むじか様のリクエストにより、 2525→にごにご→猫→猫まみれ!! のツヴァイク&キリィほんわか小説を書いてみました! エロスはまた次の機会に(笑) ご希望には沿えておりますでしょうか・・・? ★ななんと当作品に、コラボレーション漫画(2P)を描いて頂きました!! 猫まみれ
私はツヴァイク。
この世界の各地に痕跡を残す古代文明・シンダルの
足跡を追い続ける者のひとりである。
各国の学術機関において教鞭を執って生計を
立てている為、学者と名乗っても間違いはないだろう。
現在は、ファレナの某所で古い屋敷を買取り、
蒐集した文献を相手に睨みあいを続ける毎日である。
生徒達は海向こうに置いてきてしまったので
山ほど手に入れた古文書の整理も炊事も洗濯も、
何もかも自分ひとりで手掛けねばならんのだった。
そもそも私から学びたいと云うのならば、
海の一つや二つ位は軽く越えて研究に対する
熱意を示しに来るべきではないのかね。
行先も告げずに此処まで飛び出してきた己のことは
このさい棚にあげて、忙しすぎる日々をただ呪った。
◆
・・・熱意か。
熱意だけなら心当たりがなくもない。
私の隠れ家とも云えるこの屋敷と所蔵の文献を
血眼になって探している娘が居ることは居る。
だが、助手にする気はなかった。
もとより嫁入り前の娘を家に滞在させる事に対しては
強い抵抗を感じているし、そうでなくとも
自分の研究がかえって滞るであろうことが
眼に見えて想像できたからだ。
家事も料理も・・・期待できない。
屋敷に入れたら最後、
彼女が書物を読み散らかした部屋をひたすら
片付け続けるだけで終わってしまう。
よしんば家事をさせる事が出来たとしても、
彼女の料理の腕には何故だか不吉な予感がする。
噂をすれば影、ということもあるので
私はよくよく周辺を見回した。
ローレライの姿も気配も見受けられない。よかった。
気を取り直して食料を買い(この私がこの年齢で
まさかこんな事までしなければならんとは!!)
私は道中も深く注意をはらって家路についた。
◆
屋敷には使用人も置いていないが、
玄関を開けると何故か空気が暖かい気がした。
「泥棒か?」
此処には相応な価値の文献が揃っているが
嵩張るために狙われる気遣いは殆どなかった。
だが荒らされて破損でもしたら・・・
気が気ではなく、私は書斎へと踏み込んだ。
暗い部屋を手探りでランプを探す。
足元に何か柔らかいものが巻きついた。
「ぅへぁっ?!」
・・・・・・。
君は何も聞かなかった、・・・そうだな?
よし、それでいい。
その柔らかいものは膝の少し上あたりを突きながら
生暖かい温度を脛に伝えてきた。
よくは見えないが小さな動物だ。
馴れ馴れしいことに足の甲に乗ろうとするのを
強引に退けながらやっとの事で光源を手に入れた。
◆
「・・・・・・」
言葉も出なかった。
なんという乱雑さ、なんという有様だ。
書棚の本は所々抜けて斜めに倒れているし、
机にも床にも開いたまま並べられている。
無秩序に荒らしたのではない証拠に、本は中心から
読み易いよう同心円状に配置されていた。
本はいい。仕舞えば済むことだ。だがこれは・・・
部屋中が獣の毛や何かで汚染されていた。
「ぅあ〜」
自分のものとは思えぬうめき声。私は頭をかきむしる。
確かに自分のものではない。
足許の『それ』が何やら鳴いたのだ。
「君かね君がやったのかね!」
もう半泣きなのが自分でもわかる。
私は足首に絡みつく生ぬくい毛玉の首根を掴み
扉の外へとつまみ出す。
「済んだ事は仕方ないが・・・出ていってくれたまえ!」
◆
扉を閉ざし、溜息をつく。
夕食を摂りながら研究するつもりだったが、
今日明日はもう駄目だろう。何という時間の無駄だ。
嘆きのあまり私は頭がぐらぐらした。
そういえばあの毛玉は何処から入ってきたのだろう。
好奇心が強く、行動能力も高いあの手の生物は
塀があっても全くお構いなしでやってくる。
だが、窓も扉もきちんと戸締りしていた筈だ。
本・・・あの本は誰が読んだ?
