第0話(続) ZERO_A=S、危機(下)
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あれから、レイアスは肉体の様々なデータを採られ、その後独房のような部屋に閉じこめられていた。
その目は、いつもの生きる意志に溢れた眩しいほどの光を失っていた。
レイアスは、ベッドの上で壁に背を持たせかけ、虚ろな視線をただ前方に投げかけていた。
どれくらいの間、そうしていただろう?
とっくにレイアスの時間感覚は狂いきっていた。
と、そんなレイアスに、不意に何かが話しかけてきた。
「何、シケた顔してるんだ。」
のろのろと視線だけを動かして声の主を捜し当てる。
話しかけてきた男は、暗がりのせいで顔までは見えなかった。
だが、細い体型の割には無駄無く着いた筋肉が、逆に遥かに強靱そうなイメージを抱かせた。
「別に薬を打たれたってわけじゃ、なさそうだな。どうだ、俺と一緒にここから逃げないか?」
さらりと、とんでも無いことを言う。
だがレイアスは、この男になら可能だろうなと、ぼんやりと考えた。
「いや、いい。」
そして、そう考えながらもレイアスの口から出てきたのは、そんな言葉だった。
「どうしてだ?」
男は、さも不思議そうに聞き返してきた。
この建物の主のことを知っているのなら、当然の反応だ。
「俺の身体は、アーカムによって改造されたものだ。いや、奴のことだから、新しく作ったものかもしれない。」
レイアスは、静かに喋り始めた。
「ついでに、頭の中まで奴にいじられてる。」
男は、ただ黙ってレイアスの話を聞いている。
「俺は、リテイナーを作ったのも、炎流をマスターしたのも、全て自分の力だと思っていた。だが、それは違った。」
レイアスの声の大きさは変わらないが、だんだんと声が震えてきた。
「俺の人生は、何だったんだ?」
問いかける。
が、男は答えない。
「教えてくれ。俺は・・・・・・人間か?」
レイアスがそこまで言った時、突然左頬が鈍い音を立てた。
それまで何も言わなかった男が、右拳で殴りつけたのだ。
吹っ飛ぶレイアス。
「お前は、自分自身を否定しているだけだ。」
男は歩み寄ると、片腕だけでレイアスの襟首を掴み上げ、持ち上げた。
恐るべき筋力だ。
「お前の事じゃなく、周りのことを少しでも考えたか?お前には、待ってる奴とか信頼できる友はいないのか?」
どかっと、レイアスを地面に落とす。
レイアスは、はっとした顔で男を見た。
相変わらず明かりが無いせいで、男の顔はよく見えないが、それでもレイアスは男の顔を見た。
その目に、戸惑いと、生きようとする活力の光が交互に揺らめく。
ファティマのキュラー。
俺が守ってやるって、約束したんじゃなかったか?
アレクとマリア。
俺を本当の子供同然に扱ってくれたんじゃなかったか?
今は亡き師匠。
俺に生きろと言ったのではないか?
ヤスノリ。
俺のことを、親友だと言ってくれたんじゃなかったか?
