第7話 Partner、復活
巨大空母『ツヴァイハンダー(両手持ちの大剣)』。
膨大な数のリテイナーや戦闘機の格納を可能にし、それ自体が動く基地と言える。
その格納庫の一角にヴァンブレイズνが今着艦した。
「御疲れ様です。」
「左腕と盾をやられた。右膝のアクチュエーターも修理だ。」
ヴァンブレイズから降りた人間、ヤスノリ=イワサキが近寄ってきたメカニックに修理個所を言う。
と、視界の端に白い服にミラーシェードの男が目に入った。
つかつかと近寄るヤスノリ。
その手からぽんっとディスクを投げた。
それは、緩やかな放物線を描き、男の元に渡る。
「ごくろうさま。」
「もういいだろうが・・・・。キースを離せ。」
底冷えのする声で、ヤスノリは言った。
大の男でもこの表情を見れば、本能でヤバイと感じるだろう。
だが、男はそれを平然とした顔で受け止めている。
「まだまだですよ。あなたにはもう少し働いてもらわないとね。」
「てめぇっ!」
ズダンッ!
ヤスノリが男の胸座を掴みながら壁に押しつけた。
「キース君の事を考えるなら、離すのですね。それとも、彼だけでは足りませんか?」
「くっ・・・・・・!」
息を数回吐き、やっと男から手を離す。
「キースは・・・・無事なんだろうな・・・・・。」
「御客様のように丁寧に扱っていますよ。今の所はね。」
もしも逆らえば、即座に殺す準備があるということだ。
「俺は・・・・てめぇを許さねぇ・・・・・。」
そう言うと、ヤスノリは歩み去った。
「構いませんよ。どうせ、もう少しで・・・・・・。」
その時、初めて男の表情が動いた。
笑みの形に・・・・・・。
「で、今回は何をやられたんですか?」
「今回は第十一武器庫の未解明オーパーツ8個だそうだ。」
ここはMHKの会議場。
重苦しい雰囲気の中で一番最初に口を開いたのは、白衣の男、葉月孝太郎だ。
MHKでは博士と名乗り、日夜新兵器の開発に明け暮れている。
それに答えた男の名は、ハスター=ハストゥール。
この若さでMHKの所長になった男だ。
実力も相当である。
「毎度毎度、なんてタイミングで来るにゃ。」
そう軽く呟いたのは、りるだ。
先程までの大騒ぎは何処へやら、けろりとしたものだ。
アルコールの浄化装置でもついているのだろうか。
「人だけはそれなりに居たのだけど・・・・・ねぇ。」
溜息をつく金髪美女、シェラ=グレイシール。
彼女はMHKの人事部長だ。
その視線の先には、まだ頭が痛いのか突っ伏しているネモの姿がある。
「面目無い・・・・・。」
「まぁ、休暇中だったのだから、別にいいんだけれど。」
「表からは極悪商会の精鋭部隊、裏からはフリーファイターを混ぜた攪乱部隊をそれぞれ送り、その隙に潜伏隊がオーパーツの奪取。わざわざ人間が持ち運び出来るもので、おっかなそうなのばかり狙っていますね。しかも、脱出経路に次元トンネルをつかって。」
葉月博士の隣に立った女性が言葉を紡ぐ度に、前面の大型ディスプレイに次々に矢印や光点が刻まれる。
彼女は葉月博士の秘書で、美帆という名前だ。
「死傷者10名、重傷32名、その他軽傷数知れず。無人リテイナーの被害も含めると・・・・・まったく、やってくれるな。」
口の前で手を組み、ハスターは苦虫を10匹ぐらい一気に噛み潰したような声で言った。
「ところで、ヤスノリの奴はどうして裏切ったんだ?」
ネモの声がどんよりしているのは、酒のせいばかりではないだろう。
そこへ男が一人、扉をバンッと開けて乱入した。
「ヤスノリはそんなやつじゃない!」
入ってきたのは、なんとレイアスである。
額や頬に火傷のような跡が見えるが、差し障り無いようだ。
その後ろからキュラーが歩いてくる。
