第5話 DEEP MIST、暗躍(5)



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シーン30:愚者

『我はアルカナの0番、フール。笑い、語り、最後に全てを決する者。』
どことも知れない洋上でレイアスとそのリテイナーは対峙していた。
そして、レイアスが立ちはだかった時、頭の中にその声が響いた。
「俺の弟の知り合いか?」
その無機質な声は、少し前に聞いた『ハングドマン』と名乗るモノと、多少の違いは有るにしても似ていたからだ。
聞こえていないのか、相手は答えない。
だが、レイアスはそんな事は問題にしてないらしく、問いを続けた。
「そんな物騒な物、何に使う気だ?」
レイアスの言う物騒な物とは、もちろん相手のリテイナーのことである。
初めは解らなかったが、どうやらCKのようだ。
とてもそうは見えないが。
そしてその推進力は、大抵のCKがそうであるように、核だ。
しかも、それが全身のいたるところに配置されている。
ミノフスキー粒子には、核のエネルギーを押さえ込み、閉じ込めてしまう作用があるといっても、これ1機あれば地球など破壊し尽くす事が出来る。
レイアスは左腕にビーム・サイズを構えた。
バスターライフルだと引火してしまう可能性があるからだ。
いや、可能性だけならばビーム・サイズにもある。
だが、気持ちだけでも、こちらの方がずっといい。
ちなみに、右腕にはすでにバスターライフル「ヘル・フレイム」を装着している。
『審判が下ったからだ。』
初めて。
その声は、レイアスの問いに答えた。
その注意が、たった今自分に注がれたと気付く。
「何だと?」
「審判ですって?」
レイアスとキュラーが、ほぼ同時に疑問を口にした。
『そうだ。ジャッジメントだ。』
ジャッジメント。
レイアスとキュラーはかつて、そんな名前のオーパーツと戦った事がある。
全てに審判を下すためのオーパーツ。
それだけのために、そのオーパーツは民間船を自らの身体に変え、多くの人間を殺戮した。
「まさか・・・・・あの時からなの?」
『否。』
そうだ。
そうであるはずが無い。
ジャッジメントはあの時、レイアス達を・・・・人間を認めると言った。
『審判は、それ以前から下されていた。』
無造作に、火線が走る。
フールがビームを放ったのだ。
『そのために、ディープミストなどという組織まで作り、一番早い方法で人間に対抗するための力をつけた。』
が、レイアスも無造作にかわす。
そして、2機が動時に接近し、
シュバァ!
ビームサーベルとビームサイズが交差する。
そして、装甲を焼くスパークに、一旦離れる。
『貴様らは地球に巣食う害虫でしかない。』
また、ビーム。
海が割れる。
その攻撃も、なんとか避ける。
そして、接近。
白炎のバルカン砲は装甲に阻まれる。
「人以外の者が人に裁きを下そうって言うの?」
『人は自分の都合に基づく裁きで、どれだけの生物を害したと思っている。』
「知らん!」
ザバッ!
フールに押しこまれるようにして、2機は海中に沈んだ。
「だが、ジャッジメントのやつは見守ると言ったぞ!」
『我らはそれを知らない。だから、裁きを実行する!』
音を立て、水面に浮かんだフールの胸部が開く。
その胸に大量にミサイルが搭載されている。
「全て核ミサイルです。」
あくまで冷静な声で。
ただし、素早くキュラーが伝える。
『行け!』
「馬鹿野郎!」
ズバッ!
白炎のビーム・サイズが一閃した。
『な、信管だけを切り取っただと!?』
遅れて海上に飛び出す、白炎。
「人間を潰すために、人間以外も潰す気か?だったら、てめぇらも人間と変わる所があるものか!」
ガグンッ
だが、その言葉を遮るかのように、レイアスはそのリテイナーの腕に捕まってしまった。
『うるさい。』
ぎりぎりと力が加わる。
「握りつぶす気です。圧力、あと20秒で限界値。」
100メートルと20メートル。
大きさだけで、圧倒的だ。
「うおおおおお!!」
ゴウッ!
白炎から、炎が溢れ、スパークが散る。
だが、それは白炎が破壊されようとする光ではなかった。
握りつぶそうと力が加えられた指は、逆に押し返されていた。
『このリテイナーの、どこにこんなパワーが!?』
白炎の全身が真っ白な炎に包まれる。
さすがに危険を感じたのか、フールのビーム砲の照準が白炎をロックした。
「駄目だよ・・・・・・。」
コウッ!
悲しげな声。
ビームが発射される前に、ビーム砲は天空からの一筋の閃光に包まれた。
そして、消失。
見上げれば天使。
ユーニスのライトニング・エンジェルが、その稲妻を発して光る翼を広げていた。
「きみは間違えたんだ。」
静かに海面に降り立つ、ユーニスのライトニング・エンジェル。
「あなた達のやっている事だって、人の争いを呼んでいるのに。」
ユーニスの声は、憂いに満ちていた。
この戦いで、かなりの人間が死んだ。
ディープミストが仕掛けた戦いで、だ。
「人間がどうだか知らないがな。地球は守る。」
そして、そのそばに降り立つ、レイアスの白炎。
ライトニング・エンジェルは雷の翼を。白炎は炎の翼を広げた。
共に、純白の光を放っている。
まるで、対をなす天使。
雷光の天使と、灼熱の天使だ。
『ならば、乗り越えて見せろ!』
「応よ!」
レイアスが吠えた。
キュラーは、黙って頷く。
光は、フールの首に降り注いだ。
大抵の巨大なCKは、頭や首の付け根にコックピットを据え付けている。
だが、フールにはパイロットはいない。
コックピットがあるべき場所には、ただ巨大な脳みそが浮かんでいる。
そしてその中央にあるのは、ただの金色に光る金属板だ。
それこそがフールの核。
いや、ディープミストを率いる大アルカナ達の本体だ。
金属板は、ユーニスの放ったサテライトビットとレイアスのバスターライフルによって、合計4条のビームを浴びて、蒸発した。
崩れるように沈黙するフール。
核に引火はしなかった・・・・・。
「さようなら・・・・・。」
ユーニスの声は、悲しみで溢れていた。
その悲しみに呼応するかのように、4枚の翼が大きく開いた。
「ユーニス?」
心配そうに声をかけるレイアス。
「さ、帰ろう!お腹すいちゃった。」
が、次に映った通信機の向こうの彼女は、もう明るい笑みを取り戻していた。
「・・・・・よし、帰るか!キュラー、MHKに帰路をとってくれ。」
「了解。ここからだと、2時間で着きます。」
まもなく黄昏へと変わる空を、2機のリテイナーは再び飛び立った。
そしてちょうどそのころ、宇宙のディープミスト側の巨大リテイナーも、最後の1機が撃破されたところだった。


