第7話 Partner、復活


「・・・・・・・あそこね?」
一条の流星が煌いた。
極限まで装甲を犠牲にした超高速PT。
シェラル=草薙の駆るシューティングスターは、その名を冠すに相応しく、まるで流星のようだ。
目の前に迫るは、無数の敵影。
そのどれもが異様な細身の機体。
まるで骨のみで動いているかのような奇妙なそれは、無人のリテイナーだ。
骨のようなリテイナーたちは、一斉に巨大なビームライフルを構えた。
体に不釣合いなほど大袈裟なそれは、メガバズーカライフルと言われる超高出力のビームライフルだ。
メガバズーカライフルは、その高出力の代償に、機体のオーバーヒートを引き起こしてしまうという欠点を持つ。
その欠点を、数で補おうと言うのか。
だが・・・・・。
「あたしの邪魔を、するなっ!!!」
流星が、速度と輝きを一気に増す。
一瞬でシューティングスターの厚みが消え、青い光がスッと線を引く。
ドドォンッ!
一瞬遅れ、連鎖して爆発が起こる。
それでも大群の一部を突き崩したに過ぎない。
即座に360度全周囲から突きつけられる銃口。
遅滞無く膨れ上がる光芒。
触れただけで・・・・いや、近くを通り過ぎるだけで鋼さえ蒸発するほどの熱量が、幾条も迫る。
微妙な時間差で全周囲から放たれる高威力のビームを避けることは、理論上不可能だ。
その筈だった。
少なくとも、一瞬前までは。
「遅いわ。」
光が収まった時、シューティングスターは無傷だった。
あの幾重ものビーム攻撃はどうなったのか?
答えは簡単である。
シューティングスターは、一瞬たりとも静止しなかったのである。
周りを取り囲んだバスターライフルの引き金が引かれた時には、シューティングスターは既に輪の外にまで抜け出していたのだ。
なんという加速力。
なんという速度。
まさに流星!
だが、生憎と相手は無人。
戦意の喪失も何も無い。
データに修正を加え、第2撃の布陣を敷く。
バスターライフルの銃口が、再び一斉にシューティングスターへと向かう。
この状況では仕方が無いとはいえ、無人機は全機シューティングスターへの警戒を強めた。
だがそれゆえ、後ろから近づく黒い機影に気が付かなかった。
「ファントムブレードッ!」
ぐぉんっ!
裂帛の気合。
煌く白刃。
巨大な剣が、まるでかじり取るかのようにごそりと敵をなぎ倒す。
セシリア=ミストロード駆る黒きGF、リーティス=ファントムがそこに立ちはだかっていた。
悪魔のような外観のリーティス=ファントムが一太刀を振るうごとに、無人リテイナーが紙くずのように破壊されていく。
慌てたように数体が銃口を向けるが、リーティス=ファントムはGFらしからぬ機動力でその全てを避けた。
全て紙一重。
紙一重で避けさえすれば、厚い装甲は熱を完璧にシャットアウトする。
「あたしがギャグ担当じゃないってとこ、見せてやるんだからっ!」
キュィーン
赤いバイザー状の目がキラリと光る。
そのまま流れるようにファントムブレードが閃く。
装甲が無いに等しい敵リテイナーは、あっさりと散っていった。
再び通り抜ける流星。
最早、無人リテイナーの数は包囲網を形成するのにも支障をきたしている。
「へへっ。ちょっと遅れちゃった。」
「ううん。ナイスタイミングよ。」
シューティングスターとリーティスファントムが構えを取る。
それぞれが互いの隙を補い、全く死角が無い。
「それより、方向はこっちのほうで合ってるの?」
「うん、間違いないよ。」
互いに頷きあう、シェラルとセシリア。
「じゃあ、こんなとこで止まってるわけにはいかないわね。」
シェラルの声に合わせてシューティングスターがナックルを構え、
「うん。さっさと片付けちゃお。」
セシリアの声に合わせてリーティスファントムがファントムブレードを構える。
無人リテイナーがこの2機に全滅させられるのは、そのすぐ後だった。