他にも、沢山・・・・・・・・。
「よく考えて見ろ。まだ、自分自身の人生を否定するようなことは、できないはずだ。」
レイアスは立ち上がった。
その瞳に、以前のような――――いや、それ以上の意志を込めた光をたたえて。
「そうだった。俺は、こんな事でくよくよしてる場合じゃないんだ!」
「よし、一緒に脱出だ。」
相変わらず部屋は暗かったが、男が顔に笑みを浮かべたのが、レイアスには何となく解った。
「あ、しまった。この部屋にも監視カメラかなんかがあるかも知れない!」
レイアスが焦った声で辺りをきょろきょろ見回す。
そうだとしたら、もう手遅れだが。
「大丈夫だ。ここのコンピューターにちょっと小細工したから、気付かれてないはずだ。」
男は、落ち着き払って言った。
「あんたが?」
男の姿をまじまじと見つめてみる。
男の体付きは、どちらかというと力仕事とかの方が向いていそうに見えたからだ。
「あんた、何者だ?」
「俺か?俺はMHKのネモだ。」
聞いたことがある。
MHKとは、ミノフスキー兵器研究所の略だ。
ミノフスキー兵器研究所と銘打っている割には、あらゆる種類の兵器を日夜開発し続ける研究所である。
たしか、その中には軍に正式採用された武器もあったはずである。
そして、もう一つ噂を思い出した。
MHKにはリテイナーが多数収納されており、各地の問題や諍いに、それ相応の金額で出撃することがある、と言う噂を。
ネモと名乗った男が名乗ったたとき、彼はちょうどドアを開けたところだった。
廊下には明かりがあるので、男の顔がやっと判別できるようになる。
「幾つかの誘拐事件の件で・・・・・どうした?」
ネモが怪訝な顔をしたのも無理はない。
ネモの顔を見て、レイアスは思わず吹き出していたのだ。
それもそのはず、ネモという男は鼻から長い毛をぼうぼうと顎まで伸ばしていたのだ。
顔の造りも、どこと言わず不自然だ。
と言うか、この世のものじゃない。
「ぶははははは!な、なんだよその鼻毛!」
「やっぱり変か?」
「あははははは!やめてくれ、その顔でこっち見ないでくれ!」
「はぁ、しょうがないな。せっかくエレクトラがメイクしてくれたのに・・・・・。」
ネモは、顔に張り付けたものを一気に引き剥がすと、ポケットにしまい込んだ。
ちょっと名残惜しそうに。
特殊メイクの下から現れた顔がダンディな顔だったので、ギャップの大きさにレイアスはまた笑った。
まるで、笑うことによって、未だ引きずっている嫌なことを、全て吹き飛ばそうとでもするかのように。
「おい、あんた。ホントにこっちで合ってるのか?」
「ああ。俺の情報に抜かりはない。」
ネモは、後ろも振り向かずにレイアスの疑問をあっさりと否定した。
景色が、後ろにものすごい速さで流れていく。
レイアスとネモは、廊下を疾走していた。
廊下と言っても、横幅や縦幅など、尋常でない広さを持っている。
恐らく、小型の船かなにかでも、通行が出来るようにしているのだろう。
これなら、並みのリテイナーも通行が可能だろうと思える。
レイアスは足には自信がある。
だが、全力で走っているはずのレイアスはネモに追いつけない。
小さく見える身体に、どれだけの力を秘めているというのか、レイアスには皆目見当が付かなかった。
そうこうしている内に、突然に視界が開けた。
ぱっと見たところ、宇宙船などの格納庫のようだ。
「こ、これは!?」
そこに、正に無造作にといった感じで置かれた薄緑色のコズミックナイトは、紛れもなくレイアスの愛機、白炎だった。
「おい、何してる?早い所、こっちを手伝ってくれ!」
ネモは、さっさとその辺から使えそうな輸送船を見繕っている。
だが、レイアスはそれには答えずに、白炎に近付いていった。
ネモが更に何かを叫んだが、レイアスの耳には届かない。
心配事が出来ると、周りが見えなくなる。悪い癖だ。
「何で白炎がここにあるんだ?」
白炎は、拘束されている様子もない。
「キュラー?」
不用心なことに、コクピットは開け放たれていた。
呼びかけてみるが、当然のように何の声も聞こえない。
コクピットに乗り込むと、素早く身体をシートに固定する。
「白炎、システム起動。」
レイアスの声に応え、モニターが一気に息づく。
「セキリュティチェック・・・・・緊急回避?」
機体のどこかに不都合がないか、チェックするプログラムを素早く立ち上げる。
そこで、システムが緊急回避モードになっているのに気が付いた。
この緊急回避モードとは、キュラーとレイアスしか発動できないもので、次にレイアスがこれを解くまで、ほぼ完全にシステムを隔離してしまうというものだ。
しかも、システム的にだけでなく、物理的に完全に引き離すのだ。
こうなってしまえば、機体の内部にアクセスされる心配はほぼ無い。
少し調べたところ、緊急回避用のセキリュティが作動していたためか、システムに触られた形跡は全くないようだ。
いや、どちらかと言えば、全く興味が無いかのように扱われたように見える。
何はともあれ、レイアスは緊急回避モードを解除した。
モニターが外の映像を映し出す。
どうやら、エネルギーも、ここに来る前と同じように、ほぼ満タン入っているようだ。
各関節、装甲、共に異常なし。
姿勢を制御した後、胸や肩、そして背中のブースターを広げる。
通常形態、「アインス」だ。
「これがここにあるって事は、キュラーは一体何処に?」
レイアスがここに連れ込まれたとき、キュラーは白炎に乗って外で待機していた筈なのである。
ここにいないと言うことは、何処にいるというのだろうか?
