第5話 DEEP MIST、暗躍(4)
前のページへ 次のページへ
シーン25:説得
「目を覚ませ、ゼロ!」
外部スピーカーのスイッチをONにし、レイアスは力いっぱい叫んだ。
「お前は、また悪夢を見たいのか?んなわけねぇだろ!」
光弾や火の矢などの攻撃が続く中を、高速飛行形態に変形した白炎が駆け抜ける。
レイアスの叫びも空しく、ゼロは攻撃を止めようとしない。
だが、レイアスはゼロの心の奥底に眠る深い悲しみと苦しみに気が付いていた。
だからこそ、レイアスは叫ぶのを止めない。
他に、何をして良いかわから無かったからでもあったのだが・・・・・。
ドウッ!
「うわっ!」
だが、叫ぶのに夢中になりすぎたか、火炎弾に翼を焦がされて大きく姿勢を崩してしまった。
空中でバランスを崩した飛行物体が辿る道は、今も昔も大差無い。
重力に引かれ、地面と激突。
つまりは、墜落。
ガシッ!
「おいおい、あぶないな。」
だが、支えてくれるものがいた。
接触回線から聞こえてきた力強い声は、ネモのものだった。
いつのまにか、ノーチラス号に乗りこんだネモが、レイアスの近くまで近付いていたのだ。
「すいません・・・。」
「いいって。それはともかく、ゼロって呼んだよな?あれの事を。」
ネモが指差した先には、先程から大暴れしているゼロの姿がある。
「はい。間違い無くあれはゼロです。恐らく、記憶を失う前の能力を使ってるんじゃないかと思います。」
「惑星ゴルダリアの事件のやつか。」
ゼロアスは、数あるレイアスのクローンの中で、最も完成形に近い実験体の一つだった。
ただ、精神面の不安から、親であるアーカムに封印された身だった。
かつてゼロアスは、封印から開放された自分の力で、ゴルダリアという惑星をほぼ死に追いやった。
そのときのゼロアスは、連邦の切り札であるD兵器さえ効果を及ぼさない、まさに怪物であった。
その力の全てを回復しているわけでもないかもしれないが、今のゼロアスは、以前のそれに近いものがある。
「助けないと・・・・・。」
白炎をヒューマンタイプに変形させ、ほぼ無意識につぶやくレイアス。
「策は、あるのか?」
「いえ。でも、あの日誓ったんです。だから、絶対に助け出します。」
「そうか・・・・・わかった。じゃあ、俺は出来るだけMHKから離れるように、牽制してみる。」
「助かります。」
折り良く飛んできた光弾を左右逆方向に同時に避け、レイアスとネモはそれぞれの行動に移った。
何時の間にか、空は厚い雲で覆われ、紫色の雷鳴がそこかしこで閃いていた。
雨の降る様子は無いが、それが更に不気味さを増している。
ユーニスがその空域に着いた時には、その空域は2機のリテイナーとゼロアスのみがそこにいた。
他の機体は、その空域が見えないかのように散発的な銃撃戦を行なっている。
2機のリテイナーのほうは、戦闘を避けているようだ。
いや、ゼロアスを傷つける事を避けているのか。
時折急接近し、何もせずに離れて行く。
しかし、ゼロアスの方は相変わらず容赦無い攻撃を繰り返していた。
そのせいで、ユーニスは思ったように接近できずにいた。
巨大な悪魔に立ち向かう、巨岩をも砕く槍を携えた戦士と、光の矢を放つ杖を構える魔法使い。
どこか冗談のようなその風景は、まるでファンタジーゲームのようでもあった。
「近付いてはみたものの、どうしていいのかなぁ。・・・・・・・・あれ?」
その時、ユーニスの視界の端に、その戦闘に迷い込んでしまったらしい、リテイナーが見えた。
どうやら襲撃者側のリテイナーが、逃げるようとしてこちらの方に来てしまったらしい。
異様な雰囲気に、慌ててその空域から離れようとするが、ゼロアスはそれに向かって火炎弾を放った。
その時ユーニスのいた位置は、ちょうどそのリテイナーとゼロアスとの中間位置だった。
いや、むしろリテイナー寄りだったかもしれない。
「駄目っ!」
ユーニスは刹那も迷わなかった。
そのリテイナーが襲撃者側のものだと言う事も、考えなかった。
ただ、ユーニスはその火炎弾に向かって機体を直進させた。
ゴバウッ!!
