第2話 UFO、襲撃。(上)


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【太平洋 洋上】

地球は7つの海の一つ、太平洋の上空を、2機のリテイナーがゆったりと飛行していた。
そのリテイナーのうちの片方、薄緑色の鋭角的なフォルムをした飛行機型のリテイナーの名は『白炎』。機種はCKだ。
仲間内ではツヴァイと呼ばれる事も多々あるが、これはレイアスが戦闘時によく使う白炎の変形形態の名称の一つである。
機体名は日本語。変形の形態番号はドイツ語で武器名は英語という、かなり無節操な名前の付け方をしているから、本人もさして気にした様子はないどころかその呼び名を気に入っている。
飛行機にしては妙なその機影に、少しでもリテイナーについて学んだり興味を持ったりしている人間(リテイナー乗りならばなおさら)ならば変形機構を内蔵していることを見抜くだろう。
パイロットの名は『レイアス』。少々くせのある紅い髪を無理矢理後ろで縛り付けている。
昔は傭兵をやっていたが、今はMHKの隊員で、つい先月リテイナーのシニア免許を取得した。
同乗者の名は『キュラー』。ファティマと呼ばれるコンピューターの一種で、人間の脳を限りなく模すことによって、高い計算能力や学習能力を持つ。
人格のようなものが付与されているのが普通だとされたため、人型の者もたまには存在する。
人型のファティマは珍しいが、サイボーグやアンドロイドが当たり前に歩き回っているこの世の中では、さして気にもとめられない。
一昔前には火器管制用に最高のコンピューターとして広く使われていたのだが、今では人造人間の人権などというややこしいもののために、製造は禁止されている。
いつもは遠隔でナビゲートしているのだが、今回はレイアスと同乗している。
機体の操縦も少しは心得ており、一応ミドル免許を持っている。
もう片方の、白炎に比べて丸みを帯びた青いCKは、機名を『ヴァンブレイズν』という。
こちらも今は飛行機のような形状をしているが、白炎と同じく変形機構付きである。
ヴァンブレイズと白炎、どちらもある程度似通ったリテイナーだと言える。
そして、この機体にはさらに白炎と同じことに、ファティマに負けるとも劣らないスーパーコンピューターが内蔵されている。
こちらのスーパーコンピューターも人格を有し、パイロットをいつでも支援している。
搭乗者の名は『ヤスノリ=イワサキ』。
傭兵のような職業、フリーファイターなどという稼業をずっと続けている。
レイアスとは傭兵時代の知り合いで、今回の依頼に付き合わされている。
リテイナーの免許はレイアスと同じシニアランクだが、レイアスよりも好成績を収めている。
「レイアス、まだ着かないのか?」
「もーすぐ着くはずだが・・・・。」
「あと50キロ足らずです。只今時速100キロのごく低速で飛行していますから・・・・・。」
「あなた達の視力なら、あと1分もせずに見えるわ。」
2人の行く先、見え始めた陸地の内陸に、大きなクレーターと煙を上げている富士山が見えてきた。

【MHK 『白炎』格納庫】

話を少し遡る。
さっきからレイアスが機体の整備をしながら誰とも無しに愚痴っている。
「ったく、3型ファンネルが無けりゃ、どうやってMWやPTを撃ち落とせるってんだよ。」
「しょうがないでしょ。今までの3型ファンネルじゃぁ、いろいろと長期の戦闘には向いてないから、高級ななサイコミュを積み込んだんでしょ?」
そこにキュラーの合いの手が入る。さっきからずっとこんな調子だ。
「ああ、そうだよ。おかげでNT試験を未だにクリアできない俺には手も届かなくなっちまった。」
「それに、コレってずっと前から告知してたじゃない。どうしようもないわよ。」
「じゃあ、MWやPTなんかに会ったら、どうしろって言うんだ?」
「その前に、あなたの腕を上げる事ね。この前あった、MW乗りよりも射撃が下手だったじゃない。」
レイアスの質問にお手上げのポーズをしながら投げやりに答えるキュラー。
と、まだ何か言いかけていたレイアスの通信機が鳴る。
「はい、こちらレイアス。」
「ハスターだ。至急、私の部屋に来てくれないか?」
レイアスはキュラーと顔を見合わせた。