「レイアス!?生きてたのか!」
「あと数ミリずれていれば、焼死か爆死してました。」
「けど、はじめからヤスノリは俺を殺す気なんて無かったんだ。」
「だが、そのヤスノリ君が我々に敵対行動を取ったのは確かだ。何か裏があるにせよね。」
「う・・・・まぁ・・・・。」
「親友を裏切り者扱いされて怒るのは分かるが・・・・・な。」
「悪かった。」
「いえ、すいません。」
レイアスは頭を掻きながら手近な空席に着席した。
「今やらねばならないことは、敵を追い、盗まれた物を取り返す事だ。」
ハスターが椅子の背もたれに背を凭せ掛けながら言った。
その声に応じて、美帆が一歩前に出る。
「え〜っと、撤退して行くヤスノリさんと極悪商会にそれぞれ追っ手を差し向けました。」
「無駄・・・・・でしょうね。」
が、即座にシェラルによって否定されてしまう。
「そうでしょうね。短距離ならともかく、長距離でヴァンブレイズに普通のリテイナーが追いつけるはずがありませんし、極悪商会に到っては追っ手を差し向けるまでに時間がかかってしまいました。」
美帆もそこまでは予想している。
「ですから、これから第二、第三の手を打つ必要があります。」
「しかも、早急にね。」
葉月博士がずいっと前に出た。
「まずは異次元に逃げた奴等の足取りを捜しましょう。ですが、我々には異世界の追跡は難しい。」
「それなら大丈夫。」
それに応じたのはりるだ。
「異次元のことは、このりる様にまっかせるにゃん!」
猫娘は、胸を反らせてぽんと叩いた。
「ちりゃ!」
ズバッ!
気合一閃、ゾアメルグスターの乗るMWフィーリアンが振り下ろしたマインドソードが、盾ごと相手のリテイナーを真っ二つにする。
コックピットから転げ落ちた人間が降参のジェスチャーをしている。
これでここにいた敵のリテイナーは一掃したことになる。
すでに輸送機も確保している。
・・・・のだが・・・・・。
「あらら、ここもハズレだったみたいね。」
「うえー、こいつもかよ〜。」
シェラルが輸送機の中身を確認しながら言った言葉に、ゾアメルが溜息をついた。
こういったダミーが3つも続いたのだから、無理もないだろう。
あれから、りるのつてでウルサーやセラファイスなどの異世界での不審なものの探索が始まった。
MHKに居合わせた面々は、それぞれ2人から3人の小隊にわかれてそれぞれその不審そうなものを追って、こうして飛んできたのだ。
だが、盗まれたオーパーツがここにないのなら、ここにいる理由もない。
「じゃ、さっさと次に行こうぜ。」
「・・・・・まって・・・・。」
そう言って次の目的地に向けて飛び立とうとしたゾアメルをシェラルが制した。
「ねぇ、何か聞こえない?」
「いや、別に・・・・・・。」
言いかけて、やめた。
確かに奇妙な音が聞こえる。
何かを噛み砕くような、削るような音が密かに・・・・・。
「・・・・下から聞こえる・・・・・。」
「・・・・ああ。だが、なにかイヤな予感がする。」
試しにソナーを地中に向けてみる。
すると、少し行った所の地中に何かの反応があった。
ソナーの微弱な反応を頼りに前に進む2機。
「この真下か。」
「そうね・・・・・・。」
ジャキンッ!
シェラルが愛機シューティングスターのハイパーナックルを起動する。
まるで薬莢を装填した時のような音と共にシューティングスターの右腕が白い煙を吐き、火花と雷光が散る。
「はああぁぁぁあああ!!!」
しゅうしゅうとエネルギーがシューティングスターの右腕にエネルギーが集まって行くのが肉眼でも分かる。
「げ、もしかして・・・・・。」
ゾアメルの危惧をよそに、高く舞い上がるシューティングスター。
「いっけぇえええ!!」
ずどぉおんっ!!