閃光と爆炎と黒煙が、青い空からライトニング・エンジェルの白い機体を掻き消した。
シーン26:ダーク・サイド
駄目っ!
「・・・・え?」
見渡す限りの暗闇。
そこに響いた声に、その中で殻に閉じこもったゼロアスは、初めて身じろぎした。
だが、意思に反して身体は思うように動いてはくれない。
まるで、活力や気力や体力がなえてしまったかのように。
そして、ゼロアスは見た。
殻のすぐそばに立つ、もう一人の人間を。
「やぁ。」
その人物は、ゼロアスが気が付いた事に気付くと、親しげな笑みを浮かべて振りかえった。
燃えるような赤い髪のその人物は、まるで自分自身だった。
「気が付いたんだね。ずっと寝ていれば良かったのに。」
だが、その邪悪な顔は、自分と同じものだとは思えなかった。
「ようこそ、意識の海へ。常にそこにあってそこにいる君に、ようこそというのはおかしいかもしれないけどね。」
そいつは、何がおかしいのか、くっくと笑った。
「お前は・・・・・誰だ・・・・・?」
「僕?僕は君だよ。そして、君は僕だ。僕は君の暗い心の海からやっとのことで出てきた、もう一人の君さ。」
「・・・・もう一人の・・・・自分・・・・。」
「そうさ。君は、残忍な性格を僕に押し付けて心の奥に置いておく事で、その表面の性格を維持してきたのさ。まぁ、そのことはどうでもいいさ。だれしもやっていることだからね。」
もう一人の自分が、ぱちんと指を鳴らした。
同時に、上空から俯瞰するような図で、2機のリテイナーと巨大な魔物が対峙する光景が映し出された。
その2機には見覚えが合った。
レイアスの白炎と、ネモのノーチラス号だ。
辺りはその魔物の力で粉砕され、破壊され、焼き尽くされていた。
そして、地面に転がるリテイナーの残骸の山。
この戦闘だけで、一体どれだけの犠牲が出たのか・・・・・。
「外の光景さ。あの悪魔の姿を取ったものが、僕であり、君でもある。」
「ひどい・・・・。」
「ひどい?心外だな。僕は、君の『力が欲しい』っていう願いを叶えてあげただけさ。この光景を生み出したのは、君の意思だよ。そこの火球だって、君が作ったんだ。」
言葉と共に、先程の光景が映し出される。
迷い込んできた見知らぬリテイナーに向かって放たれた火炎弾に突っ込む、白いリテイナー。
そして、爆発。
「うそだ・・・・・。僕は、こんな事を望んじゃいない。」
答えるゼロアスの声は、なぜか震えた。
「わかってるよ。君はただ、死の危険を感じて、無我夢中でまわりを薙ぎ倒しただけさ。」
絶句したゼロアスに向かって、もう一人のゼロアスは親しげな笑みを浮かべながら続けた。
「だけど、君は無関係な人を殺してしまったね。」
見知らぬリテイナー。
MHKの物ではなかった。
襲撃者側には、あんなリテイナーはいなかった。
恐らく、第三者。
今回の戦闘とは無関係に、無意味に殺してしまった。
冷静に考えれば、こんな所までやってくるリテイナーが無関係なわけが無いのだが、その時のゼロアスは、冷静に物事を考える事は出来なかった。
「う・・・・あ・・・・・・。」
嗚咽が漏れる。
ゼロアスは、頭を抱えて蹲った。
だがその時、奇跡は起こった。
火球が突然少しだけ膨れ上がったかと思うと、次の瞬間に弾け飛び、中から神々しい光に包まれたリテイナーが現れたのだ。
・・・・・逃げないで・・・・・・。
そして、温かい声が広がった。
逃げないで。悪かったと思うんなら、償いをしなきゃ。こっちに来て。
声と共に、目の前に女性が現れた。
それと共に、もう一人の自分は舌打ちをして掻き消えた。
陽光を受けて輝く、金色の髪。
海のように深い、青い瞳。
透き通るような、白い肌。
優しい笑顔。
まるで中性のようでいて、はっきりと女性とわかる。
その姿に、ゼロアスは不遜にも、女神を連想した。
さぁ。
その女性が差し伸べた手に、ゼロアスは手を添えた。
そして、世界は純白の光に包まれた。
シーン27:ユーニス
結局、その場の誰にも、何が起こったのか解らなかった。
ライトニング・エンジェルが爆光に包まれたが、結局その爆発から無傷で出現した。
後にユーニスは、
「気合と根性よっっ!」
と、軽い調子で答えていたが、結局はそれが本当の事かどうかも解らない。
