ちょっとだけ冷たく感じる風に吹かれながら、私は屋上にいた。

「…空が青いな」

見上げた空はむかつくくらいに晴れ渡っていて、私はまぶしくて眼を細めた。



ぼんやりしながら昨日別れた彼氏のことを思う。

私の彼氏はよくもてる。

よく言えばフェミニスト、悪く言えば女好き。

彼は私と付き合い始めてからも他の女の子とよく遊びに行ってた。


千石清純。それが私の元・彼氏の名だ。

キヨはすごく明るくてよく笑う。

髪の色のせいか、憎めない笑顔のせいか、キヨは私にとってオレンジ色のまぶしい太陽のような男の子だった。

憧れていたけど、キヨのの彼女になりたいと思っていたわけじゃない。

彼の人懐っこくて、誰にでも(主に女の子に)優しいところが素敵だと思っていた。

恥ずかしいから今までキヨに告げた事は無いけれど。




、俺と付き合わない?」

ある日、唐突に言われた。

それまではちょっと仲の良いただのクラスメート。

席が近くてノートを貸し借りするくらい。

私はただのキヨの周りに多くいる女の子の1人でしかなかった。


「本気?」

思わず問い返すと彼はあのまぶしい笑顔で笑う。

「俺のこと嫌いじゃないなら、いいよって言って」

笑いながら見つめられるとNOとはいえなくて、首を縦に振った。

憧れの人と付き合うのも悪くないと思った。



私はキヨと付き合い始めた。

幼馴染の健太郎は

「千石は女たらしってやつだから泣かされる前に別れた方がいい」

とか言ってくれたけれど、私は女好きなところも含めてキヨに憧れていたのでそれでよかったし、すぐに捨てられても別に『憧れ』であって『好き』ではないのだからいいと思った。


キヨは私と付き合い始めてからも女の子と一緒だったし、私と一緒に帰る約束をしていない日は決まって女の子に囲まれて正門から帰る姿を見かけた。

まったく嫉妬しなかったといえば嘘になるけれど、私はキヨのフェミニストな部分が何より好きだったし、キヨを束縛するのが嫌だったので何も言わなかった。

私の思うキヨは束縛されるのが嫌いなようだったし、束縛したら嫌われるような気がしていた。



私たちは教室で一緒に昼食をとり、月に一回一緒に街に出かけ、映画をみたり買い物をしたりする。

一緒に帰るのはキヨのテニス部と私の吹奏楽部の終了時刻が一緒の月・水・金曜日だけ。

火曜は私の部活が無かったし、木曜はテニス部が早く終わる日なので一緒には帰らなかった。

私たちは穏やかだけれども、それなりにうまくやっていけると思っていた。

遊び半分のキヨとキヨに憧れる私。

うまくいっていると思っていたのに…






「一緒に帰らない?」

木曜日の昨日。

部活が終わって帰ろうとしたら吹奏楽部の前でキヨが待っていた。

珍しいと思いつつ、キヨと一緒に帰れるのは嬉しかったのでうなづいた。





夕暮れの道を二人でてくてくと歩く。

唐突にキヨが私の手を握ってきたのでびっくりする。

思わず振りほどこうとしたら更に力を込めるキヨ。



はさ、俺のこと、本当に好き?」


いつに無く真剣なキヨの声。

私はどうしていいか分からずうつむいた。

付き合ってるのに?なんで好きとか聞くの?

色々言いたいことがあったけれど迷っているうちにキヨの手が私の手を離した。


、ごめんね?」


キヨのその一言で私たちの関係はただのクラスメートに戻ってしまった。




今朝の教室にはキヨの姿は無く、2時間目の後の休み時間に現れたキヨは私のほうなど見向きもしなかった。


私たちは、終わってしまったのだ。

昨日までは私の彼氏だった千石清純と言う男の子はまるで魔法が解けたようにただのクラスメートに戻ってしまった。

私は…悲しいような寂しいような、とにかく心がちょっと欠けたようで…胸の奥がちくりと痛んだ。

初めはただの憧れだったけど私はどんどんキヨのことを好きになっていた。



すごく、すごく好きになっていたと気づいた、のに。

もう、遅い…よね?







相変わらず屋上は肌寒い。

でも私はそこから動く気になれなかった。

遠くからテニス部の練習する音が聞こえ始める。

キヨのオレンジの髪の毛は遠くからでもわかるから、視界に入れないように目をぎゅっとつぶった。




「…キヨの、バカ…」

呟くとなんだか少しだけ胸の痛みが少なくなるような気がした。

「…バカ」

痛みの代わりに涙が出そうになる。


誰もいない、屋上。

誰にも聞かれない、言葉。


「ごめんって…」

「そんなの言われたって…」

「キヨのバカ」




涙が頬を伝う感触。

でも言葉を止められない。




「キヨのバカ…」

「…女好き」





「……好きなのに…」





「それ、ホント?」

びっくりして振り向くと、オレンジの髪。

なぜ彼がここにいるのか、今の言葉を聞かれてしまったとか、いろいろなことがぐるぐる回って私は何も言えない。



キヨが私の名前を呼ぶ。

、俺のこと好き?」

私は何も答えられない。

今聞いていたくせになんでそんなことを聞くのだろう?

「俺はのことが好きだよ…は?」

キヨが一歩づつゆっくりと近づいてくる。

そのままキヨに抱きしめられて、私の視界はキヨの制服の白一色。




「…俺のこと好き?」




私の耳元でキヨが呟く。




「…好き、って、言って…?」




涙がキヨの真っ白の制服に染み込んでいくのがわかったけれど、とめられない。

今、言わなければ私はきっと後悔する。

ぎゅっとキヨの制服の裾を握る。





「……好き」





すごく小さな声だったけれど、キヨには聞こえたようで

「俺も、好き」

すぐに返事が返ってきた。




顔を上げるとキヨの笑顔とオレンジの髪と青い空。

相変わらず肌寒い屋上。



白い制服のオレンジの髪をした私の大好きな男の子と、一瞬触れるだけのキスをした。



                                 ** end **




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