「やっぱり〜〜〜〜〜ぃ!?」
シューティングスターと地面との距離が一気にゼロになり、嵐でも直撃したかのような衝撃が当り一面を揺るがす。
その様は、まるで隕石が落下したかのようでもあった。
ゾアメルがなんとか衝撃に耐えて目を開けてみると、そこには小規模なクレーターが出来ていた。
「ちょっとはこっちのことも考えろ!!」
「あはは、ごめんごめん。だけど、見てよ。」
シェラルの指差したクレーターの底には、不自然な空洞が出来ていた。
空洞は南から北に続いている。
地中を何かが移動した跡のようだ。
「見てこよう。」
「あ、待った!」
言うなり、シェラルはゾアメルの制止も聞かずにその空洞の中に飛び込んだ。
「お〜い、敵が居たんなら、それなりに警戒した方が・・・・・。」
「きゃー!!」
直後、悲鳴と共にセシリアが飛び出した。
それに続いて円盤のような物が次々に飛び出す。
「なによ、これ〜!」
「バグだ!」
バグとは、もとは対人掃討用に開発されたとされる兵器の通称で、その非人道性から連邦は開発を中止させたものである。
だが、実際には完成してしまった。
半年前、コロニー一つがバグの暴走によって壊滅した事件は、まだ記憶に新しい。
バグが攻撃目標を確かめるかのようにゾアメルとシェラルを取り囲む。
円盤の外円には鋭い刃がいくつも取り付けられている。
それが高速回転して、一気に突っ込んでくる。
「うわっ、うわっ、沢山来たっ!」
咄嗟にナックルを構えるシューティングスター。
そして手近な一機を殴る。
「てやっ!」
どごっ!
バグの装甲は脆く、あっさりとナックルが突き抜ける。
「あ、止めといた方が・・・・・・・。」
ぼんっ!
「きゃっ!」
ゾアメルが言い終わる前にバグが爆発した。
自爆装置だ。
バグが自力で飛行できなくなった時、自爆装置が作動するのだ。
シューティングスターのディスプレイに赤い文字で被害状況が表示される。
ナックルで打ち抜いた場所がよかったのか、あまり深刻な被害は無い。
「だから言おうとしたのに・・・・。」
「遅いわよっ!」
どつき倒したい衝動に駆られたが、今のこの切迫した状況ではそういうわけにもいかない。
「爆発の半径は小さいから。」
言いながらゾアメルが剣を振ると、3つほどのバグがまっぷたつになって転がる。
シェラルも左腕のビームライフルに攻撃方法を変えてバグに対処しだした。
だが、バグの数も半端ではない。
斬っても撃っても、次から次にわいて出てくる。
「え〜ん、キリがないよ〜。」
「ああ、くそっ!オレたちって、こんなのの相手ばっかか!?」
だが、悪いことは更に続く。
バグが射出されなくなったと思ったら、今度は穴から巨大な砲塔がのぞいた。
「げ、なんだあれ?」
まるでその声でも聞きつけたかのようにキリキリとフィーリアンの方を向く砲台。
カッ!!
瞬間、明暗が逆転する。
砲塔から放たれたレーザー光が空を薙いだのだ。
左腕を犠牲にしながら、なんとか回避するゾアメル。
「戦車ならこれは避けられないでしょ!」
ズシュウゥゥンッ!!
お返しとばかりにシューティングスターのビームが放たれ、爆発する。
だが、シェラルの後ろでズシャッという音がした。
「危ない、後ろ!」
「え?」
振り向いた先にあったのは、長い足を10本もつけた移動砲台の姿だった。
どうやら穴から飛んで出てきたらしい。
「あ・・・あ・・・・・・・。」
「避けろ、レーザーがくるぞ!」
砲台に光が収束して行く。
その間にもバグの攻撃は緩まっていないので、ゾアメルの位置からは手出しも出来ない。
「った、多足は、いやあああああああぁああ!!」
どっごぉん!
叫ぶや否や、一気に突っ込んで行くシューティングスター。
バグがそちらに集中するが、その事如くが追いつけずに自爆し、あるいは撃ち落とされて近づけない。
「ああ、忌まわしい記憶が・・・・・。」
ゾアメルはそっと溜息をついた。
こうなったシェラルを止められる者などいない。
目の前から敵が居なくなるまでは・・・・。
もしかすると、一番ピンチなのは自分なのかもしれない・・・・・・。
「う〜・・・・・・。」
右へてくてく、左へてくてく。
頭を掻き、頬を掻き、傷に触れて顔をしかめる。
そしておもむろに見上げる。
見上げた先には、未だ修理中の白炎があった。
白炎はもともとGRF社の量産リテイナーを改造したものなので、コクピット回りと装甲の取替えをするだけで修理できる傷だった。
そうでなければ、もっと時間が掛かっていただろう。
もうすぐ白炎の修理は終わるだろう。
内部駆動系の修理や電子系の修理ならばレイアス一人ででも出来たし、手伝う事もあったのだが、装甲の取替えなどに手出しは出来ない。
だから、レイアスは待つしかなかった。
それは分かっていても、レイアスは落ち着けなかった。
いつもそうだ。
自分の機体が動かない時、自分の体が動かない時、戦えない時・・・・・・。不安で押しつぶされそうな気分を味わう。
そして、そんな自分に自己嫌悪する。
戦わなければ生きていけないバーサーカーでもあるまいし・・・・・・。
『わぁ、ちょっと、どいてどいて〜!』
ドスーン!
