第4話 BROTHER、誕生(上)
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プロローグ:胎動せしモノ
炎が燃えさかるその中。
それはただひたすらに闇の中を漂っていた。
闇。
それはこの場にあり得ない筈だ。
すぐ側には炎。だが、それの周りだけ、たゆとうような。あるいは、澱んだような闇がその空間の一角を支配していた。
炎によって生じる光の真っ直中にあるというのに。
紅蓮の炎の真ん中にある漆黒の闇。
それはとりもなさず死そのものをイメージさせる。
あるいは、死によって生じる恐怖、か・・・・・。
恐怖はすなわち、それが生きていると言う事実さえも指す。
恐怖という感覚でリンクした、死と生。
その真ん中で行われていた作業は、再生にも似ていた。
それも、もう終わりを告げようとしている。
炎と闇の中から、それはゆっくりと身を起こした。
闇と光。
死と再生。
相乗し、相反する二つの真ん中に生まれたそれは、果たして生命体と呼べるのだろうか?
二律背反。
紙一重。
とにかく、それはゆっくりと行動を開始した。
ゆっくりと、確実に、正確に・・・・・・・・。
一:そこへ彼らはやって来た
爆炎の音、硝煙の匂い、時折閃く光線の煌めき。
そして血の飛沫く音、むっとするような血の匂い、ドロリと流れる血の赤黒い色。
第17太陽型星系、惑星ゴルダリア。まさしくそこは戦場の真っ直中だった。
ゴルダリアは、数百の国家に分かれた人類の移住可能な17番目の惑星(正確に言えば星系)である。
今、その中でも大勢を占める国家の内の、グラナリアとヴェリルが激しく交戦しているのだ。
戦争の起こった理由は、1年前に始まったとされる、この惑星上での深刻な経済危機だった。
他の国家は有り余っていた資源やそれまでに蓄えたもので何とかしたのだが、幾つかの国家が食べるのに困って侵略戦争を開始したというわけだ。
言ってしまえば、地球の世界史における世界大戦のような状況が起こっているというわけだ。
普通、宇宙で戦争が起きたときは銀河連邦がしゃしゃり出てくるものだが、ゴルダリアが太陽系からあまりに不便なところにあるため、まとまった戦力が送れないでいる。
ゴウッ!
その戦場の阿鼻叫喚の中を、数十機のリテイナーと一つの輸送船が疾駆していた。
それらは、大きく分けて二者に分かれる。
輸送船を追う者と守る者だ。
輸送船の中には、運んできた資材が山積みになっている。
戦争が始まったので、この星のMHK研究所への護衛にMHKの職員が駆り出されたのだが、レイアスとりるの担当になった研究所は、彼らが赴いたときには壊滅しかけていた。
仕方なく、資料をまとめて引き上げる途中にこの襲撃だ。
数の上では、守る側の方が圧倒的に不利だった。
守る側のリテイナーは2機しかいないのに対し、それを襲う側のCKの数は数十。
しかし、それ相応に守る側の腕と機体の性能は、半端ではなかった。
守る側のリテイナーの内、薄緑色のCKの名は白炎。パイロットはレイアスとキュラーの二人組だ。
もう片方の薄赤く発光する剣を二刀流に構えている、猫を模した機体の名はニャインドウォーリアーツヴァイ。略して、NWツヴァイである。
この猫のような機体は、MWに酷似した性能を持っており、異世界ウルサーの物である。
そしてそれには、そのウルサー世界の一国、リュシアーナの王族である、りる・るうりに仕える剣術指南役のファーサ=ルシアが搭乗している。
ウルサーの人間は例外なく半猫半人間で、ファーサもその例外ではない。
「キュラー、今ので何機目で、残り何機だ?」
