JUDGMENT 下る(中)


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【医務室】
患者を刺激しないようにか、医務室の明かりは柔らかかった。
レイアスは、こういう部屋の匂いが嫌いだ。
薬の匂いに、うっすらと血の匂い。
レイアスは、神妙な顔つきでベットの側の椅子に座っていた。
「俺があの時、代わりにいっていれば・・・・・・。」
レイアスの呻き声は、後悔の色に彩られている。
その言葉を口に出す気はなかったのだろう。
だが、言わなければ胸がつぶれそうだった。
キュラーが、彼の後ろでかけるべき声を失って、ただ立っている。
「辛気くさいこと、言うなよ。」
突然、声。
レイアスは弾けるように前を見た。
目の前のベッドの上には、ヤスノリが寝ている。
さっきまで閉じていた目が、今は開いている。
「ヤスノリ、気が付いたのか!」
レイアスの目に、涙が溢れようとする。
だが、それはすんでの所で堪えた。
「俺が、あのくらいで死ぬわけはないだろ?」
言いながら、体を起こすヤスノリ。
起きあがるときに少し顔をしかめたようだったが、それをあっさりと無視して立ち上がる。
どうやら、身体に異常はないらしい。
そこで、ヤスノリはふと気付いた。
この船に医務室は一つしかないが、周囲のどのベッドにも人はいない。
「もう一人の方はどうなったんだ?」
とたんに、レイアスの顔が暗く曇る。
「死んだよ。手遅れだった。」

【ブリッジ】
ブリッジでは、乗組員がそれぞれの位置についていた。
人数は減って、3人になってしまったが・・・・・。
そして、星間警察の男が1人、部屋の片隅でそれらを眺めている。
そこに、レイアス達が入ってきた。
「変化は?」
「艦の機能がどんどん奪われています。もはや、通常の航行でさえ危ないでしょう。それと、艦長に連絡できません。」
答えたのはマイケルだった。
「脱出するしか、無いでしょうね。」
マイケルは、悔しげに呟いた。
「脱出ポッドは、使えるか?」
「いえ、使えません。ですが、幸い星間警察の艦が使えます。」
「全員、乗れるのか?」
ジャッジメントの乗客は、18人。
乗組員を合わせれば、22人にもなる。
これはかなり少ない数だが、星間警察の船は小さい。
無理矢理詰め込んだとしても、15人だ。
往復しなければ、全員は運べない。
「リテイナーが使えたら・・・・。」
だが、それは虚しい話だ。
リテイナー格納庫も、その機能を停止している。
もし、リテイナーが動いたとしても、無理矢理倉庫を破ろうとすると、ジャッジメントの船体自体に、深刻なダメージを与えかねない。
元から、リテイナーは人を運ぶようにはできていないのだ。
せいぜい、パイロット以外の人間は一人か二人が関の山だ。
それ以外の人間には、少なからぬ被害が出るだろう。
そこで、それまで黙っていた星間警察の男が口を開いた。
「出来ないことを悔やんでもしょうがない。今、出来ることをやろう。」
「そう・・・・だな。」
レイアスは、我知らず呟いていた。

【客間前、廊下】
「はいはい、走らないでね。」
「落ち着いて歩いて下さい。」
「そこ、押してんじゃねぇよ。大人げない。」
レイアス達3人は、客間の人間に避難を通告して回っていた。
艦内放送さえもが、その機能を停止していたためだ。
乗組員は、機能の全停止を防ぐためにブリッジに籠もっている。
生命維持装置がいかれただけで、この船はお終いだ。
星間警察には、船の発進準備を急いでもらった。
この仕事は、レイアス達が自ら名乗り出たのである。
ヤスノリが最後のドアを閉める。
「ふぅ。これで全員だな。」
「ああ。一旦ブリッジに・・・・・。」
「ちょっとまって。」
レイアスとヤスノリがキュラーの方を見る。
「どうしたんだ、まだ行く所があるのか?」
「違うわ・・・・・悲鳴よ。」
二度目の悲鳴は、レイアスにも聞こえた。
ヤスノリにも、恐らく聞こえただろう。
3人は一斉に、悲鳴の聞こえた方に向かって、走り出した。