もしかすると、さっきまでの自分と同じく、囚われているというのだろうか?
レイアスはそこまで考えると、白炎を操って基地の内部に突入した。
ネモが何か怒鳴っていたのを、結局レイアスは聞いていなかった。
灰色の壁が後ろに流れていく。
少し場所は違うが、先程レイアスが走った廊下と同じ造りである。
レイアスは、ただ導かれるように、この研究施設の中央へと機体を進めた。
変わらない景色に、焦燥ばかりが募る。
レイアスのイライラが最高点に達した時、やっと廊下の終点が見えた。
巨大な扉が、そこにあった。
失われてしまった記憶の一部が蘇る。
セントラルラボ。
アーカムの最大の研究施設。
レイアスは白炎の速度を落とさずに、素早く取り出した『クラスター=サイズ』から発生させた三日月型の大きな白い光で素早く切り裂いた。
少し乱暴に地面に着地する。
そこは、ものすごく広大な部屋だった。
少しくらい大きな戦艦と、同じくらいの広さはあろうか?
通常、研究施設に広さは重要な要素である。
その研究に適した広さが、求められるのである。
だが、どうやっても、この広さは必要ないはずである。
この広さの理由は、この部屋の中央にあった。
この人工惑星自体を制御する、巨大なコンピューターがその中央に居座っているのである。
そのコンピューターだけで、この部屋の3/2を埋めているのだから、凄まじいものがある。
「アーカム。何処だ、出てこい!」
クラスターサイズを油断無く構えながら、一歩一歩慎重に足を進める。
中央コンピューターとの距離を半分ほど進んだとき、レイアスは、首筋にヒヤリとした感触を感じた。
それが何かを確かめるより前に、機体を前に投げ出す。
間一髪、今まで立っていた場所に、複数の方向からビームが掃射された。
「これは・・・・サイコミュ兵器か?」
サイコミュ兵器とは、操縦者の意志通りに動く自立飛行型のビーム兵器である。
そのため、近距離から遠距離まで、何処でも同じ威力を誇ると言う優れ物である。
その特性から、一部のサイコミュ兵器は使う人間を選ぶ。
今は1〜3型までの全てのサイコミュ兵器は、普通の人間でも扱うことが出来る。
が、このまま性能の向上を目指すとすれば、やがてニュータイプと呼ばれる人間の専用武器となるだろう。
閑話休題。
暫く警戒態勢を取るが、第2射が来る様子はなく、中央コンピューターの影から、2体のリテイナーが姿を現した。
片方は、赤いレディシルエットのコズミックナイト。
恐らく、ファンネルを操っていたのはこれだろう。
もう片方は、見たこともないタイプのリテイナーだ。
黒いその機体の外見は、まるで忍者の忍び装束を思わせた。
「あんた、失敗作だよ。」
ナインと呼ばれる、レイアスのクローンの声。
どうやら、黒いリテイナーの方に乗っているようだ。
「どうして、親に牙をむくんだ?」
心底、分からないといった声。
「俺は、あいつを親だと思ったことは一度もない。」
ブースターを収納し、武器にエネルギーが行くように変形する白炎。
クラスター=サイズをしまうと、肩に接続している高出力ビームライフル、ヘルフレイムを右腕に構える。
重装備形態、ツヴァイモードだ。
このモードは同時に、レイアスが本当の意味で戦闘態勢に入ったことを意味する。
ナインの方も、何やら構えを取る。
双方とも一触即発の臨戦態勢だ。
「俺には解らないね。」
「お前と俺とは、違うからな。」