その時無意識状態となった(つまりは気絶した)ユーニスが、なんらかの弾みでゼロアスの精神に接触したたしく、ゼロアスはそれに惹かれるように戻ってきた。
これも良く解らないが、当人達はそれで納得している。
ライトニング・エンジェルの未知の力が発動したのか、ゼロアスの精神がユーニスに助けを求めたのか・・・・・・。
そして、悪魔の姿は砕け散り、中から淡い光に包まれたゼロアスが出現した。
そして今、回収したゼロアスとユーニス。それに、レイアス、キュラー、ネモがMHKのドックの一つで集まっていた。
敵部隊はおよそ20分前に撤退をほぼ完了し、宇宙に向けて飛行していったところまでは、観測できた。
「ったく、いい迷惑でしたね。ネモさん。」
「ほんとだぜ。おかげでガラオンはがったがただ。」
ネモのぼやきに答えたのは、コミュニケータ越しの女性の声だだ。
「本艦はまだいいほうです。今回ので地上の基地はその機能を一時的にほぼ低下。全ての基地が完全に機能するまで、あと3時間はたっぷりあるという話です。」
彼女の名はエレクトラ。
ガラオンの副艦長だ。
艦長自らがリテイナー乗りなのにガラオンと言う艦が存続できるのは、一重に彼女の実績であろう。
コミュニケーターで話している間も、キーボードを叩く音は途切れなかった。
「ボク、巻き込まれただけで、酷い目をみちゃったよ。」
手近にあった大きな箱にもたれるようにして立っているユーニスが、げんなりと言った。
「おかげで助かったよ。」
戦闘直後の、少しだけ穏やかな時間。
だが、今回のシナリオはこれで終わりと言うわけではなかったようだ。
いままさに握手でもして別れようかと言う雰囲気の時に、MHK所内に警報が鳴り響いた。
「MHK全所員に告ぐ。」
ハスター所長の声だ。
「たった今、突然出現した謎の巨大戦艦と連邦軍が戦闘に入り、連邦は我々にも援軍を要請してきた。」
『なんだって?』
その場に居た、全員の声が見事にハモる。
そして、それを合図にそこここでざわめきが起こる。
「敵は、先程の襲撃と同一の組織のものらしい。これから核攻撃を行なうと宣言してきた。つまり、宇宙空間で撃墜しなければならない。が、先程の襲撃で、シャトルの類は使えない。各自、それでも迎撃できる者は出撃せよ。出来ない者は、どうにかして見せろ。」
そこでハスター所長の通信は切れ、とたんにざわめきが喧騒に変わる。
あれがつかえないかとか、これはどうだとかの声が、あちこちで上がる。
「ふ、安心しろ。うちにはガラオンと言う最終兵器が有る!これで、勝ったも同然!」
「だめですよ、艦長。ガラオンは、ここに駆けつけるためにむりしちゃったから、エンジンがオーバーフロー気味です。とても大気圏突破できる状態じゃありません。」
「なにぃ〜!俺はそんな弱い子に育てた覚えはないぞ!」
「育てられた覚えも無いわよ、きっと。それに、無茶させたのは艦長ですよ!」
「ああ、そうだった・・・・・。」
「それって、どうしようもないって事じゃん。」
「白炎は単体で大気圏突破可能だ!早速行こう!」
「たった1機で、宇宙にいる連邦軍が援軍要請するような相手に、何が出来るの?」
今にも走り出しそうなレイアスの襟を、あくまで冷静ににつかむキュラー。
「でも、今の状況じゃあ、リテイナー10機でさえ宇宙に運ぶことなんて、出来ないよ。」
「そうでもないわ。」
聞き覚えの無い声が、ゼロアスの慌てた声に答えた。
互いに顔を見合わせ、それぞれがその発言の主でない事を知ると、一斉に周りを見た。
その声の主は、ユーニスの真後ろにいた。
「な、なんでここにいるの?」
ユーニスは、その女性の顔を見たとたん、驚きの声を上げた。
そこにいた人物とはまさに、東雲リテイナー工廠二代目代表の東雲花梨であった。
「それに、お姉ちゃんまで?」
花梨の後ろを見れば、花梨のSA-119シルフィードMK2ばかりでなく、その妹の弥生が駆るSA-127フェアリィ・リンク、さらにはユーニスの姉であるティアソレーム=クルスの愛機SA-117シルフィードXXまでもがその姿を見せていた。
「それより、そうでもないとは?」
ネモが、ユーニスを押さえて質問した。
今の状況では確かに、花梨たちがどうしてここにいるかという疑問は、意味が無い。