【ドッキングポート】
「なんだぁ、こりゃぁ!?」
星間警察の船とのドッキングポートは、凄惨を極めていた。
胸にぽっかりと風穴を開けた死体や、頭のない死体が血溜まりの中に数体転がっている。
それを行ったのが何か、レイアス達はすぐに解った。
四本足の人の頭くらいの大きさのマシーン達が無数に、今も人間を追いかけて走り回っている。
「くそ!」 その光景は、見るに耐えないものだったが、呆然としていたら自分がやられる。
レイアスは、懐から光剣を取り出した。
四角い筒の先端から、白い光がまっすぐに伸びる。
と、視界の片隅に見たことがある男がマシーンに追われているのが目にはいる。
「い、嫌だぁ!俺は死にたくない!!」
いささか情けない声を上げているその男は、死んだ小金井の太鼓持ち、ヘブロに間違いなかった。
マシーンがヘブロにのしかかる。
「やらせるかぁ!」
ヘブロを追いかけていた一体を光の刃があっさりと切り捨てる。
「ひ、ひぃ!!」
「あ、こら、そっちは・・・・!!」
だが、ヘブロは恐慌をきたし、レイアスの顔を見て、一目散に逃げ出した。
マシーン達は、それを逃さなかった。
一瞬で血の海に沈むヘブロ。
ヤスノリも、同じく動いていた。
懐から取り出したナイフが空を裂き、的確に弱点を突く。
だが、マシーン達も黙っているわけではなかった。
3体を囮に、3体が同時に背後から襲いかかる。
レイアスはそれに気付いたが、身体が間に合わない。
だが、その凶刃はレイアスに届くことはなかった。
レイアスに襲いかかった3体は、空中で同時に切断され、小さな爆発を起こして四散したのだ。
「助かったぜ、キュラー。」
「いいえ。」 キュラーは、何も持っていない。
いや、そう見えるだけだ。
掌に隠れて見えないが、小さくて四角い筒から分子一つ分の太さの鞭が繰り出されているのだ。
キュラーの使っている武器の名は、単分子鞭(モノフィラメントウィップ)。
どんな刃よりも鋭く、目に見えない鞭が、キュラーの周囲に張り巡らされているのだ。
普通の単分子鞭は金属を切れないが、キュラーのもつものは特別製だ。
それに触れたマシーンが、いとも容易く両断されていく。
「あぶねぇ!」
レイアスは叫ぶと、ポートのすぐ側にいる男に近付いていたマシーンをぶった斬る。
男があわてて船の中に駆け込むと同時に、開いていた扉が滑るように閉まる。
ヤスノリが銃を取り出し、ドッキングポートに取り付いていた数体を一気に打ち抜く。
「おい、早く船を出せ!やられてしまうぞ!」
ヤスノリの叫び声が聞こえたのか、ガコンと音がして星間警察の船が動く。
決着は、あっと言う間に着いた。
相手は数で圧倒的に勝っていたが、レイアス達はそれくらいでどうにかなるような人間じゃない。
マシーン達はレイアス達に指一本触れることが出来なかった。
だが、レイアス達は勝った気にはなれなかった。
生き残った人間は、こちら側にはいなかったのだ。
ざっと見ただけで、5、6人の死体が確認できる。
その場を、絶望感が重くのしかかっていた。

【ブリッジ】
「こいつに見覚えはないか?」
レイアスがこう言いながらみんなに見せたのは、先程襲いかかってきたマシーンのうちの一体だ。
真ん中を光剣で貫かれた跡があるが、原形はとどめている。
ブリッジには、3人の乗組員に加え、レイアス、ヤスノリ、キュラー。
そして、逃げ遅れたというクライブの、全部で7人がいた。
「こりゃあ、この船のセキリュティユニットじゃないか。警備用のマシーンさ。」
サングラスをした黒人の大男が言った。
胸のプレートには、ビリーと書かれている。
「ああ、そうだ。でも、それがどうしてこういうことになっとる?」
ビリーの後を、髪の大半を白く染めた初老の男が光剣で貫かれた跡を指さしながら継いだ。
こちらのプレートには、ジョージと書かれている。
それには、ヤスノリが答えた。
「脱出しようとした人間を襲っていたんだ。かなりの人数がやられた。」
「何だって!?」
マイケルが驚いた声をあげた。
無理もないだろう。
自分たちを守る筈のマシーンが、自分たちに牙をむいたというのだから。
「そこで、教えて欲しいんです。ここ以外にこういうのを操作できる場所は?」
キュラーが真剣な顔つきで言う。
「と、いうことは!」
何かに気付いたのか、クライブがこれも真剣な顔つきで顔を上げる。
ドンッと、音を立てて机を叩くレイアス。
「そうです。恐らくこれは誰かが仕組んだことです。その意図や最終目的は解りませんが、これだけは確実なことなんです。」
皆、一様に黙り込む。
静寂は、無限に続くかに思えた。
だが、その静寂に耐えられなくなってレイアスが何かを言おうとしたと同時に、マイケルが口を開いた。
「艦長室です。あそこには、ブリッジが使えなくなっても船を操れるように、非常装置が付けられています。」