【MHK 所長事務室】

「失礼します。」
キュラーを伴って部屋に入ってきたレイアスに向かってハスターは早速切り出した。
「先日、1機の偵察用リテイナーが何者かによって破壊され、パイロットは未だ行方不明だ。」
「その偵察機は何をしてたんですか?」
レイアスの疑問に答える代わりに、ハスターは手元のリモコンのスイッチを入れた。
部屋の一角に設置された高級品の3Dプロジェクターが一つの地形を映し出す。
そこには森と、少し大きめの街が映し出されていた。
その映像のちょうど真ん中あたり、森と平野の間に赤い光点が示されている。
「ここがどこか、分かるか?」
「北海道ですか?」
「確か、一度だけ行ったわね。あの街の配置、見覚えがあるわ。」
「そうだ。このあたりで、巨大な隕石が落ちたと通報があり、一応その偵察機を向かわせたのだが・・・・。」
言葉を濁すハスター。
「数日後に破壊された偵察機が見つかった、と?」
レイアスが言うとハスターは静かに頷き、続ける。
「その偵察機のレコーダーなどは回収不可能だった。」
偵察用のリテイナーはその性質上、観察したものを記憶しておく装置、すなわちレコーダーを一番安全なところに置いておくようにしてある。それが壊されたという事だけでも相手の腕の良さ、または相手の火力の強さが尋常ではないことになる。
「機体は現場への到着予想時刻より1週間後に海で発見された。機体の損傷はまるで剣ではなく牙や爪のようなものにずたずたにされたような様子だったらしい。」
「わざわざ爪を装備して格闘戦する方も、結構居らっしゃいますわね。この頃は。」
「隕石の方は宇宙で打ち砕くなり軌道を逸らすなりできなかったんですか?」
「無論、それは行ったはずだ。だが、新開発の兵器の直撃を受けてさえも、隕石は破壊できなかったどころか、軌道を逸らすことさえ出来なかったという。」
「で、俺に調査ですかぁ?」
「嫌なのか?」
「だって、俺はただ遊びに来ただけですよ。他にも腕が立つ人はいるでしょう?」
「レイアス、あいにくみんな駄目だわ。まずネモさんは、2ヶ月連続で仕事が回ってグロッキーしてるわ。」
「レギオンは?」
割って入ったキュラーに、何か救いの糸を探すように言うレイアス。
だが、救いの糸はもたらされなかった。
「レギオンさんはちょっと前から星間輸送船に積まれた希少金属の護衛に行ってるし、他のみんなも任務とか休暇で出かけてるわ。シニア免許を持ってる中で今、フリーなのはあなたくらいのものよ。」
「所長は?所長の『月光』なら・・・。」
「この書類の山、あと3日で処理してくれるのか?」
言いながらハスター所長が指さした方向には、床から天井近くまで積み上げられた書類のが、山積している。
「いえ、いーです。」
「そういうわけだ。お前と後一人、適当に見繕ってつれていってくれ。ただ付け足しておくと、シニア免許を持つ者は出払ってるから、傭兵でも雇った方がいい。一人分くらいなら、隊の方で負担しておく。」
「へいへい、了解です。で、いくらくらいなら出せるんです?」
「このくらいだな。」
3Dプロジェクターに数字が並ぶ。
「たったこれだけ?これじゃ、シニアランクの助っ人なんて頼めないじゃないですか!」
「しょうがないだろう。隊の財政事情もくんでくれ。ここのところリテイナーの発進は相次ぐし、研究所の方からは新兵器の企画が相次いで提出されてるし。」
「分かりましたよ。その金額で何とか探してみます。」
「腕利きで安く雇えそうなのをこちらで見繕ってある。ヤスノリと言うんだが、知っているか?」
「ええ。傭兵時代はたまに会いましたし、今でも噂を聞きますね。」
「彼に頼むといい。私からと言えば、恐らく手伝ってくれるだろう。」
と言うわけで、レイアスはヤスノリにに格安の雇い賃でついてきてもらって、急遽北海道に向けて飛び立つことになったのであった。
すなわち、冒頭のシーンに戻るわけである。

【某山脈の麓 隕石落下跡】

2機は隕石跡の近くに降り立った。
「チェンジモード、『アインス』。通常人型形態。」
白炎が変形し、人型の姿を取る。
ヴァンブレイズも変形し、同じく人型の形態をとる。
隕石跡は、陸側から海に向かっており、その辺にあった民家の跡も残さずに海の中に消えている。
隕石が飛来して来ているのは少し前から分かっていたはずなので、住民は事前に避難したはずだ。
ヤスノリがひゅうと口笛を吹いて素直な感想を漏らす。
「すごい大きさだな。」
それにヴァンブレイズのコンピューターが自分の感想を付け足す。
「でも、少し変ですね。」
「何が?」
「このくらいの大きさの隕石が落ちたのなら、もっと周りに破片が散ったりしてるモノなんですが、それがありません。」
それにキュラーも続ける。
「ついでに言うなら、これだけの距離を地面に擦り付けているのに、隕石の跡の帯は大きさを変えずに海に突っ込んでるわね。」
「そういえば・・・・・。」
言われて見れば、確かにその通りだ。
レイアスは何となく思いついた事を口に出してみる。
「どっかの宇宙船でも突っ込んだかな?」
「それならまぁ、辻褄があわん事もないと思うが、ちょっと弱いな。第一、それならレーダーで分かるだろ?」
レイアスとヤスノリは互いに顔を見合わせた。
「はは、まさかUFOとか、なぁ。」
「ははははは・・・。」
乾いた笑いをあげる2人。
あり得ないことではない。今まで人類未到だった星からの星間宇宙船が墜落したのなら、新兵器とやらの直撃は何らかのバリア装置でも使ったと考えれるし、不時着したにも関わらず船体がバラバラにならないのも、頷けないこともない。
とにもかくにも、調査を開始する3人。
リテイナーを自分の体以上に操って低空飛行し、付近をサーチする。
しばらくして、ヤスノリが何かを見つけた。
粘液質のドロリとした蛍光色の緑色の液体が岩の先に少しだけこびりついていた。
「何だと思う?レイアス。」
「さあ、俺には分からないな。」
「冷却液にはどうやっても見えないな。」
「推進材にも見えないな。キュラーは分かるか?」
「基地から持ってきた機材である程度の解析は出来るけど、それ見たって私じゃ何がなんだか分からないわ。本部にデータを転送した方がいいわね。」
「しょうがないな。今日の午後になったら葉月博士あたりが帰ってくるだろうから、何とかなるか。」
その後も調査は続いたが、どうやら陸の部分にはもはや何の手掛かりも残っていないらしかった。
暮れゆく空を背に、2機はゆっくりと街の方に向かって飛び立った。