切羽詰った声と何か大きなモノが落ちる音で、レイアスの思考は中断された。
見れば、先ほど出撃したシューティングスターとフィーリアンがなんとか着地したところだった。
特にフィーリアンの様子は酷く、装甲はべこんべこんで、ほぼ全部取り替えだろう。
「あたしのシューティングスター、修理しておいてっ!」
コクピットから飛び降りながら、シェラル。
「ここじゃ応急処置が精一杯だよ?」
「それでかまわないから〜。」
そう言うと、シェラルはたったと本部へ通じる通路の方へ走って行った。
「おい、何があったんだ?」
「いつつ・・・・・どうもアタリを引いちまったらしい。」
レイアスに助け起こされながらなんとか外に出るゾアメル。
傷は歩くのに支障無さそうなので、レイアスはゾアメルがコクピットから出るときだけ手伝った。
「アタリ?」
「ああ。次元トンネルのところで逃がしてしまった。」
「そうか・・・・!」
今にも飛び出しそうなレイアス。
「こうしちゃいられない!・・・・・ぐぇっ!?」
しかし、その襟元を捕まれて窒息しそうになる。
「どこへいくの。」
慌てて振りかえるレイアス。
そこには、キュラーがいつのまにかやってきていた。
「あなたのリテイナーは修理にはまだすこしかかるわ。」
「う・・・・分かった。」
一応飛び出すのは諦めたレイアスだが、またその場をうろうろしだす。
「落ち着きなさい。焦っても、しかたないわ。」
「すまん・・・・わかっちゃ、いるんだがな・・・・・。」
その時所内に放送が掛かった。
放送の主は、どうやらハスター所長のようだ。
『レイアス、今すぐ司令室に来るように。』
レイアスは他の二人と顔を見合わせた。
レイアスが司令室に着くと、その場にはオペレーターと所長であるハスターの他に、ネモ、りる、シェラルの3人もいた。
「これで、大体揃ったか。」
ハスターが立ちあがった。
「なんです、呼び出して?」
「それは葉月博士から説明がある。」
パシュッと扉が開き、そこから白衣の男が颯爽と姿をあらわす。
言うまでも無く、葉月博士だ。
「いろいろ調べていると、どうも面白い事が判明しました。」
葉月がにっと笑うと、口の端で歯がキランと光った。
「まず、オーパーツを持って逃げた奴等は、シェラルさんたちによって発見されましたが、このXA-19ゲート付近から再び消息を絶ちました。恐らく、このゲートを使ったのでしょう。」
葉月の声に合わせ、ウルサーの一地域のマップが表示される。
「このゲートは、どこに続いてるんにゃ?」
りるが訊ねた。
「こちらの世界の、DD998地点。」
「ここは・・・・。」
モニターに映ったマップをみて、レイアスは唸った。
「うん?見覚えのある場所だな・・・・。」
「あたしも・・・・。」
ネモとシェラルがマップを覗きこんだ。
「そうですね・・・・では、10年前のマップに変えますよ。」
葉月が操作をすると、画面が変わった。
それを見ると、先程の画面とは最も大きく違う場所が分かった。
一つ、星の形が大きく変わっている。
その惑星の名は、ゴルダリア。
とある事件によって、今ではその惑星のサイズがだいぶ変わってしまった。
おかげで、今ではとても人の住む場所ではないらしい。
「そして、この場所にはアーカムラボもあった・・・・・。」
葉月の声に、レイアスは弾かれるようにそちらを見た。
「どうやら、今回の相手はレイアス君に浅からぬ因縁のある者らしいですね。」
葉月の眼鏡がキランと光った。
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