「まず、地上のロケットや宇宙港は全て、先程の攻撃で、破壊もしくは一時的な機能停止を余儀なくされてるわ。それと、正体不明の敵と連邦軍は、ほとんど衛生軌道上で戦線を展開している。」
「そんなに近いのか?」
「ええ。夜だったら、肉眼で戦闘が観察できそうなくらいにね。だから、答えは簡単よ。ミサイルをつかえばいいのよ。」
確かに、ミサイルならばそのくらいは届くだろう。
「撃墜される。」
だが、レイアスの言う事も、もっともである。
ただ直進してくるだけのミサイルなど、簡単に迎撃できる。
発射地点が遠ければ遠いほど、なおさらだ。
「いいえ。」
花梨の紫色の瞳が、意味深な光を湛える。
「ミサイルに、リテイナーとバリュートをくくりつけるの。」
「な・・・・・・・。」
レイアスは絶句した。
ちなみにバリュートとは、リテイナー単体で大気圏に突入する時のための追加装備の一種である。
お椀のような形のバルーンみたいな物で、その形で摩擦を減らして、大量に積んだ冷却材で機体を冷やすようになっている。
それを大気圏突破に使おうというのだ。
しかも、ミサイルにくくりつけて。
到底、不可能に思えた。
「それとも、他に方法がある?」
「・・・・・・・。」
思いつかない。
じっくりと考えれば思いつくかもしれないが、今は一刻を争う時なのだ。
時間が無い。
「ずいぶんと、分の悪い賭けだな。」
そう言いながらも、ネモはノーチラス号の方に向かって歩き出している。
そして、手近な所員に、てきぱきと指示を与える。
「ええい、くそっ!行くしかねぇか。キュラー、バックアップ頼むぜ。」
「はい。」
レイアスとキュラーの二人も、白炎に向かう。
「僕も、いかなきゃ・・・・・・。」
「キミは機体が無いんだから、休んでなさい。」
「でも・・・・・。」
「こういう時は、お姉さん達にまっかせときなさい!」
ぺしっと景気良くゼロの頭をはたき、ユーニスもSA-112ライトニング・エンジェルに乗りこむ。
「・・・・うん。」
お姉さんといっても、実際には年齢はあまり変わらないはずである。
だがゼロは、素直に頷いていた。
ライトニング・エンジェルの・・・・・正確には、ユーニスの方をじっと見ているゼロアスの顔は、ほんの少し赤い。
「ゼロアスのやつ、一目惚れってやつか?」
「そうみたいね。相手は気付いてないみたいだけど。」
「そうだな。気の毒に。」
そして、それぞれのリテイナーは、それぞれの作業に移った。
宇宙へと飛び立つために。
シーン28:宇宙(そら)
巨大な船が、地球を見下ろして鎮座している。
ディープミストの保有する巨大戦艦、『ホイール・オブ・フォーチュン』である。
この時代、戦艦と呼ばれる物はほぼ存在しない。
連邦軍で建造中だという噂もあるが、その噂も疑わしい。
リテイナー戦闘最盛期にあっても、戦艦という戦力は強力だ。
その大きさは他の艦艇の比ならず、その装甲はバスターライフルをものともせず、その火力はドラゴニックキャノンの如き。
連邦軍が艦艇1隻に圧倒されているのも、頷けると言える。
リテイナーの数も、予想以上に多い。
何より連邦軍には、地上からの援軍が求められないのが、最も大きい痛手となっている。
時間の問題。
誰もが、そう思った。
「地球を核の炎で焼いても、何%かは生き残る。その数%を統治すれば、我らの黄金時代が始まるのだ!」
ディープミストの戦闘員に告げられた言葉は、おおよそそんなものだ。
だが、戦闘員達にそんな言葉は関係無いだろう。
彼らは、戦う事をディープミストから教育された戦士。
ディープミストが戦えと言えば、全力で戦うのみ。
戦う事に意味を見出していない者達の、むなしい戦い。
「指令!下弦から熱源接近しています!」
「どうせ地上からのミサイルだろう。撃ち落とせ。」
「だめです!逆にこちらの迎撃ミサイルは撃ち落され、ビームも防がれています!」
「なんだと!?」
スクリーンの一つに目を移すと、下弦から突っ込んでくる光があった。
「リ、リテイナーです!リテイナーがミサイルにくっついています!どうしましょう。下弦には、まったく注意を払っていません!」
「こちらもリテイナーを向かわせろ!」
号令に従い、光点の倍近いリテイナーがその場へと向かう。
「まずいよ。敵さんの動きが、かなりいい。」
ユーニスが、誰にとも無くつぶやく。
ガキンッ!