【喫茶 ブラウン】

宿もなんとか無事に取り、3人は喫茶店で遅い夕食を取っていた。
彼らの他には客はなく、店長らしき人物が食器を洗っている音と付けっぱなしになっているテレビが静かな空間に微かなざわめきに似た波紋を投げかけている。
3人は食事もすでに終え、今日の探索結果について話し合っている。
「あの液体の解析結果は定時連絡の時に本部に転送しておいたわ。明日にでも結果が届くはずよ。」
「ありがとう。」
「明日になったら、隕石の正体も自然に割れるだろう。」
「これで、だいたい仕事も終わるな。ちょろいもんじゃないか。」
ヤスノリの楽観的な答えに、しかしレイアスは首を振った。
「いや、そうも行かないだろう。もし隕石が偵察機の撃沈と無関係でも、偵察機を襲った奴は調べなきゃいけないだろう。」
「もしかして、安請け合いすぎたかな、俺。」
「ああ、かなりな。」
「お前に言われたくなかったぜ。」
結局、その日はそれ以上何もなく暮れ落ちた。

【太平洋 洋上】

結局、その日の太陽がちょうど真上に上がって少し経っても採取した液体の解析の分析結果はまだ出ないでいた。
解っているのは、何かの生物のモノじゃないかという事だけ。
それも、MHKの生物学にも精通した人間がよりにもよってみんな不在だからだ。
たまたま休暇中にMHKに忘れ物を取りに帰っていた葉月博士は、
「武器や兵器なんかの事なら、すぐに解るんですけどねぇ。」
「博士は生体兵器よりも、異次元マンホールとかの趣味の研究が主ですからね。」
と、秘書の美帆と笑いながら答えたものだ。
仕方がないので、レイアス達はそれぞれのリテイナーに乗り込んで、隕石のクレーター跡を洋上から観測しようと出てきたのだ。
海面すれすれをホバリングしながら、海底へそのレーダーの目を走らせる白炎とヴァンブレイズ。
隕石跡は海底に入ってなお遠くまで続き、その最後には何も残っていなかった。
と、白炎のレーダーが飛行物体に気付き、
「おい、あれなんだ?」
と、ヤスノリに問いかけてみる。
ヤスノリも気付いたらしく、そちらの方に注意を向ける。
飛行物体は灰色のリテイナーだ。
が、ヤスノリはあっさり警戒を解いた。
「あれは軍の哨戒機さ。」
「何で軍の哨戒機なんかが居るんだ?」
いまいち納得できないレイアス。
「この辺で戦闘訓練していた自衛隊のリテイナーが数機、突然行方不明になったのです。」
「昨日のニュースでやってたわ。」
ヴァンブレイズとキュラーの言葉により、とりあえず敵でないと知ると、双方向無線の通信回線を開くレイアス。
「こちらMHKのレイアス。聞こえてますか?」
「感度良好です。MHKの隊員がこんなところで何やってるんです?」
言いながら軍のリテイナーもホバリングして空中に制止する。
「そっちとだいたい用向きは一緒さ。」
「そりゃ、ご苦労様です。」
「そっちも大変だな。」
双方とも急に入った仕事のためか意気投合して、しばらく話し合い、しばらくは身もない世間話をしていたのだが、その時突然キュラーとヴァンブレイズが警告を発した。
「海底より、高エネルギー反応!狙われています!」
「何だってぇ!?」
その事を自衛隊機に伝えようとしたが、少し遅かった。
突然海にぽっかりと穴があき、眩しい光が柱となって哨戒機に突き刺さる。
爆光をあげ、胴体を失ったリテイナーの四肢がぼとぼとと海面に落ちていく。
「再び高エネルギー反応!今度の狙撃は白炎を狙ってます!」
キュラーの絶叫に近い声が白炎のコクピットに響く。
そして再び純白の閃光が空間をなぎ払った・・・・。

つづく・・・・。


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