これはレイアスの声だ。
赤い髪を無理矢理後ろで縛り付けている。
「倒した数は9機。ファーサさんが倒したのが15機です。残りは、レーダーが邪魔されてよくわからないけど、その倍近くよ。」
レイアスの声に、眉一つ動かさず冷静に答えたのがキュラー。ストレートの黒髪がよく似合う美女だ。
ただ、何故かその顔は作り物めいて見えるかも知れない。
実は、彼女はファティマと呼ばれる、人型で人格まで有する戦闘用のスーパーコンピューターなのである。
「倍近くじゃなくて、ちょうど倍います。」
二人のやりとりにさり気なく突っ込みを入れたのは、ファーサだ。
その口調からも、根の真面目さと几帳面さが伺えるようだ。
それまで、幾多の修羅場を乗り越えてきた二人の戦いぶりは、凄まじかった。
レイアスがフェイントをかけた相手をファーサが真っ向から真っ二つにし、ファーサが足を切り落とした機体の胴体をレイアスの放ったビームが貫く。
弾数の限られているレイアスのビーム砲や、持ち主の精神力を消費して刃に変えて絶大な威力を誇るファーサのマインドソードには、無駄な動作は一切許されない。
襲撃者側にとって、所詮、量産型の機体を与えられた兵隊が彼らを倒すことなどは夢のまた夢なのだ、とでも言うかの如く、二人の戦いぶりは、まるで修羅そのものに映った。
だが・・・・・・・。
数の上での劣性は、如何ともし難かった。
いくら相手の攻撃を避けることが出来るとは言っても、こちらには足の劣らないまでも、大きさだけで絶好の的になってしまっている輸送船がある。
これを守ることが今の仕事である二人にとっては、これを撃墜されるわけには行かない。
この数では、二人にはそのハンデは少し大きすぎた。
ガギンッ!
「ち、しまった!」
流石に避けきれず、流れ弾同然のマシンガンの弾を脇の辺りに被弾してしまった。
「大丈夫ですか、レイアス殿?」
ファーサの声は、あまり心配している風ではない。
仮にもシニアランクの腕を持つものが、先程の攻撃くらいでそう簡単に墜ちる筈がないと、知っているからだ。
「まだいけますよ。キュラー、機体の損傷状況は?」
「装甲板に歪みが生じただけです。ただ、同じ場所にもう一撃来ると、恐らく内部機構にダメージが入ります。」
内部機構に損傷。それは、戦闘不能になる可能性大と言うことを指す。
輸送船に、ハイエナの如く群がる敵の包囲網が、だんだん縮まってくるのを、どうしても防ぎきれない。
が、しかし。そこでそれは唐突に起こった。
ドバッ!!
襲撃側のCKのど真ん中で、突然轟音と共に盛大な土煙が上がったのだ。
「ひっさぁつ、猫旋風[ねこつみゅじ]!!」
ズガガガガガガガガガガ・・・・!!
そして、緊張感のない、しかし力強い掛け声と共に、無数の刃が、その土煙の中心からCKの一団へと襲いかかった。
無数の刃の正体は、MWの装備の中でも特殊な部類に分類される、レッグリッパーという武器だ。
通常、レッグリッパーは、リテイナーの足を壊し、機動力を殺すために使われる武器である。
だが、装甲の薄い量産型CKたちは、両足と共に胴体までもをその刃の餌食とされて飲み込まれていった。
それを放ったのはライトブルーの猫のような機体、NWツヴァイの本家本元、NW[ニャインドウォーリアー]である。
そして、そのパイロットこそが異世界ウルサーの王族にしてMHK5本の指に入ると言われるMW(NWだが)使いの猫耳美女、りる・るぅりなのである。
りるの奇襲で、一気に5機ほどの襲撃者側のCKが戦闘不能に陥り、後のほとんどの機体が咄嗟の状況に対処しきれないといった風に一瞬の隙を見せた。
「そこ!」
ズガッ!