そのレイアスの言葉と同時に、戦闘が始まった。
まず最初に仕掛けたのは、レイアスの方だった。
いきなり相手のCKに接近すると、左腕の盾に仕込まれているビームのスパイクで攻撃を仕掛ける。
攻撃は見事に相手の左腕に命中し、あっさりと粉砕する。
だが、もちろん相手も黙ってはいなかった。
「シリウス星で発見された新しいリテイナーの力を見せてやるぞ!」
ナインが叫ぶと同時、そして、レイアスが素早くバックステップすると同時に、十字状のナイフのような物が次々に射出される。
それが手裏剣ランチャーという武器であることを、レイアスは知らない。
避けきれない数発を、左腕に装備したシールドで何とか受け流すが、数発胴体に突き刺さってしまった。
とたんに、白炎の動きがとてつもなく鈍くなる。
「く、なんだ、これは?」
その後のサイコミュ兵器を何とかかわせたのは、ほとんど運が良かったとしか言いようがない。
だが、同時に突っ込んできたナインの攻撃までは、防げなかった。
何が起きたのか、白炎の巨体は軽々と吹き飛ばされると、壁に激突した。
「ぐ・・・・・・巌崩しか・・・・・。」
巌崩し。
相手の動こうとする力の方向を、ほんの少しの力を適切な場所に加えることによって投げ飛ばす炎流闘術の技の一つ。
レイアスのコピーであるナインは、それをリテイナーで難なくやってのけた。
こんな神業レベルの技が、機械であるリテイナーで使える例は、今のところはただ一つ。
GF特有の高威力攻撃方法の一つ、『技』。
「くそ、GFの要素に機動性を付加した上、正体不明の武器か。厄介なやつだぜ。」
朦朧とする意識を振り絞ってそんなことを考えながらも、相手の次の攻撃に備えて構える。
しかも、2対1だ。
とことんまで分が悪い。
「どうだ。これがシャドウソルジャーだ!」
つい最近発見されて、まだ軍によって極秘扱いの新しいリテイナーが在るらしいという話を、頭の隅に思い出す。
三度襲いかかってくるサイコミュ兵器の攻撃。
ビームは避けきれないコースに飛んできた。
直撃を予感し、ぎゅっと目を閉じるレイアス。
だが、衝撃は予想よりも少しだけ早かった。
思考が混乱するのを何とか沈めようと、情報を求めて目を開けるレイアス。
最初に目に入ったのは、サイコミュ兵器のビームが、自分から大分離れたところに着弾したところだった。
そして、次に目に入ったのは、青い小柄なリテイナーだった。
背中のオーラコンバーターから、マインドウォリアーであることが知れる。
「てめぇ、邪魔するのか!」
ナインが吠えるように言う。
「2対1ってのは、フェアじゃないよな。やっぱり。」
「ネモさんか?」
間違いない。
この声はネモのものだ。
「コズミックナイトは俺とノーチラス号に任せろ。」
言うが早いか、野生の動物を思わせるしなやかなマインドウォリアーは、槍を地面と水平に構えると、相手のCKとの距離を一気に縮め、格闘戦にもつれ込む。
「ありがたい。いくぜ!」
「俺に勝てると思ってるのか、兄貴?炎の揺らぎと崩しを共にマスターした俺に、あんたのリテイナーなんかじゃ、勝てやしないぞ!」
一気に間合いを詰めてくるナイン。
対するレイアスは、ヘル=フレイムから手を離すと、収納してあったクラスター=サイズを取り出した。
必殺の『技』を繰り出す、ナインのシャドウソルジャー。
ビームで出来た刃を振る、レイアスのコズミックナイト。
一瞬の交差。
そして、双方背中を向けたまま、少し離れた位置に着地。
