見渡す限りの水、水、水。
その青い海の上を二機のリテイナーが滞空し、そのすぐ側を青白い閃光が空気を帯電させながら柱状になっている。
一方の薄緑色のリテイナー、白炎のパイロットはレイアス。
もう一方のリテイナーはヴァンブレイズν。パイロットの名はヤスノリ=イワサキだ。
「ふぅ、何とかよけたか。」
白炎のすぐ横を凄まじいまでの光線の余波が空間を震わせている。
「いったい何なんだ?」
「海底に生体エネルギー反応があります。徐々に浮上してきます。」
ヤスノリが当然の疑問を口にすると、すぐにヴァンブレイズのコンピュータが答えた。
「よし、重砲火モード、『ツヴァイ』に変形して迎え撃ってやる!」
レイアスのかけ声と共に素早く変形する白炎。
前よりもスマートになった感があるのは、身体のあちこちから出ていたアポジモーターやブースターを引っ込めたからだろう。
「焼き尽くしてやるぜ!」
叫ぶと、レイアスとヤスノリは浮上してくる何かに向かってそれぞれの武器を構えた。
【MHK(ミノフスキー兵器研究所)研究室】
レイアス達が大変な目に会っていた頃、葉月博士は先ほどから液体の分析結果を眺めて一人ごちていた。
「しかし、どこかで見たことが在るんですけどねぇ。このデータ。」
葉月博士も、生物学を勉強しなかったわけではない。
ただ、生物学を使うような兵器や武器の発案を暫くやっていなかったので、きれいに忘れ去っていたのである。
その時、ドアを開けて一人の男が研究所に入室した。
「ただいま。」
ジン=バイゼルハイムと言う名のその男は名家の当主らしい。
毎日、自分の趣味の赴くままに研究しているところなどは、葉月博士と同じであるのだが。
「ああ、お帰りなさい。」
研究所には誰もいないと思っていたので、ジンは驚いた。
「葉月さん?確かまだ休暇中じゃあ?」
「たまたま忘れ物を取りに帰ったところを捕まってしまいまして、このざまです。」
言いながら、葉月博士は自分がさっきから眺めていた資料を見せた。
とたんにバイゼルハイムの顔色が変わる。
「やぁ、どうも見覚えはあるんですが、この頃は物忘れが激しくていけませんね。ははっ・・・・って、どうしたんですか。資料を穴の空くほどにらみつけて?」
「博士、コレをどこで?」
すごい剣幕でぐぐっと近付くジン。
「レイアス君が送ってきたデータです。確か、北海道に隕石が落ちた一件とかで。」
それを聞いてバイゼルハイムは顔を伏せ、肩を震わせた。
「うふふふふふふふ・・・・・。」
「ジ、ジン君?」
「博士、これは未知の怪物の体液ですよ。しかも、自力で大気圏突入したり、宇宙飛行したりするのに適した、植物の葉緑体のようなシステムを持った体液です。この宇宙で発見されるどんな生物にも似ているようで似ていない。こんな生物は絶対に今まで発見されていませんよ!」
がばっと顔を上げると、ジンは一気にまくし立てた。
「つまり・・・。」
とりあえず体制を整えながら一気にまくし立てられた言葉を頭の中で整理する葉月博士。
「つまり、レイアス君達が相手にしようとしている相手は大気圏突入して地面に激突しても死なないような大怪獣と言うことですか?」
「違いますよ、博士。死なないんじゃなくて、傷つかないんです。こうしちゃいられない!」
慌ただしく、嬉々として今さっき入ってきた扉へ駆け出すバイゼルハイム。
呆然と葉月博士と一緒にその成り行きを見ていた美帆が、一言漏らした。
「そーいえば彼、G対策本部とか言う肩書きを持ってましたっけ。」
「なんだ、それは?」
「えーと、確か怪獣専用の兵器がどうとか・・・・・・。」
「ふーん。」