その一瞬の隙に、りるはたった一機のCKを特定し、その胴体をあっと言う間にマインドスライサーで貫いていた。
そのたった一機のCKこそが、この襲撃者側のリーダーだった。
ちなみに、マインドスライサーとはマインドソードの遠隔攻撃版と言った感じの武器だ。
りるは、この武器と先程登場したレッグリッパーに特別な思い入れがあるらしく、よく使っている。
それはそうと、りるの声がNWツヴァイと白炎の通信機から響く。
「今よ。敵が混乱してるうちに、やっつけるにゃ!」
りるの狙いは、初めからここにあったのだ。
すなわち、一瞬の事態の乱れを真っ先に解決しようと動いたリテイナーこそが、この襲撃者側のリーダーであり、それを倒すことによって混乱を誘う。
真っ向から剣で挑むと言うことを嫌い、どちらかと言うと奇襲戦法を得意とするりるのその目論見は、見事に的中した。
混乱しきったランクもない有象無象の量産型リテイナー達では、いくら数が勝っていようとも、シニアランク以上のリテイナー3機に適うはずもなかった。
その後、混乱しきった襲撃者側リテイナーは、防衛側のリテイナーによってあっさりと撃退され、追い散らされた。
「助かりましたよ、りるさん。一時はどうなることかと思った。」
「えへへへ。」
レイアスがそう言うと、りるは耳を嬉しそうにピコピコ動かした。
襲撃者を撃退した後、一同は先程の輸送船のブリッジに集合していた。
レイアスが敬語なのは、ほんの少しだけりるがMHKにおける先輩であるからである。
「りる様、あんな奇襲作戦など用いなくとも、リュシアーナの王位継承者として、正統派剣術で正々堂々と戦って勝っていただかなければ、困ります。」
「う〜、良いじゃない。上手くいったんだから。ファーサは真剣勝負にこだわりすぎなのよ。」
「まったく、どうしてそう普通の剣での戦いを毛嫌いなさるのか。そもそも・・・・・・。」
「そんなことより、そろそろお腹空かない?お腹が空くと、怒りっぽくなるって言うし。キュラー、今日の夕食は何?」
「りる様!!」
いつものようなとりとめもない会話。
りるのまわりは、いつでもこんな感じだ。
たとえ相手が誰であろうとも、たちどころに雰囲気を明るくしてしまう。
それが所長のようなお偉いさんでも。いや、たとえ刃を交える相手だったとしてもだ。
りるは、そんな不思議な魅力を持った少女だ。
ファーサは口うるさく言っているが、レイアスはりるが今の性格のままで王様になるのなら、それはそれで良いことなのではないか、と思う。
だが、話を振られたキュラーはそれどころではなかった。
それまで、通信機やらレーダーやらに取りかかっていたキュラーが、顔を上げてみんなの方を見た。
「皆さん・・・・。」
表情はいつもと変わらないが、心なしか顔が青くなっているようだ。
「今晩の宿泊先に決めていた都市からの連絡が、途絶えました。」
『なんです(だ)って!?』
みんなの驚きの声は、見事にハモって室内に響いた。
二:闇はその深さを垣間見せる
「ひどい・・・・・。」
それが、誰の呟きだったか知らないが、その街は凄まじい有様だった。
建物には、盛大に傷が残ってあったし、田畑の作物も根こそぎ焼き尽くされていた。
自警団の物らしきCKは見るも無惨に破壊されており、各体のパーツは奇妙にねじくれている。
輸送機の上からではよく見えはしないが、うっすらと蛋白質の焼ける嫌な匂いまでしてくる。
「キュラー、降りて生存者がいないか、見てくる。」
「ミノフスキー粒子濃度が異常なほどに高いので、何が潜んでいるか解りません。気を付けて下さい。」
「ああ、分かった。」
「あ、あたしも行く。」
「では、私も。」
レイアス、りる、ファーサの3人はそう言って輸送機を降りた。
が、生存者に関しては、絶望的だった。
少なくとも、レイアスはそう思っていた。
レイアスは、何度かそんな場面を見てきたから分かるが、これは、『戦闘』があった後ではない。
『虐殺』や『狩り』が行われた跡だ。
そんな中に、生存者が居る方が奇跡であろう。
「くそっ!」
ドガッ!
体の中で抑えきれなかった怒りが、蹴りという形で建物に発散される。
もっと自分が強くて、先程の襲撃者をもっと早く倒せていれば、少なくとも現場に到着できたかも知れないと言う考えが、余計に気を重くする。
「レイアス、気持ちは分かるけど、物に罪はないにゃ。」
りるがレイアスを慰める。
この不思議な魅力の猫娘のまわりは、何かの魔法でもかかっているのだろうか?