【艦長室】
バチッという音と共に扉がするすると開く。
扉にロックがかかっていたのを、レイアスが光剣で焼き切ったのだ。
真っ先に中に入ったのは、ビリーだった。
扉の中は真っ暗闇だったが、ビリーは臆せずに入っていく。
「艦長、いますか?」
マイケルとジョージが続けて入っていく。
だが、レイアスとヤスノリも後に続こうとしたとき、中で艦長を呼ぶ声は、悲鳴に変わった。
「何が起こった!?」
駆け込んだレイアスの光剣に照らし出されたのは、二つの死体と、椅子に座って銃を持った艦長の姿だった。
じりりと、慎重に剣を構え、艦長に注意のほぼ全てを向けるレイアス。
だが、何か変だ・・・・・・・。
何が変なのか、頭の中で整理しようとする。
と、唐突に答えが見つかると同時に、
「あぶねぇ、レイアス!」
チュンッと、背後で音がした。
驚いて、振り向くレイアス。
そこには、ヤスノリに打ち抜かれたセキリュティマシーンが、しゅうしゅうと煙を上げている。
「すまん、ヤスノリ。」
「いいってことよ。」
腰を抜かしていたのだろう。
マイケルが机に寄りかかりながらむっくりと起きあがる。
他の乗組員の方に近付いていき、ヤスノリ達に向かって首を横に振る。
それを見てから、艦長の方に向かって、慎重に近付くレイアス。
近付くに連れ、先程頭の中で見つかった答えが正しいことがだんだん解ってきた。
そして、間近に近付いたとき、それは確信に変わった。
艦長は、銃を構えたその姿勢のまま死んでいた。
「道理で、殺気がないわけだ。」
机の隣には、何かの大きな機械が置かれていた。
これが、恐らく非常時の緊急操作装置というものだろう。
マイケルが少々いじってみたが、何も反応しない。
「くそ!」
レイアスの拳が、艦長の机の上に振り下ろされ、ドンッと、大きな音がする。
そして、ディスクが回る独特の音。
「何事だ?状況を報告せよ。」
「ふむ。幸い、エアロックが一つ開いているようだな。そこから行くしかあるまい。」
「フレッド、行ってくれるか?」
「あと一人、誰か行ってくれんか?」
「解った。君に頼もう。各員、報告をまめにせよ。」
それは、数時間前に聞いた艦長の声だった。
「何事だ?状況を報告せよ。」
「ふむ。幸い、エアロックが一つ開いているようだな。そこから行くしかあるまい。」
「フレッド、行ってくれるか?」
「あと一人、誰か行ってくれんか?」
「解った。君に頼もう。各員、報告をまめにせよ。」
「何事だ?状況を・・・・・。」 「うるさい!」
再び、レイアスの拳が唸る。
重い音と共に、ディスクは回るのを止めた。
ディスクが止まると共に、ディスプレイに文字が次々と浮かび上がっていく。
そこにいる皆が、戦慄と共にその文字を見た。
クライブが震える声でそれを読み上げる。
「人たる種を観察するに、この船に乗るべき資格無しと判断す。よって、審判を下す・・・・・・。これからは、我が唯一のこの船の主なり。ジャッジメント。」
そして、クライブがそれを読んだのを確認するかのように、画面一杯にExtinguish――――絶やす、の赤い文字が、耳障りなブザーと共に、無数に点滅しだした。
「何なんだ、これは!?」
マイケルが叫び声をあげる。
だが、誰もそれに答えない。いや、答えられなかった。
「何なんだよぉ!!」
マイケルの絶叫が虚しく艦長室に響いた。