葉月博士はしばらく思案顔でバイゼルハイムの行った方を見ていたが、やがて組んでいた腕をとくと、美帆に向かって言った。
「じゃぁ、私は今から寝ますから、後のことは頼みましたよ。」
「あの〜、私も徹夜で博士を手伝っていたので同じくらい眠いんですけど?」
「頼んだよ。じゃ、おやすみ〜。」
葉月博士は美帆の抗議を全く聞かずに奥の自分の部屋に行ってしまった。
「え〜っと・・・・ま、いっか。私も寝ちゃえ。」
そして、研究所は元の静けさをやっと取り戻したのであった。
この場合、それが良いことなのか悪いことなのかはひとまず置いておこう。
【バイゼルハイム家、リテイナー格納庫】
ライトがまぶしく光る中、巨大な格納庫の中には、数機のリテイナーが鎮座し、幾人もの整備士やパイロットなどが忙しく働いている。
その入り口の一つから男が一人、入ってきた。
ジン=バイゼルハイムである。
「みんないるか?集合してくれ!」
この格納庫にいる人間は、大抵がバイゼルハイム家の人間だ。
当主が呼んでいるのだから、とりあえず集まっておかなければならない。
口々になんだろうとかこぼしながらそこで働いていた人間が全員集まる。
一部、バイゼルハイム家とは関係のない人間もいるが・・・・・。
「集まったな。諸君、この映像を見て欲しい。」
ジンはそう言うと、簡易3Dプロジェクターのスイッチを入れた。
そこには、先ほど葉月博士が眺めていた資料が大写しにされる。
(ざわざわざわ・・・・)
集まった人間に密かなざわめきが起こる。
ジンその反応に満足したかのように続けた。
「昨日、レイアス君の発見したモノの分析結果だ。この構成要素から見て分かるとおり、宇宙怪獣が出現した。」
「おおー!」
「と、ゆーわけで今回、私たちが密かに研究資金を横流しして作った超兵器の出番だ!パイロットに立候補する者は?」
(ざわざわざわ・・・・)
「立候補する者は?」
(ざわざわざわざわざわ・・・・・・・)
当主の呼びかけにも関わらず、ざわざわするだけで誰も何もしようとしない。
「誰かおらんのかぁ!」
そんな部下たちに業を煮やしたジンは突然、叫びながら今まで何処にあったのか分からない机に向かって拳を振り下ろした。
どんっと言う音と共に皆がしん・・・となった。
「よし。改めて聞くぞ。誰か、新兵器満載の機体に乗ってみたいというパイロットはいないか?」
「あのぉ、当主?」
と、そこに集まった人間の内の一人がおずおずと声をかけてくる。
「何だね?」
「当主が出れば良いんじゃないですかぁ?」
「な、何を言う・・・・・。」
一つ咳払いをし、くるりと後ろを振り向くと拳を目の前に固めてジンは続けた。
後頭部に大きな冷や汗が浮かんでいるのを、その場の大半の人間が見て取った。
「今、私が出れば用意に怪獣を倒せよう。私もそうしたい!だが、それでは私たちの作り出した対宇宙怪獣用の兵器の意味がないばかりか、製作に関わった諸君らに新しい兵器を真っ先に使うという制作者の一番の喜びを味わわせてやれんではないか!」
ジンは一気にそれだけ言うと、また全員の方に振り向いた。
しかし、その場に集まっただれもの目には・・・・・疑いの念しか込められていなかった。
だが、一人だけジンの演説に感動し、怒濤のごとく涙を流している人間がいた。
「博士!感動しました!そうとは知らず、私は何て愚かだったのでしょう!」
典型的な日本人の顔と体型をしている。
彼は、名を青木一馬といい、バイゼルハイム家の融資によって作られた対宇宙怪獣用最終兵器メカゴジラのパイロットを勤めている。
「いや、私も言い過ぎた。今からでも遅くはない、立候補してくれるか、青木君?」