レイアスは、自分の心が不思議と静まっていくのを感じていた。
「・・・・・そう、ですね。」
「あやまる方向が違うニャ。」
「りる様、下らないことにこだわらないで下さい。」
「そっちこそ、つまんないことにこだわんない、こだわんない。」
だが、そんなりるの不思議な魔力も、りるがふと開けた扉の中身をみんなで見てしまったときに、吹き飛んでしまった。
「な・・・・これは・・・・・!?」
りるが開けた、体育館のような建物の中には、おびただしい量の血と肉、そして半端でない死臭が漂っていた。
恐らく、全て人間だったものだろう。
それらはまるで、食い散らかした食べカスが、無造作にゴミ箱にでも放り込まれたかのようにも見えた。
「キャーー!」
かなりテンポが遅れて、りるの悲鳴が響く。
急いで扉を閉めるレイアスとファーサ。
見ると、りるはペタンと尻餅をついてしまっていた。
こう見えて、りるは歴戦の戦士である。
レイアスよりも、場数を踏んだ数ならば勝るかも知れない。
死体などは見慣れているはずだった。
だが、今の光景は、今まで見たものの比ではないような、そんな気が、した。
完全に負の感情に支配された、死の空間。
まるで怨念のような。
いや、恐らく怨念そのものが込められていたのだろう。
呪術的な何か。先程の光景は、冷静に思い起こすと、それを含んでいたようにも思える。
レイアスが少しでも冷静でいられたのも、単にりるに先を越されてしまったからに過ぎない。
自分一人でこの光景を見てしまっていたら、果たして、レイアスの心は壊れずにすんだだろうか?
「りる様、帰りましょう。あとは、私とレイアス殿で探索いたしますから。」
そう言うファーサの顔も、青ざめている。
恐らく、この中で誰が最初に叫んでも、おかしくなかっただろう。
誰も、それを笑えはしないだろう程に。
この光景を実際に見て、それに疑問を持つ者が居るとしたら、それは既に人の心を失ったものだ。
ひゅるるるるる・・・・・
その時、突然、花火のうち上がるような音が、レイアスの前で響いた。
その音を聞いて、レイアスとファーサは、それが何であるか理解せずに体を動かしていた。
ただ一人、りるを除いて・・・・・。
それは、対人兵器が撃ち上がる音だった。
対人兵器とは、如何に人を効率よく、確実に殺すかを研究した武器だ。
ガスや爆弾、あらゆるものがそれに該当する。
黒い球状をしたその対人兵器は、一定距離空中に飛び上がると、破裂して辺り一帯にいる人間に鉄片を撒き散らす、と言うタイプだった。
打ち上げられた対人兵器は3つ。
レイアスは建物の壁を蹴って跳び、ファーサはりるをかばう位置で上空の対人兵器に携帯していた短剣を投げつけた。
ファーサの投げた短剣が一つの対人兵器を撃ち落とす。
レイアスの光剣が対人兵器の一つを真っ二つに切り裂く。
二人の動きとも、常人離れしていた。
レイアスは、自分の動きを会心の出来だとさえ思った。
が、一つ届かない。
レイアスの返す刃が、虚しく空を切る。
そのまま宙で影だけが交差し、通り過ぎてしまう。
「逃げろぉ!!」
「ダメ、腰が・・・・抜けて・・・・・。」
ただ一人で遅れたりるは、尻餅をついた姿勢から、全く動いていなかった。
先程の恐怖を、誰よりも一番受けてしまったりるは、動けなかった。
誰がこの状態になっても、おかしくはなかった。
いや、皆がこの状態になることの方が、あり得たはずだった。
だが、今はそれが致命的だ。
「りる様!!」
届かない。
後一つに、どうしても。
「く、当たれぇ!!」
不自然な体勢から、レイアスは光剣を、黒い球体に向かって投げつけた。
パン!