シーン31:終劇

翌日、MHKのドックの一つに、5つの影があった。
ユーニスと、それを見送る、レイアス、キュラー、ネモ、エレクトラの4人だ。
東雲リテイナー工廠に帰る前に燃料の補給だけをするつもりでMHKに寄ったのだが、戦闘中にリミッターを一つ外したせいで、回路の一部がオーバーロードしており、その復旧に時間がかかってしまったのだ。
「じ、じゃあ、行くね。」
そう言うユーニスはしかし、やけに慌ただしい。
笑みも心なしか引きつっている。
「なにも、そんなに慌てて出て行かなくてもいいんじゃないか?」
「いや、いいの!ほんとに!もう充分にゆっくりしたから!」
あたあたと手を振り、さっさとリテイナーのほうに向かおうとするユーニス。
だがそこに、慌ただしい人間がもう一人増えた。
ゼロが、蹴破るようにして扉を開けて入ってきたのだ。
なぜかその目は、涙でぐしゃぐしゃだった。
「ユーニスさん!僕に黙って行くなんて、ひどいじゃないですかぁ!」
「あ、いや〜・・・・・すごい落ち込んでたみたいだから・・・・。」
ユーニスが救いを求めてこちらに目を向ける。
「何をやったんだ?」
つつっと寄って、こそこそと話すレイアス。
ユーニスもこっちに合わせてか、声を潜める。
「昨日、告白されちゃって・・・・・。」
「何ぃ!?」
「でも、ゼロ君と・・・・その・・・・恋愛とか、考えられなかったから、フッちゃったの。」
そりゃ、そうだろう。
見た目で言えば、ゼロアスは10歳程度。
対するユーニスは、だいたい15歳くらいのはずだが、もう少しだけ大人びて見える。
言うなれば、お姉ちゃんとがきんちょである。
「それで彼、凄く落ち込んじゃったみたいだったから、ボク、居づらくて・・・・。」
ゼロアスを見れば、昨日の事を思い出したのか、突っ伏して泣いている。
「散ったか。無残な・・・・・。」
「まぁ、これも経験ですよね。」
レイアスとネモは互いに頷きあって、そう言った。
その後ろで、キュラーは無表情に立っていたが、どうやらあきれていたらしい。
「まぁまぁ。世の中半分は女性なのだから・・・・・。」
いいかげんに泣き止まないので、エレクトラが慰めの言葉をかけた。
とたんに泣き止むゼロアス。
目の前にかがんでいるエレクトラの方を見る。
なんと言う偶然か、MHKに所属して数年。ゼロアスは、この時初めてエレクトラの顔を見た。
明るい金髪。
優しい笑顔。
そして、大きな胸。
突然ゼロが黙り込んで困惑しているエレクトラの手をはっしと取り、目をきらきらと潤ませて、ゼロアスは口を開いた。
「おねーさん!結婚してください!」
「節操無しかい!」
スパン!スパン!
次の瞬間にゼロアスは、レイアスとネモのハリセンの一撃を後頭部に受けて気絶した。
その後ろで、ユーニスが溜息をついたのが、レイアスの耳に痛かった・・・・・。
「こいつは殺した方が良かったのかもしれない。」
レイアスは初めて本気でそう思った。

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