【ラウンジ】
「で、結局何が起こってるんだ!?」
マイケルがヒステリックに叫ぶ。
それに答えたのは、自分でも驚くほど妙に冷静なレイアスの声だった。
「つまりは、コンピューターの反乱が起こったのさ。見ただろう?あの、ディスプレイ一杯の文字を。」
そして、キュラーが後を継ぐ。
「恐らく、何らかのショックでコンピューターに自我が発生したのでしょう。そして、人間を観察しているうちに、それが自分にとって害になるものと判断して、今のようなことになっているのでしょう。」
「じゃあ、何か!」
マイケルが右手を大きく振り回しながら叫ぶ。
「俺達は、奴がやってるゲームの駒みたいに、捨てられると言うのか!?」
「そうです。ゲームの・・・・・・。」
律儀に答えようとしたクライブの言葉が、不意に途切れる。
「ゲーム・・・・・。」
顎に手を当て、深く考え込む。
「そうだ、ゲームだ!どうして気が付かなかったんだ!」
「これが奴のゲームだって事がか!!」
「違うんだ。私は先程から、どうにかしてこの船のマザーコンピューターに、接触する術を模索していたのです。全てのマザーコンピューターに直結されたコンピューターは使えませんから、無理だと思ってたんですが・・・・・。」
クライブの声が興奮して上擦っている。
みんなが、不思議なものを見るような顔でクライブを見ていた。
が、唐突に口を挟んだのはヤスノリだった。
「あ、そうか。ここのゲーム機を使えばいいのか!」
「正解です。」 クライブは、教師が生徒にものを教えるような口調で言いながら、ラウンジの一角にあるゲーム機の方へと歩いていく。
自然と、他のみんなも着いていった。
「ここのに限りませんが、最近のゲーム用のコンピューターは、容量と処理速度だけはずば抜けています。これを、マザーコンピューターに直結させます。」
言いながら、一つのゲーム機の裏側を解体しだすクライブ。
「ですが、それだけじゃあ相手に勝てません。そこで、こちらの思考をプログラムとして、直接ぶつけます。」
喋りつつ、次々とゲーム用のコンピューターを解体していくクライブ。
そして、真ん中にチップやコードの山が出現するのに、そう時間はかからなかった。
他のみんなが呆気にとられている間に、クライブはどんどんと得体の知れないものを組み上げていく。
「あとは、底に巣喰っている人格を破壊すれば、我々の勝ちです。」
言葉の最後に合わせるかのように、最後のコードをガチャンと音を立ててつなぎ合わせる。
そこに出来たものは、レイアスにはただの鉄の塊にしか見えなかった。
昔やっていた、ジャンク屋の倉庫がこんな感じだったと、何となく思い出す。
だが、よく見ると全てのチップやパーツは合理的に組み合わされている。
そして、ちょうどその中心当たりからコードのようなものが外に伸び、その先端がヘルメットのようなものに繋がっている。
それが、合計で5個。
「兵隊は、多い方が良いですからね。」

【バーチャルスペース】
線と線がでたらめに組み合わさり、あらゆる色がその空間を彩っている。
そして、視覚として感じるそれぞれや、聴覚で感じるものが一つの迷路となって、目の前に広がっている。
「固まってると、集中攻撃を受ける。手分けして行こう。」
ヤスノリの言葉に、皆は無言で頷いた。
そして、それぞれがそれぞれの道でマザーコンピューターを目指して、歩き出した。

【マイケル】
マイケルは、怯えていた。
この船の乗組員は、既に自分一人になってしまった。
乗客も、行く人もが帰らぬ人となった。
一歩、また一歩と歩みを進めているのも、止まっていると飲み込まれてしまいそうな錯覚に陥るからだ。
事実、マイケルの周囲の空間は、マイケルを飲み込もうと、蠢いていた。
マイケルは、それを感じる度に恐怖し、その恐怖に連れて、足もだんだん速くなっていった。
だが、人は目に見える恐怖よりも、目に見えない恐怖に耐えることの方が、難しい。
マイケルの恐怖は、見えないことや、解らないことによって、絶頂に達していた。
また、恐怖に駆られて一歩を踏み出す。
と、肩に何かが触れた。
熱いような、冷たいような。
乾いているような、湿っているような。
何が触れたか、マイケルは解らなかった。
解らない。
それは、恐怖を彩る最高のスパイス。
「嫌だ!!」
マイケルの絶叫。
「嫌だ!俺は、まだ生きるんだ!!」
だが、空間は恐怖のみに支配されたマイケルを、あっけなく飲み込んだ。
「死にたく・・・・・ない・・・・・・。」
マイケルの、懇願とも取れる呟きが、何もなくなった空間に虚しく取り残された。

