JUDGMENT 下る(下)
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【レイアス】
「ここは、何処だ?」
レイアスは、迷っていた。
「おっかしいなぁ。」
何処を通っても、真ん中にはマザーコンピューターがある。
普通の人間なら、迷うはずはなかった。
ちなみに、レイアスは方向音痴ではない。
しかも、怪しい霧まで出てきた。
バーチャル空間で霧が出るというのは、があったような気がする。
だが、それが何なのか、またはそれがどう言ったときに出るのか、思い出せない。
危険なモノだったような気がする。
ことによると罠かも知れないが、今のレイアスにはどうすることもできない。
とりあえず前進することにする。
今までだってそうしてきた。
そうすることによって、何かが解決したとは限らないのが、悲しいところではあるのだが。
「あれ?」
前の方に、人影が見える。
しかも女性のようだ。
「おーい!」
何も考えず、とりあえず大声で呼んでみる。
と、どうやら開いてもこちらに気付いたらしく、こちらを振り向いた。
振り向く頃には、相手の顔が識別できるくらいまで近づけた。
「何だ、キュラーじゃないか。」
それはまさしく、入り口で分かれたキュラーだった。
「レイアス、探していたのよ。」
いつもより、表情が軟らかい気がする。
電脳空間だから、そう見えるのか?
「この霧だけど、とても危険よ。とりあえず外に出て、何か他の方法を探しましょう。」
なにか、切羽詰まったような声と顔。
「ああ、そうだな。他のみんなは?」
何だろう?何か・・・・・。
「大丈夫よ。みんな、危険に気が付いて、きっと戻ってるわ。早く戻りましょう?」
ああ、そうか。
「そうだな。」
頷き、一歩だけ前に足を進めるレイアス。
と、キュラーの様子が変貌する。
そう、まるで別のモノに。
だが、それまでだった。
それの中央を、白い光が突き抜けている。
「変装は・・・・・完璧だったは・・・・ず・・・。」
声さえも、今までと全く違う。
まるで、男と女が同時に喋っているかのような、耳障りな声。
「外見は、完璧だったさ。だが、心までは写しきれなかったな。キュラーは、そんなに感情を表す術を知らない。感情は持っててもな。」
白い光は、いつの間にかレイアスが持っている光剣のものだ。
もっとも、それもレイアスの精神によってる作り出されたモノなのだが。
ふっと、光が消える。
それにあわせて、光に貫かれていたモノが、どさりと落ちた。
「ばかな・・・・・そんな理由で・・・・?」
「理由はまだあるさ。お前は、仲間を放って逃げようと言っただろ?キュラーなら・・・・・。」
そこまで言って、それが跡形も残さずに消え去っているのに気が付いた。
霧が晴れる。
少し先に、キュラーが横たわっているのが見える。
あれは、本物だ。
根拠は無いけれど、解る。
「キュラーなら、そんなことは言わない。俺が仲間を見捨てられないって、知ってるからな。」
レイアスは、そんなセリフに一人で照れて、辺りをきょろきょろと見回した。
【レイアス&キュラー】
「これが・・・マザーコンピューター・・・・。」
「そのようですね。」
レイアスの掠れた声に、キュラーの声が続く。
周囲の空間がねじ曲がっている。
光がねじ曲げられたように、それは透明なのに、異常な存在感を持っている。
じっとしていると、押しつぶされそうだ。
「はっ!」
試しにとばかりに、レイアスの攻撃の意志がそれを貫こうとしたが、あえなく弾き飛ばされる。
それを合図にしたかのように、マザーコンピューターの攻撃が始まった。
無音の風が、凄まじい圧力で圧迫してくる。
あるいは、熱のない炎が、燃やし尽くそうと舌を伸ばしてくる。
あるいは、閃かない稲妻が、光の速さで打ちのめそうとしてくる。
あるいは、凍えない吹雪が、全てを奪い去って吹き抜けてくる。
「し、洒落になるかぁ!!」
五体が、精神を離れてバラバラになろうとしているかのようだ。
レイアスには、キュラーの方を見る余裕さえない。
「く・・・・っそぉ!」
苦し紛れに攻撃を放つが、まっすぐに飛んでいったようにも見えない。
攻撃を止め、せめて身を守るために精神を総動員して、嵐のような攻撃に、何とか耐えるレイアス。
視界が、ブラックアウトする。
燃える、燃える、燃える・・・・・・・・・・・・・。
大きな建物が、目の前で燃えている。
行かなきゃ。
何故だ?
それは・・・・・・・。
何故だったろう?
血の海が広がっている。
その中央に、物言わぬ骸の頭。
殺そうとした・・・・・・。
爆光。
閃光。
戦場の硝煙の匂い。
お前は、何人殺した?
