第5話 DEEP MIST、暗躍(3)



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シーン16:ケーブルコンセントレート

ズズゥゥゥゥン・・・・・・。
地上から、重い音が響いてくる。
さらに敵が攻めてきた所までは通信で聞いたのだが、その直後に通信が途切れてしまった。
地上のことが気にはなったが、ここで引き返すわけにもいかない。
後ろ髪を引かれつつ、セキリュティを避け、あるいは破壊して先に進んだ。
しかも、キュラーは焦っていた。
少しセキリュティを甘く見ていたらしく、マインドソードの赤い輝きがだんだん鈍くなっていた。
精神力を刃に変えるマインドソードは、威力が高い変わりに、使用できる回数がどうしても少なくなってしまう。
しかも、ハスター所長の言った制限時間も、すでに残り少なくなっている。
残り、1分。
「少々無茶するしかないようね。」
もう一度地図を確認して、頷く。
そして、一方の壁に向かうと、大きく息を吸い、吐き出す。
「行くわよ。」
ズガッ!
掛け声とともに、レイギルのマインドソードが閃き、壁に三角形の穴が空く。
次の壁も、その次の壁も同じように切り裂き、一直線に目的地へと突き進んだ。
そして、5枚目の壁を切り裂いた先に一際太いケーブルの束を発見した。
残り、20秒。
キュラーには、これだけあれば十分だ。
「間に合って!」
大きくマインドソードを振りかぶり、横薙ぎにケーブルに向かって振り下ろす。
キィン!
澄んだ音が狭い空間に響き、真っ二つになったのはレイギルのマインドソードだった。
折れた先が背後で音を立てる。
「駄目・・・・だったの・・・?」
呆然と立ち尽くしてしまうキュラー。
もう武装は残っていないし、第一機体がもう持たない。
不調を訴える文字が次から次に表示されている。
無茶をしすぎたのだ。
残り時間が、10秒を切った。
「なら・・・!」
無理矢理引き千切ろうと、レイギルの両手を伸ばす。
ガクン!
だが、足首の稼動部分が壊れたらしく、前のめりに倒れ込んでしまう。
あと、5秒。
もはや、キュラーに打つ手はない。
だが、希望を捨てるには、まだ早かったようだ。
駄目かと思われた次の瞬間、マインドソードの精神の刃の余波がケーブルを見事に切り裂いていたのだ。
再び残り時間を確認しても、すでに時間はマイナスの値に突入していた。
しかし、みんなを信じていればこそ、キュラーは間に合ったと確信できた。
そして、司令室では敵の侵入度を示すメーターが、ちょうど1ドットしか残っていない所で停止していた。


シーン17:戦闘空域

「気に入らんな。」
ルメルダは、空母の艦橋で不機嫌につぶやいた。
「気に入らん。」
高ランクの人間が居ない時を狙ったから、計画では乱戦になるほどの抵抗は予想しなかった。
この戦力差であればそれは杞憂にも思えたが、計画の小さなずれはやがて大きくなって帰ってくることもある事を、ルメルダは良く知っていた。
「・・・・ふん。」
そこまで考えて、ルメルダは新たな手をいつでも発動できるよう、準備に取り掛かった。
自分は、何が起ころうと、負けることは許されないのだ。

「押されてるか・・・・・。」
レイアスは戦線のほぼ中間距離で戦闘を展開していた。
もちろん、幾度か補給のために撤退したが、その度にこの位置に取って返してきた。
今行われている戦闘を良く見るために、あえて距離を取っているのだ。
だが、戦況は思わしくなかった。
敵は始めに思ったよりも統制が取れていて、例えばレイアスのように少しでも腕の立つ者がいると、1対多数になるように攻撃を仕掛けてくる。
戦線自体は動かずに良く持っているといえたが、長くこの状態が続くのも危険だ。
「ちっ!」
左腕に構えた死神を思わせる巨大なビームサイズが、うかつに近づいてきた敵CKの胴を横薙ぎにする。
だが、さらに白炎の周りを新たな敵が囲む。
こう囲まれては、元来長距離支援を主眼において作製された白炎の能力を100%使いきることもできず、敵司令官の腕の良さと戦闘教育の徹底された敵パイロットとに感嘆せずにはいられなかった。
「くそ、きりがないぜ!」
一声吠えると、白炎の背中の翼状のメインスラスターとシールドからのミノフスキー粒子の排出が白い光を生み、白炎の体を包んで、まるで燃え上がるように広がった。
その炎は、一度に2機のリテイナーを爆光に変え、なおも戦場で輝いた。