「ええ。バイゼルハイム家の当主なのに戦闘に出ようとしないのはいい加減危険そうだから他の人に任せたいとか、今回くらいもっとゆっくりと眠っていたいとか、そんな気持ちでいると思ってた私をお許しください。」
「あ〜、いや。それはもういいんだ。」
とかいいつつ、ジンの目は罪を犯した者の様にせわしなくあちこちに移り、一筋の冷や汗が額を伝っている。
「もちろんです。この私のメカゴジラと長年研究してきた対怪獣兵器の力を持って、必ず勝利してみせます!」
「う、うむ。よし、では早速準備に取りかかってくれ!」
「了解です!」
そしてメカゴジラの出撃が滞りなく決まった。
【札幌】
「現在目標は依然北上中。自衛隊の攻撃、ほとんど効いていません。」
キュラーがたった今地上で起きていることを淡々と言う。
地上では巨大な2足歩行の甲羅を背負ったトカゲ(亀と言うにはちょっと無理がある)が川から上半身を出し、口から火球を吐いて辺り一帯を攻撃していた。
「生半可な攻撃は甲羅に弾かれているな。あれなら大気圏突入したって怪我もしないだろうな。」
「どーにかならないのかよ。」
「すまん。フォトンライフルのチャージまでは、まだ少しかかるぞ。」
ヤスノリのヴァンブレイズνが主装備としているフォトンライフルは、高出力のビームライフルにも関わらずとても扱いやすいという優れモノだ。
しかもエネルギーをしばらくチャージしてから撃つことによって威力を増すこともできるが、数発弾を撃つ度にチャージしなければならないと言う弱点を持つ。
「いや、それはいいんだ。俺のヘル=フレイムももうちょっとかかるから・・・。」
レイアスの装備している高出力ビームライフル、『ヘル=フレイム』も同じく弾数が限られている。
白炎もヴァンブレイズも装備できる武器はかなりの種類があるのだが、今回は威力重視の装備だ。
たった今までレイアスとキースは怪獣に向かってそれぞれ手持ちの武器を使って攻撃を仕掛けていたのだ。
怪獣は一応かなりの傷を負ったが、レイアスとキースが弾を切らしている間に恐ろしい回復能力で復活してしまったというわけだ。
「やっつけてる最中は、何とかなると思ったんだが、あそこまで回復速度が速いと、2機くらい援軍が欲しいよなぁ。」
「あれ?そういえば、MHKの支部ってこの近くにもあるんじゃないのか?」
そのことはレイアスも聞いたことがあった。
「さっき連絡を取ってみたんだが、だめだった。戦力になりそうなものはないらしい。」
「ふーん。・・・・お、こっちのチャージは終わったぜ。」
「こっちもだ。しかし、ただ攻撃したって同じ結果になるだけだ。どうしたものかな。」
と、レイアスが首を捻っていると突然キュラーが警告を発した。
「左後方からリテイナーらしき飛行物体が2機、高速で飛来しています。」
その警告が発せられると、ほぼ同時に通信が入る。
「こちらMHK本部の青木です。レイアスさん、ヤスノリさん、聞こえますか?」
その通信に二人は顔を見合わせた。そして、ヤスノリが通信に応じた。
「こちらヤスノリ。援軍ありがたく感謝するが、どうにかなるのか?アレが。」
「任せてください。こちらのメカゴジラもモゲラは間に合いませんでしたが、ガルーダと合体してパワーアップしましたし、バイゼルハイム家で開発した対宇宙怪獣用の新兵器を沢山積んできました。これで鬼に金棒ですよ!」
話している間にも銀色の巨大なGFと真紅のMWが高速で飛翔してきた。
青木の駆る銀色のリテイナーの名はメカゴジラだ。その巨体は、まるで昔の映画の怪獣のようなフォルムをしている。
