第1話 MHK、入隊
舞い散る砂塵が静かに渦を巻くその荒野の中、2機のリテイナーが向かい合い、互いに間合いを計っている。
片方は薄緑色で、鋭角的なフォルムのCK。赤毛を後ろで縛った男、レイアスが駆る『白炎』である。
もう片方はMW。シニア免許を持った者の中でも使い手中の使い手、金髪美女のシェラである。
その駆る愛機は『キルシュレイン』。
優雅に、しかし鋭く鎌を構えるその姿はさながら死神のようだ。
2機は、ちょうどその中間地点に円の中心が在るかのように右にじりじりと動いていた。
と、突然キルシュレインの機影がレイアスの視界から外れる。
それがリテイナー中でも最高速を誇るMWとは言え、常識外れなスピードで一気にレイアスの死角を取ったのだ。
「遊んであげるわ、坊や!」
シェラが嬉しそうに言うのが通信機越しに聞こえる。
半ば反射的に左腕の盾をあげるレイアス。
だがしかし、キルシュレインの鎌はいともあっさりとレイアスのシールドを切り裂き、同時にレイアスの左腕をもぎ取っていた。
衝撃で弾き飛ばされる白炎。
バーニアを全開にふかして、何とか姿勢を整えると、右足に装備されているミサイルをぶっ放す。
「当たらないわよ。」
白い煙の尾を引き、一直線にキルシュレインに向かう30機近いミサイルをキルシュレインはあっさりと避けきって見せる。
軽く舌打ちし、やけくそ気味に右腕に構えたビームライフルを乱射するレイアス。
だが、キルシュレインはそのビームさえもことごとくかわして、逆にレイアスの方に向かって急接近してくる。
と思った瞬間には、キィンという澄んだ音と共に白炎の右腕と頭が空を舞う。
「降伏なさい。」
コクピットに再びシェラの通信が流れ込む。
「あなたでは私には勝てないわ。」
「まだだ。」
しかしレイアスは食い下がった。
「まだいけるんだ!!」
叫ぶと同時、機体の胴体に据え付けられているバルカンが盛大な音を立てて火を噴く。
たちまちレイアスの視界は舞い散る砂塵と埃とバルカンのあげる煙とで覆い隠された。
「やったか?」
「いえ、まだまだよ。」
「何!?」
その瞬間、画面一杯にキルシュレインの大鎌の刃が広がり、一気にブラックアウトした。
そして画面一杯に「GAME OVER」の文字が赤く点滅し、先ほどの戦いのリザルトが表示された。
「レイアスwith白炎 攻撃命中率:0% 平均ダメージ:0 右腕、左腕、頭部及び胴体パーツ、大破・・・・・・・。」
さんざんな結果だった。
その時になって初めて、レイアスは全身から汗が噴き出しているのに気が付いた。
MHK各所にある休憩室の一室のソファーで、レイアスはタオルを目にかぶせて仰向けにひっくり返っていた。
そこへちょっときつめに見える金髪の女性が一人入って来た。
先ほどレイアスとの戦った『キルシュレイン』のパイロット、シェラである。
レイアスはそれに気づくと、さっと起きあがった。
そして、相手を見て、ただでさえ暗かった気分がさらに落ち込んだ。
何しろ、こっちは未だに肩で息をしていて顔は紅潮しており、全身に汗をだらだらとかいているのに対し、シェラは一筋の汗もかいて無いどころか、髪の毛一本さえ乱していなかった。
ホントに今さっきまで戦っていたのか?とレイアスが思うのも無理は無かろう。
「ジュース、いる?」
シェラが静かな声をかける。先ほど戦闘中に聞いたときに感じた興奮気味の声とは違い、落ち着いている。
「戴きます。」
レイアスはジュースを受け取ると、一気に飲み干した。
正直、喉がカラカラだったので有り難かった。
ふぅっとため息を付くと、ソファーから立ち上がり、そばにかけてあった白いジャンバーを右肩にさげる。
「これで決心もつきました。また、腕を上げて出直してきます。」
「何故かしら?」
「いや、「何故か?」って・・・・・。」
「入隊決定したのに、どこに行くって言うのかしら?」
「え・・・っと?シェラさんにテスト戦闘で一発でも弾を当てるのが、入隊の必須条件なんではないんですか?」
シェラは、レイアスの言葉を聞いて、すぐに誰の仕業か気が付いたらしい。
「あたしに一撃でも云々はいつもの初心者に対するからかいだから、忘れていいわ。」
「じゃぁ・・・・。」
答えを待つレイアスの声が震える。
「MHKへの入隊は私との面接ですでに完了よ。明日からがんばってね。」
「いやったぁ!」
あくまで冷静な声で続けるシェラの声にレイアスはただ素直に喜びの声を上げた。
そして、レイアスのMHK入隊は決定した。
ただ素直にMHKに入隊できたことを喜ぶレイアスであったが、この先で起こる数々の事件のことを、まだ彼は知らない。
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