シーン18:強敵

ゼロアスは、1機のCKらしきリテイナーに苦戦を強いられていた。
のっぺりとした、まるでセラファイスのゴーレムを思わせるそのリテイナーは、巨体に相応しく全身からビームやミサイルによる攻撃を展開していた。
まるで少し小さめの戦艦のようだ。
ちなみに、こちらの全長はGFにしては小さ目の40メートル弱。
一般的なCKが10〜20メートルとするとこれでも大きい方なのだが、相手の機体はさらに3倍ちかい巨体を持っているのだ。
ちなみに、大きすぎる機体というのは、ナンセンスな物だ。
バランスを間違えると自重で自壊するし、全身に供給するエネルギーの量も馬鹿にならない。
コストパフォーマンスも悪く、同じ費用を払うなら、もっと小さい機体を多数作った方が、大きな戦果を望めるのだ。
だから、CKの場合は全長10〜20メートルくらいがベストだし、オーパーツのかたまりであるGFの場合でも、60メートル前後が普通なのだ。
100メートルを超えるCKは、無重力圏ならともかく、重力圏での使用は出来ないものと相場が決まっていた。
だが、目の前のCKはそんな常識など知ったことでは無いという風に、ほぼ全周囲に攻撃を展開している。
もはや敵も味方も近づこうとせず、まるで一騎打ちの様な様相を見せている。
「デェッドリィィィィファァァァァング!!」
ズババババッ!!
ゼロアスの掛け声に合わせて、ハングドマンの真っ黒い手から青白いプラズマ光が発せられ、敵の装甲を切り裂く。
が、常識外れの装甲の前には、さほどのダメージも与えられない。
「ダメージにもならないのか!」
攻撃の隙を狙って繰り出される相手の光線を辛くも避け、ゼロアスは毒づいた。
だが、毒づいているのは何もゼロアスだけではなかった。
巨大リテイナー『タワー』のパイロット、テラスも悪態をつかずにいられなかった。
「この!何故落ちない!?」
これだけの弾幕の中、テラスの目には小賢しいGFがこちらの攻撃をものともせずに攻めてきているように見えた。
破壊のイメージを直接機体に流し込む。
そのイメージは体の各部位に散り、それぞれの武器のトリガーとして発動し、ミサイルやビームによる攻撃を発動する。
だが、当たらない。
ゼロアスは、その直線的な攻撃をすんでのところでことごとく見切り、あるいはそのGF特有の分厚い装甲を最大限に有効に使って受け流した。
テラスの全身は、ある種生命的な部品で囲まれていて、テラスが送り込んできたイメージを具現化する。
タワーの体の各部位にはサイコミュが搭載されており、それがそれぞれ連動して自重による崩壊を防ぎ、なおかつ敵を攻撃するために使われている。
しかし、これだけのものを普通の人間が動かすことは、まず不可能だ。
ニュータイプか、あるいは精神的に強化された人間か、だ。
タワーの発したミサイルの爆光が閃く。
『うおおおおおぉぉぉ!!!』
奇しくも二人の雄叫びは重なり、戦場の中心で弾けた。