その巨躯が背中に背負った何かで飛んでいる姿は壮観でさえあった。
そしてもう片方の悪魔的なフォルムの真紅のMWは・・・・・・・。
「ついでに、俺も駆り出されたしな。」
「その声は、レギオン!てめぇが来てくれるとは、ありがたいぜ!だが、仕事はどうした?」
MHK中でもかなりの使い手であるレギオンの駆るMW、ゾディアックブレイブ’sだ。
「ああ、意外に速く終わってな。面白そうなんですぐさま飛んできた。」
そこへキュラーが割り込む。
「お取り込み中の所すいませんが、どうやら怪獣はMHK北海道支部に向かっている模様です。」
「なんだってぇ!?」
MHKの基地は、あらゆる研究のために例外なく大量のエネルギーを保有している。
何をしでかすか分からない怪獣がそれを直撃するのは非常にまずい。
「よぉし!援軍も来たことだし、攻撃開始だ!」
「了解。」
「しょうがないな。いくぜ、ヴァンブレイズ!」
「イエス、マイ=マスター。」
そして、凄まじい戦いが始まった。
最初に動いたのは宇宙怪獣の方だった。
青白い光線を口から吐き出し、集合したこちらに向けて一気に放ってくる。
「そんなものは効かない!」
だが、陽熱にまで耐えるダイアモンドで作られた巨大な反射鏡『ファイア=ミラー』は怪獣の電磁熱線を反射し、逆に宇宙怪獣の方がダメージを負った。
怪獣は光線が効かないと知ると、火の玉を連続で吐き出し始めた。
「燃えやがれ!」
レイアスのヘル=フレイムが怪獣の火の玉の間から連続して火を噴き、ビームの矢が怪獣の身体に突き刺さる。
「いけ!」
ヤスノリもフォトンライフルで矢継ぎ早に宇宙怪獣を攻撃していく。
「フィールド展開。」
さらに、レギオンも赤く輝くフィールドを発生して相手の動きを縛りながらフレイムソードで次々と切り付けていく。
だが、怪獣の方も尋常ではなかった。
突然怪獣の腹部が「がぱちょん」と音を立てて開いたのだ。
「・・・・・・・・?」
言い知れぬ不安に駆られて咄嗟に横っ飛びするレイアス。
その一瞬後、レイアスが他の仲間に気を配るよりも速く、全てを真っ白に塗りつぶして怪獣の光線が閃いた。
「ぐぁ!何だ!?」
光線の余波だけで機体がボロボロになってゆく。
ものすごい威力の光線であった。
そして、視界がやっと利くようになった後、あたりの風景は一変していた。
すでに人は避難したとは言え、大きなビルディングがいくつも跡形も無く消し飛んでしまったのだ。
ざっとあたりを見回すレイアス。
怪獣は健在、仲間はほぼ今の一撃で壊滅状態であった。
皆、かろうじて動く程度しか機能が生きていない。
しかも、レギオンにいたっては姿さえ見せていなかった。
「ち、これじゃあ前の二の舞だぜ!」
すでに先ほどの光線の熱波でオーバーヒートしそうな『ヘル=フレイム』を横目に愚痴をこぼすレイアス。
「こちらももう駄目です!」
青木が悲痛な叫びを上げる。見ると、ファイア=ミラーが許容量以上の熱を受けてどろどろに溶けていた。
みなが成すすべも無く見守っている中、悠々とその間を通り抜けてゆく宇宙怪獣。
「こっちは、後MAXチャージ一発が限度だな。」
ヤスノリのヴァンブレイズは意外にすぐ近くにいた。
こちらは、あまり損傷がないように見えたが、フラフラとしているところを見ると、バランサーをやられたのだろう。
「しょうがない。最大にチャージしたフォトンライフルとリミッターカットしたヘル=フレイムの一撃で決めるぞ!」
「後一発で沈められなきゃ、どっちにしろ終わりか。よし、やってやろう。」
「わかりました。メカゴジラのエネルギーを全部そちらの武器に回します!」
簡単に言っているが、並みの事じゃない。