表から、重い地鳴りのような音が響いてくる。
予定通り陽動作戦は開始されたようだ。
彼女は暗闇の中でスッと目を細めた。
この作戦は慎重にいかねばならない。
彼女に課せられた使命は重大だ。
そろりそろりと足を忍ばせ、普通の人が入れないような場所へと侵入していく。
今の彼女には、それが可能なのだ。
カツッ
しまった、ドジった・・・・・。
「ん?何の音だ?」
兵士の近づく音が聞こえる。
このままでは見つけられてしまうかもしれない。
兵士はどんどん近づいてくる。
耳のいい彼女には、既に兵士の息遣いまで聞こえていた。
どうやら、一直線にこちらの方へ向かっているらしい。
近づいてくる方向が不味い。
このままでは逃げられない。
どうすればいい?
なにか、なにか方法があるはず・・・・・。
近づいてくる足音。
いっそ、ヤッちゃうか?
いや、出来ればまだ気付かれたくない。
今回気付かれるのは不味い。
ジャキッ
銃を構える音?
しまった・・・・・。
襲うとしたら、判断が遅すぎた。
どうする?
どうする?
どうする?
パッ
その時、眩い光が彼女を捕らえた。
懐中電灯の光に、彼女の愛らしい姿がくっきりと映し出されている。
「にゃあ。」
「なんだ、猫か・・・・・・。」
男は、ほぅっと息をつくと向こうのほうへ戻っていった。
「・・・・・・・・。」
沈黙。
猫・・・・・・彼女はそそくさと逃げながら独り言を呟いた。
「頭悪くて助かったにゃ。」
彼女の名前は、りる=るうり。
異世界ウルサーの人間である彼女は、生まれつき猫に変身する能力を持っている。
だから、今は猫の姿だ。
だが・・・・・。
ここは敵の隠れ家。
ヤスノリの親友であるキースが捕らえられていると目される場所だ。
この惑星にはこのドーム以外に人の居住地は存在しない。
いや、生物そのものが存在しない星なのだ。
猫など、居るわけが無い。
彼女を除いては。


今、戦場では白い光と青い光が、まるで黒い宇宙を埋め尽くさんばかりに交錯していた。
白い光はレイアスの駆る白炎。
青い光はヤスノリのヴァンブレイズ3だ。
まるで光が渦を巻いているようだ。
ガラオン率いるMHK軍と、ツヴァイハンダーを背に布陣する敵軍団は、その滅茶苦茶な戦い方に割り込むことも出来ずにいる。
「ヴァンブレイズって、こんなに重装備だったか!?」
「どうやら、ゼノビア製の強化パーツを装備しているようです。」
「へ、どうりで手数が多いと思ったぜ。リニューアルしてなけりゃ、あっさりオダブツだったってわけか !」
通常、軍一般兵などの規格の統一されたリテイナーは、一度破損しても全く同じパーツが支給され、外観的にも性能的にも変化はほとんど無い。
が、破損したのがオリジナルのリテイナーだったり、試作リテイナーだったりすると話は変わってくる。
レイアスのリテイナー『白炎』は、もともとは量産リテイナーを改造したものではあるが、基本構造体であるフレームまでも交換、改造してしまっているので、軍の規格品が合うわけが無かった。
そんな代替品の効かないリテイナーはどうやって修理するのかと言えば、これも場所により、時により様々である。
レイアスの場合は、研究所の試作品やジャンクの中で比較的実戦に使用できそうなものをチョイスし、少し手を加えたものを搭載することによって修理してきた。
だから、白炎の外観は故障、障害、破損部分が出るたびに変化してきた。
壊れるたびにグレードアップする機体。
それはまるで、人が成長するかの如く。どんな装備、どんな部品にも柔軟に対応できるフレーム。
これこそが、レイアスの作り出した『白炎』の、レイアス自身が気付いていない最大の特徴であった。
「そこだっ!」
レイアスのリフレクタービットが、曲芸飛行じみた光跡を残してヤスノリのアサルトビットと衝突する。
通常、実力の同程度の者同士の戦いは一瞬で決まるものだが、この戦いは一進一退を繰り返して終わる気配を見せない。
二人とも戦闘技術は互角。
強化パーツによってヤスノリのリテイナーの方は戦闘能力が格段に上がっているが、レイアス側にはキュラーが同乗してサポートを行っているため、これも互角。
だが、互いに躊躇する材料がたっぷりとあるこの状況では、勝負はなかなか決まらない。
「気に食わない相手には絶対に手を貸さない人です。よほどの理由があるはずなんですが・・・・・・。」
「ああ、分かってる。だが、今俺に出来るのは時間稼ぎだけだ。それも、本気でやらねぇと殺られるほどの・・・・・っ!」
キュラーとの会話で出来た本の少しの隙にもビームを叩き込んでくるヴァンブレイズと、死角へ回り込もうとするアサルトビット。
時間稼ぎといいながら、手加減など出来ない程の・・・・・死闘。


