― 白慕 ―


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静けき夜の終わりを告げる、忌々しい皓い光。
けしてわらわを瑕つけるものではなし、そもそもわらわは昼を嫌うてはおらなんだが、
その光はいつも孤独と不安を感じさせるものであった。

尤も、普段はそのような些細な事どもに毛程も注意をはろうたりはせぬ。
しかし時折……どうしたことであろう、
何処におってもその光がわらわを追うてくるような、
訳も無ぅ泪を流しながら寝覚めるような、そのような朝がある。
きまって花の香のつよい、月のない朝じゃった。
わらわの気分を覚ってか覚らずか、かような日には必ず来る影があった。
カーン。
わらわの愛し子、そして恐らくはわらわの最後の眷属。
ネクロードに血を啜られてなお、『ひと』として生き延びた、意志つよき子よ。
吸血鬼を憎悪し狩りたてる事を生業としておったカーンにしてみれば、
わらわに同族と看倣されるはきっと不愉快なものに違いあるまいが。
ネクロードの死後、カーンに宿りし闇のちからは大半が潰え、
わらわが蒼き月の紋章を作用してかの者の吸血鬼のさがを封じたため、
カーンはわずかな誤差をのぞいて『人間』に戻ることを得たのじゃった。
………それでも、わらわはカーンの内に感ずることができる。
その身のうちに流るるわが愛し子の血の一滴。わらわの血の一滴。
カーンが知ることは無いであろう、おのれが傍らに在るだけでどれほど、
わらわが慰めを得ることができるか……どれほど、わらわが絶望に沈みゆくものか……。
あやつが己の意思だと思っているわらわへの想いは、その血の所為にすぎぬ。
わらわの気も知らぬげに…じつに至福の身分であることじゃ。
根掘り葉掘りとむかし語りをぞさせたがる。
懐かしきことを想いめぐらすにはやぶさかではないが……

……ふぅ。
その辺で雷撃をくらってカーンが焦げておるが、いつもの事ゆえ気にもならぬ。
ひとが折角もの想いにふけっておるというのに騒々しき子じゃ。
ものがたりに大切な風情というものがわかっておらぬ。
何をしつこく纏わりついて訊ねるかと思えばこの馬鹿者め、
蒼き月の村にまつわる『儀式』について教えてくれなどと申しておったが
あのようなものを今更知ってどうする気であろう。
わらわが今後一族をふやす事はなく、いまは決して必要とされぬ儀式、
あやつにとっては、聴くも忌まわしい呪わしき所業にすぎぬというのに。
昔語りをすればわらわが、少しでも退屈せぬと勘違いしておるのであろうか。
っ……こやつ…ボケ対策なんぞとぬかしおった。
丁重にもう一撃脳天へ食らわせて誰ぞに持ち帰らせるとしよう。
よい考えじゃと思ったのもつかの間、危難を察したかカーンは姿を消しておる。
…つれない事よ。
まぁよい。カーンに『儀式』の事を吹き込んだ者をシメれば気晴らしにはなろう。
ヨレヨレでモジャモジャの…なんといったか………きっとあの、聞き込み屋じゃ。
カーンの払った依頼料、あまりに代価が低いようであれば目にもの見せてくれようぞ。
わらわはそやつの居そうな場所のひとつである食堂へ向かった。


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つづき
幻水
いんでっくす