第5話 DEEP MIST、暗躍(2)



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シーン10:ビーム照射後地

ビームの照射によって静寂を手にした荒野に、一陣の風が吹く。
と、その一角の土が突如として盛り上がったかと思うと、ボロボロになったリテイナーが這い上がり、同じくボロボロになった輸送機をウィンチ等の道具を使って、どうにか引っ張り上げた。
「ぷはぁ!し、死ぬかと思ったぁ!」
「ホント、よく生きてるわ。」
完全に不意を付かれた状態での、超高威力のビーム照射。
まだ生きているのは、リテイナー乗りの腕の差があるからこそ・・・・と言いたいところだが、運がなければ生きていられなかっただろう。
運が良かった事に、花梨の搭乗している輸送機とユーニスの搭乗しているリテイナーには、普段は付けることのないビームフィールドを搭載していた。
輸送機の方は、花梨の趣味で、夜鍋してまで装着した物だ。
リテイナーの方はユーニスが嫌がったのだが、『今回は輸送機の護衛も兼ねるから』と、無理矢理装着された物だ。
結果的には、咄嗟に作動させたシールドの中で、この二つのビームフィールドの干渉がビームの威力を80%まで減少させたのである。
これも、地球人にとってはオーバーテクノロジーである『帝国』の技術を取り入れた東雲工廠のビームフィールドがあればこそであろう。
「あら、あららら。」
ずずぅぅぅん・・・・・。
だが、残りの20%でも、脆いPTフレームのテストリテイナーには、十分なダメージだったようだ。
リテイナーの間接という間接がぐらぐらになっていて、へたりこむようにして倒れ込んでしまう。
「けほ、けほ・・・・。」
咳き込みながらも、何とかコクピットから這い出すユーニス。
「こりゃ、駄目ね。新しいのを作る方が、いくらか安くつくわ。データは、残ってる?」
「うん、なんとかね。」
言いながらユーニスは、懐からディスクを1枚取り出した。
そのディスクの中に、今回の完熟飛行のデータがぎっしりと詰まっている。
ディスクまで破壊されていたら、今日の事はほぼ無駄になってしまう所だった。
「じゃあ、損害も比較的軽いわね。輸送機の方は中身が傷付いてないから、修理したら飛ぶくらいできるか。」
そう言いながら花梨は、既に輸送機のエンジンの修理に取りかかっている。
もう飛べなさそうに見える輸送機を女手だけで修理すると言っているのだ。しかも、こんな設備も何もないところで。ユーニスも、相手が花梨でなければ、笑うところだ。
「ボクは何を手伝えばいいの?」
「ユーニスは、リテイナーでMHKまで先に行ってきて。なにか、嫌な予感がする。」
「何言ってるの。さっき壊れちゃったじゃない。」
「ライトニングエンジェルで行けばいいわ。」
ちなみに、ライトニングエンジェルとは、ユーニスの愛機のことである。
正式名称は、SA-112 Lightning Angel。
その機体は、人類の天敵とも呼ばれる『帝国』の主力リテイナーである、AB(Angel's Blabe)をベースにしたもので、市販のリテイナーの何十倍もの予算を投入して設計されたリテイナーだ。
「へ?今から工廠まで帰るの?」
ユーニスが不思議がるのも、無理はない。
ライトニングエンジェルをこの場に持ってきた覚えは、全くないからだ。
「ああ、昨日悪い予感がしたから、なんとなく積み込んでおいたわ。アタシ達が生きていたくらいだし、2重3重にバリアはっておいたから、ほとんど無傷の筈よ。安心しなさい。」
「ボク、聞いてないよ。そんなこと。」
「言ってないもの。」
「・・・・・・・・。」
ユーニスは、本日58度目の溜息を吐いた。