俺は、何人殺した?
何故、殺す?
信念のため、だったのだろうか?
お前は、そのためならば人を殺せるのか?
人の命とは、その程度の物なのか?
キュラーが、目の前にいる。
髪が微妙に顔に影を落とし、表情までは見えない。
そして、ヤスノリが少し離れたところにいる。
手を鎖に繋がれ、吊されている。
こちらも、表情までは解らない。
手のひらに、硬い感触。
見ると、使い慣れた光剣。
殺せ。でないと、親友が死ぬぞ。
出来ない。
親友を見殺しにしろ。ならば、彼女は助かる。
出来るわけがない。
何故だ?前は、躊躇い無く殺したじゃないか。
あれは、偽物だった。
これも、偽物かも知れ無いぞ。
腕を、上げる。
光剣が、レイアスの真上に垂直に立てられる。
そうだ、殺せ。
殺すんだ。
親友を救うためなんだ。
仕方がないんだ。
だが、レイアスの光剣はその二つと全く違う方向に振り下ろされた。
闇を切り裂く、光の刃。
確固たる、意志が乗った。
出来ない!
ならば、お前の親友が死ぬぞ。
「させない!どちらとも、守ってみせる!!」
レイアスの絶叫がこの底無しの奈落のような闇に響く。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
沈黙。
そして、ヤーマ(閻魔大王)の最後の審判は下される。
「よかろう。我は、お前達を認めた。もう一つの試練を越えた後は、好きにするがよい。」
どれくらい、時間がたったのだろうか?
まだ生きているということは、そんなに時間はたってないようだが。
立ち上がってみる。
少しフラフラするが、まだまだ大丈夫なようだ。
キュラーがすぐ側に立っている。
「よぉ、レイアス。大丈夫だったか?」
「ヤスノリ、お前・・・・・・って、うわぁ!」
振り向いたレイアスは、盛大に驚いた。
そこに立っていたのは、ヤスノリではなく――――いや、ある意味ヤスノリ本人なのだが・・・・。――――ヴァンブレイズの巨体だったのだ。
「私が呼んだのです。ついさっき、偶然アストライアーさんが囚われているのが見えたの。」
「それで、アストライアーが、飲み込まれた人間をみんな連れだしてくれたってわけだ。」
ヴァンブレイズの左手の上に、マイケルとクライブがひょっこりと顔を出す。
大分消耗しているようだが、生命に異常はあるまい。
「じゃあ、マザーコンピューターは?やっつけたのか?」
ヤスノリがかぶりを振る。
「いや。やつは、突然の反撃で狼狽えているだけだ。すぐに気付く。」
それだけ、だったろうか?
何か、大切な何かがあったような・・・・・。
そして、キュラーが続ける。
「ですが、リテイナーの操作を取り戻しました。これで、脱出できます。」
「それだけ揃ってるんなら、上出来だ。脱出しよう!」
【格納庫】
レイアスとヤスノリは、手早くそれぞれのリテイナーに乗ると、起動準備をあっと言う間に終わらせた。
マイケルはヴァンブレイズに、クライブは白炎に、それぞれ乗っている。
リテイナーは旅客用ではないので、少々窮屈になるが、それも仕方がない。
「白炎、ドライモードで起動!!」
レイアスの声にあわせて、白炎の機体がすっと高速飛行形態に変形する。
そして、純銀のフィールドが白炎を包む。
いつもは薄緑色なのだが、この時ばかりは白く見える。
「行くぜ!!」
ハッチをぶち破って、白炎の機影が白く輝く。
【宇宙空間】
続いて、ヴァンブレイズも、そのしなやかな身体を、ジャッジメントから抜け出させる。
「レイアス!何かやるんなら、言ってからやれ!!」
「あ、すまん。」
よく見ると、ヴァンブレイズの装甲は埃を被っていた。
白炎の荒っぽい発進のせいだ。
「高エネルギー反応、増幅。どうやら、マザーコンピューターが気付いたようね。」
「いや、あれはジャッジメントのマザーコンピューターなんかじゃない。OZを初めとして、ジャッジメントを掌握したあいつの正体は・・・・・・・。」
白炎の一番後ろのスペースで、クライブが静かに言う。
だが、レイアスはそれを聞いていなかった。
ジャッジメントが、変形しているのだ。
その姿は、まるで巨大なリテイナー。
一般に、5大リテイナーの中で一番大きいのはGFとされている。
だが、ジャッジメントの大きさは、レイアスが見たどんな機体よりも巨大だ。
基本的にボディの色は白で統一され、茶色く長い鬣のような物が帯電しながら背中でうねっている。
しかも、装甲は生物のようにしなやかだ。
これだけの大きさだと言うのに、まったく違和感が無い。