シーン19:ヴァーサス

同じ頃、レイアスもまた強敵との死闘を演じていた。
レイアスの相手は、全身にミサイルポッドやバルカンなどの実弾兵器を山のように搭載したCKだ。
普通、ここまでの大掛かりな装備をするリテイナーはいない。
ナンセンスさと言う点では、このCKも先程のタワーと良い勝負だと言える。
実弾兵器を体中に装備したリテイナーなど、誘爆させてくださいと言っているようなものだ。
それに、ここまでの重装備をしてしまうと、重さ云々以前に、普通は間接が動かなくなってしまう。
だが、目の前の針鼠のようなこのリテイナーは、複雑に突き出た砲門がまるでその場に無いかのように、自由にそれぞれの砲門でそれぞれの敵を狙い、的確に攻撃して見せていた。
しかも、この重装備にして、相手の方が機動力の点で勝っていた。
この2体のリテイナーこそが、ルメルダの放った奥の手であった。
「もらった!」
バシュ!
レイアスはヘル=フレイムをぶっ放した。
だが、針鼠のようなリテイナーは、さっと進路を変えて軽々と躱して見せた。
敵の回避性能(専門的には、乱数回避という)が桁違いなのだ。
敵は弾丸の回避を楽しんでいるかのように、右に左に飛び回っている。
ガン!
「しまった!」
油断していたのか、無造作に放たれた無数の弾丸の一つが白炎の右腕に命中した。
その衝撃で、腕の甲にあるヘル=フレイムを取り付けるアタッチメントが外れてしまった。
いくらなんでも、目の前に敵がいるのに武器を拾いに行くわけにはいかない。
咄嗟に、装備をビームサイズに変える。
ヘル=フレイムの分軽くはなったが、不利は明らかだった。
メインの武器は使えなくなり、相手の方にはほぼ損害が無い。
この状況で勝つのは、相当に難しい。
「一か八か、やってみるか・・・・。」
レイアスはそう呟くと、スロットルを全開に開けた。
結果、白炎は一気に真後ろに向かって撤退を始める。
当然、針鼠は止めを刺そうと、追いかけてきた。
ぼひゅ!
と、突然視界が真っ白なものに覆われる。
巡洋艦の爆発後の煙に囲まれたのだ。
煙はもう収まりかけていて、あまり大きくはない。
レイアスは煙を反対方向に抜けた直後に、真下に向かって機体を滑り込ませた。
こちらの動きが見えていない敵が煙を突き破ると、丁度レイアスに背中を見せるような格好になった。
まんまとレイアスの作戦に引っかかってくれたというわけだ。
「今度こそ、もらった!」
ビームサイズの白い光を閃かせ、気の弱い人間ならば押しつぶしてしまいそうな気迫と共に、後ろから一気に切りつける。
ガガガガガガ!
「うわ!」
だが、白炎は針鼠まで近付く事は出来なかった。
まったく後ろを注意していないと思われたその機体の背面から、バルカン砲の掃射をもろにくらってしまったのだ。
バルカンの威力が小さいので、致命傷とはいかないが、態勢を大きく崩したレイアスの逆転が不可能という事は、目に見えている。
相手がキャノン砲を構えるのが、レイアスの目にスローモーションで映る。
回避行動を取るが、恐らく無駄だろう。
ビシュ!
だが、キャノン砲が発射される前に、その胴体をレイアスの背後から放たれた一条のビーム光が、貫いていた。
『あったりぃ〜。』
どうやら、外部スピーカーをオンにした状態で喋っているらしい、陽気な声に振り向くと、鮮やかな白・青・黄で塗装された女性型のGFともCKともつかないリテイナーが、これも巨大なビームライフルを構えて飛行していた。
普通GFとCKの中間と言えばSS(Shadow soldier)だが、このリテイナーには忍者を連想させるSSらしさが、カケラも無い。
『キミ、MHKの人でしょ?ボクは東雲兵器工廠のユーニス=ガーランド=クルス。助太刀に来たよ。』
やたらと陽気な声で、そのリテイナーはそう告げた。
「あ、おれは・・・・。」
言いかけて、こちらは外部スピーカーのスイッチを入れていない事に気が付いた。
だが、ユーニスの方はもとから相手の方の話を聞く気はないらしく、レイアスを無視して、すぐさま戦線に突撃していった。
「腕前は超一流みたいだが・・・・・あの陽気さは、一体?一流のリテイナー乗りって、みんなどこかがおかしいのか・・・・?」
レイアスは、ここが戦場である事も忘れ、自分の事は棚に上げて呆然と呟いた。


シーン20:内なる呼び声

「くっそ〜・・・・。」
一方で、ゼロ対テラスの戦いも、ついに終盤を迎えようとしていた。
それも、ゼロアスにとって悪い方向に進んでいる。
タワーの弾丸は尽きることがないように続いているが、さすがにハングドマンのエネルギーがもう底を突きかけていた。
恐らく、後2回ほど技を使うと、エネルギーが完全に切れてしまうであろう。
ハングドマンは既に両腕を破壊されており、敵にうまく照準を向ける事すら難しい状態だった。
対するテラスの方も、左腕と頭を破壊されていた。
だが、両者とも主武器はまだ破壊されていない。
「くっらええええぃ!!」
ズバァ!!
ゼロアスは叫ぶと、反動を付けて一気に跳躍し、胸の部分に向けてデッドリィファングを放った。
ハングドマンの胴から、漆黒の爪が幾本も伸びて、タワーの胸部に突き刺さる。
ゴバッ!!
タワーはデッドリィファングを受け、派手な爆音を撒き散らして爆発した。
「やったか!?」
だが、あまかった。
次の瞬間、煙の中から、タワーの巨体がぬぅっと姿をあらわしたのだ。
「しまった、リアクティブアーマーか!?」
「もらったぁ!」
ズドォン!
そしてそれこそが、テラスの思うつぼだった。
その一撃に耐え切ったタワーの胴からのミサイルが、まともにハングドマンの胴体に突き刺さったのだ。
この巨体にリアクティブアーマーなど、誰が考えるだろうか?
まさしくそれは、最高の不意打ちだった。
閃光で視界が真っ白に染まり、ゼロアスの意識が揺さぶられた。
もう、勝ち目はない。
恐らくここから他の兵器による攻撃が続くだろう。
意識が、遠のく。
その時、ゼロアスは声を聞いた。
『力が欲しいか。』
どこからとも無く聞こえたその声は、限りない恐怖を呼び覚ましたが、同時に魅力的でさえあった。
『力が欲しいなら、くれてやる。』
地獄の底から響くような、それでいて、ずっと隣に居たような声。
『力が欲しいならば、願うがいい。』
「力が、欲しい・・・・・。誰にも負けない力が・・・・。」
『願いは、聞き届けられた』
次の瞬間、ゼロアスの意識は闇に閉ざされた。