シーン11:MHK

炎流、三斬殺!(ほむらりゅう、さざんさつ)」
斬!
掛け声と共に、レイアスのただ真っ向から縦に真っ直ぐに振っただけにみえた光剣が、アスタリスクのような軌跡を描いて、機動マシーン1体を粉砕した。
だが、廊下の向こうの方では、まだ喧噪が聞こえている。
しかも、この機動マシーンは恐ろしく戦闘能力が高い。
如何にレイアスと言えども、一度に2体以上を相手にすることはできなかった。
「兄ちゃん、キリがないよ。」
ゼロがげんなりした表情で言う。
レイアスも同じような心境だったが、そうも言っていられない。
「そう言うな。取りあえず、この先でキュラーと合流して・・・・。」
ゴバッ!
だが、レイアスの言葉は、突然壁を破って現れた機動メカによって中断させられた。
しかも、悪いことにその機動メカが現れたのが、ゼロアスの真後ろだ。
(しまった!)
レイアスは咄嗟に光剣を構えるが、間に合うタイミングではない。
ゼロアスも、突然のことに反応しきれていない。
レイアスは銃を使っていない自分を呪った。
レーザーの発射口であるレンズが、ゼロアスの方を見る。
レイアスもゼロも、もう駄目かと思った。
が、レーザーが発射されることはなかった。
機動メカは前のめりに崩れ、そのまま動かなくなった。
その背中にはビームによる焦げ跡と穴が穿たれており、スパークを撒き散らしている。
「間一髪ね。」
「キュラー姉ちゃん!」
「キュラー!」
その後ろに大きなビームライフルを軽々と構えて立っていたのは、紛れもなくキュラーであった。
「レイアス。それに、ゼロアス。私たちのリテイナーを出して、機動メカを排除します。」
「ああ。初めからそのつもりで、お前を捜してたんだ。」
「行こう!」
3人は頷きあうと、リテイナー格納庫へと駆けた。


シーン12:MHK中央司令室

MHKのメインオペレーティングルーム。
ここでは、突然の事態に隊員が走り回り、ひっきりなしに通信機から連絡が伝えられている。
「リテイナーの格納庫と各種主要施設の防御を強化しろ!このままでは、もたないぞ!」
その中央で、若い男が指揮を執っている。
名をハスター=ハストゥールと言う、MHKの若き所長である。
20代の平均的な容貌の中で、緑色の瞳だけが輝いてみえる。
あまりにも平均的な容貌の彼だが、それでも彼には人の気を引くカリスマがある。
「レイアスさんから通信です!リテイナー3機、発射準備が整ったそうです!」
「すぐに発射させろ!サポート、怠るなよ!他のリテイナーは?」
「今すぐにと言うわけにはいきません。腕の立つ人たちは、軒並み仕事中でしたから。」
「こちらの情報は入手済みということか・・・・・。他からの増援は?」
「駄目です!5分前の衛生砲の暴走により、どこも増援を送る余裕はないと言ってきています。」
「タイミングが良すぎる。衛生砲の暴走も、恐らくは敵の手によるものだな。恐ろしく手際の良い敵さんだ。」
と、視界の隅でレッドランプの数が一つ増える。
「今度は何だ!」
「ハッキングです!MHKのメインコンピューターに、ハッキングをかけてきました!」
「何!?」


シーン13:MHK上空

「C−32ブロック、待避終わりました!」
「了解!」
ガガガガガガ!
レイアスの駆るリテイナー、『白炎』の胸部に装備されたバルカンが、MHKの建物ごと内部の機動マシーンを撃破する。
一見無茶にみえるが、レイアスたちにとってどんな物であろうと、動かない物に攻撃を当てるのは簡単なことだ。
レイアスたちは、司令室と連携して、最小の被害に抑えつつMHK内部に侵入した機動マシーンを撃破しているのだ。
だが、いつも使っているGRF社製のバスターライフルを改造した『ヘル=フレイム』などに見られるように、レイアスは高威力の武器を好む。
そんなレイアスにとって、それはストレスの溜まる仕事ではあった。
『白炎』は、内部のオーパーツである高エネルギー結晶『灼熱金剛石』の出力を有効に使うために取り付けた背中のユニットから、真っ白いビームの光を翼のように広げ、次の標的を求めて再び宙に舞った。
CKにしては大柄な薄緑色の機体が、銀色のフィールドに包まれて、まるで真っ白に燃え盛る炎のようだ。
その側へ、レイアスと同じように機動マシーンを撃破した赤いMWと白いGFが接近してくる。
真っ赤なMWの方は、キュラーの駆る『レイ・ギル・ブラッド』だ。
仲間内では『レイギル』の愛称で呼ばれており、そこはかとなく女性を思わせるボディラインが空に映える。
精神力を刃に買える武器、マインドソードを装備した、基本に忠実なMWだ。
機体に比べて少し大きめなオーラコンバーターが、その機体が高速機であることを示している。
一方の、白をベースに青い色をちらした、GFにしては少しだけ小柄な機体は、ゼロアスの駆る『ハングドマン』だ。
この機体が主に使う武器がGF特有のもの『技』であることもあり、大きさの割にはすっきりした形状をしている。
後ろに垂れ下がった尻尾や、放熱用のオレンジ色の髪が、どことなく生物を思わせる。
そんな、GF『ハングドマン』を駆るゼロアスにとっても、レイアスと同じ事が言えた。
全リテイナー中で最大の装甲を持つGFは、結果的にその機体の大きさも大きくなってしまう。だから、基本的にこういう細かい作業に向かない。
だが、そこはみな歴戦のパイロット。
未だ出撃できたのは3機だけにも関わらず、MHK所内に侵入した機動マシーンの6割をすでに撃破し終えていた。
このまま何もなければ、すべて問題なく撃破できそうであった。
「レイアス、私だ。」
「所長?どうしたんですか?」
「今、MHKのメインコンピューターにハッキングが行われている。」
「何ですって!?」
「今から私もブロックに回るが、相手も相当のものらしい。もって20分と言った所だろう。そこで、君たちの誰かに、外部との接触を物理的に遮断して欲しいのだ。」
「その任務、私が行きます。恐らく、機体の小さい私の方が適任でしょう。」
その通信に、キュラーが割り込んできた。
キュラーの搭乗しているリテイナーは、MWだ。
一般的にリテイナーの中で最も小柄なのがMWとされ、レイギルもそれを踏襲している。
ケーブルの集中する地下のケーブルルームへは、確かにMWが一番有効に行動できるであろう。
「姉ちゃん、危険だよ。あそこは確か、防衛用の装置でいっぱいなんだから。」
どうやら、二人ともしっかり聞いていたようだ。
「ともかく、私は今すぐ対ハッキングに向かう。そちらも、すぐに取り掛かってくれ。」
ハスターからの通信は、そこできれた。
「・・・・キュラー、行けるか?」
「レイアス、私を信用して。」
それを聞いてまで、レイアスは迷うようなことはしなかった。
「わかった、任せるぜ!」