直後、粉々に破裂する白炎の肩の装甲。
勝負は、レイアスの負けに見えた。
だが、それはほんの一瞬。
「嘘だ・・・・・俺の知らない炎があるなんて・・・・。」
ナインの左右の視界がずれる。
シャドウソルジャーは、白炎のビームサイズによって真っ二つに切り裂かれていたのだ。
爆発。
空中で交差した時点で、先に命中したのは、ナインの技だった。
だが、レイアスは炎の揺らぎの動きで、何とか致命傷を避けたのだ。
そして、レイアスの攻撃に対して、ナインも全く同じ行動をとろうとした。
だが、レイアスの気迫が勝った。
ナインが回避行動に移るよりも早く、クラスター=サイズでナインの胴体を切り裂いたのだ。
技能、威圧の発動。
「火は揺らぐ。酸化した物は脆く崩れる。だが、そんなのは炎の副産物でしかないんだ。熱く燃え上がる炎そのものこそが、炎流の極意・・・・・・。」
レイアスが、呟く。
「お前は、俺のコピーでしかなかった。」
それが、レイアスのコピー、No.9の最後であった。
そして、レイアスは振り返った。
次の戦いに向かうために。
ネモは苦戦していた。
と言うよりは、攻撃するのを躊躇っていた。
全力で攻撃すれば、何とか出来る自信はあった。
だが、何かが違う気がする。
相手のコズミックナイトの中で、二人の人間が戦っている、そんな錯覚。
いや、錯覚とは言えないかも知れない。
マインドウォーリアー乗りには、特別な資質が必要になってくるのだ。
それは、魔法や、あるいは超能力と呼ばれたりもする。
その事実が、ネモに攻撃を躊躇わせていた。
そして、ネモが本気で攻撃できないのに未だに手傷のひとつも負っていないのは、相手のコズミックナイトの攻撃が奇妙に甘いからでもある。
「くそ、どうなってるんだ?」
ともかく、やりにくい。
手や足を狙って槍で攻撃を仕掛けてみるが、そんな精神状態では、当たるはずの攻撃も当たらない。
赤いコズミックナイトの、細い鋼線とサイコミュ兵器の波状攻撃がネモを襲う。
それも、狙いが甘い。
サイドステップで避けようとする。
だが、この時ばかりは運がなかった。
なんと、さんざん放たれたビーム攻撃の高熱によってめくれ上がったタイルに足を引っかけてしまったのだ。
「あ、やべ。」
瞬時に頭の中でいろんな計算が高速回転する。
ノーチラス号の機動力と、相手のビームの軌道、ムーバルアーマーの耐久力、相手の武器の威力係数etc・・・・・・。
ネモは、今さら避けることが不可能だと悟ると、取り合えず、姿勢の制御に気を使うことにした。
最初の鋼線の攻撃は、ムーバルアーマーがきっちり打ち消してくれた。
「問題はこいつか。」
そして、サイコミュ兵器がこちらにきっちりと狙いを付けている。
駄目か。と、ちらりと頭の隅で考える。
だがそれがビームを放つ事はなかった。
今、正にビームを放とうとしていたサイコミュ兵器は、突然横から放たれた白い光の中に飲み込まれたのだ。
見ると、ライフルを構えた白炎が立っていた。
装甲はボロボロだが、まだまだいけそうに見える。
「へへ、借りは返したぜ。」
白炎は、武器を改めて構えると、赤いCKの方に機体を向けた。
これで、最初の状態から逆転したことになる。
「まて。」
だが、やる気満々のレイアスを止めたのは、ネモだった。
「なんだ?」
今から逆転しようと言う時に、声が少々不機嫌になるのもしょうがない。
