故郷の味
「ブラスカ様!!俺は反対です!」
「ん?何故だ、アーロン?ジェクトもいいと言っているだろう?」
「し…しかし……ブラスカ様!こんな奴に料理を任せる訳には……」
「ジェクトの故郷の料理だ。私達は彼に任せて待つとしよう、なぁアーロン」
「ハッハッハ!そういう事だ。楽しみに待ってろや、アーロン!!」
そして、数十分後―――
何か未知なる楕円形の物体が皿に盛り付けられている。
辛うじてオムレツの形態はとっているようだが、見るからに美味そうとは考えられない。
「ほぅ〜れ!待たせたな♪その名もジェクト様特製スペシャルシーフードオムレツ2.5号だ!!」
「2.5?なんだその半端な数字は?…それよりなんだこれは。」
「ほほぅ。これがジェクトのいたザナルカンドの料理か…アーロン。」
「は。ブラスカ様、何でしょうか…?ムグッ!!」
無防備にも開いたアーロンの唇を割って、ブラスカのスプーンが口内へと侵入する。
「あぁ、君が一番に食べたいだろうと思ってね(微笑)」
「んんんんんん〜〜〜〜〜〜?!(ブラスカ様〜〜〜〜〜?!)」
アーロンは両眼に涙を湛えて必死に何事か訴えようとするが、
ブラスカはしっかり彼の唇を押さえつけてたしなめた。
「ふふふ…口にモノを入れたまま喋ってはいけないよ、アーロン(可愛い泣き顔だ…)」
「おうブラスカ、そんなかしこまって食うもんじゃねえから気にすんなよ!」
見かねたジェクトの言葉に、ブラスカはあっさりアーロンを解放したが、
いつもジェクトに口うるさいアーロンは一向に評論を下す気配がない。
「…アーロン?(おや、やりすぎたかな…?)」
「お、おいっ!どうしたアーロンっ!!!!!」
二人の目の前で、無言のままアーロンの身体がくたり、と頽れた。
「しっかりしろアーロン!!せめて俺の料理は味わってから逝け!」
ジェクトは意識を喪った青年を必要以上にしっかりと抱きかかえて、軽く上体を起こすと
その唇に、オムレツを載せたスプーンを乱暴に突っ込んだ。
「ジェクト…そのオムレツが原因だとは思わないのかね?(汗)」
「そんな訳があるか!俺ンとこのガキは泣いて喜んで食ってたんだぞ!!」
「泣いて…(やはり不味いのだな)」
「それよりブラスカ!【俺の】アーロンに何したんだ?!眼ぇ覚まさねぇぞ?」
「いや、特には…。っと、起きたか【私の】アーロン(ほっ)」
むっくりと起きあがる、生気の失せた顔貌に、ぎらりと光る眼光そして汗。
魔性すらも震えあがるような凍れる低音でアーロンは呟いた。
「フッ…誰が、誰のだと………………フフフフフフ」
恐れを知らぬ料理人が、にこやかに彼を覗きこむ。
「お♪俺のオムレツは効果抜群だったようだな。どうだ?料理も抜群な俺様に惚れ直したか?」
「消えろ…目障りだ……」
殺気を全身に沸騰させて、アーロンが大剣を構える。
「何だぁ、ムキになんなよ!…赤いぞ顔〜?」
「きっ…貴様ぁぁぁぁっ!」
「まぁまぁアーロン。ときにジェクト。味見は…したのかな?」
「俺様の味付けだしよぉ、味なんか見なくったってわかるぜ」
「していないのだな?」
「……ま、そうとも言うな。」
「していないのだな。」
「…………そ、そういう事になるな…」
「何っ?!味見もしない代物をブラスカ様に食べさせようとはいい度胸だ…!そこへなおれ!」
「何だよ〜。俺が悪いってのか?」
「アーロン…もういいんだよ。」
「しかしブラスカ様…これはあんまりです!!」
しきりに誤魔化そうとするジェクトと、宥めようとするブラスカの前に、
オムレツらしき物体の皿が突き出された。具材のイカ(?)がやや蠢いているようにも見える。
「…今からでも遅くはない、味見しては貰えまいかジェクト?」
「アーロンが喰って大丈夫だったんだ、ブラスカも安心して食えって!(滝汗)」
「………」
「…………」
「………?」
「……!」
おどろおどろしい物体を前に無言の牽制が続く。
どうやら自分の分が悪いと見たジェクトは、何とか遁れようとアーロンを見遣った。
しかし冷たく睨まれて、すごすごとスプーンを手に取る。
ざっとひと匙のオムレツを掬い、口へと運ぶ。もう少し…あと少し…
不気味な食物に緊張の糸が寸断されかかった瞬間、男は耐えかねたように立ちあがった。
「ブラスカ様、後はこいつに任せて何か美味しいものを食べましょう」
「よし、お前に任せたよ」
鷹揚に頷いてみせるブラスカと、とっとと厨房へと立ち去ったアーロンに交互に視線を遣ると