「なんなんだ、あれは・・・・・。」
「奴の正体は、プログラム『ヤーマ』。私たちが運ぼうとしていた、オーパーツ。」
クライブの説明が終わる頃には、ジャッジメントはすっかりとその姿を変えていた。
通信が送られてくる。
開かれたディスプレイ一杯の「KILL YOU!!」の赤い文字・・・・・・・。
そして、それを宣戦布告に、ジャッジメントの攻撃が始まった。
赤く、図太い光線が咄嗟に横に避けた白炎の横を下から上に薙ぎ払う。
そして、それに伴う高エネルギーの奔流。
命中したわけでもないのに、レイアスは機体姿勢の維持に、神経を使わなければならなかった。
「当たれ!」
その間に、ヤスノリがヴァンブレイズのフォトンライフルの照準を合わせ、立て続けに発射する。
フォトンライフルの力強い弾丸は、しかしジャッジメントに届く寸前にその威力を大きく減じていた。
大したダメージになっていない。
「ビームフィールドか?」
「違います。それよりも耐久力があります。ですが、原理は同じです。」
キュラーの簡潔な答えが、レイアスの疑問に、すぐに続く。
「なら、アインス、通常白兵戦形態にチェンジ!」
人型にその姿を変える白炎。
その両手には、刃がビームで出来た大きな鎌を装備している。
「これなら効くだろ!」
ブースターで加速すると、一気にジャッジメントの腕に斬りつける白炎。
だが、思うようなダメージにならない。
装甲が、半端じゃなく厚いのだ。
「危ない、レイアス!」
ヤスノリが叫ぶのと、ジャッジメントの右腕が大きく横薙ぎに払われるのは、ほぼ同時だった。
ジャッジメントの右腕自体は、レイアスと関係ない方向を横切ったが、まるで雷撃のようなプラズマが白炎の全身を包む。
「うわあああぁぁ・・・・・!!!」
どちらかというと、リテイナーのパイロットにダメージを与えるための攻撃だったのだろう。
白炎の外見には全く変化がない代わりに、コクピットは凄まじい有様だ。
「レイアス!」
ヤスノリのフォトンライフルがジャッジメントの各所を貫く。
が、それもむなしく、正体不明のフィールドに遮られて、大きく威力を削ぎ落とされてしまう。
「レイアス!!」
「大・・・丈夫だ。今、目が覚めた。」
すぐに間合いを取るレイアス。
「キュラー、大丈夫か?」
「はい。ですが、クライブさんが危ない状態です。」
そう言うキュラーの声も、少し辛そうだ。
ファティマは、人間よりも電撃に弱いと聞く。
恐らく、無理をしているのだろう。
「キュラー。このままじゃ、負けてしまう。相手の弱点をサーチしてくれ。」
「しかし、それでは動きが・・・・・。」
サーチに力を裂けば、それだけ白炎の動きが遅くなる。
キュラーの顔が、不安げだ。
最も、キュラーがこう言う歳相応の女らしい表情をしたときに限って、レイアスはそちらの方を見ていないのだが・・・・。
「言っただろ?このままじゃ、負ける。」
「・・・・・・・解りました。」
「聞いたぜ、レイアス。」
唐突に通信。ヤスノリからだ。
「俺がサポートするから、安心しろ。」
「へへ、ありがとよ。」
「ふん、貸し一つだ。」
言いつつ、けん制に向かうヤスノリ。
そして、これも唐突に白炎の動きが鈍る。
サーチに力を大きく裂いているからだ。
だが、これ以上攻撃を喰らうわけには行かない。
喰らえば、自分はともかく、クライブの命が危ない。
いや、キュラーも、恐らく。
再び、赤い光線が縦に宇宙空間を薙ぎ払う。
「くっそ、近づけやしない!」
ヤスノリが、サーチの為に動きの鈍っている白炎を、それとなくカバーしてくれている。
そうして、何10発目かの赤い光線をかわした時。
「見つけました。光線を発射しているところです。」
「よくやった!ヴァンブレイズにもデータ送信してくれ!」
「了解。」
赤い光線がまた迫ったが、元の動きを取り戻した白炎は、軽々と避けてみせる。
「そこだ!」
そして、その光線の合間を縫って、ヴァンブレイズのフォトンライフルが光を放つ。
その光は、狙い違わずジャッジメントの腹部にある弱点を、正確に貫いた。
だが、それでもジャッジメントは、動きを止めなかった。
口と思われる場所が大きく開く。
「ツヴァイ、重装備形態にチェンジ!」
ジャッジメントの動きを見て、白炎も変形する。
『アインス』が火力と移動速度のバランスを一番に考えられた機体なのに比べ、『ツヴァイ』は、火力を上げるために、他を全て犠牲にしている。
白炎は、背中に取り付けてある愛用のライフル、ヘル=フレイムをその両手に構えた。
静かに、にらみ合う両者。