「あのリテイナー、何かがおかしいんだが、もしかして誰かに操られてるんじゃないか?そんな感じがするぞ。」
ネモ自身、真偽が分かってないといった口調である。
だが、レイアスはマインドウォーリアー乗りの『感じ』が当てになるのを知っていた。
「操られている?・・・・もしかして!」
その時、不意に部屋中に奇妙に嗄れた声が響きわたった。
「君の察した通りだよ、ゼロ。キュラーとか言ったかな?今君たちが対峙している相手は、君の相棒だ。」
その声と同時に、赤いCKの胴体に当たる部分が上下にスライドした。
そこには、透明な球体が一つ入っているのが見えた。
そして、その中にはコクピットと、虚ろな目をしたキュラーの姿。
「く、汚い真似を・・・・。」
ネモが吐き捨てるように言う。
「キュラー・・・・・・・・。」
レイアスの声が、怒りで掠れる。
「さあ、私のために踊っておくれ。」
アーカムのその言葉で、透明な球体が薄赤く発光し、キュラーの体がビクッと震える。
そして、キュラーの表情が一変した。
「キュラアアアァァ!!」
レイアスの声は、届かない。
その時のキュラーの顔は、正に狂気と呼んで差し支えないものだった。
「アーカム!キュラーに何をした!?」
「安心したまえ。儂は女の体なぞに興味はない。精神年齢から言っても、肉体年齢から言ってもな。つまり、何もしておらんのだよ、お前の相棒自体にはな。」
サイコミュが同時に連続攻撃を仕掛けてくる。
「アハハハハハ!激しく燃えなさいっ!」
心底、戦いを楽しんでいる声。
「おい、どうするんだ、レイアス!」
ネモが切羽詰まった声を発する間にも、胴体に一撃喰らってしまった。
咄嗟に身をひねったので、致命傷とはいかないが。
「ほらほら、地獄はすぐそこよ!!」
感じられるのは、悪意のみ。
「キュラー、違うだろ?お前の手に入れたがってた感情ってのは、そんなもんじゃないだろ!」
レイアスは、ヘル=フレイムから手を離し、胸部のコクピットハッチを開けた。
ヘル=フレイムが音を立てて地面に落ちる。
「レイアス、何をする気だ!?」
完全に無防備な状態になって一歩一歩キュラーの方に近付くレイアス。
「キュラー・・・・・。」
「止めろ、レイアス!」
ネモがレイアスを止めようとするが、左腕をビットのビームによって破壊され、吹き飛ばされてしまった。
そして、無防備なレイアスに向かってのビットの一斉掃射。
だが、それでも白炎は倒れなかった。
「だめだ。そんな風に牙をむき出しにしちゃ・・・・・。」
白炎の両腕が静かに持ち上がる。
まるで、今から抱きすくめでも、するかのように。
しかし、困惑していたのは、キュラーも同じ事だった。
何故この男は、こんなになってまで向かってくる?
何故、やろうと思えば自分を倒すこともできる筈なのに、それをしない?
それに、何故微笑んでいるのか?
「・・・・だまれ・・・・・。」
何一つ解らない。
「黙れ!黙れ!!黙れぇ!!!」
逆上と共に、ビットがそれぞれビームを乱射する。
それでも、白炎は倒れない。
実を言うと、キュラーの方の精神状態が不安定なために、照準が合っていないのだが、そんなことに本人は気が付かない。
ただ、ビームの発射を命令する。
「来るな!来ないでよぉ!!」
だが、どんな武器にも弾数に制限がある。
キュラーの放ったビットにも限界がやってきた。
カランと音を立ててビットが地面に落ちる。
「嫌っ!」
何が嫌なのか?
何で拒絶する?
アタシは?
私は?