「どちらもがんばりますねぇ。私が解っていないとでも思ってるんですかね?」
白いスーツにミラーシェードの男。
未だ名も明かされぬこの謎の男は、果たして何者か。
「千日手では観客も飽きてしまいますからねぇ。」
くいっと人差し指でミラーシェードの位置を直す。
「で、俺たちは?」
背後に声。
カーヴィン率いる、パニッシャー達の声だ。
「少々シナリオの変更です。ま、臨機応変にお願いしますよ。」
「了解した。我々は侵入した鼠を叩く。」
ぶつんとモニターの切れる音。
ただでさえ薄暗い部屋が、一段と暗さを増す。
「まぁ、少々台本を外れた方が、面白い劇になりますしね。」
その時、空間が震えた。
まるで、亡者が雄叫びでも上げるかのような。
どこから発せられたのか、それもわからない。
「分かっていますよ。全ては、貴方の。いえ、私達の望みのままに。」
その震えの意味が分かるかのように、男は低く笑った。
「糸の切れた操り人形に、価値はありません。」
男の声に応えるように、空間が更に震える。
それは遠くの空に見える入道雲ではなく、雷鳴まで見える黒雲のようだ。
禍々しい狂気が牙を剥き出した。


「こっちだよっ!」
セシリアが『お兄ちゃん』の作った地図を見ながら言った。
「そうね。」
その言葉通り、シェラルのモニターでも自分たちを示す赤い光点が、目的地を示す青い二重丸に近づいている。
このまま邪魔が入らなければ、そう時間もかからずに到着するだろう。
邪魔さえ入らなければ。
ゴゥ!
「あぶないっ!」
真っ赤な炎の塊が、リーティスファントムの黒い装甲に阻まれて四散する。
攻撃の正体は、SSの高熱兵器サンフレアだ。
リーティスファントムの装甲には効果の薄い兵器だが、装甲の薄いシューティングスターは、掠っただけでオーバーヒートを引き起こされてしまう。
「下からも!」
シェラルの警告の声に、セシリアはなんとか反応できた。
下方からの攻撃から少しだけ体をずらす。
リーティスファントムはセシリアの動きを忠実にフィードバックし、攻撃から軸をずらすという達人芸をやってのける。
ズガガガガッ!
飛んできたのはこちらもSSの兵器、ドリルだった。
回転し、どんな物でも粉砕、貫通せんとするこの兵器は、対重装甲リテイナー用に開発された兵器だ。
分厚い装甲にこそその貫通力が威力を発揮する。
また、装甲を突き抜けやすいという特性は装甲の下に隠された、致命的な部分への打撃(俗に言うクリティカル)を与えやすいと言う特徴を持っている。
いかなリーティスファントムと言え・・・・・・・いや、リーティスファントムだからこそ、直撃を避けられたのは幸運だった。
例え直撃を耐えられたとしても、そのダメージは計り知れない。
「そこっ!」
バシュッ
シューティングスターの放ったビームが、サンフレアの発射地点に正確に命中する。
「手応えが無い・・・・・!?」
代わりに、また別の地点から飛来する菱形の物体。
「てぇえい!」
カキカキカキィンッ!
セシリアの動きをトレースしたリーティスファントムが、飛んできた手裏剣ランチャーの弾を(つまりは手裏剣を)全て叩き落とす。
二人は背中合わせになって構えを取った。
殺気は感じる。
ただ、殺気がどこから発せられているのかが読めない。
この空間の四方八方、どこからも殺気を感じないようで、感じる。
マズい。
非常にマズい。
相手の姿が見えないのに、こちらの姿は見られている。
しかも、こちらは相手の時間稼ぎに付き合っている暇は無い。
「こうなったら・・・・・・。」
「イチかバチかね。行くよっ!」
シェラルとセシリアは頷き合うと目的地に向けて一気に加速を開始した。