シーン21:変化

「何故押しきれん!?」
久々に感情を表に出して、ルメルダは毒づいた。
計算外な事故が多すぎた。
腕の立つものはほぼいない時を狙ったというのに、いち早くリテイナーで外に出てくるものが居たのも、計算外。
ハッキングが上手く行かなかったのも、計算外。
そして、今新たなリテイナーが1機、敵として戦線に加わったのも、計算外だ。
こう計算外が重なると、流石にどうしようもない。
そして今、戦線は完全に膠着しきっていた。
このままでは、相手側の増援が来るまで粘られ兼ねない。
「本部に連絡を入れろ!増援をよこせとな!」
「はっ!」
このまま続けば、いずれこちらが勝てるだろう。
物量では、圧倒的にこちらが勝っているのだから。
だが、長引けば不利なのは、むしろこちらだ。
さすがに地球連邦の軍隊までは、今相手にすべきではない。
「くそ、逃げる準備でもするか・・・・。」
だが、逃げるにしてもこのまま、おめおめとディープミストに戻るわけにはいかない。
戻れば、死。
だが、その不安もそこまでだった。
「か、艦長!2時方向に艦影です。数、1!」
この言葉で、ルメルダの思考は中断させられたのだ。
「何ぃ、距離は!?」
「そ、それが・・・・。」
そして、距離を聞くまでもなく、現れた1隻が放った強烈なオーラキャノンの光が、ルメルダの乗る空母のブリッジを焼き払った。
自らで撒きすぎたミノフスキー粒子のせいであったのだが、結局ルメルダは、最後の瞬間に何も考えられなかった。


シーン22:オーラ・シップ

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、俺を呼ぶ!悪を倒せと泣きすがる!!・・・・・ん〜、いいねぇ、この登場の仕方。ベストタイミングじゃないか。」
意味も無くオーラ艦『ガラオン』のに立って軍服の裾とマントをはためかせ、白い軍帽に怪しい付け髭でそう呟いている男の名は、ネモ。
MHKの所員でガラオンの艦長であり、MW『ノーチラス号』のパイロットでもあった。
パイロットとしての腕も、レイアスより数段上だ。
「何やってるんですか、ネモさん。」
その側に機体をホバリングさせつつ、コクピットを開いてレイアスは言った。
「そんな所に居ると、落ちますよ。」
「ちっちっち。君は男のロマンってものを、わかってないなぁ。」
振り向いて人差し指を、メトロノームのように横に振るネモ。
なんだか、妙に様になるポーズだと、レイアスは思った。
「別に良いですけどね。ところで、ゼロアス見ませんでした?途中から見失ってしまって・・・・・。」
だが、ネモが答えようとしたその時、強烈な突風が吹いた。
ビョウ!
「うわっとっとっと!!」
すんでのところで、近くに置いてあったリテイナーに捕まるネモ。
ちなみに、今捕まったリテイナーこそが、ネモの愛機『ノーチラス号』だ。
ネモ自慢の機体で、クロールからバタフライまで、何でもこなせるらしい。
なのだが、それを見てレイアスはある事に気が付いた。
「ネモさん。その髭、どうしたんです?」
「いや、付け髭だが?」
ネモは、鼻の穴に挿し込んであった付け髭を外して見せた。
「いや、それじゃなくて、ノーチラスの方・・・・・。」
見ると、ノーチラスの顔面には三日月型の部品が取り付けられていた。
レーダーかアンテナなのだろうが、場所が場所だけに天にツンと向いた髭にしか見えない。
「今は機体に髭を付けるのが、流行らしいからな。どうだ、かっこいいだろ?」
心なしか、ネモの顔は嬉しそうだった。
恐らく他の所員の誰かが吹き込んだのだろうが。
「・・・・・・・・。」
レイアスは、絶句するしかなかった。