少し後方を行っていた、ノーチラス号、シルフィードMK2、シルフィードXXの3機を含む数機が、ミサイルと分離した。
リテイナーという枷を失ったミサイルが一気に加速し、すぐ前で撃墜されて火の玉に変わる。
「ここは俺達に任せろ!」
「了解。任せてください!」
一見会話が成立しているかに見えるが、ミノフスキー粒子のせいで通信が出来る訳が無い。
以心伝心か、独り言か・・・・・・。
そして、レイアスとユーニスの目に戦艦の壁がぐんぐんと迫ってくる。
主砲は別の方向を向いているので、こちらに飛んでくるのはもっぱら機関銃等だ。
絞り込んだレイアスとユーニスの一撃がその壁にリテイナーの入れるくらいの穴をあけると、一気に飛びこんだ。
そして、進行方向に長い穴をあけてミサイルと分離した。
まっすぐ飛んで行ったミサイルは、少し先で爆発を起こす。
レイアスとユーニスは、辺りを手当たり次第に攻撃した。
「折れて行く・・・・・やったのか?」
「そうみたいね。計算どおり、あそこが弱点だったみたいよ。」
ネモと花梨が、背中合わせで接触回線を繋いでいる。
その前でホイールオブフォーチュンの巨体が小爆発を起こしながら、二つに分かれていっている。
ホイールオブフォーチュンは、錨が二つくっついたような、奇妙な形をしていた。
レイアスとユーニスの二人が突っ込んだそこは、そのちょうど真中辺りだった。
どんな物にも弱点はあるが、その弱点を敵に見せるわけは無い。
それが巧を奏した。
つまり、幸運な事に、ちょうど敵に背を向けていたそここそが、ホイールオブフォーチュンの弱点だったのだ。
両方にもその小爆発は起こっているから、これで戦艦は完全に沈黙するだろう。
だが。
「なに、この気は?」
その異常な気に初めに気がついたのは、最も気に敏感なティアソレームだった。
ティアソレームは、戦艦にかなり接近した所で戦っていた。
そして、思わず生唾を飲み込むティアソレームの目の前で、ハッチが静かに開く。
そこから出てきたのは、純白のボディに白い翼をつけた機体だった。
抽象作家の作るオブジェのようなその姿は、まるで神話の天使のようだ。
ただ、とてつもなく巨大だ。
機体の全長は、100メートルくらいか。
「帝国のAB?いや、ちがう。」
ティアソは咄嗟に『帝国』を思い浮かべたが、違う。
よく見れば、各部位の技術に、地球と同じ物を使っている。
帝国のABは、地球圏のリテイナーとは全く異なった技術を使用しているから、間違いは無い。
ヴュイッ!
その機体が無造作に放ったビームは、一度に数十のリテイナーを火球に変えた。
「化け物め。」
次々にハッチが開き、似たような形ののリテイナーが次々に姿をあらわす。
その数、10機。
いっせいにその翼が開き、大量の羽が辺りに舞い散る。
それらは渦を巻くと、そばにいたリテイナーを敵味方無差別に切り刻んだ。
「ゴーレムに悪魔に天使。ボク、夢でも見てるのかな・・・・・。」
「へっ、敵さんは、漫画かアニメの見過ぎだぜ。キュラー、分析は?」
「オールレンジ攻撃や全方位ビームなどに頼っているせいか、動きはかなりスローです。」
「じゃあ何とかなるね。」
「しかし、攻撃一つ一つが・・・・・・・。」
ゴゥ!