「屋敷を荒らした責任はとってもらうぞ・・・」
私は固く拳を握り、侵入者の姿を探す事にした。
本は、特に地誌類が多く抜き取られている様子だった。
私が探索するべき遺跡の目星をつけるのに
よく用いているものばかりだ。
それが、読みながら歩いていったかのように
点々とテーブルや窓枠に置かれている。
私と同じ研究者なのだ。だが気侭に読み散らかしすぎだ。
苛々と眼鏡を拭いて掛けなおすと、自分がよく仮眠に
使っているソファの縁にすらりとした指が見えた。
「私の研究に興味を示してくれるのはありがたいが、
人として順序と礼儀というものがあるだろう!
何処から入ってききききき・・・キリィ君?」
驚いたことに、其処にはキリィ君が眠っていた。
帽子と緋い上衣は傍の机に投げてある。
「にゃぅ」
毛玉の声がした。
先程つまみ出したばかりだというのに。
「・・・にゃ〜ぅ」
キリィ君の脇腹のあたりで、毛玉はもうひと声啼いた。
皓い歯列を見せて欠伸するまで、黒い衣服と同化して
見えないほど黒々とした毛並みをしている。
ふてぶてしくもキリィ君を枕にしているそいつを
掴みあげようとすると、キリィ君の指が宥めるように
獣の背を撫でた。
ふっと私の手にぶつかり、目を覚ます。
◆
「・・・何をしている?」
何故私のほうが問い詰められなきゃならんのだ。
そんな事も眠りによって潤いを増した彼の双眸が
堪らなく美しくて、さして気にはならなかった。
「わ、私は別に君をどうこうしようだの触りたいだの
そういうつもりじゃなくただこの猫をだね、
そうしたら君の指が絡みついて私もつい覗き込んで
君の寝顔をだね接吻けたいだとか寝込みをだとか
そんな事は決して考えてもみて・・・うわたたたたッ!
・・・・・はぁ、とにかく此処は私の家だ。
何故君がこんな処にいて、こいつらが私の家を
好き放題に荒らしているというのかね。
説明してくれてもいいんじゃぁないか? キリィ君」
「業者の搬入についてきた」
「・・・・・・」
自分の探している本を見つけて搬入ついでに
潜り込んだというわけか。散らかされて怒るべきなのか
横取りされなかっただけマシと言うべきなのか。
「本は其処のそれだ」
「あいつらは何だ!」
「ん?」
「こいつと、もう一匹居ただろう、こう縞々のがッ!」
「俺についてきた。・・・それがどうした?」
「ぉわ〜ぉ」
「さ、三匹も・・・」
絨毯も蔵書もカーテンも全て毛塗れのささくれた物体へと
変えてしまうあの悪魔ども・・・
全部、キリィ君が連れてきたものだとは。
「・・・駄目だったか?」
小首を傾げてやや困ったような表情、
無断侵入した気まずさも少しは加味されてたのだろう。
隣に戻ってきた猫もキリィ君と同じ色の瞳で
首を傾げているのが何だか可笑しかった。
◆
私は降伏した。
・・・他に一体どうせよと云うのか。
キリィ君は何から何まで大きい猫のようだ。
しなやかな細い肢体も、気侭な立ち居振舞いも。
煌々した深い瞳も。あまり音を立てない身動きも。
猫はもう嫌いではなかった。
その存在全てにキリィ君を彷彿とさせる愛しさがある。
蔵書を守るための手間は物凄く膨大になったが、
最早それを厭うような私ではない。
もう一つ。
キリィ君は本当に大きい猫だった。
しかも外猫というやつだ。
時折私のもとへ食事に来るが、ふいっと出ては
そのまま行方が知れなくなってしまうのだ。
ごく偶に、未見の書物や魚などを持って戻るのを
私は唯唯待ちつくすばかりの日々を送っている。
猫はどんどん増えている。
近隣に家がなくて苦情が来ないことだけが救いだ。
この調子で行くと、近いうちに何匹かは
里子に出さなければならないだろう。
しかしキリィ君が戻ってきた時に、もし一匹でも
いない顔があれば彼はきっと寂しがるに違いない。
此処は私が、何時でも会わせてあげられるような
きちんとした里親を見つけてやらなければ。
もし君が引き取ってくれるなら、
時々はうちに連れてきてくれるだろうか。
君はこの子たちを大切に育ててくれるだろうか。
そんな事を書き綴り、猫の絵姿を描いた羊皮紙を
私は今日も何枚か町に張りに向かうのだった。
終わり