シーン14:地下通路

「まるで迷路ね・・・・。」
無数のケーブルが伝う地下通路に、キュラーの声が吸い込まれていく。
もう一度地図を確認する。
直線距離に直せばケーブルの集中する位置までは呆気ない程近い。
だが、曲がりくねった幾本もの通路は、一つとして真っ直ぐ目的地に着けるようには作られていない。
進入者を想定して作られた作りが、今は仇になっているのだ。
「とりあえず、進まなきゃ。」
チュイン!
進もうとしたレイギルの足元を、十分に絞られたレーザーが攻撃した。
恐らく、まだ威嚇だろう。
だが、先に進もうとすれば、本格的な攻撃が始まる。
「本部?」
「こちらMHK。」
通信機から、すぐに答えが返ってくる。
ここは地下だが、どうやら通信は通じるらしい。
「セキリュティの解除が出来てないようだけど?」
「今から向かってもらうところで、所長たちが今ハッカーと戦ってるんです。地下ブロックのコントロールは、ハッカーが来た時から不可能でした。」
「・・・・了解。」
つまり、このセキリュティを自力で突破しろということだろう。
しかも、後の事を考えると、一直線に壁を破壊してというプランは出来れば最後の手段に取っておきたい。
だが、制限時間もあと少ししか無い以上、ただ道なりに進んだのでは間に合わないことも、予想できた。
「行くわよ!」
キュラーはレイギルにマインドソードを構えさせると、セキリュティが網のように張られた通路を一気に跳んだ。


