弘前にて


一昨年、あるイベントがあって弘前に出かけた。青森県の弘前である。
予定が平日だったため、鉄人は同行できず私ひとりで行くことになった。
JTBに行き、新幹線と宿の予約をした。

結構ギリギリだったため、市内の宿は空いていない。
仕方なくその周辺で宿を探してもらった。
大鰐温泉。そこに、二つの宿が空いていた。
片方は、比べればちょっと新しめのホテル。部屋も大きめ、値段も高め。
もう一方は部屋も小さいが値段も安い。

JTBのおねーさんが言う。
「どうなさいますか?こちらのほうが綺麗で広いと思いますが。」
しかし、私一人である。それも、イベントが終わったら一泊するだけのこと。
「安いほうでいいです。」そう言った。「なまじ、部屋が広いと一人じゃ寂しいし。」

さて、新幹線「こまち」に乗り、弘前でのイベントに参加し、宿に行こうとすると・・・足がない。
時間は22時ごろだったか。仕方なくタクシーに乗った。
「大鰐温泉の◎◎ホテルまで。」タクシーはまったく知らない景色の中を走る。
運転手さんが「最近は大鰐に行く人も少なくなってねぇ。」と言う。
近所に新しいスキー場が出来たとかで、そっちに客を取られているらしい。もっとも、まだスキーの季節ではなかったが、
町全体になんだか元気がないようなことを言っている。(少々いやな予感がしたんだ・・・ここで。)
小一時間走って、予約したホテルに着いた。

(え・・?ここ??)
そこは、ほとんどビジネスホテルのような民宿のような建物だった。(まぁ、いいか。)
タクシーを降りて入り口のガラス越しにロビーを覗くと、パジャマ姿のおじさんが古ぼけたソファに座ってテレビを見ている。
(なんなんだ?)
用心しながら中に入り、フロントのカウンターの奥に向かって「すみませ〜ん、予約してる者ですが〜。」と、いうと・・・
意外なことに例のおじさんがむくっと立ち上がった。
「あぁ、お待ちしてました。随分遅かったですねぇ。」
(えぇ〜〜!!このおじさんは、ホテルの人・・?! でも、でも、客を迎えるにしては、パジャマじゃんっ!?)
私の動揺をよそに、おじさんはパジャマにスリッパの姿で部屋に案内してくれる。
きっと、私が今日の最後の客なのだろうが、私を案内し終えたらすぐにも寝る体勢だ。

部屋に入って一人になると、可笑しさがこみ上げてきた。
時間が遅いので夕食は頼んでいない。途中のコンビニで買ってきたおにぎりを食べながら、一人不気味に笑ってしまった。
食べた後、とりあえず風呂に入り早々に寝た。


翌朝、朝食をとりに食堂に下りていくと、そこは合宿所の食堂のようなところだった。
昨夜、おにぎりしか食べていないので食欲はある。
ご飯のお代わりを貰おうとしたが、係りの人が見当たらない。
「すみませ〜ん。お代わりくださ〜い。」空の茶碗を持って、フロントのほうに呼びかけてみる。
「あらあ〜〜〜、すいませんねぇ。お待たせしましたぁ〜。」
そう言いながら出てきた人を見ると・・・割烹着におんぶ紐で赤ん坊をおぶったばーちゃんが、スリッパも履かずに
パタパタ走ってくる・・・。  頭にはカーラーがついている・・・。
昨日のパジャマおじさんで、心の準備は出来てはいたが、やっぱり(えっ・・・!?)となる。私もまだまだ修行が足りない。

なんとか食事を終え、荷物を持って精算。タクシーを呼んでもらって弘前市内に行くことにした。新幹線の時間までには、
まだまだ時間がある。  折角青森にまで行くのだからと、余裕を持ったのだ。
駅前で、観光タクシーを頼み、めぼしい所を廻ってもらうことにした。
弘前城、ねぷた会館、などなど。
観光タクシーのおっちゃんは、しきりに「何にも見るような所がなくってすまない・・・。」と、気にしている。
ここは、夏のねぷたの時か弘前城の桜の時期なら、観光客でにぎわっているはずの町なのだ。
私が行ったのは11月だったので、本当に何にもないんだと謝るおっちゃん。(おっちゃんのせいじゃないのに。)
それでも、弘前城はなかなか良かった。

ねぷた会館も、面白かった。
中に入ると、周囲には大きなねぷたが飾ってあって圧倒される。
その中央に椅子が並んでいて、観光客はそこに座ってねぷたの説明を聞き、祭りのときのお囃子の生演奏を聴き、
希望者は大きな太鼓を一緒に叩かせてもらえる。
      ・・・しかし、私が中に入ったとき、そこに客は私一人だった・・・。

またしても不安な気持ちがしたが、案の定、愛想のいいおにーさんが二人「どうぞ、お座り下さい。」と、促す。
ねぷたについて、いろんな説明をしてくれたが、何しろ私一人である。
私に集中的に説明されているのだから、よそ見も出来ない。
そのうえ、妙な緊張感のせいで説明の内容はほとんど頭に入らない・・・。
お囃子を聴いた後、本来ならば「それでは、この中でどなたか一緒に太鼓を打ってみませんかぁ〜?」と、なるところなのであろうが
私だけなので「お客様、一緒に太鼓打ちましょう。」と、真っ直ぐに私を見てるおにーさん。 これを、断るのは勇気がいる。
なんせ、一人っきりのお客でもなんとか盛り上げようと、二人のおにーさんが無理やりにでもテンションをあげて、
最初の説明からここまでやってくれたことは痛いほど感じている。

ためらうことすら許されず、私は「はいっ。」と、いい返事をした。
私は学生の頃、太鼓叩きだった。(打楽器奏者とも言う・・・。)だから、単調なお囃子の太鼓のリズムぐらいなら、すぐにでも叩ける。
たーんたたんたん たーんたたん   
たーんたたんたん たーんたたん  
たーんたたんたん たーんたたんたん 
たーんたたんたん たーんたたん

「リズム感、いいですねぇ。」そういわれて、「ありがとうございました。」と、控えめに答え、やっとこの場から開放された。


どうも、全体的に変な旅だった。
しかし、印象深い旅でもあった。