頭の中を、無理矢理封じ込められていた意識と、表面を覆うように植え付けられた意識とが、ごちゃ混ぜになる。
「嫌ぁっ!!」
キュラーの乗るCKの、右腕が持ち上がる。
手の甲の部分に、ビームガンが装備されているのだ。
だが・・・・・・・。
(その人を、傷つけないで!)
次の瞬間、コクピットを覆っていた透明な球体は、粉々に砕け散り、それと共にキュラーも空中に投げ出された。
それを、白炎のコクピットから上体を乗り出したレイアスの腕が、間一髪でキャッチした。
「レイアス!大丈夫か?」
ネモの、心配そうな声。
「ああ、大丈夫だ。気絶してるだけみたいだ。」
その言葉に、ネモは呆れた。
ネモが心配したのはキュラーではなく、狙いが外れていたとは言え、散々ビットの攻撃を喰らったレイアスの体の方だったからだ。
だが、それは言わないことにした。
「そうか、よかったな。」
だが、まだやり残したことがある。
「アーカムの奴は何処だ?」
「ははははは。なかなか楽しませてもらったよ。」
アーカムの声が聞こえたと同時に、ラボ全体が鳴動を始めた。
「今回は私の負けだと、素直に認めよう。また会おうではないか、我が息子よ!」
「待て!」
ネモの静止の声も、恐らく届かなかっただろう。
「脱出用の小型宇宙艇だ。」
レイアスは、真剣な声で静かに言うと、ヘル=フレイムを拾い上げて真上に向かって連射した。
外に出るハッチが粉々に崩れ、外への簡易な直結通路が出来上がる。
「今から外に出れば、あんたのリテイナーならばもしかすると間に合うかもしれない。・・・・行ってくれ。」
レイアスが真剣な声で静かに言う。
「お前はどうするんだ?」
「キュラーの手当がすんだら、ゆっくりと脱出する。あいつを俺の手で倒せないのは、残念だけどな。」
「だが・・・・・。」
「ほら、早く行かないと、逃げられちまうぜ?」
「わかった。・・・・・あとで絶対に合おう。」
ネモは、レイアスに背を向けると、ノーチラス号のオーラコンバーターを最大出力で稼働した。
「ああ、絶対に・・・・・な。」
凄まじい速度で上昇していくノーチラス号を見ながら、レイアスは一人呟いた。
俺には、仲間もいる。
キュラーもいる。
これ以上、覚えてもいない過去なんかに関わったって、それだけ損をしてる。
だから、今はキュラーの傷の手当が最優先だ。
「見つけた!」
レイアスに言われたとおり、巡洋艦クラスの宇宙船が今、人工衛星表面から飛び立ったところだった。
「止まれ!」
通信回線を開き、そんなことを言いながら、いきなり遠距離からレッグリッパーを全弾一気に掃射するが、あまり効果がない。
「ふん。そんなモノは効かないよ。」
まるで小馬鹿にしたようなアーカムの声が、通信機越しに聞こえる。
「ならば、槍で貫くまでだ!」
一気に距離を縮めるノーチラス号。
だが、少し焦りすぎだったかも知れない。
「無駄だ。」
船の放ったビームの一撃が避けきれず、オーラコンバーターにかすってしまった。
「しまった!」
たまらずバランスを崩したノーチラス号に向けて、砲座が固定される。
「よく頑張ったが、これまでだな。」
だが、アーカムが砲撃を開始する直前に、宇宙船に閃光が突き刺さった。
「なに?馬鹿な、さっきまでレーダーに映っていなかったぞ?」
「艦長!どこほっつき歩いてるんですか!!」
突然、割り込んで通信が入ってきた。
金髪の胸の大きな美女が、ノーチラス号のコクピット内に大写しにされる。
MHK最大のオーラシップ、ガラオンのクルーの一人、エレクトラだ。
「だぁ、話は後だ!今はその船を補足しておいてくれ!」
エレクトラは、他にも何かを言いたそうにしていたが、少しの間、我慢していることに決めたらしい。
「そうか、ミノフスキー粒子・・・・・・貴様等、MHKの人間か・・・・・。」
「そういうことだ。大人しく観念しろよ。」