武器が、許容量を超えないように造られているのはなによりも安全のためだ。
それを超えてエネルギーチャージをしようと言うのだから、無茶以外の何者でもない。
白炎とヴァンブレイズはそれぞれ自分の武器を構え、メカゴジラは腰の辺りからチューブを二本伸ばして白炎とヴァンブレイズにそれぞれ接続する。
ヘル=フレイムのリミッターをカットし、出力を最大よりもさらに高い値に設定していく。
フォトンライフルがキイィィィンと甲高い音をさせながら急速にエネルギーをチャージしていく。
武器の準備がやけに長く感じる。
息の詰まる沈黙に、キュラーとヴァンブレイズのカウントダウンが静かに重なり、響く。
宙怪獣はそんな二機に気付いた様子もなく悠々と歩を進める。
「駄目です!このままだと、十分なチャージが終わる前に目標が基地に接触してしまいます!」
キュラーの悲痛な叫びが響くが、レイアスもヤスノリも答えない。
今から逃げてももう手遅れなのが分かっているからだ。
が、突然それは起こった。
「この俺様に、よくもやりやがったなぁ!」
その声は通信機を通さず直接響き、それが終わるやいなや真紅の影が疾風となって宇宙怪獣に向かって一気に間合いを詰めた。
「レギオン!」
その影は、間違いなくレギオンのMW、ゾディアックブレイブ’sであった。しかも、その機影には傷らしい傷も見えない。
ゾディアックブレイブ’sの左右の脚に装備したレッグリッパーが一気に火を噴き、宇宙怪獣の両足をズタズタに切り裂いていく。
「まだまだぁ!!」
叫ぶと、先ほどの逆襲とばかりに両手に持った剣が狙い違わず足をズタズタにされて宇宙怪獣の胸に突き刺した。
フレイムソードの炎が一気に怪獣を包む。
だが、それでも怪獣は死ななかった。
炎に包まれながらもレギオンを捕まえようと手を伸ばしてくる。
「・・・・・レギオンの逆襲・・・・・。」
青木が何事か呟いたようだったが、皆はそれを聞いていなかった。(聞いていたとしても、何のことを言っているのか分からなかっただろうが。)
「これだけやっても、まだ生きてるのか!」
とっさに飛び退くレギオン。
怪獣の手がむなしく空を切ったと思うと、今度は腹部を開いた。
「また、アレをやるのか!?」
だが、先ほどから機会をうかがっていたレイアスとヤスノリには、それは絶好のチャンスだった。
「いまだ、ヤスノリ!」
「わかっている!」
『ファイヤー!!』
二人同時に武器を発射する。二本の光線が相互に不思議な干渉を起こし、空間中でどんどん増幅していく。
その光は先ほど怪獣が放った光線よりも凄まじいものになり、怪獣の身体のど真ん中を貫いて後方で爆発した。
「やった・・・・のか?」
レイアスが誰にともなく疑問を口に出す。
宇宙怪獣は暫く時が止まったかのように静止していたが、ぐらりと傾くと、地響きをたてながら倒れていった。
そして、この町を破壊した当事者は、それ以上完全に動かなくなった。
その時になって、皆は張りつめていた空気を久しぶりに解いたのだった。
いまはただ、全てを包み込んで赤い夕日が輝いていた。
【MHK本部 所長室】
それから数日後、レイアス、キース、レギオン、葉月博士、そしてハスター所長が所長事務室に集まっていた。
青木はメカゴジラを『ウルトラメカゴジラ』に改造している作業の途中だとかで、手が放せないらしい。
「とりあえず皆に知らせておこう。行方不明だった偵察機のパイロットだが、どうやら見つかったようだ。付近の島に流れ着いて、住民に保護されていたらしい。」
「それはよかったですね。」
「キース、今回はありがとう。世話になったな。」
