
疲れた・・・・・。
ふっと、師匠の顔が思い浮かぶ。
『わしの分まで生きよ。』
ごめんよ、師匠。
それも、もう終わりかも知れない。
寝よう・・・・・。
『レイアス!』
マリア、俺は、もう寝たいんだ。
邪魔しないでくれよ。
『レイアス!!』
いや、マリアじゃない、のか?
何か、暖かいものが頬にかかったような・・・・。
『レイアス!!!』
キュラー、か?
『・・・守ってやれ。』
アレクの言葉が思い浮かぶ。
そうだ。
まだ、終わったわけじゃないんだ。
カルキオは何者かに殺された。
と言うことは、さらに裏には、何かがいるのではないか?
まだ、終わるわけには行かないんだ。
何も、終わっちゃいないんだから。
俺はまだ、生きているんだから。
その瞬間、暗い意識の海の底に眩しい明かりが射した。
マインドソードの赤い光が、眼前に迫っている。
咄嗟に身を沈めて避けるレイアス。
「レイアス!」
キュラーが後で涙を流しているのが、何となく解る。
気を失っていたのは、どうやらほんの一瞬だったようだ。
だが、先程の夢はなんだったのか?
レイアスは、唐突に思いついていた。
「そうか、お前が接触したのか!」
MWに乗るには、特殊な素質が必要だ。
その素質とは、魔力であったり超能力であったりする。
魔術や超能力は、自分の生まれた環境や遺伝に左右されることが多い。
レイアスの住む星も、超能力を使えるものが大半を占めている。
そんなに珍しいものではないはずだ。
かくいうレイアスも、超能力ならば、少しは使える。
相手を威圧するとか、ほんの少し惑わす位にしか使えないし、かなり疲れるのでそれを見せることは滅多にないのだが、先程の精神攻撃を跳ね返せたのも、そのせいかもしれない。
とすると、先程のは魔術か超能力か?
「その通りだよ。まさか、跳ね返されるとは思わなかったがね。」
男の声に、自分の力を破られた驚愕が、少しだけ混じっている。
そのせいか、先程よりも若干威力の少なくなったマインドソードが、虚しく空を切る。
「すまない、キュラー。」
白いMWは、すでに剣を手元に引き戻している。
「無駄な足掻きだよ。武器も無いリテイナーでは、どうしようもない。」
翻る赤い刃。
とっさに後ろに避けるレイアス。
全周囲ディスプレイの半分以上がつぶれている状態でこれだけ動けたのは、まさしく奇跡に等しかった。
ガツンッと、音がして衝撃が走る。
どうやら、背中が岩か何かに当たったようだ。
「終わりだ。」
赤い輝きが目の前に迫る。
「まだ、終わらない!!」
必殺の一撃を、レイアスは横に避けた。
マインドソードが頭部をかすめ、盛大に火の粉を撒き散らす。
すかさず刃が翻り、レイアスから見て右から、横薙ぎに再び白炎を襲う。
すかさず右腕をあげる白炎。
ブラスターは、勝ちを確信した。
右腕ごと、この生意気なリテイナーを黙らせる自身があった。
だが、そうはならなかった。
ぎりぎりの間合いで、刃の平に右手の甲を当て、絶妙の力加減で弾く。
ホワイトシェイドは逆に、剣を頭上に振り上げるような形で、大きく体勢を崩してしまった。
レイアスは、迷わず流れるような動作で左腕を白いMWの腹にぶつけた。
「炎流、刃崩し・・・・・。」
人間なら、ここから武術で言う通しのようなもので、昏倒させていたところだ。
だが、相手は小揺るぎもしない。
流石に、リテイナーの体をいつもの武術の練習通りに使うことは出来ても、リテイナーの拳で通しは使えなかった。
コクピットのある腹部は、リテイナーの体の中でも一番衝撃を通さない。
それに、ブラスターはこれぐらいの奇策で参るような、柔な精神力をしていない。
相手は自分の腹に腕を押しつける姿勢で、止まっているのだ。
もう、幾度もマインドソードを振ったが、まだまだ戦えるだけの精神力が残っている。
これだけの好条件を、見逃すわけがない。
「効くか、そんな小細工が。」
そのまま、剣を逆手に構え、振り下ろそうとする。
だが、その剣が振り下ろされることはなかった。
MWの腹を、白い光が貫き通していた。
白炎の最後の切り札。
シールドに取り付けられた、ビーム発信器が、白く、鋭いビームの刃を発生させているのだ。
言ってしまえば、単なるビームサーベルだ。
レイアスは、初めから刃崩しだけで相手を倒せるとは思っていなかったのだ。
MWのパイロットも、その存在には気付いていた。
だが、盾を破壊したときに、一緒に壊したと思っていた。
一度破壊したものに、注意など払わない。
「ばか・・な・・・・・。」
白炎が、無造作に左腕を横に薙ぐ。
ホワイトシェイドは、胴体から真っ二つになってごろりと横になると、それきり動かなくなった。
「敵機、沈黙・・・・・。」
キュラーが、静かに戦いの終わりを告げた。
それから、幾日かがたった。
レイアスの生まれ故郷は、早い寿命を迎えて滅び去った。
マリアとアレクの二人は無事に脱出し、新たな星に移り住んでいた。
ここは、その星のとある場所。
「わぁ、きれーい。」
「ほんとほんと。」
一人の白い服を着た女性を、数人の女性が取り巻いていた。
ここは小さな教会で、白い服は華やかなウェディングドレスだ。
その輪の中心で、マリアは照れた笑いを浮かべた。
今宵の新婦はマリアなのだ。
と、言うことは、新郎は・・・・・・・・。
「もう、みんな、からかわないで。」
怒ったような口調も、どこか楽しげだ。
「からかってなんか無いわよ。」
「そうそう。」
女達の間で、明るい笑いが意外に広い部屋に響く。
と、扉がコツコツと叩かれる。
周りを取り巻いている女の一人が扉の方に向かって歩いていった。
その間も、女達はマリアのことをあれやこれやと囃し立てていたが、扉の方に向かった女性が意味ありげな手招きをすると、ぞろぞろと出ていってしまった。
扉の向こうから現れたのは、もちろん黒い正装に身を包んだアレクだった。
アレクは、扉の中に入って息をのんだ。
マリアが今までになく輝いて見える。
「マリア・・・・・。」
声がかすれているのが、自分でも嫌と言うほど分かっているだろう。
アレクは、レイアスがいたら、からかうだろうなと、ちらりと考えた。
マリアがにっこりと微笑む。
そして、二人はどちらからともなく甘い口づけを交わした。
二人の影が静かに重なった、その隣の机の上には、まだ広げたままだった、一通のメッセージカードと共に一輪の名も知らぬ花が置かれている。
何の飾り気もないメッセージカードに、差出人の名前は見あたらなかったが、マリアもアレクもこれを出したのが誰か、知っていた。
だがその時、抜けるような青空を、白い機影が横切っていった事までは知らなかった。
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