「残念だが、そのつもりはない。お前等も、道連れに連れていってやる!」
「げ、やばい!ガラオン、収納してくれ!!」
ネモは、相手のやろうとしていることを察した。
ネモがそう言ったのとほぼ同時、アーカムの乗る宇宙船は突然眩しい光を放って爆発した。
無音の宇宙に、ただただ閃光だけが広がっていく。
そして、その爆発と同時に、人工衛星は恒星の重力に惹かれて落ちだした。
最初から、こうなるように仕組んでいたのだろうが、アーカムの惑星は、ただ静かに恒星の炎の海へと落下していった。
じつは、キュラーが気が付いてなお、レイアス達はまだ脱出していなかった。
脚部のブースターが上手く作動しなかったので、今の今までその応急処置に追われていたのだ。
だから、異変に気が付くのも、少し遅れた。
「駄目です。気付くのが遅すぎたので、今から脱出しても、空中で分解してしまいます。」
キュラーはと言うと、どうやら洗脳されていた間の記憶は残っていないらしかった。
レイアスも、それならそれで話さない方がよいと思って、何が起こったのか話していない。
ただ、レイアスの怪我が自分の生であることは、何となく気が付いていた。
「白炎のフィールドはどれくらいもつ?」
「もって10分といったところです。」
モニターに、様々な情報がどんどん流れ込んでくる。
そのどれもが、絶望的な値を出していた。
もう少し気付くのが遅れていたら、あっさり超高温のフレアで焼き尽くされていただろう。
なんとか人工衛星のフィールド発生装置を復旧させたから、今のところは何とか耐えいる。
だが、それも時間の問題だと思われた。
「もう、こんなに落ちてるのか・・・・・。」
他の人間ならば、もうとっくにあきらめているところだ。
だが、こんな所で死ぬわけには行かない。
ここを生き抜かなければ、今までしてきたことが無駄になる。
その信念が今のレイアスを動かしていた。
「よし、ブースターとエネルギーフィールドに全エネルギーを集中!下に向かって脱出するぞ!」
「え?ですが、それは・・・・・。」
「重力の加速度を借りて、一気に外に出るんだ。核さえ避ければ、エネルギーフィールドが何とか持つはずだ。」
「しかし、無茶すぎます!」
なおも反対するキュラーに、レイアスは振り返った。
「これしか道は無い!いくぜ!!」
レイアスの目には、自暴自棄とか、そう言った感情は見あたらなかった。
ただ、前を向いている。
生きることを、考えている。
「はい!」
「アーカムズラボラトリィのフィールド消滅と同時に、白炎のフィールド、全開。恒星から脱出する!」
「ふぅ、間一髪だったなぁ。」
「ホント、艦長ってなんでああいう目にあっても毎回生きてるんでしょうねぇ。」
ネモがしみじみと言った言葉に、エレクトラが答える。
他のクルーは、笑いをかみ殺している。
「あのなぁ・・・・。それより、あの人工衛星から脱出した他の機体とかは見つからないか?」
「今のところ、無しです。」
これにはレーダー手が答えた。
今までに脱出してないとなると、かなり絶望的だ。
たとえ今から脱出したとしても、恐らく助かるまい。
「まだフィールドで持ちこたえてるみたいだから・・・・・・あ、人工衛星、たった今消滅しました。」
モニターに、消滅する瞬間が写し出される。
「レイアスか。惜しい奴を亡くした。」
(当然、誰もがそう考えるとは言え)ネモは、勝手にレイアスを殺した。
だが、エレクトラが白炎のエネルギーフィールドに気が付いた。
「艦長、何か光りました!恐らく、エネルギーフィールドです!」
「なんだって!?」
先程の映像をもう一度再生してみると、惑星が消滅した直後に、小さく光る白い点が確かに見えた。
それは、生きる意志そのものをあらわすかのように、純白に輝いていた。
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