私はそれでも生きている


<その1>
結婚前のこと。
その日、私は風邪気味だった。
夜、布団に入っても咳が止まらずに苦しかった。
実家は狭い団地だったから、両親の部屋まで私の咳がずっと聞こえていたんだろう。
眠っていた母は、起き出して私に薬を飲ませることにした。

いつも市販の薬が置いてある所から瓶を取り、3錠出して水を入れたコップとともに私の部屋に持ってきてくれた。
「くしゃみ3回、○○3錠」という、あれである。
よく眠れずに、何となくウトウトしていた私はそれを飲むと、まもなく咳も止まり眠れたのだった。
母は、薬瓶を仕舞うのは朝にしようと、食卓に瓶を置いたまま部屋に戻った。
私の咳が止まったので、母も安心して眠ったらしい。

翌朝、私は風邪も良くなったようだった。すると、突然に母がゲラゲラ笑い出した。
私が部屋から出て行くと、

「これ見てエ〜!!お母さんも暗がりで寝ぼけてたからサア〜・・・」と、食卓の上の瓶を指差す。
「・・・キャべ○ン・・・だネエ・・・。」

こんなの飲ませたな?!
胃薬だったから良かったものの、なにかもっと慎重に扱わなければならない薬だったらどうするんだよっ!?

「どういう親だよ・・・」と嘆く私に、
「胃薬飲んで、風邪が治るアンタもどうなのさ!」

信じられない・・・。





<その2>
名ばかりの浪人生をしてたとき、私は実はアルバイトに燃えていた。
バイト先は、仕出しの弁当屋さん。
朝早くから何百と言う弁当を作って、注文先に車で届けるのだ。
運転はできないから、助手席に乗ってあちらこちらの配達先では車を降り、弁当の数をそろえ、決められた置場所にそれをおろす。

いつも一緒に組んで動いてる人と、車に乗っているとき(多分スピードもかなり出ていたんだろう。)ゆるいカーブのところに、
大きな水溜りがあった。
ドライバーは、それを避けようと反対車線にはみ出した。そのとき、対向車がきたのだ。
彼は、咄嗟にハンドルを切ったがそこは水溜り。
見事にスリップした。
車は、コンクリートでできた電信柱をへし折り、180度回転してボンネットを下にして傍らの植え込みの上に落っこちた。

実は、水溜りを避けようとする一瞬前に、私は何か世の中の歯車が一つずれてるような、漠然とした嫌な予感がしていた。
当時は、今のようにシートベルトについてうるさくなかったから、当然私も締めていなかった。
ただその嫌な予感の為に、ドアの上に付いている持ち手のような(あれは、なんと言うのかな?引出しの引き手みたいなやつなんだよなあ。)
ものに、なんとなくつかまった。その直後に事故!!

車が止まった時、私たち二人は逆さになった車の中で、ちゃんと頭を上にして座っていた。屋根の部分に。
正気に戻った彼が、「もしも、火が出たら大変だ!」と、気付いてガラスの無くなったフロントの窓から私を引っ張り出してくれた。

救急車で病院に運ばれると、私は左耳をガラスで切っていたが、他にはかすり傷ぐらいしかなかった。
私を引っ張り出してくれた彼は、そのときはちゃんと歩いていたのだけれど実は大腿骨骨折だった。

検証にきたお巡りさんが、5人ぐらいでよってたかって私にこう言った。
「あんたねえ、よく死ななかったネエ。アノ事故じゃあ、普通はフロントガラスから飛びだして身体中傷だらけで、放り出されて死んでるよ。」
「あんたは、本当なら死んでるはずだよ。」・・・・ってね。

死んでなきゃいけないような言い方ですらあった。
あのとき、ふとつかまったことが幸いしたのだ。虫の知らせ・・・かなあ。

やっぱり、神様っているのかも・・・。