シーン15:MHK上空

「だいぶ片付いてきたね、兄ちゃん。」
「ああ、そうだな。だが、まだ終わっちゃいないんだから、油断するなよ。」
「分かってるって。あ、兄ちゃん、あそこ見てよ。」
ゼロアスに促されてそちらの方向を見ると、数機のリテイナーがMHKから発進しているのが見えた。
無人の防衛用リテイナーとまだ経験の浅いパイロットたちのものだが、増援には違いない。
そして、根っからの戦士である二人の知覚も、戦闘に入ってから拡張されていた。
今なら、MHKのどこに敵がいるか、手に取るように分かる。
これで終わるなら、それにこした事はない。
だが、これで終わるはずがなかった。
その時、レイアスは強い違和感を感じた。
戦場の感覚が、レイアスの五感どころか第六感の隅々までを冴え渡らせている中で、レイアスはその違和感を感じるとともに、機体を素早く動かしていた。
その機体の脇を、高出力のビームが通りすぎる。
先程までレイアスのいた空間を薙いだビーム光だが、狙ったにしてはねらいが甘いから、レイアスはそれを威嚇射撃だろうと即座に判断した。
「何だ?」
思ったことを無意識に口にしつつ、ビームの閃いた方向をサーチする。
カメラアイの捕らえた映像を拡大された絵が映すそこには、紫色をした空母と軽巡洋艦で構成された艦隊が浮かんでいた。
先程の攻撃は、この空母から発せられたものだろう。
「なんであんな質量のものに、今まで気付かなかったんだよ!」
ゼロアスが、自分に対する憤慨を込めて怒鳴る声が、通信機越しに聞こえた。
間近くにいるはずなのに、先程よりもやけにノイズの混じったその通信を聞いたとき、レイアスはやっとその理由に気がついた。
「ミノフスキー粒子だ!ジャマーが張られていて気付かなかったが、何時の間にか大量のミノフスキー粒子が散布されている!」
ミノフスキー粒子は、近代あらゆる兵器に使用される粒子だ。
CKの主装備であるビーム兵器は、荷電粒子などではなくミノフスキー粒子を応用したメガ粒子によるものだし、空母などの巨大な質量の物体を自由に宙に浮かせられるようになったのも、ミノフスキー粒子があればこそだ。
そのミノフスキー粒子の特性の一つというか、使い方の一つに、通信やレーダーの妨害というものがある。
散布されたミノフスキー粒子は、あらゆる電磁波を吸収、拡散してしまうのだ。
ミノフスキー粒子の散布された空間では、赤外線センサーでさえ役に立たない。
だからこそ、有視界戦闘が可能なリテイナーが戦場でここまで幅を利かすことができるようになったのだ、とも言える。
それはともかく、ミノフスキー兵器研究所に対してミノフスキー粒子で挑まれたのだ。
それに引っかかってしまったことに、レイアスは多少の憤りを感じた。
レイアスは、白炎の肩のアタッチメントに取り付けていた『ヘル=フレイム』を、右腕のハードポイントに装備し、真ん中の稼動部を動かして銃身とビームの発射装置とを真っ直ぐになるようにすると、左手を添えて構えさせた。
ゼロアスのハングドマンも、そちらにむかって構えを取っている。
所内の方は、他の者たちで何とかできるだろうという判断をしたからだ。
戦闘濃度にまで散布されたミノフスキー粒子のせいで、既に無線通信は通じない。
ここからは、自らの判断で戦うしかない。
再び謎の艦隊からのビーム一斉射が閃き、MHKも防衛システムを起動させて応戦するのだが、やはり本調子のように上手く防衛システムが働かない。
ビームが飛び交う中、レイアスの放った真っ白いビームの筋も観測された。
それは一直線に空母を中心とした艦隊に吸い込まれていき、艦艇一隻を撃沈したようだ。
艦艇のメイン・エンジンユニットの爆発は大きく広がり、敵の艦隊は少しだけ四方に散ったが、それでも相手の戦線を大きく乱すことはなかったようだ。
「敵の指揮官、なかなかやるな!」
遅滞なく、艦隊からリテイナー部隊が放出される。
敵のリテイナーの編成は、CKがメインのようだ。
と言っても、これは珍しい事ではなく、CKが一番手に入りやすい地球圏では、当たり前の事だ。
敵リテイナーに向かって、こちらの近接型のリテイナーも向かっていく。
その中に、ニトロダッシュを併用して向かうハングドマンの姿もある。
そして、リテイナー戦争の中でも特にCKの戦闘法の定石どおりに、ミサイルの爆光が閃く。
この後、ビームライフルによる銃撃があって、それでも仕留められなかった敵に対してはビームサーベル等の近接攻撃で仕留めていくのがCKの戦闘の定石だ。
これは、やはりこの戦闘空間にCKの数が多いという証明でもある。
また、ミノフスキー粒子の大量に散布された空間では、如何に強力なホーミング性能を持ったミサイルであっても、真っ直ぐ相手に向かっていくことはまず無いから、大抵のCK乗りは直線的で強力なビーム兵器を好んだ。
だが、新兵が命を落としやすいのも、一番最初のミサイルの応酬であった。
追尾性能を削る変わりに爆発の性能を高めたミサイルを、甘く見る者が多いからだ。
そして、ミサイルの応酬が終わると、リテイナーによる近接戦闘が始まる。
最初のリテイナー接近戦も、退く時期を知らない新兵が最も命を落とす所である。
それらを戦闘を何度か経験したことがある戦士が如何に導くかが、戦局の分かれ目にもなり得る。
レイアスには、それらの敵味方の動きが良く見えた。
数だけでも、こちらの方が圧倒的に不利。
戦力差は、一目見て分かるほどに圧倒的だ。
「だが、こちらだってそう簡単にやられはしない!」
それに、中級の兵士の腕を見比べれば、MHK側の方が上のように見えた。
あとは、レイアスのような上級者がいかに上手く戦えるかにかかっている。
「行くぞ!赤い炎よりも熱い炎を、見せてやる!」
レイアスの普通の人間よりも強化された五感が、極度に冴え渡って4方に放出された。

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