「おい、これが言っていたもう一つの試練って奴か?」
レイアスが、相手に向かって静かに語りかける。
相対するものは、答えない。
「なら、乗り切ってやるよ。何回でもな!」
そして、動いたのは同時だった。
ヘル=フレイムの白い光と、ジャッジメントの口からの赤い光線が、同時に火を噴く。
二つの光線は、ちょうどその中間地点でぶつかり合うと、盛大に火花を散らした。
二つの力が押し合い、互いに飲み込もうと、蠢く。
だが、だんだんレイアスの方が押されてきた。
じりじりと、赤い光線がこちらに向かっている。
「う、お、おおおおぉぉぉ!!!」
その瞬間、レイアスの中で何かが弾けた。
「見せてやるぜ、俺の強さ!!」
ヘル=フレイムから放たれた光が、急に通常の倍する太さと輝きを放つ。
技能、直感が発動したのだ。
白炎のはなった攻撃は、単純に二倍の威力を発揮する。
この輝きは、それだけではないようにも見えるが。
「いけえぇぇ!!」
白い光線は、赤い光線ごとあっさりとジャッジメントを飲み込んだ。
「敵機、消滅しました。」
期せずして、キュラーの声とアストライアーの声が重なる。
そして、レイアスとヤスノリは、同時に大きな溜息をついた。
見ると、日本の時間に合わせていた時計の針が、ちょうど0時を指していた。
やっと、この長い日が終わったのだ。
すぐ近くの惑星の影から恒星がゆっくりと顔を出し、白炎とヴァンブレイズの機体にその透明な光を浴びせかけた。
【シャングリラ、医療センター】
「で、結局何が何だったんだ?」
白い壁、白いベッド。
繰り返すが、レイアスはこういう空間が嫌いだ。
だが、入院している当の本人なのだから、そうも言ってられない。
頭に包帯を巻いたレイアスは、この部屋の真ん中のベットで半身を起こしていた。
3人部屋の左右では、クライブとマイケルがだいたい似たような格好でベッドに寝ている。
そして、レイアスを囲むようにキュラーとヤスノリがそれぞれ立っている。
「つまり、オーパーツの力によってジャッジメントは暴走。人類を抹殺しようと、手近にあった材料で武器を作って、活動を始めたというわけ。」
「直接接続していたコンピューター、OZを媒介にな。」
キュラーの感情が少ない声の後に、憎々しげなクライブの声が続く。
「で、そのオーパーツは、何だったんだ?」
これはヤスノリ。
「いつの時代の物かは解りませんが、ある種族が世界にとって有害であると判断すると、それに対して裁きを与えるためのプログラムです。封印されていたか、ただ保存されていたのかまでは、解りませんが。」
「なんだって、そんなもんを輸送してたんだ、あの船は。」
それで、これはマイケル。
「ああ、それなら想像がつくぜ。多分、全部オーパーツに操られてたんだろ。始めっから。」
「そういうことです。で、人という種を一番審査しやすいシチュエーションを作り出したのでしょう、きっと。」
はぁ、と溜息を付くレイアス。
「つまりは、精神的にも肉体的にも極限状態に追い込むことか。おかげで、せっかくもらった休暇が台無しだ。」
「まだいいじゃないか。俺なんか、ただ働きだぜ。燃料代やら何やらで、結局赤字だ。」
顔を見合わせる、ヤスノリとレイアス。
そして、同時に溜息。
と、クライブの脇に置いてあるコンピューターノート型のパソコンがピッと音を立てる。
ビクッとする、レイアス。
「ああ、メールが届いたみたいですね。」
クライブが、何やら操作している。
何となく、そっちを見やるレイアス。
我が名はヤーマ。
またの名を、閻魔大王。
人類という種が、最も致命的な間違いを犯しそうになったとき、私は再び目を覚まそう。
我が名は忘れ去られるであろうが、我はいつでも見守っている。
最後の審判を下す、その時まで・・・・・・。
「な・・・・!」
周りのみんなは、気付いた様子もない。
目を擦ってみる。
「幻覚・・・・か?」
幻覚ではないと、自らの脳が告げている。
奴は、滅びてはいない。
「どうしたの?」
キュラーが、少し心配そうに聞いてくる。
声の調子までは、そうもいかないみたいだが。
「いや、なんでもない。」
もう一度、パソコンのディスプレイに目をやる。
レイアスには、ディスプレイがニヤリと笑ったように見えた。
「なんでもないさ・・・・・・。」
レイアスはもう一度静かに呟くと、窓の外に目をやった。
空では、太陽がちょうど空の真ん中に差し掛かったところだった。
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