シーン23:恐怖

ミサイル攻撃に次いで、マシンガンとバルカン。更にヴェスパーの一撃を入念に加えて、テラスはたった今破壊したGFを踏みつけた。
「くくくっ。もっとはやく降参していればよかったんだ。」
と、味方の艦艇からの信号弾が目に入った。
その色は、撤退を示す色だった。
「ふん、撤退か。せっかく良い気分だったのに。」
別の方向を見ると、2隻の艦艇がこちらに向かって砲撃をかけているのもみえた。
しかも、その片方はその特殊な外見から、どうやら『オーラ艦』である事が知れた。
オーラ艦は、セラファイス人が主に使用する艦艇で、一隻の戦闘能力は戦艦に匹敵する、と言われている。
ちなみに、戦艦と名のつく艦艇は、地球連邦軍にさえ存在しない。
その事実も、オーラ艦の実力を裏付ける材料となっている。
「あれは、ネモとかいう奴のガラオンか?」
テラスが呟いたとおり、MHKが唯一所持している(正確には、ネモの所有物であるが)オーラ艦、ガラオンである。
流線形の美しい形状をしており、少し旧型といってもその戦闘能力の高さはかなりのものだと言えた。
「ち、しょうがねぇな。帰るか。」
だが突然、その足元で異変は起こった。
ガクン!
「な、何だ!?」
機体が大きく傾ぐ。
しかし、これだけ大きくバランスを崩しながら、機体は倒れていなかった。
そして、言い知れぬ悪寒が、テラスの背中を走りぬける。
テラスは、恐る恐る足元を見た。
「う、うわああああ!」
信じられなかった。
いや、誰が見ても、信じられるだろうか?
自分のリテイナーの足を食う者がいようとは、誰も想像だにしないだろう。
だが、現にそいつはそこにいた。
銀色に光るスライムのようなものが、リテイナーの下半身を飲み込んでいたのだ。
そして、目などどこにも無いそのゲル状物質が、確かにこちらを見た。
「だ、脱出を・・・・。」
脱出装置のスイッチを必死に押すが、動かない。
それどころか、首の駆動系以外の大抵の機能がダウンしていた。
サイコミュの一つ一つも、応答が無い。
そいつは、ゆっくりと上に登ってきている。
「う、うぎゃあああああぁぁあああぁあ!!!」
絶望の叫びが、コクピットを埋めた。


シーン24:吊るされた男

「なに、あれ?」
ユーニスは、呆然と呟いた。
それは、戦場の真ん中に唐突に出現したかのように見えた。
始めは銀色の固まりだったそれが形作ったのは、巨大なリテイナーのような姿だった。
リテイナーと呼ぶには、あまりにも生物的すぎる。
だが、あれを生物よ呼んで良いのだろうか?
コウモリのような漆黒の翼を広げ、捻じ曲がった角と爪を持ち、鋭い牙の並んだ口が耳まで裂け、一組の双眸が燃えるような真紅の視線をどこへともなく送っている。
まるで、神話の悪魔のようだ。
グオオオオオオォォォン!!
それが一声吠えた。
そして同時に、その場にいる全員の頭に、 『我はアルカナの12番、ハングドマン。絶望に見舞われ、死を享受するものなり。いざ、同行者を募らん。』
という声が響いた。
「これから戦う事を楽しんでて、威圧してる・・・・。それに、心の奥底で悲しんで、脅えてる?」
声と共に、矛盾した感情が流れてくる。
普段何事もお気楽に考えるようにしている彼女だが、その矛盾した感情はいつものように、気楽に流せなかった。
ユーニスが戸惑っている間に、ハングドマンと名乗ったそれは、周囲の者へと無造作に攻撃を開始している。
ルオオオオオオオオオン!!
無数の光弾が宙に出現し、逃げ遅れたリテイナーに向けて降り注ぐ。
その攻撃は無差別で、悪意に満ち溢れていた。
そして、悪意の中心へと向かう、白い光の筋が見えた。
「そうよね。行ってみれば、きっと分かるわ。悩むなんて、性に合わないもんね!」
ユーニスはあえて気楽そうにそう呟くと、ハングドマンに向けて一気に加速した。

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