ジェクトは皿の中身を胃袋へ流し込んだ。
(チッ…どいつもこいつも……わかっちゃいねぇよ…)
「ぐっ…?!」
想像を絶する不味さに、ジェクトは涙ぐんだ。この脳髄を灼く不味さは徒事ではない。
いつもと同じように作った筈だったが…マズったみてぇだ。
しかし、それを口にする事は自分の失態を認めるように思えて出来なかった。
ブラスカに…アーロンに、格好の悪い自分を見せたくなくて、取り繕えば繕う程にぼろがでる。
黙って最後まで食べ切ろう。
ジェクトがそう決意した頃、厚切りのハムを挟んだサンドイッチを手にアーロンが現われた。
きっとブラスカに何か言われたに違いない。気を使いやがって…。
「さっきは…済まなかった。俺はお前に酷い事を…」
「あぁ?仕方ねぇ。あんだけマズいのは俺も初めてだ、気にすんなアーロン」
「お前でも不味かったか…ならば口直しに、どうだ?」
勧められたサンドイッチは、涙が止まらなくなる程美味かった。ただ無言でむしゃぶりつく。
アーロンがさらにおかわりを差し出す。そして…
「ジェクト…慣れない料理はもうするな。俺が作るから…そうだな、レシピを教えて貰いたいな」
ザナルカンドの、お前の好きな料理……俺が作ってやろう。だから元気出せ、ジェクト。
「なんでぇ、気に入ったんなら素直にそう言やぁ俺様がいつでも作ってやるぜ!」
「フン、お前の手料理なんて一生勘弁願いたいものだな」
「遠慮するなよアーロン!」
「誰が遠慮など…!!」
「しっかり覚えろよ。俺がザナルカンドに帰っていっても、ちゃんと作れるようにな…」
「お前と違って、ちゃんと食えるものを作るからな」
「う゛…」
―――――
―――
「アーロン、アーロンっ!!」
「……何だ?」
「なにボケっとしてんの?料理冷めるっスよ!」
「あぁ…」
あの場所、あの時から随分遠くへ離れてしまったものだ…。
ジェクトは還らず、俺が代わりにザナルカンドへゆく羽目になるとはな。
行って…一体何年が経っただろうか。ジェクト――――
スピラへ戻ってくれば、十年の歳月が過ぎていた。
ザナルカンドの影も形も無いスピラで、彼も故郷の味を想うだろう。
かつてジェクトがそうだったように。
俺に出来る事は少ない。ならばせめて…懐かしむ刻を少し。あの味を―
「旨いっス〜〜〜〜〜〜♪」
歓声をあげながら、ティーダは目の前のオムレツを片付けてゆく。
「…うまい、か……」
「うんうん♪オヤジがたまに作ると、死にそうなくれぇマズかったんだコレ」
母さんが作るのとは大違いだった。
おんなじ料理なのにさ…オヤジが作ると異様にマズくってさ……
「ねぇアーロン。オヤジのは不味かっただろ?」
「……まぁな」
「そっか…」
オヤジの、特別だったんだもんな…あんた。
作り方は…もう、アーロンしか知らないんだ。俺は味わうだけ…
あんたと一緒に作り上げたいのに、これはもう完成している。完結している。
だけど、俺はあんたと…!ティーダはこみ上げる想いを必死に飲み下す。
「ティーダ。…お前も作ってみるか?」
そして誰かに食べさせてやれ。ただし……味見は、しろ。
新しい物語が、或いは作られるかもしれん。
だからティーダ。 おれ 過去の幻影を追うな。俺にとらわれず、道を拓け。
夢が終わっても…消えないものが、確かにあるさ。
早く気付け。それがお前の、無限の可能性なのだから…。
「アーロン…?」
「何でもない。たわいもない考え事だ。」
願わくば、ジェクト。お前の息子に…強さを与えてくれ。
アーロンは隻眼を北方の空に向け、そして瞑目して祈った。
久しぶりのオムレツは、少し哀しげな塩味がした。
終
あとがき
榊の《シンの友》であり、オヤジ愛が昂じてついにHPまでつくってしまった
黄桜ポンさんにメールで送った作品。未公開品…つかUPは恥かしくて闇に葬った(苦笑)
いわゆるリサイクル品です。
変なものを食べるとヘイスト掛かって執筆スピード急上昇。困ったカラダの榊です(笑)
元ネタは、泣くほど不味かった和風きのこオムレツ。
大根おろしと醤油ベースのソースそのものには問題がない。
しめじやしいたけ、山菜やマッシュルームの組み合わせ自体は美味とすら言える。
卵も、古くもなんともない旨い卵の筈だ。
なのに…何故だ。
絶妙のコンビネーションで食した者を死の淵へと叩き込む、あの独特の風味は何だ。
あぁ…俺もアーロンみたいな嫁さんが欲しい。
めっさ強くて料理の上手な可愛いオヤジ大募集中!!
2001.8.21 Sakaki Naomi