「レイアス君。良く頑張ってますね。」
「ああ。」
目の前では、レイアスとヤスノリの凄まじい応酬が演じられている。
ここまでになると、下手に手も出せない。
お陰で、ネモのガラオンも相手も、手勢を引かざるをえないのが現状だ。
「だからって、今リテイナーで出ないで下さいね。」
「歯がゆいな。正直。」
舌打ち一つして、とりあえず椅子に座りなおすネモ。
このままの状態が続けば、そのうち別働隊が人質であるキースを救出することだろう。
そうなればヤスノリもこちら側に戻ってくる。
時間稼ぎが出来ているのだから、これはかえって好都合なことだと考えるべきだ。
だが、嫌な予感が消えない。
「?」
モニター上の些細な変化にネモが気付いたのは、その時だった。
なにかがチラッと光った。
いつもならゴミかノイズと考えるほどの些細な光だが、今回は違う。
本能が危険を告げている。
「レーダー手!敵要塞表面のエネルギー分布をパッシブサーチしろ!」
「え?は、はいっ!」
レーダー手は少し油断していたのか、反応に間があった。
暫く緊張と無言の時間が、ただ流れる。
「こ・・・・・これは!?」
「報告しろ!」
「はいっ!エネルギー分布に微細な変化が見られます。エネルギー量は大した事ないんですが、奇妙な形に分布されています!」
「奇妙な形?」
「これは・・・・・レンズ!?」
「なにぃ!?」
報告を聞いたネモの反応は、他の誰が考えるより大きかった。
「至急、ミノフスキー粒子を散布しろ。マインドバリアの充填を急げ。デカイのがくるぞっ!」
「は、はいっ!」
今や、敵要塞のエネルギーフィールドは肉眼で確認できるまでになっている。
紫色の禍々しいフィールドが、丸く形成されていく様が見える。
それと共に、要塞の砲門が輝度を増していく。
『オメガバスター』
準備に時間がかかり、大量のエネルギーを消費するかわりに、人の作り得る最強のビーム兵器、バスターライフルの数十倍もの威力を誇る兵器。
また、もう一つの弱点として、エネルギーフィールド形成時にフィールドに衝撃を与えれば邪魔することも出来たのだが、もうすでにエネルギーフィールドは完成してしまっていた。
今からでは、逆にその強固なエネルギーが盾となる。
レイアスとヤスノリの戦いによって起こるエネルギーや、大量散布されたミノフスキー粒子を隠れ蓑にされたとはいえ・・・・・・・。
「レイアスを帰艦させろ!」
今からでは間に合わない。
気付くのが遅すぎた。
そう分かっていながらも、叫ばずにはいられなかった。
焦燥と後悔が、奥歯をキリッと鳴らせた。
「艦長!エネルギーフィールド正面に影!あれは・・・・・・・・ノーマルスーツ!?」
「な・・・・・!?」
今度こそ、ネモは絶句するしかなかった。
モニターには、エネルギーフィールドに対してなにやら怪しげな構えを取る人影が見えた。
が、すぐに強力なエネルギージャマーでぼやけ、見えなくなる。
確認する前に、視界は激しい光に覆われた。


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