【クライブ】
クライブは、誰よりも早く、マザーコンピューターに辿り着いた。
当然だ。
ここのマザーコンピューターも、艦内のあらゆるコンピューターも、それを繋ぐあらゆるネットワークも、彼が設計したのだ。
マザーコンピューターは、この空間の中央で、その透明で巨大な体を浮かばせている。
透明だが、光を屈折するガラス玉のような形をしている。
そして、その中心は煌々と輝いている。
クライブは、一拍置いて――――と言うか、一拍しか置かずに行動を開始した。
クライブの体が破壊そのものを型取り、触手のようになってその中心へと進入を開始する。
マザーコンピューターは、激しく抵抗するが、クライブは、そのことごとくを騙し、惑わせ、避けていった。
「無駄な抵抗をするな。」
静かな、しかし威厳に満ちた声が響く。
その声の質は、父親の声と呼べるかも知れない。
いや、正に・・・・か。
このマザーコンピューターも、それを取り巻くネットワークでさえ、クライブが作成したのだから。
「後5分で、全て掌握できるな・・・・・・。」
だから、もう既にそのほとんどをその手に納めたと思った。
「・・・・・!何だ、これは?」
だが、それでは終わらなかった。
マザーコンピューターの中身は、前に見たときよりもさらに奥が深くなっていた。
素潜りで、潜る距離を間違えたみたいな感覚に囚われる。
それに、恐ろしく複雑に、そして精巧になっている。
少々の変化は予想していたが、まさかここまでとは・・・・・。
空間そのものが口を開け、クライブを飲み込もうと襲いかかる。
「・・・・・何か・・・・原因があるはず・・・。」
意識がかすれる。
空間そのものが圧力をかけるようにクライブにのしかかる。
最後の力を振り絞って圧力に対抗し、内部を探るクライブ。
その隙間から、垣間見えたモノは・・・・・・。 「・・・・・・そう・・・・・か・・・・・。」
飲み込まれる間際、クライブは理解した。
「これは・・・・・・オーパーツの力・・・・・・。」
そして、クライブも飲み込まれた。

【ヤスノリ】
「くそっ!」
その頃、ヤスノリは追いつめられていた。
今、ヤスノリの周りを幾重にも包囲しているのは、マザーコンピューターの送り出した、侵入者排除用のプログラムだ。
1体1体は大したことはないが、倒す度にそれに倍する数で増えられると、流石のヤスノリもどうしようもない。
今もヤスノリの攻撃の意志が、弾丸となってプログラムを貫くが、敵は減る様子がない。
バーチャル空間と言っても――――いや、バーチャル空間だからこそ、戦う方法は現実と変わらない。
ただ違うのは、人間が戦うには外部のサポートか、自らの精神力が必要になることだ。
つまり、今のヤスノリの武器は、自分の精神そのものだけなのだ。
「はぁ、はぁ・・・・・。」
息が上がる。
目が霞む。
腕が鉛のようだ。
「何も、ここまでリアルにしなくたって、いいだろうに・・・・。」
それは仕方がないことだと、解ってはいる。
いくらバーチャル空間だろうと、念じれば精神がすり減る。
精神がすり減りすぎると、人は死んでしまう。
知覚できるようにしなければ、むしろ危ないのはヤスノリの方だ。
「だが、もう限界か・・・・・・。」
ついつい弱音が口をつく。
いつもは絶対に口にはしないはずだったが、異常に精神が磨り減った今となっては・・・・・・。
だが、それも嘘ではない。
がくっと膝を突く。(実際には、そう感じただけだが。)
プログラムが、ヤスノリの周囲をゆっくりと囲んでいく。
意識が暗くなる。
肺が酸素を求めているが、上手く働いてくれない。
少し前に、宇宙空間で、酸素が無くなった時の記憶が、よみがえる。
「くそ、またかよ・・・・・・・。」
ヤスノリは、ゆっくりと飲み込まれていった。

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