微かに、光剣がかすめる音がした。
だが、レイアスが落下に入るのと同時に、対人兵器の破裂音がした。
完全に止めることは出来なかったという事だ。
落下の痛みに顔をしかめるレイアス。
だが、レイアスはすぐに立ち上がると、周りを見回した。
あたりは、撒き散らされた鉄片がバラバラと転がっていた。
「ファーサ!?ファーサ!!」
りるの悲痛な叫びが聞こえる。
そちらを見ると、ファーサは、りるの上に覆い被さるようにして、倒れていた。
どうやら、咄嗟にりるを抱えて跳んだらしい。
背中には鉄片が突き立ち、両足から大量に血が流れている。
りるも全身にかすり傷を負っているが、ファーサほどではない。
二人とも、生きている方が不思議だった。
「大・・・・丈夫・・・・です・・・・・。」
ファーサは、とぎれとぎれに返事をした。
「MHK特製の防弾チョッキが、身を守ってくれましたから・・・・・。」
そう言って、ファーサはにこりと笑った。
この日、珍しくりるが泣きそうな顔をした。
三:深まる闇
「ああ、もう!取っても取っても、バグが無くならないわ!中のコンピューターから壊れてる武器なんて、初めてよ!!」
見ていると吸い込まれそうなほどの深い色の青い髪と瞳をした少女が、リテイナーのコックピットのハッチを全開にして、わめいている。
勝ち気そうなその少女の名は、シェラル=草薙。
銀龍技術開発研究所に所属し、PTシューティングスターを駆る、腕利きのテストパイロットだ。
と、その声に突っ込みが返ってくる。
「イカレてるんじゃなくって、さっきの戦闘で壊したんじゃないか。新型のナックルのテストだとか、張り切っちゃってさ。」
こちらもMWのコクピットハッチを全開にして、ぼやいている。
こちらの名は、ゾアメルグスター。
MWフィーリアンのパイロットで、フリーで腕を上げてきた者だ。
今は、戦闘後の小休止と言ったところだろうか。
二機とも、地面に着地して休息をとっている。
シェラルのわめきは、ゾアメルグスターのぼやきを聞かなかったかのように、止まらない。
「それに何よ。補給は絶対的に足りないし。」
「それはしょうがないんじゃないかな。この星、戦争やってるみたいだから。」
「せっかく助けてあげた輸送船は、持ち合わせがないの一点張りだったし。」
「勝手に飛んできたのは、シェラルさんの方だと思うなぁ。俺は。」
「挙げ句の果てには、何故かこちらを見る兵士、見る兵士が何処の所属かに関わらず襲いかかってくるなんて!」
「喜んでたんじゃなかったっけ?武器のデータが取り放題だって。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
ぎぎぎと、シェラルはゾアメルグスターの方を向いた。
異様な迫力がある。
「ゾ・ア・メ・ル・・・・・?」
幸い、シューティングスターとフィーリアンは向かい合って座っているわけではなかったので、ゾアメルグスターには、シェラルの顔は見えなかったが。
「どうしていちいち私の言うことにけち付けるのよ。」
そこで、ゾアメルグスターは、初めて自分が知らずにぼやいていたことに気が付いた。
「・・・・・何だよ、その短縮の仕方。」
何となく話を逸らそうとするゾアメルグスター。
こんな二人が一緒にいるのは、実は単なる偶然だった。
シェラルは、ただ単にシューティングスターのチューンナップの具合をテストしに飛行しているところで、ちょうどいい具合にSOSをキャッチして飛んできただけだし、ゾアメルグスターも、何となく仕事がないかとふらっとやってきたところを、巻き込まれただけに過ぎない。
何故か目立つらしく、襲撃に継ぐ襲撃で、何となく一緒にいるようになってしまったのだ。
気が合ったと言うのも、一つの理由かも知れない。
二人の話す調子は、いつもこんな感じである。
「ゾアメルグスター、って長過ぎるのよ。それより、話をずらさないでくれる?」
話題をずらそうとしたゾアメルのささやかな努力は、無駄だった。今日のシェラルは、やけにしつこいようだ。
だが突然、そんな二人の会話を断ち切るように、シューティングスターの通信機がコール音を立てた。