言葉の途中で、ユーニスが飛び出した。
「・・・・・かなり長く持続するので、追いこまれたら終わりです。」
「あいつ、それ聞かないで良かったのかな。」
レイアスはのんきに首を傾げながら言った。
「たしかに凄いリテイナーだが、あれだけで制圧できるほどこの辺の連邦は甘くないだろ。それに、そんな事に時間を使ってたら、いくらなんでも地上の基地が機能回復するぜ。」
「はい。ですからこれは、想像も入っているのですが・・・・・。」
「何だ?」
「恐らくあのリテイナーは、先程MHK近くでのゴーレムタイプと同じような機能を持っています。」
「重力下であの巨体を維持するための、サイコミュ機構とかってやつか?」
「はい。」
「とすると・・・・・・。」
注意深くまわりを見渡す。
戦艦の破片や欠片が、赤く光りながら地球に降り注いでいる。
恐らく、これくらいの大きさならば、燃え尽きて終わりだろう。
だが、レイアスは見つけた。
戦艦の欠片にまぎれるようにして落ちて行く、大きなカプセルを。
「本命はあっちか。」
「はい。」
炎の翼を広げ、飛び立つ。
「行くぞ!」
「イエス、マイ=マスター。」
シーン29:タロット
突如現れた巨大なリテイナーに、連邦軍の兵士は恐慌状態に陥りかけた。
「う、うわあああ!?」
巨大リテイナーが、こちらを向く。
たったそれだけの動作で、数10の連邦の兵達は震え上がった。
ここまで及び腰になっていては、勝てるわけが無い。
いや、それ以前に、戦えるわけが無い。
巨大リテイナーの砲塔が光る。
しかし・・・・・。
「銀河、流星剣っ!!」
ズババババ!!
その時、閃光が駆け抜けた。
次の瞬間、連邦軍のリテイナーの目の前に一機のリテイナーが現れ、その更に次の瞬間に巨大リテイナーの翼や頭部が分離した。
意識してか決めポーズを取ったその機体は、ティアソレーム=クルスが駆るシルフィードXXだ。
だが、これだけの攻撃なら、まだ致命傷とは言えなかっただろう。
しかしそこに、光の雨が降り注いだ。
ユーニスの乗るライトニング・エンジェルのサテライトビットと、弥生の乗るフェアリィ・リンクのビームライフルの連射が、巨大リテイナーを貫いたのだ。
さすがに爆発を起こして沈黙する、巨大リテイナー。
10機中、たったの1機。
これだけの戦闘力を持ったものを、たった1機倒しただけ。
だが、連邦の兵士が勇気付けられるのには、充分だった。
「た、倒せない敵じゃない!」
「俺だって、やってやる!」
どんな強敵だろうと、倒す事は出来る。
その可能性は限りなく少ないかもしれないが、何もしなければゼロになるだけだ。
「やっと動いたわ。」
花梨がライトニング・エンジェルとフェアリィ・リンクの間にシルフィードMK2の機体を割り込ませ、接触回線を開いて言った。
「数で勝る連邦軍と、性能で勝るあちらさん。これで戦いの行方は解らなくなったわね〜。」
それに応じたのは、東雲弥生。
花梨の妹だ。
姉に負けず劣らず美人だし、メカの整備や改造の腕も立つが、性格や性癖に問題がある。
「何言ってるの。アタシらがいるんだから、勝つわ。」
「え〜、もう疲れたよ、お姉ちゃん。お薬吸う〜。」
「フェイム・フェイスは帰るまでだめ!」
フェイム・フェイスとは、合法ドラッグの一種だ。
鼻から吸引することによって、約一時間ほど情報伝達速度を高める。
強力な副作用は無いが、煙草と同じでそういう薬物ほど危ない。
「へっへ〜ん。もう吸っちゃったもんね。きゃははは!」
「あっちゃ〜。」
花梨は目を覆った。
多少の疲労感があるため、戦場での服用は止めさせたかったのだが・・・・・・・。
すでに遅かったらしい。
「・・・・・・・ユーニス、さっきから黙ってるけど、どうかした?」
「ん〜、何か足りないのよね。」
「何かって・・・・・ネモのおっさんはあの辺で元気にやってるみたいだし・・・・・・。」
一つ注釈。
ネモはおっさんと呼ばれるほどに年をとっていない。
ネモがこの言葉を聞いていたら、きっと憤慨していただろう。
「ねぇねぇ。あんなとこにカプセルがあるよ。」
「まぁ、ほっとこう。今はそんなの気にしてる場合じゃないわ。」
「そう、そうだね。」
東雲リテイナー工廠の面々は、次の標的に向かって飛び立った。
前のページへ 次のページへ
レイアスのホームページに戻る
小説のページに戻る