「あぁ、いいってことよ。だが、今度からはもう少し報酬を弾んでもらいたいもんだがな。」
「それは約束できんな。こちらも財政が厳しいのでね。」
穏やかな笑い声がその場を包む。
「さて、俺はこれで失礼するとしようか。」
「達者でな。」
「お前のことだ。きっと何処に行ってもくたばりはしないのだろうがな。」
レギオンが茶化す。
と、そこへ大急ぎで扉を開けて葉月の秘書、美帆とジン=バイゼルハイムが現れた。
よっぽど急いできたのか、二人とも肩でぜぇぜぇ息をしている。
「どうしたんだ?そんなに急いで。」
「博士、これを見てください。」
美帆が言いながら手に持っていた資料を葉月博士に渡した。
レイアスは興味に駆られて横からちらっとのぞいてみたが、どうやら片方はキュラーが送ったレポートのようだった。もう片方は陰になっていて読めなかったが・・・・。
葉月博士はしばらくそれを見つめていた。
皆の視線が葉月博士の方に集中している。
「ふむ。謎の宇宙怪獣の組織構成表か。何で二つあるんだ?」
「博士の昔の研究資料ですよ!それ!!」
『な・にいぃぃぃ!!!』
全員の声が見事にハモる。
それもそうである。今まで苦労してきたのは全部・・・・・。
「あぁ、思い出しました。確か昔、生体兵器の研究に見事に失敗してしまって、廃棄処分にしたことがありましたねぇ。あそこまで大きく育ちましたか。・・・・・って、みなさん、怖い顔して、どうしたんですか?」
「怖い顔にもなりますよ!今まで苦労したのって、最初から最後まで全部葉月博士のせいじゃないですか!」
「これで偵察機のパイロットが見つからなかったら、どうするつもりだったんですか!?」
じりじりとジンと美帆が葉月博士に詰め寄る。
「二人とも落ち着きたまえ、冷静に、冷静に。」
「これが冷静でいられる状況ですか!」
さらに、その場に居る他の人間も葉月博士の方にじりじりと近付いていく。
「落ち着いて聞きなさいって。あれが最後の宇宙怪獣だとは思えない。第2第3の宇宙怪獣が現れるかも知れないのに、仲間割れしてどうするんだ。」
『洒落になってなあぁい!!!』
その場のほぼ全員の声が見事にハモる。
「結局、最後はこんな落ちか。」
ただ一人落ち着いているハスターの背に、夕日はその紅蓮の身を静かに闇の中へと沈めていった。
【極悪商会】
レイアスたちが真実の一部を聞いて絶叫していた頃。
極悪商会のだだっ広い敷地の一角の日光江戸村から1セットだけそっくり持ってきたようなお座敷に、見るからに悪人そうな男と、見るからに小悪党そうな男がまるで時代劇の1シーンのように向かい合って座っていた。
見るからに悪人の男がおもむろに口を開く。
「そういえば、先月見つけてきた生体兵器はどうなったかえ?」
「は、きゃつめは北海道にて破壊活動の限りを尽くしたすえに死亡してございます。」
「ほっほっほ。それはよい。片づける手間は省けたし、また大儲けできそうじゃわい。」
「それはそうとお代官様、今度の入れ札の件、よろしくお願いしますよ。」
「ほほう、この私にタダでものを頼むと申すか?」
「は、これは気付きませんで。」
男が横から菓子の紙箱を差し出す。
「どうぞ、お代官の好きな山吹色のお菓子にございます。心おきなくお納め下さい。」
お代官と呼ばれた方がその箱のふたを少し持ち上げると、そこには金色に輝く小判がずらりとならんでいた。
「ほっほ、私はこの菓子にほんとに目がなくてのぉ。越後屋、そちも悪よのう。」
「いえいえ、お代官様ほどでは。はっはっはっは」
そして、豪奢な作りの屋敷では二人の笑い声がいつまでも響いていたとさ。
ちゃんちゃん。
おしまい