しばらく、恨めしそうに通信機を眺めるシェラル。
「ほら、早く出ないと。」
対照的にゾアメルの方は、ほっとした顔つきだ
「こちら、銀龍技術開発研究所の、シェラル=草薙。・・・・・・・あ、なんだ。司令。」
どうやら、シェラルの通信の相手は、銀龍技術開発研究所の所長のようだ。
「ええ、無事です。え?今、なんて・・・!?」
突然、シェラルは素っ頓狂な声を発した。
「正体不明の敵に、街が次々に壊滅させられてる、って!?」
そしてその時、実にタイミング良く2機の通信機は、エマージェンシーコールをキャッチしたのだった。
「なんてこった。」
二人が到着したとき、街は既に崩壊しきっていた。
「間に、あわなかったみたいだよ。」
彼らは知る由もなかったが、それはレイアス達が見た光景と似通っていた。
・・・・・・「狩り」の行われた跡。
「ミノフスキー粒子の濃度が異常に高いから、何があるか分からないよ。」
二人とも、リテイナーから降りずに街の中心へと歩を進める。
「それにしても、おかしいわ。」
「何が?」
「ちょっと離れてたって言っても、SOSをキャッチしてから、そう時間はたってない筈よ。ここにだって自警団はあったみたいだし。」
シェラルが指す方向には、無惨に破壊されたCKの姿があった。
「なのに、どうしてあたしたちは間に合わなかったの?」
腕組みし、考え込むシェラル。
「それに、見た感じ死体が少なすぎない?」
言われて見れば、そんな感じもする。
確かに、もっと転がってても良さそうな物――――例えば、人の死体とかの数が、極端に少ない。
「ここを襲った奴は、何がしたかったの?」
「さあね。」
そんなことを言われても、ゾアメルはここを襲った本人ではない。
気の抜けた返事を返す以外、なかった。
「・・・・・・・・。」
それきり、シェラルは自分の考えに集中してしまった。
こうなると、ゾアメルにはどうしようもない。
せめて自分だけはと、レーダーに目を凝らす。
「あれ?今、何か光ったような・・・・・。」
ボゴッ!
突然、シューティングスターの真後ろに銀色の物体が現れた。
シェラルは考え込んでしまっていて、全く気付いていない。
間を置かず、蛸の足のようなそれは一気に襲いかかる。
キン!
だが、それもゾアメルの剣によって真っ二つになった。
それでも、その銀色の触手はバタバタとはね回っている。
そこで、はじめてシェラルは自分のまわりが騒々しいことに気が付いた。
「?」
「ボケッとしてないで、次が来る!」
まるでその声に合わせたかのように、二機の周りをぐるりと囲んで、銀色の触手が幾本も現れた。
「ち、思ったよりも数が多いな。」
「・・・・・・・・。」
だが、シェラルの反応はない。
「そっちの半分は頼む。こっちの半分は、俺がやるから。」
「・・・・・・・・。」
ここで初めて、ゾアメルが怪訝そうにシューティングスターの方を見た。
中のパイロットの様子が見えるわけではないので、今シェラルにどういう事が起こっているのか見ることは出来なかったが、シェラルは完全に固まっていた。
「どうしたんだ?動かなきゃ、やられるぜ。」
「・・・・・・・・い・・・・・・・。」
「い?」
「いやああああああああああ!!!」
絶叫。
シェラルのそれが響いてから、突然シューティングスターは、爆発するようにダッシュした。
だが、まわり360度をぐるりと包囲されていて、ダッシュで逃げれるはずもない。
すぐに触手が目の前に現れる。
「こないでぇ!!!」
ドガッ!
叫びながらのシューティングスターのナックルが、一気に3本の触手を粉々に吹き飛ばす。
「きゃああああああ!!」
そこで、また別の触手が視界に入ったらしく、ビームを乱射するシューティングスター。
完全にパニックに陥っているらしい。
シェラル=草薙、16歳。
苦手な物は、蛸や蜘蛛などの多足動物。
「・・・・・・・・。」
思わず、触手と顔を見合わせてしまうゾアメルだった。
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